Dialog Code
『未来を読み、未知を選ぶ──経験を根拠に踏み込む、一瞬の決断』 #遠藤大樹 Dialog Code
2026/11/4

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」
『Dialog Code』
強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。
今回登場するのは、
遠藤 大樹(スケートクロス選手)
【Before Dialog】
4人の選手が一斉にスタートし、起伏のあるコースを滑り抜けるスケートクロス。上位2人が次のラウンドへ進むこの競技では、滑走速度だけでなく、相手との駆け引きや刻々と変化する状況への対応力が問われる。どのコースを選び、どのタイミングで勝負を仕掛けるのか。わずかな判断の違いが順位を左右する一方、限界まで速度を追求することには、転倒や接触の危険も伴う。アイスホッケーを原点に、スケートクロス、アイスクロス、インラインダウンヒルと競技の幅を広げ、世界の舞台で挑戦を続けてきた遠藤大樹。異なる競技で培った技術や経験は、予測の難しいレースの中で、どのように生かされているのだろうか。危険と隣り合わせの状況で、緊張や恐怖とどう向き合うのか。そして、国内では競技人口も環境も限られる種目に挑み続ける先に、何を見据えているのか。さあ、彼の思考を紐解いていこう。
【Code.1 - STATE】想定に縛られず、未来を読む───経験が生み出す瞬時の判断
中山:
レース中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、もしくは短い文章で表すとしたら、どのような言葉になりますか?
遠藤:
少し先の未来が読めている状態です。ルートなどが浮かんだり、薄い光の筋が見えるような気がします。
中山:
具体的には、どのような状態なのでしょうか?
遠藤:
常にそういう状態というわけではなく、いわゆるゾーンに入った時に近い感覚です。自分でも不思議なのですが、もちろん実際に未来が見えているわけではありません。
僕は以前ホッケーをやっていたのですが、ホッケーやサッカーのような対人競技では、相手やボールの動きを見ながら、最終的にゴールを目指します。スケートクロスも一番にゴールすることを目指す競技ですが、4人が一斉にスタートして上位2人が勝ち上がる仕組みです。
レース中、誰かに抜かれてしまったらどこかで抜き返さなければいけません。ただ、自分が通りたいコースは相手も通りたいコースなので、どこで抜くのか、どのタイミングで勝負をかけるのかを、常に変わる状況の中で考え続けています。
その中で調子がいい時は、自分が通るべきコースが自然と浮かんできます。このコースを通れば、相手との距離をここまで縮められて、次のタイミングで抜けるだろうというイメージが浮かび、実際にその通りになることがあります。客観的に見れば、そういう状態をゾーンと呼ぶのかもしれません。
中山:
相手も同じコースを狙っている中で、どこを通り、どのタイミングで抜くか。その道筋が自然と浮かんでくるのですね。
遠藤:
はい。ただ、相手もこちらの動きを邪魔しようとしてくるので、それも含めて考えています。今は無理に抜こうとせずに位置をキープして、相手が外側に膨らんだタイミングで勝負をかければ、内側のコースを通れるだろうなといった具合です。そうした少し先の未来が映像として流れ込んでくるような感覚ですね。
中山:
単に進むべきルートが見えるだけではなく、相手がどう動き、それに対して自分がどう対応するのかまでイメージできているのですね。
遠藤:
そうですね。例えば、ここで相手が身体を寄せてくるから、腕でガードしながらねじ込めば抜けるだろうといった対応の仕方までイメージできている感覚です。ただ、言葉にするのが難しいんですよね。実際のレースでは、すべてが一瞬で進んでいきます。その中で、自分はどう動けばいいのかという情報が瞬間的に整理されて、イメージした通りに動くと実際に抜けているんです。最初にお話しした光の筋というのも、自分が選ぶべきコースがふわっと開けるように見える感覚ですね。
ホッケーをやっていた時にも、似たような経験がありました。自分がフェイントをかければ相手が引っかかって、反対側に抜けられる。そのままこのコースにシュートを打てば入るだろうなとイメージして、実際にその通りにゴールを決められることがあったんです。学生時代の終わり頃から、そうした感覚を時々経験するようになりました。自分の意思でゾーンに入れるわけではありませんが、調子がいい時ほど起こりやすい感覚があります。
中山:
突然のひらめきというよりも、これまでの経験が瞬時に整理されて、その場で最善の選択ができているように感じました。
遠藤:
その通りだと思います。僕はおそらく、全く天才型ではないんですよ。スポーツ選手の中には、天才型の人がいるじゃないですか。でも、僕はそういうタイプではなくて、技術的なことをコツコツ積み重ねないとすぐにはできるようになりません。もちろん、世間一般の人たちも含めて考えれば、運動能力は高い方だと思います。だからこそ、今の競技を続けられている部分はあります。
ただ、世界で戦うとなれば相手はトップレベルの選手ばかりです。その中では、自分は確実に凡人型だと思っています。努力で何とかしていかなければいけないタイプですね。同じ競技をしている選手と仲良くなって技術の話をすることもあるのですが、自分が何カ月もかけて身につけた技術を、その選手があっさり真似できてしまうことがありました。その時はめちゃくちゃショックでしたね。だからこそ、これまで経験してきたことが瞬間的に整理されているというのは、まさにその通りだと思います。自分は感覚型の部類ではないからです。

中山:
これまでさまざまなレース競技の選手と対話する中で、レース展開を事前に何百パターンも想定してから本番に臨むという方もいました。遠藤さんは、レース前にどこまで展開を想定しているのでしょうか?
