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Dialog Code

『罠を張り、相手を動かす──盤面を制する駆け引きの思考』 #清岡幸大郎 Dialog Code 

2026/8/19

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」

『Dialog Code』

強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。

今回登場するのは、

清岡 幸大郎(レスリング選手・カクシングループ所属)

【Before Dialog】
レスリングは、力と力がぶつかり合う競技だと思われがちだ。しかし、その勝敗を分けるのは筋力や瞬発力だけではない。相手は次に何を選ぶのか。自分は相手をどう誘い、どう動かすのか。その一挙手一投足を積み重ねながら、勝利への道筋を組み立てていく思考の競技でもある。清岡幸大郎は、自らのレスリングを「将棋」と表現する。頭の中で描いたシナリオへ相手を導き、あえて読ませることで、その先の選択肢を奪っていく。試合中に訪れる無我夢中の状態も、緊張やプレッシャーを原動力へ変える感覚も、すべては勝利を引き寄せるための思考の積み重ねだ。競技を支えているのは、技術だけではない。彼はいかにして感情と向き合い、駆け引きを生み出す認知を得ているのか。さあ、彼の思考を紐解いていこう。

【Code.1 - STATE】無我夢中の世界───頭の中で組み立てる勝利のシナリオ

中山:
試合中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、もしくは短い文章で表すとしたら、どのような言葉になりますか?

清岡:
「無我夢中」です。

中山:
なぜ、無我夢中と表現されるのでしょうか?

清岡:
試合中はいろんな周りの声が耳に入ってきますが、意識は自分自身へ向いています。一般的には「ゾーンに入る」という言葉に近いのかもしれませんが、自分の世界に入り込んでいるような感覚です。とにかく自分は今何をすべきかということだけを考えています。レスリングはマットの上で1対1で向き合う競技なので、自分がどう動くかということだけを考えます。それ以外のことはほとんど頭に入ってきません。

一方で、周囲の応援やセコンドと呼ばれるコーチからのアドバイスの中でも、自分に必要な情報だけはスムーズに入ってきます。他の雑音は聞こえず、自分が欲しているものやその瞬間に必要な情報だけが耳に入ってくるんです。

中山:
必要な声だけが聞こえてくるというのは、雑音の中からその声だけが自然と耳に飛び込んでくるような感覚ですか?

清岡:
まさにそんな感覚です。普段からコミュニケーションを取っていて、日頃からアドバイスをもらっているコーチの声は、自分の中にインプットされています。試合中でも、この人の声だと認識できて、自分が必要としている情報だけを的確に頭が捉えていると思っています。いろんな音楽が流れていたり、海外の大会では楽器やブブゼラで応援されているのですが、そんな環境の中でもコーチの声だけは聞こえてきます。自分でも面白い感覚だなと思いますね。

中山:
思考の状態と聴覚のお話がありましたが、無我夢中になっている時は相手の動きや試合の状況、つまり視覚としてはどのように見えているのでしょうか?

清岡:
自分の頭の中には、いくつかパターンがあります。うまくいっている時は、そのパターンに沿って相手が動いてくれるというか、自分のイメージ通りに展開していく感覚があります。次はこう動いて来るだろうなとイメージしていると、「ほら来た」という感じになるんです。

いろんなパターンをイメージしていく中で、「次にこう来たら、こっちに誘ってみよう」と考えると、本当に相手がそこへ合わせて動いてくれることがあります。イメージとしては、銃でエイムを合わせるような感覚ですね。自分から相手に合わせにいくというより、相手が入ってきてくれるような感覚に近いです。逆に、そのイメージとすり合わない時は点を取られてしまったり、予想外の展開になったりします。

中山:
会場には応援や楽器が鳴り響いており、かなりざわついている環境の中で相手のことはどのように見えているのでしょうか?相手の身体がくっきり見えているのでしょうか?

清岡:
まさにそんな感じです。背景はぼやけていて、相手だけがすごく鮮明に捉えられています。zoomの背景がぼやけていて人だけくっきりしているのと同じ感じです(笑)

中山:
わかりやすいです(笑)。先ほど出た頭の中に相手の動きのパターンがあるというのは、練習の段階でイメージを積み重ねてきたからこそできることなのでしょうか?

