Dialog Code
『楽しむことが、強さになる──勝負の世界で失わない自分らしさ』 #脇阪麗奈 Dialog Code
2026/10/21

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」
『Dialog Code』
強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。
今回登場するのは、
脇阪 麗奈(サッカー選手・セレッソ大阪ヤンマーレディース所属)
【Before Dialog】
競技を続けるにつれて、そこには勝敗や評価が加わり、プロになれば結果を残すことが求められる。立場が変われば、チームに対する責任も大きくなる。そうした環境の中で、楽しむという感覚はどのように変わっていくのだろうか。セレッソ大阪ヤンマーレディースでプレーする脇阪麗奈は、中学年代から同クラブの育成組織でプレーし、長く一つのクラブでキャリアを重ねてきた。チームではキャプテンも経験し、日本代表として日の丸を背負った経験も持つ。求められるものが増えていく中でも、彼女の言葉には楽しいという感覚が繰り返し現れる。結果を求められる環境で、何を考え、どのように自分と向き合えば、競技を楽しみ続けることができるのか。そして、楽しむことは、プレーや判断にどのような意味を持つのか。さあ、彼女の思考を紐解いていこう。
【Code.1 - STATE】「楽しい」がすべての起点───楽しさから始まる好循環
中山:
試合中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、もしくは短い文章で表すとしたら、どのような言葉になりますか?
脇阪:
「楽しい」です。
中山:
試合中に楽しいと感じるのは、どのような瞬間ですか?
脇阪:
自分が思った通りのプレーができた時や、相手との駆け引きに勝った時ですね。そういう時に楽しいと感じます。
中山:
楽しめている時は、プレーに何か変化はあるのでしょうか?
脇阪:
周りが止まって見えるというか、うまくいっている時はゾーンに入っている感覚がありますね。
中山:
周りが止まって見えるというのは、実際に視覚的にゆっくり見えているような感覚なのでしょうか?
脇阪:
はい、そんな感覚です。
中山:
その状態に入っている時は、周りの選手との関係性にも変化はありますか?
脇阪:
いてほしいところに味方がいてくれたり、良いタイミングで動き出してくれたりします。そのあたりのコミュニケーションもうまくいっていると感じますね。
中山:
脇阪さんが感じている楽しさは、周囲にも伝わっていくものなのでしょうか?それとも、ご自身の中にある感覚でしょうか?
脇阪:
自分の中にありますね。ただ自分が楽しいと思ってプレーしている感じです。
中山:
勝利や結果が求められ、責任やプレッシャーが大きくなる中でも、脇阪さんが楽しむことを大切にしているのはなぜでしょうか?
脇阪:
楽しくプレーできていたらうまくいくんです。自分がうまくいけばチームのためにもなりますし、もちろん勝利にもつながります。だからこそまずは楽しんで、その先に責任や結果を求めていきたいという感覚ですね。

中山:
まず自分が楽しむことでいいプレーが生まれ、それがチームの結果にもつながっていく。こうした考え方は、いつ頃から持っていたのでしょうか?
脇阪:
昔からですね。楽しくなかったら、ここまでサッカーを続けていないと思います。もちろんプロになってからもうまくいかない時はありますが、やっぱりサッカーが好きなんです。なぜ好きなのかを考えると、結局は楽しいからというところに行き着くんです。自分が楽しみながらいいプレーをできれば、自分を見に来てくれている人たちにも楽しんでもらえると思うので、楽しむということは意識しています。
中山:
自分を楽しむという状態に持っていくために、意識していることは何でしょうか?
脇阪:
試合前であれば、気持ちの持っていき方ですね。試合中にうまくいっていない時は、とにかくボールに関わりながら、うまくいくように、楽しめるように自分の中で改善していきます。
中山:
試合前は、具体的にどのように気持ちをつくっていくのでしょうか?
脇阪:
いいパフォーマンスを出せるように、まずは身体のコンディションを準備します。それから、自分がしたいプレーのイメージを持ったり、逆にうまくいかなかった時には「こうしよう」と想像したりします。試合前はとにかくワクワクした気持ちが常にありますね。
中山:
キャプテンやチームの中心を担うようになると、自分がしたいことよりもしなければいけないことが増えることもあると思います。そのバランスをどのように捉えていますか?