遠藤:
僕の場合は、事前に展開を想定する比重はかなり低いです。レースの前日やウォーミングアップの前には、対戦相手の特徴を考えながらある程度の展開をイメージします。ただ、実際にはその通りにならないことがほとんどです。ジンクス的なものもありますが、想定通りにならなかった時に焦る方が嫌なので、その場でレースの流れを瞬間的に判断できる状態をつくっておくことに重きを置いています。
例えば、スタートから自分がトップに立てば、そもそも誰かを抜く必要がありません。先頭を守りながら一番をキープして走り切ることを考えるので、事前に想定していた展開とはまったく違いますよね。いわば、うまくいきすぎている状態です。
逆に、自分が最後尾になった場合も、前の3人がどういう位置関係にいるかによって状況が変わります。一列に並んでいれば、目の前の選手を一人ずつ抜いていく展開になります。でも、3人が団子状態になっていれば何が起きるかわかりません。想定外の状況でしか起こらないこともあるので、僕は事前に細かく考えすぎないことが多いですね。
中山:
相手の特徴や勝負どころはある程度想定しながらも、実際のレースではその瞬間の状況に応じて判断することを重視しているのですね。
遠藤:
そうですね。感覚的には事前に考えるのが2割で、その場で対応するのが8割くらいです。
中山:
約40秒〜1分前後という短いレースだからこそ、瞬時の対応が重要になるのでしょうか?
遠藤:
その側面もありますが、競技の特性としてスタートで先頭に立てるかどうかが勝敗にかなりの影響を及ぼします。感覚的には、スタートで1番手に出られると、その後のレース展開のすべてを自分でコントロールできる権限を持てることもあります。競馬でいう逃げ切りのように、後ろの選手を気にせずそのまま走り切れば、残りの3人がもう一つの勝ち上がり枠を争うことになります。
一方で、特定の選手を前に出したくない場合には、自分と後続の選手との距離や余力を見ながら、わざと少しスピードを落として後ろとの間隔を詰めることもあります。そうすると、後ろの3人が団子状態になります。自分はその争いに巻き込まれない位置を保ちながら、最後は先頭でゴールする。うまくいけば、勝ち上がらせたくない選手が後方の争いに巻き込まれて、順位を落とす可能性もあります。もちろん、実際のレース展開によってできることは変わりますが、自分が一番を取ることに全集中しています。
【Code.2 - EMOTION】緊張はなくさなくていい───競技の原点が変えた感情との向き合い方
中山:
レース前やレース中に生じる「緊張」や「不安」という感情は、遠藤さんにとってどのような存在ですか?
遠藤:
絶対に必要なものであり、その舞台の重要性を確かめたり、身体を守ったりするためのものです。
中山:
先ほど、スタートで先頭に立てるかどうかが、その後のレース展開を大きく左右するとおっしゃっていました。実際にスタートラインに立つ時は、どのような心境なのでしょうか?
