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Dialog Code

『“引退”を捨てた理由——経験と葛藤から生まれた新しい競技観』福敬登 # Dialog Code

2025/05/16

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。自分自身と向き合い、考え、気づくこと——それが次のステージへ進む鍵になる。『Dialog Code』——アスリートたちの言葉から、その可能性を探るシリーズ。

今回登場するのは、福敬登(プロ野球選手・中日ドラゴンズ所属)。
さあ、彼の思考を紐解いていこう。


目次


1.野球との出会いと喜びの原点

中山(Dialog Partner):
福さんって競技を始めたきっかけって何だったんですか?

福:
野球を始めたのは父の影響ですね。父は草野球をずっとやっていて、子供の頃はよく連れて行かれて父の野球を見ていたのがスタートです。そこから少年団の野球部に入ることになったんですけど、地元がオリックスの本拠地の近くだったので、野球にすごく近い環境でした。自然と友達同士で「入ろうよ」ってなって、野球を始めることになりました。

中山:
そうだったんですね。始めたのは何歳くらいですか?

福:
本格的にやり始めたのは小学校3年生ですね。小学校に入ってからは公園でちょっと遊び程度に野球をしていましたけど、ユニフォームを着てちゃんとやり始めたのはその頃です。

中山:
なるほど。野球をやっていて一番若い頃の嬉しかった出来事って何ですか?

福:
一番嬉しかったのは、神戸市の大会でボールボーイをした時ですね。市の大会に出る上の世代の人たちの試合で、僕たち3年生のCチームがボールボーイを任されました。その時に神戸サブ球場、つまりオリックスの2軍がたまに使っていた球場に初めて入れたんです。ファールボールが出たら審判にボールを渡しに行く役で、僕はそれをニコニコしながらやっていて、先輩たちから「なんであいつそんなニコニコしながらボール渡してるんだ」って気持ち悪がられるくらいでした。でも、その時は本当に幸せで、グラウンドに入れたことが嬉しかったんです。

中山:
そこが嬉しかったんですね。

福:
今でも言われますね。小学校の時から知っている先輩たちには「今思えば草野球で借りれるような球場なのに、あんなにニコニコしてやってたやつが今じゃねぇ」って。小学校の校庭でしかユニフォームを着て野球をやったことがなかったからこそ、グラウンドに入れたのが嬉しかったんです。

中山:
すごくピュアな喜びですね。

福:
そうそう、みんなにいじられてたのを覚えてますね。

中山:
なんだか可愛いなと思いました。逆に、野球で一番若い頃の悔しかった出来事って何ですか?

福:
それも小学校の時ですね。市の大会をかけた区の大会で、2回勝てば市の大会に出場できるという、わりとハードルが低い大会でした。秋と春の大会で準優勝していて、決勝戦は「うちともう一つ強いところの戦いだろう」っていう気持ちがどこかにあって、隣の小学校との試合を軽く見ていたんです。

でも、その試合で負けてしまって。隣の小学校とは顔見知りも多くて、彼らがキャッキャ言いながら喜んでいる中で、僕たちはしょんぼりとしている状態でした。今思えば、勝てるだろうっていう油断、おごりがあったんでしょうね。

中山:
なるほど、それは悔しいですね。何が一番悔しかったんですか?

福:
やっぱり、自分たちが「勝てるはずだ」って思っていたことです。今で言うと、慢心というか。相手も負けじと頑張っていたのに、自分たちが主人公だと思い込んでいた。相手が主人公だったんだと初めに鼻っ端を折られた悔しさが一番強く残っていますね。

中山:
へー、なるほど。じゃあ福投手にとって最初の慢心を折られた出来事ということですね。

福:
そうそうそう。その時はあまりピッチャーをやってなかったんです。3番手だったので。でも「僕がエースだったら」とか「(4番として)僕が打っていれば」とか、そういう“たられば”をひたすら考えて落ち込んでいました。

中山:
結構引きずったんですか?

福:
引きずりましたね。ちょうど夏休みの時期で、学童のプールにみんなで行こうってなっても、楽しめないくらい落ち込んでました。

中山:
相当打ちひしがれたんですね。

福:
そうですね。本当にあの時は負ける悔しさを初めて経験した感じでした。

2.経験という強みとその活かし方

中山:
これまで学生時代を含めて長い間野球をされてきたと思うんですけど、今の自分に一番影響を与えた言葉って何ですか?