脇阪:
まさにキャプテンをやっていた頃は、こうしなければいけないということに囚われすぎていました。振り返ってみると、楽しめていたわけではありませんでした。もちろん責任を持つことは大事ですが、そこに囚われすぎるのは良くないと思っています。
中山:
その経験があったからこそ、今は楽しむことをより意識するようになったのですね。先ほど、試合前にはうまくいかなかった時にどうするかも想像するとおっしゃっていました。実際に思い描いていたプレーができなくなった時は、どのように自分を立て直していますか?
脇阪:
全部がうまくいくわけではないですし、想像していたプレーができない時ももちろんあります。そうなった時は、自分の場合はまず守備から入ります。一度気持ちをリセットして、そこからもう一回自分を作り直すことを意識しています。
中山:
調子が悪かったり、思うようなプレーができなかったりする試合でも楽しいという感覚は残るのでしょうか?
脇阪:
サッカーにミスはつきものなので、もしできなかったとしても次のプレーでできたら一つ課題をクリアしたような感覚になります。次に成功すれば、そこまでの過程も楽しいものに変わりますね。
中山:
一方で、試合中にうまくいかない時間が続くと、自分のプレーを否定的に捉えて、そこから状態を戻せなくなる選手もいると思います。脇阪さんは、ミスや調子の悪さに引っ張られることはないのでしょうか?
脇阪:
試合は90分あるので、一つのプレーで落ち込むことはあまりないです。もちろん、調子が悪い日もあります。そういう時は、とにかく自分なら走ります。
中山:
常にうまくいくものではないという大前提があるからこそ、過剰に自分を下げることはないのですね。
【Code.2 - EMOTION】自分に期待してピッチへ向かう───不安を上回る、試合への期待
中山:
試合前や試合中に生じる「緊張」や「不安」という感情は、脇阪さんにとってどのような存在ですか?
脇阪:
緊張は特にしませんが、試合前はすごくワクワクします。
中山:
そのワクワクは、何に対して生まれるものなのでしょうか?
脇阪:
たくさんの声援の中でサッカーができることにワクワクします。でも一番大きいのは、今日はどんな自分で、どんなプレーができるのだろうという、自分に期待するワクワクですね。
中山:
今日はどんなプレーができるのかという感覚が、自分への期待になっているのはなぜでしょうか?
脇阪:
今までやってきた自分を信じて、準備しているからです。
中山:
どれだけ準備をしても、もっとできたかもしれないと不安が残る選手もいると思います。それでも脇阪さんが自分に期待できるのは、どうしてなのでしょうか?
脇阪:
昔からあまり緊張はしなくて、試合に出られる喜びやサッカーができる楽しさがありました。一貫して、サッカーが好きという気持ちがありますね。
中山:
普段とは違う環境や大きな舞台に立つ時も、その感覚は変わらないのでしょうか?
脇阪:
そうですね。代表に入った時も、本当に上手い人たちと一緒にサッカーができることや、違う国の選手と対戦できることが楽しかったです。
中山:
緊張やプレッシャーをどうコントロールするかについて、悩むことはなかったのでしょうか?
脇阪:
私は準備が一番だと思っているので、そこはあまりなかったです。緊張しないために、という言い方は少し違いますが、そのためにも準備をしています。

中山:
脇阪さんがする準備には、具体的にどのようなことが含まれていますか?
脇阪:
一番は食事と睡眠ですね。試合前だったら身体に力を入れたり、ほぐしたりしています。試合で100%のパフォーマンスを出せる状態に持っていくという感じです。普通のことかもしれませんが、睡眠は9時間くらい取りたいですし、試合前は炭水化物を摂ってしっかり走れるようにしています。
中山:
そうした身体の準備に加えて、試合でどんなプレーをするかというイメージも事前につくっているのでしょうか?
脇阪:
はい。上手い選手の映像を見ることもありますし、対戦相手の映像も見ます。自分が対峙しそうな選手の特徴も見ていますね。
中山:
対戦相手の映像を見る時は、どのようなところに注目していますか?
脇阪:
攻撃の部分を見ることが多いです。相手の映像を見ながら、どこなら自分が一番ボールを受けられるかを考えます。あとは、相手の穴を見つけながら見ていますね。ただ、上手い人のプレーを見る時は、あまり何も考えていないですね。「上手いな」と思いながら見ています。
中山:
上手い選手のプレーを見ていると、こんなプレーができるかもしれないという自分への期待も膨らんでいくのでしょうか?