清岡:
そうですね。マインドとしてはすごく強気で、負けることは想定しません。自分の方が強いという気持ちでずっとやっています。ただ、練習においては負けのパターンや点を取られる想定をものすごくしています。目を閉じて瞑想しながら対戦相手を思い浮かべて、頭の中で試合形式の練習をするんです。

動きの見られ方や展開の進め方の想定を徹底的に繰り返すことで、本番ではこうすれば勝てるというイメージが頭の中にできあがっている状態になりますね。

中山:
清岡さんの試合映像を見たことがあるのですが、スピードや駆け引きがすごいなと感じました。レスリングでは頭で考えている部分と、体が自然に反応している部分はどれくらいの割合なのでしょうか?

清岡:
難しいところですね。あくまで自己分析ですが、僕は7対3くらいで頭の割合が多いですかね。周りからは突発的な技に見られることも多いのですが、自分の中では「今ならいけそうだな」「これなら取れそうだな」と判断して技を仕掛けていることがすごく多いです。相手の攻撃もしっかり認識しながら反応しています。

もちろん本能的に反応している場面もありますが、基本的には頭で考えています。重心が少し浮いてきたら修正しますし、足の位置が悪くなっていると思えばすぐに直します。

中山:
頭の中がすごく整理されていて、一瞬の動作を理解しているからこそ反応が速くできるのですね。

清岡:
そうですね。そこには経験や普段の練習の積み重ねもあると思います。それがあるからこそ、頭で判断したことに体がしっかりついてきているのではないかと思います。

中山:
逆に、自分の世界に入り込めない試合もあるのでしょうか?

清岡:
最近は減ってきましたが、ありますね。

中山:
そのような時は、どのように立て直しているのでしょうか?

清岡:
入り込めない時は、自分以外のことにフォーカスが向いてしまっていて、本当に集中すべきところに焦点が定まっていないことがほとんどです。純粋に勝つ気持ちを持ったり、相手に勝つために自分は何をするかを考えるのではなく、周りが気になったりプレッシャーや緊張といった外的要因に意識が向いてしまい、不安が大きくなってしまうんです。

だからこそ、そういう時はもう一度自分に立ち返ります。この大会に向けて何を積み重ねてきたのか、この相手と戦うために何を準備してきたのか、自分は勝ちたい、優勝したいからここにいるのだという、本来の自分や本質的なところまで意識を戻すようにしています。

そして最後は、楽しいからやっているし、好きだからやっているという原点に戻るんです。そこまで戻れると、練習で感じていたプレッシャーや緊張感も少しずつ程よいものになっていき、一番良い精神状態で試合に臨めることが最近は多くなりました。

中山:
その本質的な思考に戻していくのは、実際に組み合っている最中に考えるのでしょうか?それとも少し間が空いたタイミングで考えるのでしょうか?

清岡:
どちらかというと、休む段階で考えていますね。組み合っている時は対戦相手に集中しているので、ふとした時に考えるようにしています。



【Code.2 - EMOTION】勝ちたい気持ちを燃料に───プレッシャーをエネルギーへ変換する

中山:
試合前や試合中に生じる「緊張」や「不安」という感情は、清岡さんにとってどのような存在ですか?

清岡:
「ガソリン」のような存在です。

中山:
なぜ、ガソリンという表現をされたのでしょうか?

清岡:
緊張やプレッシャーが重荷になってしまう選手も多いと思うのですが、僕は逆にもっと期待してほしいというか、注目度が高まったり周りから期待されたりすることがすごく力になるタイプなんです。もっと見てほしいという気持ちもあります。期待されたり、注目されるほど原動力になって頑張れるというか、優勝した時に周りはどんな反応をしてくれるのかと想像してワクワクできるんです。なので、緊張や不安はガソリンのような存在だと思います。

中山:
ガソリンが入ることで、パフォーマンスや気持ちはどのように変わるのでしょうか?

