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Dialog Code

『全身を、黄色にする──異なる二競技で追求する中庸』 #加藤裕太 Dialog Code 

2026/10/7

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」

『Dialog Code』

強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。

今回登場するのは、

加藤 裕太(ラクロス選手・Grizzlies Lacrosse Club所属)

【Before Dialog】
ラクロス選手として日本代表を経験する一方、ボブスレーでも全日本選手権を制するなど、二つの競技に取り組んできた加藤裕太。この経験を経て、試合に向けた集中のあり方にも大きな違いがあることに気づいた。ボブスレーでは、アドレナリンを高め、自分自身のパフォーマンスに意識を集中させる。一方、ラクロスでは、激しいコンタクトの中でも視野を広く保ち、刻々と変わる状況に応じて判断しなければならない。異なる競技をしてきた加藤裕太にとって、同じ集中という言葉でも、そのあり方は大きく異なる。かつては試合前に鏡を見ながら自分を鼓舞し、気持ちを高めていた。しかし、ラクロスではその高ぶりが視野を狭め、判断を鈍らせることがあると気づいた。彼が理想とするのは中庸だ。身体の一箇所に力を集中させず、全身に適度な力が入っている状態。感情に飲み込まれることなく、周囲を見渡し、次のプレーを選択できる状態を目指している。ただし、緊張や不安をなくしたいわけではない。それらは、パフォーマンスを高めるためのエネルギーでもある。ボブスレーとラクロスの経験は、身体の使い方や感情との向き合い方、そして自分自身への理解をどのように変えてきたのか。さあ、彼の思考を紐解いていこう。

【Code.1 - STATE】猛々しくも、美しい───冷静な判断を支える、中庸の思想

中山:
試合中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、もしくは短い文章で表すとしたら、どのような言葉になりますか?

加藤:
中庸です。

中山:
なぜ、そのような表現になるのでしょうか?

加藤:
代表チームでよく使われている言葉で、僕もそう考えています。ヘッドコーチが古武術を指導に取り入れていて、古武術の先生がウォーミングアップを担当したり、ミーティングで身体の使い方について話してくださる機会があります。

その先生は、身体の状態をサーモグラフィーの色に例えて説明するんです。一点に力が集中している状態は、その部分だけが赤い。全身が力んでいれば全体が赤くなり、反対にリラックスしすぎている状態は緑になるということです。そして全身に適度な力が入りながらも、どこか一箇所に偏っていない状態が黄色であり、それが中庸だと教わりました。

中山:
全身のバランスが取れている状態ということですね。それは、実際の試合中の判断にもつながっているのでしょうか?

加藤:
そうですね。ここ半年以上そうした指導を受ける中で、自分でも少しずつ理解できるようになってきました。最近、良い集中力でプレーできていると感じる時は、全身に適度な力が入っていて、力が一点に集中していません。それでいて視野が広く、周囲の状況を見て判断し、行動に移すまでの時間も短い。その一連のプロセスがつながっている状態が、自分にとっての中庸であり、理想だと思っています。

中山:
言葉として理解することと、実際のプレーで体現することには違いがあると思います。加藤さん自身が中庸に近づくために、意識的に変えたことは何ですか?

加藤:
一つは、視野を広く取ることです。コーチからも間接視野でちゃんと見ろ、視界に入っているものをすべて把握しろと指摘されていました。実際に物理的なものの見方を変えたことは、中庸に近づく上で大きかったと思います。

僕はボブスレーを3年やっていたので、試合前はあえて視野を狭くして、自分を高ぶらせていたんです。鏡を見ながら「俺はできる」と口にして、自分を洗脳させていました。

ただ、ラクロスはボブスレーとは対極です。状況が絶えず変化する競技なので、ボブスレーと同じ集中の仕方で試合に臨むと、逆効果になる部分があると気づきました。なので、視野を広く取ることに加えて、自分を必要以上に高ぶらせないようにしました。自信は持っているけれど、謙虚でいる。そのバランスが一番難しいのですが、試合への臨み方や試合中の感情は、二つの競技の間で大きく変えようとしましたね。

中山:
もう一つの全身に適度な力が入っている状態についても伺いたいです。実際のプレー中、どのようなことを意識すると中庸に近づけるのでしょうか?