遠藤:
緊張感がピークになるのは、まさにその時ですね。僕が緊張は絶対に必要だと思っているのは、競技の危険性も関係しています。特にインラインダウンヒルは、僕が取り組んでいる競技の中でも速度域が高いです。転倒すれば、交通事故に遭うような速度で地面に叩きつけられることになります。そんな状況で緊張感を持たず、気を抜いて滑っていたら、本当に死が目の前に来ます。身体を生にしがみつかせるためにも、多少の緊張感は絶対に必要です。
とはいえ、緊張しすぎると身体が硬くなってしまいます。僕はもともと、ものすごく緊張しやすい性格なのですが、緊張とうまく付き合うためのマインドセットを本格的に身につけようと思ったのは、アイスクロスを始めてからでした。
初めてロシアの大会に出場した時は、本当にガチガチでした。周りに日本人もほとんどいない環境だったので、緊張しすぎて自分が何をしているのかもよくわからないまま、レースが終わってしまったんです。アイスクロスのコースは路面がかなりガタガタしているので、ある程度身体をリラックスさせて、膝をサスペンションのように使いながら滑らなければいけません。でも、緊張して身体に力が入りすぎると、身体がブレてしまい、うまく力も伝わりません。そういうこともあり、その大会では思うように滑れず転倒もしてしまいました。このままでは世界で戦っていけないと、嫌というほど思い知らされましたね。
もともとホッケーをやっていた頃から、緊張しやすい自分を何とかしたいとは思っていました。ただ、わざわざロシアまで来て、ずっとやりたかった競技のスタートラインに立ったのに、何もできずに帰ることになったことへの悔しさがものすごく大きかったんです。そこから、心理面の専門家に相談しながら、程よい緊張感を残したままスタートラインに立つための考え方を身につけていきました。そうしたトレーニングを重ねて、今の状態に至っています。
中山:
もともと緊張しやすい性格だったとのことですが、どのようなことに緊張を感じていたのでしょうか?
遠藤:
子どもの頃から、人前に立つことがあまり得意ではありませんでした。小学校の授業で先生に当てられて、みんなの前で答えるだけでも心臓がバクバクして、何を話しているのかわからなくなるような子どもでした。世界中の選手が集まる大会でも、大勢の人に見られながらプレーするとなると、ものすごく緊張していたんですよ。観客全員が僕を見に来ているわけではありませんが、人に見られていることが恥ずかしかったり、失敗したらどうしようと考えたり、そういう思いが頭の中をぐるぐる回っていました。
ただ、緊張するのは自分を守ろうとする反応でもありますし、逆に緩みすぎていても良いパフォーマンスにはつながりません。程よい緊張は、一種の武者震いのようなものだと考えるようになりました。また、専門家と話す中で、そもそも自分は何のためにこの競技をやっているのか、その根幹の部分を考えるようになったんです。そこで再認識したのが、楽しいからやっているということでした。アイスクロスを始めたのも、最初は楽しそうだと思ったことがきっかけです。その気持ちがあったからこそ、自分の殻を破ってでも挑戦したいと思うようになり、今に至っています。
だとしたら、楽しさを感じられなければやっている意味がないじゃないですか。レース中に起こるさまざまな出来事を経験することこそ、自分がやりたくてここまで来たものなんですよね。そう考えると、これから楽しいことが始まるのだから、それでいいのではないかと思えるようになったんです。
さらに、自分が楽しんでいる姿を見て、観客の方々も楽しさを共有してくれたら万々歳です。自分が楽しんでいなければ、見ている人も楽しめないと思います。この考え方に至ったのは数年前のことですが、何十年もスポーツを続けてきてようやく気づいたことでした。本当に気持ちが楽になりましたね。もちろん今でも緊張はしますが、ミスをしないようにスタートに向けて準備をする中で感じる緊張感に変わりました。

中山:
緊張そのものがなくなったのではなく、その意味や受け止め方が変わったのですね。最初に、緊張は「その舞台の重要性を確かめるもの」でもあるとおっしゃっていました。そこにはどのような思いがあるのでしょうか?