清岡:
普段からなのですが、僕は試合前にいろんな応援メッセージをもらうと全部見るタイプなんです。試合直前まで連絡を取ることもあります。試合が終わってもいなくて何も勝ち取っていないのに、泣きそうになるくらい感極まることもありますね。その瞬間に自分の中でエネルギーが湧いてくるのが分かるというか、燃えてきます。やる気に直結している感覚がありますね。

それと同時に、緊張感はやればやるほど生まれてくるものだと思うんです。頑張って練習してきたからこそ、「負けたらどうしよう」「この努力が無駄になったらどうしよう」という不安も出てきます。でも逆に、その試合や目標に対して懸けてきた証拠でもあるので、これだけやってきたから大丈夫という自信に変えていくように、ポジティブな方向に変換できるんです。自分でも自分に発破をかけますし、周りにもどんどんプレッシャーをかけてくださいというようなスタンスですね。

中山:
感極まるというのは、感謝なのか応援してもらえている喜びなのか、どの要素が一番大きいのでしょうか?

清岡:
一番は感謝ですね。一人ではないと感じられることが大きいのだと思います。マットに立てば対戦相手と自分の1対1の勝負になりますが、一人で戦っているのではなくいろんな人に背中を押してもらっているという実感があります。支えてもらっていることや、応援してもらっていることへの感謝などの気持ちから来ているのではないかと思います。

中山:
レスリングは1対1の競技ですが、その背後にはたくさんの人がいる感覚なのですね。

清岡:
そうですね。パリオリンピックの時のメディアの取材では、ドラゴンボールを例えにして話していました。悟空が元気玉を作る時は、いろんな人からのパワーをもらって強大な敵を倒しますよね。あのイメージに近いなと思っています。

中山:
いわゆる火事場の馬鹿力のように、声援によって自分でも予想していなかった力が出ることがあると思います。清岡さんの場合は、試合中のプレーにどんな影響を与えているのでしょうか?

清岡:
一番応援が耳に入ってくるのは、ハーフタイムですね。または、一つの展開が終わってマットのセンターに戻る時間です。その時間は呼吸を整えるタイミングでもあるので、応援がすごく耳に入ってきます。勝っている時はもちろん、特に負けている時は「ここでもう一回勝ちにいこう」「最後まで力を出し切ろう」という気持ちにつながります。それに、単純に相手へのプレッシャーにもなっているのではないかと思います。

中山:
確かに相手からすると、声援を受ける選手と1対1で戦うのは相当なプレッシャーだと思います。そう考えると、オリンピックのような大舞台で感じる緊張や不安というのは、よりエネルギーになったのでしょうか?逆に、あれだけ大きな舞台を経験すると国内大会では物足りなさを感じることはないのでしょうか?

清岡:
多少なりとも国内大会でも勝たなきゃいけないというプレッシャーはあるので、あまり変わらないですね。ただ、オリンピックの時は特別感があって、夢の国というかディズニーランドに行っているような感覚で、また少し種類が違いますね。

中山:
オリンピックの時は、その緊張や不安とどう向き合っていたのでしょうか?

清岡:
オリンピックは小さい頃からの夢であり目標だったので、本当に心の底から楽しんでいました。でも同時に勝たなきゃ意味がない、優勝以外は自分の目標を達成できる道にならないと自分に言い聞かせ続けていました。その一方で、自分なら絶対にできるという思いも並走させていましたね。

僕は全競技の最終日に試合があり、それまでに優勝した選手もいれば、惜しくもメダルに届かなかった選手もたくさん見てきました。オリンピックは、どの競技も本当に感動的なんです。全員が全力でやっているので、負けてもすごくかっこいいですし、華やかだし、称えられるんです。でも、それを見続けてしまうと「2番でもいいのかな」と満足してしまいそうになりました。なので、試合の2、3日前からは他競技を一切見ないようにしていましたね。

中山:
負けても称えられている空気を見ると、自分もそれで納得してしまうかもしれないと思ってあえて避けたのですね。

清岡:
そこがオリンピックと他の大会の一番大きな違いだと思います。他の大会の方が結果至上主義のような空気が顕著にあるように感じます。でも4年に1度のオリンピックだからこそ、結果だけではないという空気も生まれるのだと思いますね。

中山:
一方で、心の底から楽しむということは清岡さんにとってすごく大事なのだと感じています。同時に、勝たなくては意味がないというアスリートとしての厳しい現実もあります。自分ならできるという感覚は本当に心からそう思えているのか、それとも自分に言い聞かせている側面もあるのか、どうでしょうか?

