株式会社Athdemy(Athdemy Inc.)

Journal

問いは、どのように生まれ、何を動かすのか

20261031

文:中山 知之|Tomoyuki Nakayama(取締役CCO)
監修:伊藤 慧|Satoshi Ito(Research Fellow)

Athdemy Institute Concept Note 03

0. はじめに

Dialogを終えたあと、選手からこんな言葉をもらうことがあります。

「自分の中ではずっと同じことを悩んでいるつもりでしたが、話していくうちに、そもそも考えるべきことが違っていたことに気づきました。」

「答えを教えてもらったわけではないのに、終わる頃には、自分が次に何を考えればいいのかがはっきりしていました。」

私たちにとって興味深いのは、ここで何か特別な答えを渡したわけではないということです。目の前にある出来事を一緒に整理し、ときには違う角度から見直し、その人がまだ向けていなかった場所へ問いを置いていく。その過程で、最初に「悩み」だと思っていたものとは別のものが見えてくることがあります。

また、こんな感想をもらうこともあります。

「質問に答えている感覚より、自分の考え方そのものを一緒に見ている感じでした。」

この言葉は、私たちがDialogで行っていることをよく表しているように思います。問いは、相手から答えを聞き出すためだけのものではありません。問いによって、何を見るのかが変わる。見ている場所が変わる。これまで一つだと思っていたものが分かれたり、逆に、別々だと思っていたものがつながったりする。

問いは、思考を動かします。

前章では、Dialogで問いを置く前に、私たちが何を見ているのかを書きました。相手の言葉や文脈、その背景にある前提を読み、自分たちの見立ても問い直す。そのうえで、次の問いを一つの仮説として置く。

では、その問いは、どのように設計され、Dialogの中で更新されていくのでしょうか。そして、その問いによって、人の思考には何が起きるのでしょうか。今回は、AthdemyがDialogの中で行っている「問いの設計」について考えます。

1. 問いは、思考の位置を動かす

たとえば、ある選手が「最近、試合で自分のプレーができていない」と話したとします。ここから考えられることは、一つではありません。実際には何が起きていたのか。その時に何を考えていたのか。身体にはどのような感覚があったのか。どのような判断をしたのか。周囲との関係はどうだったのか。そして、その選手にとって、そもそも「自分のプレー」とは何を指しているのか。

一つの言葉からでも、思考を向けられる場所はいくつもあります。

私たちは実践を振り返る中で、問いを設計する際に、いくつもの異なる焦点を行き来していることが見えてきました。出来事や状況。思考や前提。感情や身体感覚。行動や選択。他者との関係。置かれている環境。そして、本人が目指しているものや大切にしている価値。どこに焦点を置くかによって、見えてくるものは変わります。そして、同じ対象を見る場合でも、どの方向から見るかを変えることができます。

  1. 事実 ⇆ 解釈

    実際に起きたことと、それを本人がどう意味づけているか。

  2. 具体 ⇆ 抽象

    一つの場面を扱うのか、そこから共通する考え方や構造まで広げるのか。

  3. 過去 ⇆ 現在 ⇆ 未来
    これまで何があったのか、今何が起きているのか、これからどうありたいのか。

  4. 自分 ⇆ 他者・環境
    自分の内側から見るのか、他者との関係や置かれている環境まで視野を広げるのか。

  5. 結果 ⇆ プロセス
    何が起きたのかを見るのか、そこに至る準備・判断・行動を見るのか。

これらは、人の思考を分類するためのものではなく、また質問をこの五つに当てはめればDialogができるということでもありません。むしろ、「今、この人はどこだけを見ているのか」「まだ見ていない場所はどこか」を考えるための地図に近いものです。

たとえば、結果について考え続けている選手なら、一度そこに至るプロセスへ戻る。一つのミスだけを見ているなら、少し抽象度を上げ、他の場面にも共通するものがないかを考える。「監督から信頼されていない」と感じているのであれば、それをすぐに事実として扱うのではなく、実際に何が起きていて、そこにどのような解釈を加えているのかを分けてみる。

同じ出来事でも、見る位置を変えることで、考えられることは変わります。問いの役割の一つは、答えを深く掘ることだけではなく、見ている場所そのものを動かすことです。

2. 「見抜く」よりも、「見落とさない」ためにデータを使う

どこについて考えるかが同じでも、そこへ向かう順番は人によって異なります。具体的な出来事を一つずつ整理することで考えやすくなる人もいれば、先に目的や全体像が見えた方が、その後の思考が進みやすい人もいます。自分の中で考えてから言葉にする人もいれば、言葉にしながら考えが形になっていく人もいます。