遠藤:
そもそも、この競技に取り組めていること自体がすごく幸運なことだと思っています。いろいろな人との出会いやタイミングが重ならなければ、この競技を知ることもなかったかもしれませんし、世界大会のスタートラインに立つこともできなかったと思います。だからこそ、今この場所に身を置けていることがありがたいんですよね。
世界中の選手が集まる大会で、他の人には見られないスタート台からの景色を、今自分が見ていることがすごく楽しい。そして、またこの感情を感じたいからこそ、今回のレースも無事に終えて、次の大会でもここに戻ってきたいと思っています。
もちろん、競技を楽しむだけならわざわざ世界大会に出場する必要はありません。レクリエーションとして楽しむ方法だってありますよね。ただ、僕が取り組んでいる3つの競技は、日本ではなかなかできない特殊なものです。だからこそ、世界中の選手たちと競い合える環境を自分自身でつくり出し、維持していきたいです。
これまで出会ってきた人たちや、一緒に競技を続けてきた選手たちへの感謝はもちろん、ここまで頑張ってきた自分への思いもあります。そうした人たちと、これからも一緒に競技を続けていきたいですし、また同じ舞台でレースをしたい。その思いを大切にしながら、スタートラインに立ちたいと思っています。
【Code.3 - COGNITION】速さだけでは勝てない───駆け引きと度胸が試されるレース
中山:
遠藤さんにとって、スケートクロスという競技はどのような「ゲーム」だと捉えていますか?
遠藤:
「スケートで一番速いやつを決めるゲーム」です。
中山:
ここでいう速さには、単純な最高速度以外にどのような要素が含まれているのでしょうか?
遠藤:
スケートクロスやアイスクロスは、アップダウンのあるコースを滑る競技です。純粋に速く滑る能力や脚力によって速さを競うのがスピードスケートだと思います。平坦な氷の上で、直線やカーブをいかに速く滑るか。その能力を徹底的に磨いてきた選手たちなので、速さは半端ではありません。
一方で、僕のようにホッケーをやってきた選手は、相手の動きに合わせて360度、いつでもどの方向にも素早く動ける技術を持っています。氷の上での細かい技術に関しては、どの競技の選手よりも持っていると思います。
さらに、スケートボードのパーク競技のように、起伏のある場所をインラインスケートで滑るアグレッシブという競技もあります。その選手たちは、平坦ではない路面への対応力が天下一品です。スケートクロスやアイスクロスには、それらの競技の要素がすべて含まれています。
どの競技をバックボーンに持つ選手も、それぞれの長所を生かしながら、自分に足りない技術を新たに身につけて競い合う。つまり、スケートを履いて一斉にスタートした時に、どんな地形でも一番速くゴールできるのは誰なのか。それを決められるのが、スケートクロスやアイスクロスの面白さだと思っています。
中山:
異なる競技で培ってきた技術や経験が、一つのレースで試されるのですね。遠藤さんご自身もさまざまな競技を経験されてきたからこそ、スケートクロスやアイスクロスならではの面白さを実感されているのだと思います。
その上で、これらの競技は単純な速さだけでなく、相手との駆け引きも重要になるということでしたよね。
遠藤:
はい、まさに最初にお話しした後ろの選手たちを混戦に持ち込むために、あえてペースを落とす場合もあります。それから、クロス競技にはチームクロスという種目もあります。通常のレースでは4人全員がライバルですが、チームクロスでは2人1組のチーム同士で戦います。味方同士で助け合いながら、相手チームに勝つことを目指します。勝ち上がるためには、自分と味方のどちらも最下位を取らなければいいだけです。味方が1位と3位でも勝ちですし、1位と2位でも勝ちです。反対に、1位と4位になってしまうと負けになります。つまり、相手チームのどちらか一人を4位にすればいいんです。
仮に相手チームの一人が先頭を走っていたとしても、残りの3人の中で味方同士が2位と3位を確保できれば勝てます。その場合、先頭の選手を無理に追いかける必要はありません。味方と協力して相手のもう一人を抑えながら、ペースをコントロールしてゴールすればいいんです。状況に応じてあえてスピードを落とすことも戦略の一つになります。

中山:
個人戦でもチーム戦でも、必ずしも速く滑り続けることが最善とは限らないのですね。では、個人戦に話を戻すと、遠藤さんが最も重要だと考えるスキルは何でしょうか?