清岡:
面白いですね。僕は本当にそう思えるまでやりきります。確かに最初は、そう思いたいという自己暗示のようなところから始まりますが、そう思い始めると本当にそうなるためには何をやらなければならないのかと自然に考えるようになるんです。それに伴って、行動や練習が変わっていき、だんだんと自分ならできると本当に思えるようになっていきます。

中山:
最初は思い込みだったものを、本物にしていくのですね。

清岡:
そうですね。よく「引き寄せ」という言葉を耳にするのですが、僕は少し違うと思っています。その言葉は自分の方に引き寄せているイメージがありますが、そうではなく言葉にしたりすることで、目標や自分が得たいものに寄っていっていくような感覚です。自分ならできるという自信も、それに近い部分だと思います。

なりたい自分を引き寄せるのではなく、なりたい自分に自分が寄っていく。本当に目標を達成する人は、そういう人の方が多いと思います。

中山:
面白い考え方ですね。最初のお話に戻りますが、この緊張や不安をガソリンに変えられるようになるまでには、どんな経験があったのでしょうか?

清岡:
もともとすごく緊張してガチガチになるタイプだったのですが、何かきっかけがあったわけではなく、成長しながら少しずつ変わっていきました。まだ25歳ですが、年齢を重ねる中で気持ちや考え方の変化があり、本を読むのも好きなのでいろいろな考え方に触れる機会もありました。

その中で思ったのは、同じ目標を掲げたとしても、結果は変えられなくても、そこに行く過程は変えられるということです。結果が同じだとしたら緊張して自分にプレッシャーをかけてネガティブに考えるよりも、「自分ならできる」と前向きに楽しんだほうがいいと考えられるようになりました。

そう考えられるようになってから、緊張は和らいでいったというか、プレッシャーというものを力に変えられるようになってきたと思います。

【Code.3 - COGNITION】相手を動かし、勝利を描く───数手先まで予測する勝負の駆け引き

中山:
清岡さんにとって、レスリングという競技はどのような「ゲーム」だと捉えていますか?

清岡:
「将棋」です。

中山:
なぜ、「将棋」という表現なのでしょうか?

清岡:
自分の作戦で盤面を制していく感覚があるからです。将棋でいえば、歩を前に出して相手が駒を動かしてきた時に、次はこうしてくるから自分はこうするといったことの積み重ねで、最終的に相手が逃げられなくなって詰みますよね。レスリングでも、まさに同じことをやっています。

次はこう動いてくる、こういう反応をしてきそうだと読みながら組み立てていき、僕は最終的にポイントを取る技から逆算して、足を取って倒すことがゴールだとしたらそこにたどり着くまでにどう展開していくかを考えます。相手の腕を取りたいなら、まず相手が腕を出してくるような動きを自分からするようなことの繰り返しです。そういうところは、将棋にすごく近いのかなと思っています。

中山:
特に、相手のどんな動きを見ているのでしょうか?

清岡:
全体像ですが、その中でも足の位置や手を出してくる位置、目線、相手が構えている高さを見ていますね。

あとは実際に相手に触れていて、体重が乗っているのか、前に出てくる圧力を感じるのか、逆に自分のプレッシャーを受けて下がっている状態なのかを判断しています。ここだけを見るというポイントはなくて、いろんなところにセンサーを張り巡らせている感覚ですね。

中山:
細かく見るポイントはあれど、それを全体として見ている感覚なのですね。

清岡:
将棋もこの駒だけ注意すればいいというものではないですよね。盤面全体を見ながら判断していく感覚は同じかなと思います。

中山:
将棋は相手に一手選ばせた上でその先を取っていくゲームだとも思いますが、レスリングでも、そのようなスタイルで戦っているのでしょうか?