こうした違いは、Dialogを重ねることでも少しずつ見えてきます。しかし私たちは、それをDialog Partnerの経験や感覚だけに依存させたくありませんでした。Athdemyでは、選手とのDialogを始める際に、B-navi™︎というアセスメントから得られるデータを、対話とは異なる角度から選手を捉えるための一つの指標として活用しています。

そこで確認するのは、選手の思考特性だけではありません。ストレス耐性や、プラス・マイナスの感情に関する状態など、日常の会話や表面的な振る舞いだけでは捉えにくい情報も含まれます。ただし、数値によって選手を説明するためではなく、また「このタイプだから、この人はこう考える」と決めるためでもありません。

データは、答えではなく、最初の仮説です。

たとえば、まず具体的な事実を整理することで考えやすい可能性があるのか。全体像や目的から考えた方が思考が動きやすい可能性があるのか。何かを判断する時に、他者との関係を強く意識する傾向があるのか。そうした仮説を、Dialogを始める前から持つことができます。

ストレスに関する情報も同様です。普段明るく話している選手でも、データ上ではストレス耐性に注意を向けた方がよい状態が示されることがあります。その場合も、「実はストレスを抱えている」と結論づけるのではなく、本人の現在地を確かめるための問いを変える材料として扱います。

数値によって本人を見抜こうとするのではなく、表面的な印象だけでは見落としてしまう可能性に気づくために使います。データは、人を見抜くためではなく、見落とさないために使う。これは、Athdemyがアセスメントを扱う上で大切にしている考え方です。

アセスメントを導入した理由は、単に情報を増やすためではありません。対話だけを通して一人の傾向を理解しようとすれば、どうしても複数回の関わりと一定の時間が必要になります。時間をかけたからこそ初めて見えるものがあることも事実です。

一方で、アスリートの競技時間は有限です。何度も対話を重ねた後でようやく、「この選手には、別の入口から考えた方がよかった」とわかるより、最初の段階から複数の手がかりを持ち、その人に合った関わり方を探し始めたいと考え取り入れています。

そしてもう一つ、選手を理解する力を、一人のDialog Partnerだけの経験や感覚に閉じたくありませんでした。ある人にしかできない対話ではなく、Athdemyとして、一人のアスリートを一定の解像度から読み始められる状態をつくる。

そのための一つの方法として、私たちはデータを使っています。得られたデータを、目の前のアスリートへの問いや関わり方へ、どう翻訳するか。そこに、Athdemyがデータを扱う意味があると考えています。

3. 問いは、一文ではなく、順番で設計する

客観的なデータから仮説を持てたとしても、置く問いが自動的に決まるわけではありません。同じことを考えるとしても、そこへ至る道筋は人によって違います。

たとえば、最終的には「自分にとって良いプレーとは何か」を考えたいとしても、いきなりその問いから始めるとは限りません。直近の試合を一つ選び、具体的な場面を整理し、本人が何を見てどう判断していたのかを確認した後で考える方が、自分なりの言葉を見つけやすい人もいます。反対に、「どのような選手でありたいのか」という大きな像を先に置くことで、最近起きている出来事の意味が整理される人もいます。

重要なのは、最終的にどんな問いを置いたかだけではありません。その人の思考が動く順番をつくれているか。問いの設計とは、一つの優れた質問を考えることではなく、思考が進んでいく道筋を組み立てることでもあります。

問いは、この三つを組み合わせながら置かれます。そして、ここからもう一つ重要なことがあります。どれだけ考えて設計した問いでも、それが本当に適切だったかどうかは、置いてみるまでわからないということです。

4. 問いは、置いた後に更新される

問いを置くと、相手から反応が返ってきます。すぐに言葉が出てくることもあれば、長く考えることもあります。それまで迷いなく話していた人が、突然言葉を選び始めることもあります。一つの問いをきっかけに、「今までこう考えていたけれど、少し違うかもしれない」と本人の言葉そのものが変わることもあります。