遠藤:
純粋な身体的スキルでいえば速く滑る能力ですが、それ以外で一つ挙げるなら突っ込む度胸ですね。スケートクロスやアイスクロスは、基本的に大会ごとにコースの設定が変わります。同じ会場で開催される大会でも、まったく同じコースになることはほとんどありません。そもそも常設のコースがないので、大会の開催が決まってから初めてコースがつくられます。つまり、世界中の選手が初見で対応しなければいけません。
コースによっては、全速力のままでは曲がり切れないカーブもあります。常にフルスピードで滑り続けられるわけではなく、スピードを落とさなければコースを外れてしまう場所もあります。そうした場面では、どこまで減速を我慢して、ギリギリの速度でカーブに入れるかが勝負になります。自動車やバイクのレースにも、似たような駆け引きがありますよね。
ただ、僕らは生身の身体で滑っています。身体の軸の位置やパワーのかけ方を、ほんのわずかな加減で調整しながらギリギリを攻めているんです。そのため、ほんの少し相手に接触されただけでも、身体が飛ばされてしまうことがあります。
そうした危険性を考えすぎてびびってしまい、早めに減速したり安全なコースを選びたくなることもあるんですよ。でも、どこまで突っ込んで、最後まで転倒せずに滑り切れるか。そこが強い選手に求められるスキルだと思います。
中山:
そうした突っ込む度胸は、どのように磨いていくものなのでしょうか?
遠藤:
やっぱり経験ですね。毎回初めてのコースを滑ることに変わりはありませんが、初めてのコースに対応してきた経験を、どれだけ積んでいるかが大事だと思います。その経験値は、最初にお話ししたゾーンに近い感覚にもつながっています。
実際にやることは、フルパワーで攻めるという行動ですが、その先に何が起きるか、どう対応すればいいのかというイメージが、ある程度わかっているんです。最終的に、これなら自分は行けるという決断に至れます。もちろん、前提としてスケーティングの技術は必要です。その上で、経験を積み重ねることが、攻める判断を支えているのだと思います。
【Code.4 - VISION】世界を知ってから道を選ぶ───世界での経験から伝える選択のあり方
中山:
この競技を続けていった先に、どのような状態や景色に辿り着いていたいと考えていますか?
遠藤:
日本で誰も見たことのない境地に立てていたら最高です。かなり稀な経験をしていると思うので、この経験を未来の挑戦者である子どもたちに伝える機会を得られたら嬉しいですし、希望を与える存在になれたらと思っています。
中山:
日本で誰も見たことのない境地とは、具体的にどのような景色を思い描いているのでしょうか?
遠藤:
僕がこれまで選んできたスポーツを振り返ると、子どもの頃からの性格が影響しているのだと思います。最初に始めた競技はアイスホッケーでしたが、それも自分の性格がきっかけでした。子どもの頃、親からはずっと何か習い事をしなよと言われていたのですが、ずっと拒み続けていました。もともと人前に出るのが恥ずかしいという気持ちも根底にありましたし、それ以上に人と同じことをやりたくないという気持ちが強かったんです。
野球やサッカー、ミニバス、水泳といった日本の中で親しまれていて、子どもたちが習いやすい環境が整えられているスポーツはもちろん、公文やピアノ、習字なんかも、周りのみんながやっているからこそ、自分はやりたくないと思っていました。そんな時に、アイスホッケーという競技を知りました。聞いたことがないスポーツだったので、やってみたいと思ったんですよね。そこからマイナーな競技を選び続けて、最終的に今取り組んでいる3つの競技にたどり着きました。
インラインダウンヒルに関しては、現在日本で競技をしているのは僕しかいません。もちろん、世界中の誰も見たことがない景色を見られたら最高ですが、そこまで突き詰めるのはすごく大変です。でも、日本人がまだ誰も見たことのない景色であれば現実味があって、実際にそうした経験もできています。それが楽しいという欲求を満たしているんですよ。
ここ数年は結果も伴ってきています。このまま競技を続けながら、まだ自分が見たことのない世界をどんどん見てみたいですね。その欲求を突き詰めていって、いつかトップレベルの大会で戦い続けることが難しくなった時に、これだけ挑戦していろいろな景色を見られたから満足だと思って競技を退く。そんな状態に至っていたら最高です。

中山:
人と違うことに挑戦し、まだ見たことのない世界を知りたいという思いが、これまでの競技選択にもつながっているのですね。その上で、そうした経験を未来の挑戦者である子どもたちに伝えたいともおっしゃっていました。次の世代に伝えていきたいこととは何でしょうか?