福:
普通の公立校で競技をしている中で、高校時代はちょくちょくスカウトが見に来てくれたり大学から話もきたりで、ちょっと天狗になっていたところがありました。周りより少し野球ができるくらいで調子に乗っていたんですよ。

でも、社会人に進んで九州の社会人チームに入った時に、監督から「お前はカエルぞ」って言われたんです。「井の中の蛙という言葉を知っているか?」と。あぐらをかいたままプロに行っていたら数年でクビになっていただろうし、企業を背負っているような責任感も感じてない。全国クラスのレベルを全く理解していなかったことを思い知らされて、ハっとしました。全国クラスで考えれば、下の下だったんだなと。

その時の言葉で、自分の視野の狭さを痛感しました。そこからの5年間、社会人としての生活は本当に地獄のような日々でしたが、それが人生観を全部変えてくれました。今振り返ると、本当にあの経験がなかったらろくでもない大人になっていたと思います。

中山:
かなり大きな転機だったんですね。

福:
はい。あの九州での5年間がなかったら今の自分はないと思いますね。

中山:
今の福さんの競技における強みって何だと思いますか?

福:
僕の強みはやはり経験だと思います。本当にいろんな経験をプロに入ってからさせてもらって、スランプグラフで言うと山あり谷ありの競技生活でした。例えば、肩を壊して育成に回され、新しい政権の指導者たちに教えてもらったことで成果が出て、次の政権でタイトルを取らせてもらったり。その後また難病にかかって「もう野球は終わりだろうな」と思っていたところで再び使っていただいて、上のレベルで投げる機会をもらえたこともありました。

そんな経験は他の選手にはないものだと思うので、自分の強みだと思っています。

中山:
経験が強みということですが、それはどの様に活かされていますか?

福:
本当にちょっとしたことでは動じなくなったというか、若い選手たちと一緒にやっていて「これで悩んでるんだな」と微笑ましく思えることがあります。そういうのを見ると「経験がたまったんだな」と実感できます。上で切羽詰まった場面で投げたり、苦い思いも沢山したので、大抵のことでは動じなくなりましたし、いろんな場面に対応できるようになりました。

中山:
経験があることで、冷静に対処できるということですね。そういった福さんの経験があるからこそ、後輩たちを見て気づくこともあると思うんですが、彼らと話をしたりすることはあるんですか?

福:
話すこともありますね。ただ、最近ある投手会で先輩から「お前は若手に良かれと思って物を言い過ぎだ」と言われました。自分では助けになると思って言っていたことが、逆に押しつけになっている可能性もあるんだなと気づかされました。今は相談に乗ってください、となったら自分の経験を「俺はこうだったと思うよ」というスタンスで伝えるようにしています。

中山:
つまり、気づくこと自体は強みでありつつも、伝え方をどうするかが課題なんですね。

福:
そうですね。今年はそこを目標として取り組んでいます。

中山:
今現在で福さんが一番自分に足りないなって感じる部分って何ですか?

福:
足りない部分は「言っている割にやれていない」というところが正直なところです。例えば、自分なりに知識を得て視野が広がった実感はあるんですけど、それをマウンド上、つまり実戦の場で発揮できているかと言ったら、まだまだできていないと感じます。インプットは沢山できるようになったけど、アウトプットとしての行動が追いついていない。それが自分の弱みだと思っています。正直、まだイライラしてしまうこともあるし、そこをどう解決するかが課題ですね。

中山:
今、その課題とはどう向き合っているんですか?

福:
例えば試合に入った時に心の波をいかに小さくするかを考えています。いわゆる「80%の力を常に出せるようにする」という感覚ですね。集中し過ぎないように意識することも大事です。集中し過ぎると視野が狭くなってしまうし、逆に緩み過ぎても評価が下がることがある。そのバランスをどう取るかを模索しています。

中山:
局面ごとに求められる対応も違うからこそ、アウトプットの仕方も変わっていくんですね。

福:
そうなんです。去年1年で引き出しをある程度作れたと思うので、今年はそれをどう試合で出せるかを課題にしています。例えば、中山さんとの対話の中でもあった、フルアクセルで行くのか、少し抜くのか、その回転数の調整をしながらやっているところです。

中山:
まだ完全に自分のものになっているとは言えないけど、これから精査していくという感じですね。

福:
そうですね。「これだ」というものをもう少し自分の中で確立したいです。

3.追い込まれるほどシンプルになる

中山:
大事な試合やプレーの局面ってあるじゃないですか。その時ってどんなことを考えていますか?