脇阪:
そうですね。上手い人の映像を見ていると、試合中に同じようなボールがパッと来た時に、たまにそのプレーを出せることがあります。
【Code.3 - COGNITION】一番生きていると感じる場所───サッカーという自己表現
中山:
脇阪さんにとって、サッカーという競技はどのような「ゲーム」だと捉えていますか? 比喩や感覚的な表現でも構いません。
脇阪:
「自己表現」です。
中山:
そのように表現されたのはなぜでしょうか?
脇阪:
サッカーでお金をいただいていますし、自分が一番輝ける場所がサッカーという競技だと思うからです。普段はひっそりと暮らしています(笑)。
中山:
そうなのですね(笑)。普段の生活と比べて、サッカーをしている時だからこそ出せる自分がいるということでしょうか?
脇阪:
そうですね。普段の生活では、サッカーをしている時ほど感情が揺れることがあまりないんです。一番感情が動くのがサッカーですし、サッカーをしている時が一番生きている感じがします。
中山:
では、ピッチの上ではどんな自分を表現している感覚がありますか?
脇阪:
自分はボールに関わるプレーが好きなので試合の流れを作ったり、自分がここに存在しているということを表現している感覚ですね。
中山:
試合の流れを作るというのは、脇阪さんの中ではどのような感覚なのでしょうか?
脇阪:
支配しているような感覚です。
中山:
支配するという感覚をつくり出す上で、脇阪さんらしさが最も出るのはどのようなプレーでしょうか?
脇阪:
ボールに関わってスルーパスを出したり、チャンスメイクをしたり、自分がボールを持つことでチャンスが生まれると思っています。

中山:
一方で、チームから求められる役割と自分がピッチで表現したいことが、必ずしも一致するとは限らないと思います。その二つは、どのように両立していますか?
脇阪:
チームから求められることはやるのが前提です。それを優先しないと試合にも出られないからです。その前提があった上で、自分を出すということは常に意識しています。自分を出す上で重要なのは、おそらく感情の部分で自信を持ってプレーすることだと思います。
中山:
自分を信じられていない時は、自己表現においてどのような影響が出るのでしょうか?
脇阪:
自信がないと自分も出せないですし、ネガティブなプレーになると思います。
中山:
これまでのキャリアの中で、自己表現をすることの意味が変わった時期はありましたか?
脇阪:
キャプテンをやっていた時は、今以上にチームのことを考えないといけなかったので、自己表現度は低かったと思います。当時は必死にやっていましたが、100%の自分を出し切れていたかと言われるとそうではなかったと思います。
中山:
キャプテンとしてチーム全体を考えることが増える中で、自分自身のプレーに意識を向けづらくなっていたということでしょうか?
脇阪:
そうですね。当時は感じないようにしていましたが、どこかでは感じていたと思います。
【Code.4 - VISION】「まだできる」と言われるまで───自分らしさを楽しみ続ける未来
中山:
この競技を続けていった先に、どのような状態や景色に辿り着いていたいと考えていますか?
脇阪:
個人としては、今まで大きな怪我なくサッカーができていることを幸せに思っています。身体が動く限りサッカーを楽しみたいですし、自分が活躍することでファンの方や家族が喜んでいる顔を少しでも多く見続けたいです。
チームとしては、たくさんのサポーターの方が毎試合、私たちの勝利を願い、時間とお金を使って応援に駆けつけてくれています。その皆さんを笑顔にできるよう、タイトルを取りたいという気持ちが強いです。
中山:
身体が動く限りサッカーを楽しみたいとおっしゃいましたが、言葉の通りできるだけ長く現役を続けたいということでしょうか?
脇阪:
そうですね。やっぱり長くやりたいという思いは強いです。
中山:
競技を長く続けていくために必要なことは何だと思いますか?
脇阪:
若い頃からの積み重ねが大事だと思っているので、食事や睡眠はもちろん、身体のケアも今から意識しています。やっぱり怪我をしていたら長く続けられないので、怪我をしないためのトレーニングやケアはしていますね。
中山:
実際に取り組んできた中で、特に効果を感じているものは何ですか?
脇阪:
プロになるまでは筋トレをしたことがなかったのですが、始めてから本当に大事だと常に感じています。以前に比べて当たり負けすることも減りました。
ケアを本格的に始めたのはここ1、2年です。少しずつ年齢も上がってきて、疲労を感じることもあるのでケアをするようになりました。それによって試合でも動けています。
中山:
筋トレは、具体的にどのように取り入れているのでしょうか?