遠藤:
正直、僕の考え方やこれまで選んできたものを、そのまま真似するのはお勧めしません。やっていること自体が突拍子もなさすぎるのと、変わったことが好きな人でないと挑戦しないスポーツばかりなので(笑)。競技そのものの楽しさは伝えたいとは思うのですが、僕と同じ選択をしなさいと言うつもりは全くありません。
それよりも、自分で物事を判断するための、考え方のもとになるようなものを教えたいと思っています。日本という国にはスポーツをする環境が十分に整っている競技が、片手で数えられるくらいしかないと思っています。僕からすれば、十分に知られている競技の選手でも、「自分たちのスポーツはまだまだマイナーなので」と話すことがあります。でも、その競技に憧れて、将来は自分も選手になりたいと思っている子どもたちはたくさんいますよね。
僕自身、子どもたちを指導する機会があるので、熱心な親御さんから相談を受けることもあります。将来プロを目指せるような環境をつくってあげたいという相談をされた時には、まずは一度、日本の外に出た方がいいと伝えています。
いろいろなスポーツを経験してきて感じるのは、日本では十分に環境が整っていると思っていても、世界と比較すると競技レベルや育成環境に大きな差がある場合も少なくないということです。特に、競技環境が十分に整備されていないスポーツでは、国内だけで活動していると、その違いに気づきにくいこともあると思います。もちろん、世界のレベルや環境を知った上で、日本でも目標を実現できると判断するのであれば、国内で競技を続ければいいと思います。ただ、実際に自分で見て納得したものではなく、多分こうだろうという考え方はアバウトすぎて、それで自分の人生を決める選択をするのは少し物足りないですし、不安要素でしかないと思います。
世界には、まだ知らない、聞いたこともないスポーツがたくさんあります。だからこそ、僕がこれまで見てきた景色や世界での経験、考え方のベースを将来の子どもたちに伝えていけたらいいなと思っています。
中山:
遠藤さんが伝えたいのは、必ずしも海外に出ることや、珍しい競技に挑戦することではなく、まずは自分の知らない世界や選択肢があることを知り、その上で進む道を決めることなのですね。実際にそうした選択を重ねてきたからこそ、次の世代に伝えられることがあるのだと感じました。どの道を選ぶかは本人次第ですが、選択肢を知っているかどうかでその後の可能性も変わってきそうですね。本日は貴重なお話をありがとうございました!
遠藤:
ありがとうございました!
【After Dialog】
遠藤大樹との対話で印象的だったのは、瞬時の判断や限界まで攻める度胸を、才能や精神力だけでなく、経験の積み重ねによって身につくものとして捉えている点だ。自身を凡人型だと語る彼にとって、経験は技術を高めるだけでなく、予測できない状況で適切な判断を下すための根拠にもなっている。事前の想定にとらわれず、その場の状況に応じて判断する姿勢も、これまで多様なコースやレース展開に対応してきた経験に支えられているのだろう。また、緊張との向き合い方にも変化があった。かつては緊張によって本来の力を発揮できなかったが、競技を始めた理由である楽しさを再認識したことで、緊張を排除するのではなく、身体を守るために必要な感情として受け入れられるようになったという。さらに、自らの経験を次世代に伝えたいという思いにも、彼らしい考え方が表れていた。人と違う競技を選び、世界各地で挑戦を続けてきたからこそ、子どもたちには自分と同じ道を勧めるのではなく、多様な競技や環境を知った上で、自ら進む道を判断してほしいと考えている。この先も未知の競技環境や世界のトップレベルに挑み続ける中で、どのような経験を積み重ねていくのだろうか。その経験が次世代の挑戦者たちにとって、また新たな選択肢を知るきっかけとなるはずだ。『Dialog Code』
答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
遠藤 大樹 (えんどう・ひろき)
1986年2月9日生まれ、東京都出身。
スケートクロス選手。
9歳でアイスホッケーを始め、大学進学を機にインラインホッケーへ転向。2013年には日本代表の主将として世界選手権に出場した。その後もリンクホッケーやローラーダービーなどさまざまな競技を経験し、現在はスケートクロス、アイスクロス、インラインダウンヒルの3競技を中心に活動している。スケートクロスでは、2023年の世界選手権で男子チームクロス3位に入賞し、2024年のWorld Skate Gamesにも日本代表として出場。競技活動と並行して、子どもたちへの指導にも積極的に取り組んでいる。【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。
JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。