加藤:
オフボールとオンボールでは、かなり違いがあります。オフボールでは、自分のマークする相手を見ながら視野を広く取り、次のプレーを予測して準備する必要があります。例えば、味方のヘルプに行く場面でも飛び出そうと決めつけるのではなく、何でもできる状態をつくっておきます。

飛び出すことだけを考えると、その方向に力が集中して、ボールを持っている相手を凝視してしまいます。そうではなく、ヘルプに行く可能性を考えながらも、味方が守り切った場合にはどう動くか、攻撃に転じたらどう押し上げるかまで想定します。そのくらいの力感でいろんなことを考えますね。

一方で、オンボールでは身体の当て方など、技術的な部分になってきます。特に、構造で捉えるということです。ラクロスのディフェンスでは、スティックを使って相手を押すのですが、腕の力だけで押そうとすると、手や上腕二頭筋に力が集中してしまいます。サーモグラフィーで言えば、そこだけが赤くなっている状態です。そうではなく、両手、両肘、胸の5点で五角形の構造をつくり、それを崩さずに相手と接点を取るんです。腕だけではなく、胸や胸椎も含めた身体全体で力を伝えるイメージですね。

中山:
局所的な筋力に頼るのではなく、身体全体の構造を使って相手に当たるということですね。実際に、プレーの強さも変わるのでしょうか?

加藤:
全然変わります。腕だけで押すと、オフェンス側も押されている方向が分かるので力をいなす選択が生まれます。構造で押すとシンプルに強いですし、相手もどこに弱点があるのか分かりにくいです。

最初は僕も半信半疑だったのですが、実演してもらうとその違いがはっきり分かりました。一点に力が集中している状態は、実は弱くてもろいんです。それを体感してからは、全身が黄色い状態を保ったまま、相手に当たろうと意識するようになりました。

中山:
なるほど。ここまでは視野や身体の使い方について伺ってきましたが、ラクロスは激しいコンタクトもある競技であり、相手に負けたくないという気持ちが強くなる場面もあると思います。そうした感情の高まりは、プレーの判断にどのように影響するのでしょうか?

加藤:
例えば、マッチアップする相手に対して「こいつには負けない」と思いすぎると、全身が強張って、逆に抜かれてしまうこともあるんです。なので最近は、淡々とプレーした方がいいのかなと思っています。感情に囚われすぎると、プレーに影響が出ると分かってきました。

良いプレーでも悪いプレーでも事実として受け止める。一喜一憂せず、自分のプレーを客観視できることが増えてきた気がしますね。

中山:
感情をなくすのではなく、良いプレーも悪いプレーも冷静に受け止めて、次の判断に影響を残さないのですね。

加藤:
そうですね。良いプレーができても、「ナイス、自分」くらいの気持ちで受け止めて、淡々と次のプレーに臨む方が、僕としては試合を通して良いパフォーマンスを発揮できるのではないかと思います。

中山:
なぜ、加藤さんにとっては感情を大きく表に出さない方が、パフォーマンスにつながるのでしょうか?

加藤:
これまでの僕は、ボブスレーの時と同じように、自分を高ぶらせて試合に臨んでいました。でも、そうすると一つひとつのプレーに一喜一憂してしまい、余計なことまで考えて視野が狭くなるんです。一つのことに意識が集中しすぎてしまいます。それが良くないと気づいたことは大きかったですね。

ラクロスではカナダが非常に強いのですが、世界選手権で対戦した時や映像を見た時に、あまり感情が高ぶっていないように見えました。プレー中に周囲を見て、判断して、行動する。そのプロセスがものすごく速くて、しかも冷静に行っているんです。良いプレーやシュートを決めても、高いレベルのプレイヤーほどそこまで大きなセレブレーションをしない選手が多い印象でした。

また、アメリカも強豪国ですが、カナダとは違い大味のラクロスをしています。アメリカはプレーもセレブレーションも派手な印象です。アメリカ人もとてつもなく上手な選手はいて、学ぶことも多くありますが、自分の求めるプレー中のスタイルとしてはカナダ人への憧れを強く持っています。そうした姿を見たからこそラクロスでは冷静さが重要なのだと考えるようになりました。

中山:
なぜラクロスにおいて、それほど冷静な判断が重要だと考えているのでしょうか?

