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【対談】欧州最前線のリアルから考える、アスリートと社会のこれから|遠藤航 × 小谷光毅
20261019

欧州トップクラブの最前線で戦い続ける遠藤航氏。世界のトップシーンで戦う当事者として、彼は選手を取り巻く環境やこれからのあり方をどう捉えているのか。Athdemyが目指す「アスリートの価値を正しく社会へ接続する」未来に向け、同氏が語った現場のリアルと課題意識を紐解く。
1. 数値化して矯正するのではなく、個性を受け入れた上で向き合う
小谷:
最近では、走行距離やスプリント数などのフィジカルデータは当たり前に測定されていますよね。欧州の現場では「思考」や「感情」といった内面的な領域までデータ化してアプローチする動きもありますか?
遠藤:
そこまではないですね。もちろん、走行距離やスプリント数、血液検査とか体の柔軟性みたいな定量的なデータは徹底して取られていますけど、内面まで測るかというと、今はそこまでやっていないのが現状かなと。
小谷:
なるほど。内面をデータ化することに対して、遠藤さんはどう思われますか?
遠藤:
欧州だと、選手側の抵抗感も少なからずある気がしますし、どちらかというと「その人の個性を活かす」っていう考え方がベースにあると思うんですよね。データを取って何かを変えさせるとか、矯正するみたいなアプローチは、あんまり発想としてないのかもしれないです。
小谷:
多様な個性を前提としてチームを整えていくわけですね。そうした強烈な個性を持った選手たちに対して、現場ではどう向き合っているんですか?
遠藤:
例えば、イラっとして感情をそのまま表に出す選手もいます。でもそれも含めて決して見捨てない。一人の選手の個性として受け入れつつ、「でもチーム全体で考えたらこうだよね」っていうスタンスを少しずつ伝えていく、みたいな向き合い方ですね。特にベテラン選手はプロとしての振る舞いを知っているので、それを若い選手に背中で見せたり伝えていくのも、すごく大事な役割だったりします。
小谷:
個性を尊重しながらも、チームの方向性を揃えていく。日本の現場でも、同じようなアプローチは可能だと思いますか?
遠藤:
日本でも全然できるはずです。ただ、どうしても遠慮が先に立っちゃって、本質的な部分まで踏み込めないことがあるのかもしれないので、そこはやっぱり、日頃の深い関係性が作れているかどうか、なのかなと思います。
2. 選手が言葉をオープンにできる場所は、どこにあるか
小谷:
僕たちがAthdemyで大切にしているのは、それぞれが自身の本質や抱えている思いを、言葉としてオープンにできる環境です。欧州のトップクラブでは、実際にどのような環境なのでしょうか?
遠藤:
例えばリヴァプールだと、常に専門のスタッフがクラブハウスにいて。ほぼ毎日いるので、選手が話したければその部屋に行けばいい、っていう環境自体は整っていますね。ただ、正直に言うと、僕自身は一度も行ったことはないです。もともと人に相談するタイプでもないですし、自分で消化できるならそれでいいのかなと。
小谷:
遠藤さんのように自己解決できる選手がいる一方で、一人で抱え込んでしまう選手も中にはいますよね。
遠藤:
まさに一人で抱え込んじゃう状態になるのが一番良くないと思っていて。そうならないためにも、「吐き出せる場所」が用意されていること自体にはすごく大きな意味があると思っています。海外だと、自分の意見とか不満を口に出すのが当たり前っていう空気感もありますし。例えば「試合に出られない」っていう感情を言葉にするだけでも、気持ちが軽くなったりする部分もあるんですよね。
小谷:
「何を話してもいい場所」が常にあるという安心感ですね。ただ、その場所が実際に使われるかどうかは、また別の設計が必要になりそうです。
遠藤:
そうですね。特に日本では、名称によっては選手が身構えちゃうことも多いと思うので、誰でも気軽に話せる「相談役」みたいな位置づけで、新しい名前を作るのも面白いかもしれないですね。例えば、その人が金融とかキャリアの知識なんかも持っていたら、それこそ何でも話せる「マネージャー」に近い存在になれるんじゃないかなと。
3. 自己投資としてのブランディング、そして自分の言葉を届けるために
小谷:
海外のトップ選手たちは、競技以外の「ブランディング」や「自身の社会的な見せ方」について、どのように捉えて向き合っているのですか?
