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問いを置く前に、何を見ているのか
20260928

文:中山 知之|Tomoyuki Nakayama(取締役CCO)
監修:伊藤 慧|Satoshi Ito(Research Fellow)Athdemy Institute Concept Note 02
0. はじめに
Dialogでは、問いを大切にしています。けれど、私たちはいきなり問いを置くわけではありません。何を問うかを先に決め、その問いを相手に投げかけることから始めるのではなく、まず目の前の一人を読みます。
初めて会う選手なら、
その人がどのように自分の状況を語るのか。
何を問題だと捉え、何を当然のこととして話しているのか。
継続して関わる選手なら、
前回から何が起きたのか。
どの言葉が変わり、同じ言葉が今も同じ意味で使われているのか。
そして、相手に問いを置く前に、私たち自身にも問いを向けます。
本当に、いま考えるべきことはこれなのか。
この捉え方でよいのか。
こちら側の前提で、相手を見ていないか。
Dialogでは、問いは相手に向かうだけではありません。
相手を読む。
自分たちの見立てを問い直す。
そのうえで、相手に問いを置く。
私たちが最初に行っているのは、問いを選ぶことではありません。何を問うべきかを、まず見極めることです。

1. Dialogは、質問をすることではない
良い問いを多く知っていることが、Dialogの専門性ではありません。同じ問いでも、誰に、いつ、どのような流れの中で置かれるかによって、その意味は変わります。
「本当はどうしたいのか」という問いが、ある人の思考を開くこともあれば、まだ状況を整理できていない人の思考を止めてしまうこともあります。
問いの前には、その人をどう捉えているのかという見立てがあります。
何が起きていると考えているのか。
何をまだわかっていないのか。
どの前提を、無意識のうちに置いているのか。その見立てが変われば、置く問いも変わります。問いは、言葉になる前から始まっています。
2. 問いの前に、その人を読む
では、「その人を読む」とは何をすることなのでしょうか。私たちは、まず「言葉」「文脈」「前提」の三つを重ねながら、目の前の一人を捉えます。継続して関わる場合には、そこに「変化」という時間軸が加わります。

1. 言葉を読む
まず見るのは、本人が話す言葉です。ただし、発された言葉を、そのまま本人の考えとして確定するわけではありません。
「自信がない」
「もっと積極的にならないといけない」
「切り替えが課題です」
こうした言葉が、本人の実感から生まれたものなのか。指導者や周囲から受け取った表現なのか。あるいは、自分に言い聞かせるために使っている言葉なのか。
同じ表現でも、その背景によって意味は変わります。
何を話したのかだけではなく、どの言葉を選んだのか。
どの表現が繰り返されるのか。
その言葉を、本人はどこまで自分のものとして話しているのか。
そうしたことを見ていきます。言葉だけで、相手をわかったことにしない。本人の言葉を大切にするからこそ、その意味を急いで確定しません。
2. 文脈を読む
言葉の意味は、文脈から切り離して捉えきれるものではありません。
何が起きた後に出た言葉なのか。
誰との関係の中で生まれたのか。
本人はいま、どのような役割にいるのか。
何を目指しているのか。
たとえば、同じ「試合に出たい」という言葉でも、代表選考を控えている時と、長期間出場できていない時と、契約更新を前にしている時では、そこに含まれる意味は異なります。
言葉だけを見るのではなく、その言葉がどのような状況の中で生まれたのかまで読む。同じ言葉でも、置かれている文脈が違えば、意味は変わります。
3. 前提を読む
さらに見るのは、その人が「そういうものだ」と置いている前提です。
何を当然だと考えているのか。
何を問題だと捉えているのか。
何を良い状態としているのか。
何を基準に、自分を評価しているのか。
たとえば、
「自信がなければ、良いプレーはできない」
「結果が出ていないなら、何かを変えなければならない」
「試合では、考えない方がうまくいく」
そうした捉え方が、本人にとっては疑う必要のない前提になっていることがあります。
しかし、それは本人自身の経験から生まれたものなのか。
誰かの言葉や、周囲の価値観を取り込んだものなのか。
今の本人にも、本当に当てはまるのか。
そこまで見ていきます。
本人が何を考えているかだけでなく、何を前提に考えているかを読む。私たちは、問いもまた、その前提の上に生まれると考えているからです。
3. 継続して関わる時は、「変化」を読む
継続して関わる場合には、さらに時間の中での変化を見ます。

言葉は同じでも、その意味が変わっている。
前回とは違う言葉を使っている。
行動は変わったが、本人の自己評価は変わっていない。
本人は「特に変わっていない」と話しているが、判断の基準が変わっている。
一度の対話だけでは見えないものがあります。一つの言葉だけでなく、その言葉が動いた時間まで読む。Dialogでは、目の前の瞬間だけを切り取るのではなく、その人の思考が時間の中でどう動き、変化してきたのかも含めて捉えます。
4. 見えている課題を、そのまま課題にしない
選手が「自信がない」と話したとします。そこで、すぐに「どうすれば自信を持てるのか」を考え始めるとは限りません。「自信がない」という一つの言葉の背景にも、異なる状態があり得るからです。
自分を評価する基準が定まっていないのかもしれない。
周囲からどう見られているかを、自分の評価として強く取り込んでいるのかもしれない。
準備に納得できていないのかもしれない。
そもそも「良いプレーをするためには、自信を持つ必要がある」という前提を置いているのかもしれません。
背景が違えば、向き合う問いも変わります。これは「自信」に限りません。
「考えすぎる」
「メンタルが弱い」
「切り替えができない」
「もっと積極的になりたい」
本人が課題として語ったものを、そのまま解決すべき対象として扱えば、その時点で問いの方向も決まってしまいます。本人が語る課題と、向き合うべき問いは、同じとは限りません。そもそも、課題はそれ単体では決まりません。
何を目指しているのか。
何を良い状態とするのか。
その目的との関係によって、初めて「何が課題なのか」が見えてきます。同じ特徴でも、ある目的に対しては課題になり、別の目的に対しては、そうとは限りません。
だから私たちは、課題を早く特定する前に、一度問い直します。それは、何に対しての課題なのか。

5. 理論を、実践にはめたのではない
こうした見方を、私たちは最初から一つの方法論として持っていたわけではありません。
数多くのアスリートたちと向き合う中で、
「本人が課題だと言っているものを、そのまま課題にしてよいのか」
「同じ問いが、なぜ別の人には同じように働かないのか」
「本人と周囲で、同じ言葉を違う意味で使っているのではないか」
という違和感が、少しずつ積み重なっていきました。
その違和感を記録し、振り返り、他の事例と照らし合わせ、言葉にする。そうした実践の積み重ねの中から、現在のDialogの考え方が形になってきました。
理論を、実践にはめたのではない。実践の中にあったものに、後から言葉と構造を与えてきた。
だから、今ある理解も完成されたものではありません。目の前の一人が、これまでの理解では捉えきれない時、その人を例外として片づけるのではなく、私たちの理解の側を問い直します。
人を読むことは、その人について答えを出すことではありません。むしろ、すぐに答えを出さないために読む。
何が起きているのか。
何がまだわからないのか。
どの問いから考えるべきなのか。
そうした読みをもとに、次の問いを仮説として置いていきます。問いを置けば、相手から反応が返ってくる。その反応によって、今までの見立てが変わることもあります。では、その問いは、どのように生まれ、対話の中で更新されていくのか。
次章では、Dialogにおける問いの設計と、その場で行われる判断について考えます。