加藤:
ラクロスは、すごく繊細なスポーツだと思うんです。ボブスレーをやったからこそ感じましたが、ラクロスは広い視野を持たなくてはいけませんし、正しい選択をしなくてはいけないスポーツです。物理的にボールもゴールも小さいので、繊細なタッチが必要になります。

そしてボールがスティックのポケットに収まっているので、完全にオフェンスが有利になり、オフェンス側がボールを保持しやすい構造になっています。だからこそ、ディフェンスでは一つひとつの状況に対して、正しい判断を積み重ねる必要があるんです。

オフェンスも同じで、ミスなくボールをつなぎ、より確率の高い位置まで運んでいかなければいけません。最後は指先の感覚を使ってシュートを打つので、繊細な技術も求められます。その一方で、激しいフィジカルコンタクトもあるので、身体のサイズや出力も必要になります。

中山:
繊細な判断や技術と、身体的な強さの両方が求められるという競技特性が、加藤さんの目指す中庸という状態にもつながっているのでしょうか?

加藤:
そうですね。僕はラクロスを表す時に、猛々しくもありながら美しいという言葉をよく使います。正しい選択をしたり、自分を冷静な状態に保つために、感情をコントロールすることが大事だと思っています。カナダの選手たちのようなプレーにも憧れていますし、自分もそうありたいですね。



【Code.2 - EMOTION】青い炎を燃やす───アドレナリンと冷静さを両立する

中山:
試合前や試合中に生じる「緊張」や「不安」という感情は、加藤さんにとってどのような存在ですか?

加藤:
パフォーマンスを高めるギアであり、コントロールすべきエネルギーです。

中山:
そもそも、加藤さんは緊張しますか?

加藤:
もともとは割と緊張するタイプでした。ただ、ラクロスでディフェンスになってからは、ボールを持つ機会がそこまで多くないこともあって、以前ほど緊張しなくなりましたね。

中山:
ポジションの変化も影響しているのですね。同時に、緊張に対する捉え方そのものが変わった部分はあるのでしょうか?

加藤:
それはボブスレーでの経験が大きいかもしれません。緊張を楽しめるようになりました。ボブスレーでは、アドレナリンが出ないと良いタイムが出ないんですよ。緊張してくるとアドレナリンが出てきて良いなと思えるんです。ただ、その考え方に至ったのは一度大きな失敗をした経験があったからだと思います。

中山:
どのような失敗だったのでしょうか?

加藤:
2、3年前の大会で、試合前になってもまったくアドレナリンが出なかったことがあったんです。自分の出番が近づいてきてこれはまずいと思って、プレワークアウトを飲んで試合に臨みました。でも、タイムは全然駄目でした。

僕のポジションは、スタートでソリを押して乗り込んだあと、頭を下げて低い姿勢を保ちます。目を閉じた状態でもコースの全体像を把握して、今どこを走っているのかを判断し、ゴールをしたら自分でブレーキを引かなければいけません。ところが、その時はゴールしたことに気づかず、ブレーキをかけられずにオーバーランしてしまったんです。順位も散々でしたし、大失敗でしたね。

この経験から、自分の出番に合わせて、集中力やアドレナリンを最高潮に持っていく必要があると気づきました。それ以降、緊張していることを良い状態だと思えるようになったんです。緊張は自分にとってプラスに働くものであり、アドレナリンを引き出すためのギアでもあります。今は、緊張していること自体をまずいと思うことはないですね。

中山:
緊張を避けるべきものではなく、パフォーマンスを高めるために必要なものとして捉えるようになったのですね。先ほどボブスレーとラクロスでは、試合に向けた集中の仕方が違うというお話もありました。緊張やアドレナリンの活かし方にも、競技による違いはあるのでしょうか?