清岡:
そうですね。思い通りに動かしてやるぞという感覚があります。あとは、「こうくると思ってるんでしょ。全然違うよ」というような騙し合いもよくやりますね。

中山:
それは清岡さんならではのスタイルなのでしょうか?他にもどんなスタイルがあるのか気になります。

清岡:
そこは本当に多種多様ですね。僕みたいに全体を見ながら組み立てるタイプや、一つの武器のようなものを貫く選手、逆に相手を動かしてカウンターを狙ったり、運動神経や身体能力で勝負する選手もいます。

中山:
レスリングを知らない方にも分かるように、一つの武器を貫く選手というのは具体的にどのようなスタイルなのでしょうか?

清岡:
例えば吉田沙保里さんの場合だと、とにかくスピードのあるタックルで真っすぐ足を取りにいきます。そこを軸にフェイントも使いながら、相手の反応やリズム、タイミングで勝負していくような選手のことですね。

中山:
面白いですね。このような話を聞くと、レスリングの見方が全然変わります。そんな中、清岡さんの場合は相手を読もうとしていて、当然相手も清岡さんを読もうとしているわけですよね。そうなると、自分の狙いを読ませないことも重要だと思うのですが、そのために工夫していることは何ですか?

清岡:
言い方が難しいのですが、読ませないために読ませるという感覚です。僕は罠を張り巡らせるタイプなので、いろんな動きを見せると相手はこれが来るのかなと考えることが増えていきます。そうやって意識しなければいけないことが増えると、どこかでほころびが出てくるので、そこを狙っています。

中山:
読ませないために、自分の動きを読ませるというのは面白いです。実際に組み合って駆け引きをしている中で、自分の方が上回っているなと感じる瞬間はあるのでしょうか?

清岡:
ありますね。一つの動きに対して相手が大きく反応してきたり、一つ二つの技をすごく警戒してきて、その技を見せて違う動きにつなげるとすごくきれいにはまることがあります。相手が研究してくれればくれるほど、逆にラッキーな時もありますね。

【Code.4 - VISION】夢は東京ドーム───レスリングを憧れの競技にするために

中山:
この競技を続けていった先に、どのような状態や景色に辿り着いていたいと考えていますか?

清岡:
東京ドームで大会を開催できるくらい、ポピュラーで人気のあるスポーツにしたいです。

中山:
具体的に、どんな光景をイメージしているのでしょうか?

清岡:
総合格闘技やプロレスの興行のように、スタジアムの真ん中にマットを一つ置いて、観客がそれを囲んで、入場演出もしっかりあるような光景です。今の多くのレスリングの大会は基本的にトーナメント形式なのですが、それをワンマッチにして、スター選手を集めたその日限りのレジェンドマッチを開催したり、あるいは大きなトーナメントを開いて最初はマットを八面くらい敷き予選を行い、勝ち上がるにつれて少しずつマットを減らしていって、決勝戦だけ一つのマットで開催するような大会にしたいです。

実は海外ではこういうことがすでに行われていて、アマチュアレスリングでもタイムズスクエアにマットを敷いて試合をしたことがありますし、アメリカのNCAAではレスリングの大会を3日間開催すると、毎日8万人くらいが来場する規模になるんです。そういう光景を実際に見た時に、レスリングにはスポーツとしての価値や魅力があるのだと感じました。

ただ、日本ではまだまだマイナー競技ですし、知名度や人気は足りないです。僕自身、3歳からレスリングを始めて20年以上続けてきましたが、今競技をしている子どもたちやレスリングに関わる人たちに、「自分たちはこんなにすごいスポーツをやっているんだ」ともっと誇りを持ってほしいんです。レスリングをやっていることを、自慢できるくらいの競技にしていきたいという野望があります。

中山:
レスリングのイメージを書き換えていきたいのですね。

清岡:
はい。あと、レスリングは打撃や決め技がないので、教育という観点でもすごく勧めやすい競技だと思っています。

中山:
確かにそうですね。そして護身術にもなりそうですし、教育という側面でも魅力があるなと思いました。そのような世界観を将来的に実現していくために、今だからこそやっておきたいことや始めたいことは何ですか?