脇阪:
週に2、3回ほど、上半身の日、下半身の日、パワーの日というように分けてやっています。筋トレをすれば筋肉も強くなりますし、ハムストリングなどの肉離れ系の怪我もしづらくなるので大事だと思っています。
中山:
長く続けたい理由として、ファンの方や家族が喜ぶ顔を見続けたいという思いもありました。応援してくれる人の存在は、脇阪さんがサッカーを続ける上でどのような影響を与えていますか?
脇阪:
応援してくれる人がいるからこそ、もっと楽しめている部分もあります。応援してくれる人がいること自体、本当に幸せなことですし感謝しています。だからこそ、自分が活躍することで周りの人を笑顔にしたいと思っています。
中山:
自分が楽しむことと、見ている人を楽しませることは脇阪さんの中でどのようにつながっているのでしょうか?
脇阪:
私自身、セレッソの男子チームを応援する一人のサポーターです。見ている選手が生き生きとプレーしていたら嬉しくなりますし、勝ったら気分も変わります。セレッソ大阪ヤンマーレディースを応援してくれているサポーターの方も、同じように感じてくれているのではないかと思っています。
中山:
もう一つ、チームとしてはタイトルを取りたいという目標がありました。結果としてタイトルを取ることだけではなく、どのようなチームになってその瞬間を迎えたいですか?
脇阪:
難しい質問ですね。でも、一人ひとりが成長していたらいいなと思います。中学生の頃からずっと一緒にやってきたチームメイトが多いので、一人ひとりが成長してタイトルを取れたら嬉しいですね。

中山:
ここまで、楽しむという言葉を軸にお話を伺ってきました。いつかサッカーを終える時、脇阪さん自身がどのような状態であれば、幸せなサッカー人生だったと思えるでしょうか?
脇阪:
あまり考えたことはなかったのですが、たくさんの人に応援されながら、「まだできるよ」と言われて終われたら幸せだと思います。
中山:
まだできると惜しまれながら終わることに、どのような意味を感じるのでしょうか?
脇阪:
最後まで自分らしさを変えずにいたいのだと思います。「まだできるよ」と言われながら引退できたら幸せですね。
中山:
まだできるという言葉は、脇阪さんのサッカーをもっと見ていたい、まだこの先を見せてほしいという期待でもあるのかもしれませんね。最後まで自分らしくサッカーを楽しみながら、次はどんなプレーを見せてくれるのかと思わせ続ける。そんな脇阪さんのこれからのご活躍がますます楽しみになりました。今日は貴重なお話をありがとうございました!
脇阪:
ありがとうございました!
【After Dialog】
楽しむという言葉には、ともすれば無邪気さや気楽さといった印象が伴う。勝敗を争うプロの世界では、結果や責任とは反対側にあるものとして捉えられることさえある。しかし、脇阪麗奈の話を聞いていると、その関係はむしろ逆なのではないかと思えてくる。結果を求めるから楽しめなくなるのではなく、自分らしく結果を求めるために、楽しめる自分でいる。そこには、何も考えずにサッカーを楽しむという意味での無邪気さはない。自分を信じられるだけのものを積み重ね、うまくいかない自分も受け入れながら、それでも次のプレーに期待する。その姿勢まで含めて、彼女は楽しいと表現しているように感じた。「今日はどんなプレーができるのだろう」。まだ起きていないことを不安に変えるのではなく、自分への期待に変える。その期待がある限り、彼女は表現することを辞めない。「まだできる」と言われながらピッチを去りたいという未来も、その延長線上にあるのだろう。最後まで、自分自身にも次のプレーにも期待し続ける。そのあり方こそが、彼女にとってサッカーを楽しむということなのかもしれない。『Dialog Code』
答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
脇阪 麗奈 (わきさか・れいな)
1999年5月2日生まれ、大阪府出身。
サッカー選手。セレッソ大阪ヤンマーレディース所属。
北大冠FCを経て、セレッソ大阪堺ガールズ、セレッソ大阪堺レディースでプレー。その後、ノジマステラ神奈川相模原、INAC神戸レオネッサを経て、2023年にセレッソ大阪ヤンマーレディースへ復帰した。U-16、U-17、U-19日本女子代表を経験し、日本女子代表にも選出。2023年の杭州アジア大会では日本代表の一員として金メダルを獲得した。現在は所属クラブで背番号10を背負い、中盤でボールに関わりながら攻撃を組み立て、チャンスを生み出す。育成年代から長く過ごしてきたクラブで、中心選手の一人としてピッチに立っている。【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。
JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。