加藤:
かなり対極にあると思います。

中山:
具体的には、どのような違いがあるのでしょうか?

加藤:
ボブスレーでは、あえて視野を狭くして、意識を自分自身に向けていく感覚なんです。アドレナリンを高めながら、自分のパフォーマンスに集中していきます。一方、ラクロスでもアドレナリンは出るのですが、それを使って自分を高ぶらせる必要はないと思っています。アドレナリンは勝手に湧き出てくるものとして受け止めながら、自分は視野を広く保ちながら周囲の状況を見続ける。意識を自分の内側ではなく、外側に向けるイメージですね。

中山:
同じようにアドレナリンが出ていても、ボブスレーでは自分自身に集中し、ラクロスでは周囲に意識を向けるという違いがあるのですね。

加藤:
そうですね。ラクロスでは、アドレナリンによって視野が狭くなってしまったら、正しい判断ができなくなります。なので、無理に自分を高ぶらせようとはしません。アドレナリンは自然と出ているけれど、頭は冷静で、周囲の状況を広く捉えられている状態を保ちたいんです。イメージとしては、静かに燃えるという感じですかね。青い炎が燃えているような感覚です。緊張やアドレナリンを抑え込むのではなく、それを感じながらも視野を広く持ち、冷静に判断するという状態を意識していますね。

【Code.3 - COGNITION】Creator's Game───受け身ではない、守備の創造性

中山:
加藤さんにとって、ラクロスという競技はどのような「ゲーム」だと捉えていますか?

加藤:
Creator's Game、つまり創造主のゲームです。

中山:
ラクロスのどのような部分に創造性を感じているのでしょうか?

加藤:
ラクロスの起源に関わる話なのですが、僕はこの話がすごく好きなんです。ラクロスは歴史的に、北米の先住民の人たちが行っていたスポーツで、部族間の争いを解決するために行われていた側面があります。一説には、100人対100人で試合をしていたとも言われています。

中山:
戦争の代わりとして行われていたということでしょうか?

加藤:
そうですね。ただ、先住民の人たちにとって、ラクロスは単なる争いの手段ではなく、非常に神聖なものでもあります。ラクロスのスティックをクロスと呼ぶのですが、生まれた時に一本授かり、死ぬ時にはそのクロスと一緒に棺に入るというスピリチュアルな伝統もあるそうです。なので、彼らにとってラクロスは創造主に捧げる神聖なゲームであり、儀式なんです。

また、ラクロスのコミュニティでは、競技の起源となった先住民の人たちがすごくリスペクトされています。例えば、世界選手権には北米の先住民のチームが国の代表として出場しています。先住民の方たちの独立自治区があり、カナダとアメリカの国境付近に暮らす人たちですね。日本に限らず、世界中のラクロスプレーヤーが、そうした歴史や文化にリスペクトを持っていると思います。なので、ラクロスはどんなゲームかと聞かれると、どうしてもこの話をしたくなってしまうんですよね。

中山:
その歴史的背景を踏まえた上で、今度は加藤さん自身の競技観について伺いたいです。オフェンスからディフェンスへの転向や、ボブスレーの経験も経てきた加藤さんから見ると、ラクロスは競技特性としてどのようなゲームなのでしょうか?

加藤:
いろいろな能力が同時に必要になる競技だと思います。先ほども話した猛々しくも美しいという部分ですが、道具を扱いながら最適な選択肢を取っていかなければいけません。なので、状況を判断するIQの部分は間違いなく必要です。かつ、コンタクトスポーツなので身体を当てる強さや体力も求められます。

ラクロスはどうしてもマイナースポーツという認識を持たれがちですが、競技の一部分を切り取ると、ほかのスポーツと共通する要素がたくさんあります。ラクロスをやればいろんな能力が身につくので、スポーツの究極形だと思っています。

中山:
さまざまなスポーツに必要な能力を掛け合わせたものが、ラクロスという競技なのかもしれませんね。

加藤:
そうですね。それぞれのスポーツに必要な能力がありますが、ラクロスではそれが全部必要になります。

中山:
もう一つ、Creator's Gameという言葉に関連して伺いたいことがあります。加藤さんは現在ディフェンスを務めていますが、守備の立場から自分自身がゲームを創っていると感じる瞬間はあるのでしょうか?