私たちが見ているのは、返ってきた答えだけではありません。その問いによって、その人の思考に何が起きたのか。そこを見ています。問いを置いても思考が進まないのであれば、まだ具体的な出来事を整理した方がよいのかもしれません。問いの抽象度が高すぎたのかもしれない。未来を考えるより、一度過去へ戻った方がよいのかもしれない。あるいは、こちらが考えていた方向そのものが違っていたのかもしれません。

なので、Dialogでは問いを一方的に積み重ねません。問いを置く。反応を受け取る。いま何が起きたのかを考える。そして、自分たちの見立ても含めて、次の問いを変える。

この循環によってDialogは進みます。沈黙や言い直し、わずかな違和感も、反応の一部です。ただし、それらにこちら側だけで意味を与えることはしません。沈黙したから「触れられたくないことなのだ」とは決めない。言葉に詰まったから「本音を隠している」とも決めない。必要であれば、本人と一緒に確かめます。反応を見ることと、その意味をこちらが決めることは違います。

問いを置きながら相手を知り、同時に、自分たちの問いも疑い続ける。この往復が、Dialogにおける問いの精度を支えています。

5. Dialogによって、何が起きるのか

では、このように問いによって思考の位置を動かし、その反応を受け取りながら問いを更新していくことで、何が起きるのでしょうか。私たちは、Dialogの価値を「良い答えを見つけること」だけには置いていません。その前に、いくつかの変化が起きます。最初に起きるのは、何について考える必要があるのかが見えてくることです。

「自信がない」と考えていたけれど、本当に考える必要があったのは、「何を基準に自分を評価しているのか」だった。

「もっと積極的にならなければ」と思っていたけれど、そもそも、なぜ自分は積極性を必要だと思っているのかを考える必要があった。

悩みがその場で消えるのではなく、考える対象の解像度が上がります。次に、自分の思考の癖や、その背後にある前提が見えるようになります。

  • 実際に起きたことと、自分がそこに加えた解釈。

  • 自分が望んでいることと、周囲から期待されていること。

  • 結果と、そこに至るまでのプロセス。

それまで一つに見えていたものを分けて考えられるようになると、「自分は何をもとに、どう判断しているのか」が少しずつ見えてきます。そこから、選択や行動に、自分なり(本人なり)の根拠が生まれます。誰かから正解を渡されたから動くのではなく、自分は何を見て、何を大切にし、なぜこの選択をするのかを、自分の言葉で持つようになります。

アスリートは、毎日のように判断を求められます。

  • 練習で何を試すのか。

  • うまくいかなかった時に何を変えるのか。

  • 試合前の状態をどう捉えるのか。

  • 指導者の言葉をどう受け取るのか。

  • 環境を変えるのか。

  • その競技をこれからも続けるのか。

そのすべての場面に、Dialog Partnerが隣にいるわけではありません。だからこそ、私たちが大切にしているのは、Dialogの中で良い答えが出たかどうかだけではありません。Dialogが終わった後、その人自身が考えられるようになっているかどうかです。

6. 思考の主導権を、本人へ

Dialogを重ねていると、こちらから問いを置く前に、選手自身から問いが生まれることがあります。

「でも、そもそも自分は、なぜこれを悪いことだと思っているんだろう」

「これは実際に起きていることなのか、自分がそう感じているだけなのか」

「結果を見て全部変えようとしているけれど、本当に変える必要があるのかな」

それまで外側から置かれていた問いを、本人が自分自身へ向け始める。私たちは、この変化を大切にしています。

Dialogの到達点は、Dialog Partnerが優れた問いを持ち続けることではありません。むしろ、関わるほどに、その問いがDialog Partnerだけのものではなくなっていくことです。本人が、自分の状態を捉え、自分の考えを問い直し、必要であれば別の場所から見直し、その時点での答えを自分で選べるようになる。

私たちは、選手に代わって考えることはできません。だからといって、選手が一人で考えるしかない状態にもしたくありません。一人では見えにくいものをともに見て、客観的なデータも一つの手がかりとして使いながら、問いによって思考を動かし、その人自身が選べるところまで考える。

Athdemyは、問いを持っているのではありません。一人ひとりに合わせて、問いを生み、更新し続けています。そして私たちが目指しているのは、Dialog Partnerがいなければ考えられない状態ではなく、自分の状態を捉え、考え、判断し、必要な時には自分自身へ問いを戻せることです。その人自身が考え続けられること。そのために、私たちは問い続けます。