清岡:
今はとにかく発信力や影響力をつけることが大事だと思っています。そのために何をするかと考えた時に、まずは大谷翔平選手のように圧倒的な実績や記録を残せば、自然と注目は集まると思うんです。

なので、次のロサンゼルスオリンピックで二連覇を達成することが、それを実現できる助走というか、手っ取り早く注目してもらえるきっかけになると思っています。もちろん今は現役の競技者なので、心の底から達成するという思いでやっています。

あとは並行して、競技の妨げにならない程度にいろいろな場所へ行き、レスリングの知名度を上げる活動をしたりイベントに参加したいです。他競技や異なる分野の方々と交流したりしながら、自分だけではなくレスリングという競技そのものを知ってもらう機会を増やしていくことが、これからにつながっていくのではないかと思います。

中山:
競技者として結果を残すことと、レスリングの価値を社会へ広げていくことを、これからどのようにつなげていきたいと考えていますか?

清岡:
僕は、どこまでいっても人間力だと思っています。どんなところでも尊敬される人でありたいですし、憧れられるアスリートでありたいです。そういう選手が増えて、「レスリングの選手って本当に素晴らしい人が多いよね」と思ってもらえれば、自分もやってみたい、子どもにやらせたいという気持ちにつながると思うんです。

レスリングをやることで人格形成につながり、人間教育にもなる。競技力だけではなく、人間性も高めながら、レスリングという競技の価値そのものを高めていきたいと思っています。

中山:
清岡さんのように第一線で競技を続けながら、先を見据えた視点を持っている選手たちがこれからのスポーツ界をいろいろな形で盛り上げていくんだろうなと思いました。スポーツが持つ大きな力を清岡さんがこれから担っていく未来が、自然と想像できました。今日は貴重なお話をありがとうございました!

清岡:
ありがとうございました!


【After Dialog】
レスリングは、力だけで勝敗が決まる競技ではない。相手の反応を読み、その先を予測し、思考を巡らせながら勝利への道筋を組み立てていく。清岡幸大郎が語った無我夢中やガソリン、将棋という言葉は、一見すると異なるようでいて、そのすべてが勝利への思考につながっていた。雑音の中でも必要な情報だけを受け取り、頭の中で描いたイメージへ相手を誘導する。緊張やプレッシャーさえも前へ進むためのエネルギーへ変え、自らの言葉と行動によってなりたい自分に近づいていく。その積み重ねが、オリンピックの頂点へと導いた原動力なのだろう。そして、彼が見据える未来は、自身の勝利だけでは終わらない。ロサンゼルスオリンピックでの二連覇を成し遂げ、その先にあるのは、レスリングをもっと多くの人に愛され、誇れる競技へと変えていくこと。東京ドームを埋めるような大会を実現し、レスリングをやっていてよかったと胸を張って言える子どもたちを増やしたい。その未来をつくるために、自ら結果を残し、人間性を磨き、競技の価値そのものを高めていこうとしている。

『Dialog Code』

答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
清岡 幸大郎(きよおか・こうたろう)
2001年4月12日生まれ、高知県出身。
レスリング選手。カクシングループ所属。

3歳の頃、母親の知人であった指導者に誘われたことをきっかけに、高知レスリングクラブで競技を始める。高知南中学校3年時に全国中学生選手権47kg級で優勝。高知南高校では、2年時にインターハイ55kg級を制す。2020年に日本体育大学へ進学。大学2年時の2021年には、全日本選抜選手権61kg級で準優勝を果たす。その後65kg級へ階級を上げ、2022年、2023年の全日本学生選手権を連覇。2023年には、ブルガリアで開催されたダン・コロフ-ニコラ・ペトロフ国際大会でも優勝した。同年12月の全日本選手権では65kg級で初優勝。2024年4月のアジア予選を勝ち抜き、パリオリンピックの出場枠を獲得した。同年8月、初出場となったパリオリンピックの男子フリースタイル65kg級で金メダルを獲得し、23歳でオリンピック王者となった。この功績を受け、同年9月には高知市初となる市民栄誉賞を受賞。大学卒業後は三恵海運株式会社に所属して競技を続け、2025年にカクシングループへ入社。現在はカクシングループに所属し、ロサンゼルスオリンピックでの2連覇を目標に競技活動を続けている。
【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。

JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。

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