加藤:
相手が何をしてくるのかをある程度予測して、味方を動かしたり自分も動いたりする。それがうまくはまって、相手が攻めあぐねている状況をつくれた時は、ディフェンスが試合を支配している、自分が試合を支配していると感じます。

ただ、ラクロスはどうしてもオフェンスが有利なスポーツなので、攻撃側の方がそういう感覚を得やすいとは思います。それでも、ディフェンスで感じる瞬間は十分にありますね。

中山:
守備というと相手の攻撃に対応する受け身のイメージもありますが、実際には意図的に相手を動かし、攻撃の選択肢を制限することもあるのでしょうか?

加藤:
例えばサッカーでいうと、オフェンス側からするとシュートを打たされたという場面がありますよね。ラクロスでも、シュートの成功率が低い場所でフィニッシュさせられれば、ディフェンスとしては好都合です。

例えば、ゴールに対して角度がないところまで相手を誘導してシュートを打たせたり、自分たちがリスクなくダブルチームに行ける場所へ相手を引き込んだりします。相手を右に行かせたいのか、左に行かせたいのか。あらかじめ引き込むポイントをある程度決めておくんです。

中山:
相手の攻撃をただ防ぐのではなく、どこで、どのようにボールを奪うのかまで設計しているのですね。

加藤:
自分たちが意図した場所でボールを奪えた時は、ディフェンスとしてもゲームを創り出しているというか、支配している感覚がありますね。狙いどおりに相手を動かし、守っている6人の意思疎通が噛み合った時は、してやったなと思えますね。


【Code.4 - VISION】自分を知るために他者に聞く───究極の自己掌握への道

中山:
この競技を続けていった先に、どのような状態や景色に辿り着いていたいと考えていますか?

加藤:
究極の自己掌握です。

中山:
具体的に、どのような状態なのでしょうか?

加藤:
結局は自己満足ですし、スポーツを通して自分と対話する機会はものすごく多いと思います。対話することで、自分を把握するという感覚ですね。アスリートとして目標に近づくために自己対話をすごくしますし、自分はどんな考え方をしているのか、足りないものは何か、どのような能力が必要なのかを考えて、日々の練習や取り組む項目を選んでいきます。その一つひとつが、結局は自分を知ることにつながります。

アスリートとしての最高の状態を考えると、自分にできることを完全に把握していて、それによって正しい判断ができることだと思うんです。できないことを無理にやろうとすると、失敗することがありますよね。そうではなく、自分にはできないと分かっているからこそ、引くという判断もできますし、自分を完全に把握しているからこそ正しい選択ができます。アスリートとしては、そういう状態に持っていきたいですね。

さらに、自分の強みや弱みを把握していることは、引退後も大きなアドバンテージになると思うんです。例えば、ビジネスにおいても、自分に何ができて、どこに強みや弱みがあるのかを理解していれば、正しい判断につながるはずです。そういう意味で、究極の自己掌握という言葉を使いました。

中山:
自己掌握は、それ自体がゴールであると同時に自分の能力を最大限に発揮するための手段でもあるのですね。では、その理想に近づく上で、今の自分自身に足りないと感じているものは何でしょうか?

加藤:
本当に、無限にありますね。身体的な部分で言えば、シンプルに体力が足りないと思っていますし、ディフェンスとして一人で相手を守り切る力や、相手を完全にスピードダウンさせて自分の前で止め切るような力はもっと養っていかなければいけません。

オフェンスの局面では、きちんと決め切る判断や、最も確率の高い状況を自分でつくり出す力が足りないと思っています。あとは、相手の動きを予測して、自分の意図どおりに味方を動かす力もまだまだですね。シュートやパスについても、意図したところにボールを投げられるかという部分には伸びしろがあります。

中山:
競技面では、まだまだ磨いていきたい能力が多くあるのですね。一方で、自己掌握という観点に立ち返ると、単に能力を高めるだけでなく、自分自身をより深く理解することも必要だと思います。そのために、今の加藤さんが取り組むべきだと感じていることはありますか?