遠藤:
認知という面で言えば、ビッグクラブでプレーするような選手なら、ピッチに立つだけで自ずと増えていく部分はあると思うんです。ただ傾向として、スポンサーは妥協せずに選んでいますね。細かくたくさん契約するんじゃなくて、大きなメインスポンサー数社とだけ、長く深い信頼関係を築いて付き合っていくケースが多い印象です。
小谷:
なるほど。日本のアスリートを取り巻く環境やキャリアについては、遠藤さんはどう感じられていますか?
遠藤:
日本に目を向けると、J1なら競技だけで生活できるかもしれないですけど、カテゴリーや競技によってはなかなか難しい場合もありますよね。だからこそ、選手がビジネスに取り組んだり、SNSを使って自分のブランディングをやったりすることは、もっとポジティブに応援されていいと個人的には思っています。
小谷:
一人の人間としてのキャリア形成を肯定する姿勢ですね。
遠藤:
最終的にはその人自身の人生ですからね。プロとして稼ぐことの厳しさや現実を理解したうえで、自分で何かを作り出そうと試行錯誤しているわけじゃないですか。自己投資をしてブランディングに取り組んで、自身のキャリアや価値創造につなげようとする行動は、すごく前向きで素晴らしいことだと思います。
小谷:
遠藤さんご自身も、自分の言葉を届ける場として個人メディアを開設されていますよね。発信に対する世間の目の難しさもある中で、あえてご自身で場を持たれた背景にはどういった思いがあったのでしょうか?
遠藤:
実は最初は発信すること自体があまり好きじゃなかったんですよ(笑)。ただ、日本代表に定着して立場が上がっていく中で、サッカー選手としての自覚みたいなものが芽生えてきて。「今の自分の立場だからこそ伝えられることがあるなら、逃げずに発信していくべきだな」と思うようになって、そこから試行錯誤を始めました。
小谷:
既存のメディアを通じた発信と、ご自身で場を持つこと。伝わり方に違いを感じることはありますか?
遠藤:
既存メディアの取材はやっぱり構造的な制約があるんですよね。文字数の制限もあるから発言の一部を切り取らざるを得なかったり、記事を書いた記者じゃなくて編集者がタイトルをつけたり。ビジネスの構造上しょうがない部分もあるんですけど、それだとどうしても表面的なやり取りになりがちで、本当に踏み込んだ思考とかニュアンスまで伝えるのは難しかったんです。
小谷:
そこで、ご自身でコントロールできるメディアを持つという選択に行き着いたわけですね。あえて課金制の形をとられた点にも、強いこだわりを感じます。
遠藤:
あえて課金制の形をとったのは、「本当に自分の言葉を受け取りたい」と思ってくれるファンに対して、一切フィルターを通さずに本心を届けたかったからなんですよね。そこを担保することが、僕にとって一番大事なことでした。
小谷:
選手のリアルな思考や生きた言葉を価値として届けていくために、これからの「選手とメディア」はどういう関係性であると良いと考えますか?
遠藤:
僕自身は今、信頼できるライターさんを中心に話すスタイルをとっているんです。長年コミュニケーションを重ねているので僕の思考パターンとか言葉のニュアンスを完全に理解してくれていて、10分、15分近況を話すだけで深い記事を書いてもらえる。この「思考の積み上げ」と「長く付き合える関係性」があるかどうかはすごく大きいですね。
この積み上げがあると、単なるニュースじゃなくて「一人の人間のストーリー」が生まれるんです。例えば、18歳のプロ1年目からずっと同じ記者が一人の選手を追い続けていたとしたら、代表入りとかワールドカップっていう節目のタイミングで、それまでの蓄積だけで1冊の素晴らしい本が書けますよね。映像を撮り溜めていれば、それをつないで映画にすることだってできる。
小谷:
書き手側も、一人の選手に寄り添うことで、より本質的なものを生み出せそうですね。
遠藤:
一過性で消費されるものじゃなくて、関係性の蓄積によって価値を高めていくメディアや発信のあり方は、これからもっと面白くなっていくと思います。書き手側がそこにどこまで情熱を持てるかという課題もありますけど、選手にとっても社会にとっても、すごく価値のある形だなと思っています。
4. 欧州トップ選手の「お金」へのスタンスと、クラブが支える資本の仕組み
小谷:
競技パフォーマンスやブランディングだけでなく、トップアスリートの人生において避けて通れないものとして、資産管理や活用の問題があると思います。海外のトップ選手たちは、この領域とどのように向き合っているのでしょうか?
遠藤:
やっぱり経験のあるベテラン選手ほど、そのあたりはしっかりしていますね。お金の使い方に関しても、驚くほどシビアで合理的だったりします。
小谷:
「シビアで合理的」というのは、具体的にどういうことですか?
遠藤:
例えば移動とか旅行ひとつをとっても、「ビジネスクラスにするか、エコノミーにするか、プライベートジェットを借りるか」みたいな場面で、資金的には全員チャーターを選べる状態であっても、「いや、そこまでお金かける必要ないでしょ。別の価値あることに使おうよ」っていう判断を当たり前のようにするんですよね。お金があるから何でも一番高いものを買う、みたいな選手は意外と少なくて、「自分は何に本当の価値を置くか」っていう軸をそれぞれがしっかり持っている印象です。
小谷:
単に浪費するのではなく、お金の使いどころを見極めているその背景にはどういった要素があると考えていますか?
遠藤:
やっぱり生まれ育った環境の違いもあるのかなと感じます。ヨーロッパの規模が小さな国出身だったり、多様な背景から出てきた選手も多いので、母国に帰ればお金が持つ本当の価値とか重みをよりリアルに実感できる。あとは文化的な違いとして、日本だと先輩が奢る文化があったりしますけど、海外だと「自分の分は自分で払う」っていう独立した個人としての対等な関係性が基本なんですよね。自分のリソースは自分で管理する、っていう考え方が自然と身についているんだと思います。
小谷:
個人の意識の違いと、環境として支える仕組みの差もありそうですね。海外のトップクラブでは、選手が信頼できる専門家と繋がれるような体制はあるのでしょうか?
遠藤:
イギリスの場合は、銀行のサービス体制がすごくしっかりしていて、クラブ側もその仕組みをちゃんとサポートしているのが大きな特徴ですね。僕が実際に使っている銀行もプライベートバンクみたいな形態なんですけど、その担当者が定期的にクラブハウスまで来てくれるんですよ。何か相談したいことがあれば、練習の合間とかにその場で直接話ができる環境が整っています。
小谷:
クラブハウス内に信頼できる相談先があるというのは、選手にとってかなり大きいですね。
遠藤:
選手がわざわざハードな練習の後に店舗まで足を運んでお金の相談をするか、と言われたらなかなか行かないじゃないですか。でも、信頼できるプロがクラブハウスまで来てくれて「投資でも税務でも、気になることがあれば何でも相談してくださいね」っていう状態があれば、選手側も自然と興味を持つようになる。何より「クラブが提携しているプロ」っていう安心感と信頼性がすごく大きいと思います。
小谷:
仰る通りですね。選手が個々のステージに応じた最適なリソースに繋がり、得た資産や知見を次世代や社会へ循環させていく。そうした仕組みを、日本でも作っていきたいと考えています。
遠藤:
選手の資産や将来を守って、正しく導くためのサポートインフラや仕組みは日本でもクラブとか外部パートナーが連携していけば全然実現できるはずなんですよね。そういう取り組みがこれからどんどん広がっていくと面白いなと思っています。
【おわりに】
欧州の最前線で培われた現場感覚、信頼をベースにした発信のあり方、そして個に応じた資本のあり方。遠藤氏が語るリアルな知見は、Athdemyが目指す「アスリートの価値を正しく社会へ接続する」という取り組みにおいて、欠かせない視点です。現場の深い理解を、実効性のある取り組みや社会の仕組みへとつなげるため、Athdemyは遠藤氏と共に挑戦を重ねてまいります。※ 遠藤航氏は、2026年8月よりAthdemyのアドバイザーに就任しています。