加藤:
自分に足りない部分について、周りの人に恐れずに聞くことですね。自分自身と対話することは割と好きですし、普段からよくやっています。でも最近、チームメイトやコーチに自分の足りない部分や良い部分を聞くと、自分の認識とずれていることがかなりあると感じました。自分の中だけで対話するだけではなく、客観的な意見も聞かなければいけないというか、そういう視点からも自分を見ないと自己掌握にはつながらないと思いましたね。

中山:
自分自身で考えるだけでは気づけない部分を、他者からのフィードバックによって知るということですね。

加藤:
ラクロスは、普段活動しているチームに必ずしもコーチがいるわけではないんです。代表チームにはいるのですが、競技全体として指導者が足りていない部分もあり、フィードバックを受ける機会があまりないのは致命的な部分だと思っています。だからこそ、コーチがいる環境では積極的に意見を聞いたり、コーチがいない時でもチームメイトに自分のプレーについて聞いてみることが必要だと、あらためて思いましたね。

中山:
自分と向き合うことが得意だからこそ、時には自分の中だけで考えが完結してしまうこともあるのかもしれませんね。自己対話と他者からのフィードバックを繰り返すことで、自分では気づけなかった強みや課題も見えてくると考えると、自己掌握とは一人で自分を理解しようとすることだけではないのだと感じました。

加藤:
そうですね。自分の中でも、ラクロスへの解像度が上がりました。

中山:
ぜひ、これからも自分自身への理解を深めながら、加藤さんが目指す究極の自己掌握に近づいていってほしいなと感じました。そして、その先でどのようなプレーや判断が生まれるのか、楽しみにしています。今日は貴重なお話をありがとうございました!

加藤:
ありがとうございました!



【After Dialog】
加藤裕太が目指す場所を究極の自己掌握であると表現したとき、それまでの話が一つにつながった気がした。ボブスレーでは、自分を高ぶらせて競技に臨んできた。しかし、ラクロスでは、その集中の仕方がかえって判断を妨げることがある。必要なのは、緊張をなくすことでも、力を抜き切ることでもない。自分の状態を把握した上で、周囲の状況に応じて何をするかを選ぶことだった。自分を知ることは、強みを見つけることだけではない。できないことを認めることも、判断の精度を高めるために必要になる。相手の動きを読み、味方と連動して守備を組み立てる加藤にとって、その考え方は一つひとつのプレーにも結びついているのだろう。

一方で、彼は自己対話だけでは気づけないことがあるとも話した。チームメイトやコーチから聞く自分の姿は、本人の認識と必ずしも一致しないという。究極の自己掌握を目指しているからこそ、自分一人の視点では足りない。その気づきもまた、加藤が今回の対話で言葉にした大切な課題だった。競技によって集中の仕方を変え、他者の意見によって自分への理解を見直す。彼が求める自己掌握とは、決まった状態に辿り着くことではなく、変化する自分を捉え続けることなのかもしれない。

『Dialog Code』

答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
加藤 裕太(かとう・ゆうた)
1997年1月7日生まれ、東京都出身。
ラクロス選手。Grizzlies Lacrosse Club所属。

明治大学入学後にラクロスを始め、2019年度の男子全国強化指定選手に選出。2023年には男子ラクロス日本代表として世界選手権に出場し、2024年にはBOXラクロス日本代表としても活動した。2026、2027年の男子日本代表選手にも選出されている。2023年にはボブスレーのトライアウトに合格し、同年の全日本選手権で優勝。二つの競技で国内外の大会に出場してきた。競技ごとに異なる身体の使い方や集中のあり方を追求しながら、現在はボブスレーの経験を活かし、ラクロスに取り組んでいる。
【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。

JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。

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