福:
「なるようにしかならん」って思っています。よく準備の大切さが言われますけど、僕の考えでは準備ができたから勝てるというのは後付けだと思うんです。そもそも準備をしていないこと自体が論外であって。僕らピッチャーの場合、ボールを離した瞬間にもう自分のコントロール外になるわけで、自分の役割は終了しています。

だから、バッターがどう打つかとか、打球がどこに飛ぶかとかは自分じゃ左右できないんですよね。そういうことをマウンド上で考えても、必要以上に頭を使ってしまうだけで、それならもっと自分のやるべきことに集中した方がいいと思っています。だからある程度の諦めを持つことも大事だと思いますね。

中山:
なるほど。言葉だけ切り取ると「なるようになる」っていうのは諦めっぽく聞こえますけど、実際はそうではなく、自分ができる範囲と結果として起きること、自分では変えられないことを切り分けているということですよね。自分ができることに集中して、そこに思考を持っていくという。

福:
そうですね。その通りだと思います。

中山:
それこそ、ピッチャーとして2アウト満塁のような局面の時ってどう考えるんですか?やったるぞっていう感じなのか、ちょっとビビったりするのか。

福:
正直、満塁のシチュエーションで「入ったら負け」のさよならの場面とかは、もう隅を狙おうとは思わないですね。一番嫌なのは、あたふたしてフォアボールを出して負けることです。見ている側からすると「何してんねん!」って言いやすい状況ですし。

だから「打たれるなら打たれるべくして打たれよう」というスタンスでやっています。抑えられたらヒーローですけど、打たれたらヒールになる。それが試合の世界です。「今日はどっちだろう?」ってある意味運否天賦の部分もあります。

極限まで追い込まれると「なるようにしかならん」と思っています。変に裏をかこうとかタイミングを外そうとか考えないんです。それはキャッチャーがサインを出してくれるので、自分はそこに全力を出し切るだけに集中する。

中山:
その考え方はプレーにどんな影響を与えていますか?

福:
「こいつ振り切ってるな」って見られることがあるみたいです。あとで抑えた時に言われることがあるんですけど、「あんなやばい状況でよく立ちふるまえてたな」とか「虚勢を張っていたのか?」とか。でも実際はそうじゃなくて、バットに当たった瞬間に自分の仕事じゃない場所に飛んだらもうどうしようもないって割り切っているんですよ。

プロ野球生活で底も深かったからこそ「投げられてるだけでも良い」っていうスタンスがあるんです。

中山:
客観的に聞いてると腹が座っていて、自分のやることをすごくシンプルにしているという感じがします。

福:
追い込まれるほどシンプルにはなると思います。

中山:
「追い込まれるほどシンプル」っていうのは深いですね。

福:
そうですね。結局、本当にシンプルに考えるしかないんですよね。

中山:
なるほど。ところで、選手によっては調子が悪い時にセルフトークが頭の中に出てくることってあるじゃないですか。福さんの場合はどうですか?

福:
僕の場合、マウンド上では正直イライラすることがあります。それが課題でもあるんですけど、例えば4球あるうちに2球はイライラしながら投げて「全然ダメだ、じゃあ落ち着こう」っていう感じです。あるいは「イライラしてるならそのまま乗っちゃえ」みたいな感じで。

試合中は自分の中にもう一人の俯瞰する自分を作り上げて、そいつに「今の状態どうなん?」って客観的に見させるようにしています。ブルペンでストライクが入らないとかもあるんで、その時はわざとイライラしながら投げてみることもあります。「あ、違うな」と気づいたら落ち着けるように呼吸を置いたりして調整します。

中山:
では、ネガティブなセルフトークというよりも、感情的なイライラが大きいんですか?

福:
そうですね。僕はネガティブに「どうしよう、やばいやばい」ってなるよりも、イライラしても争わず「じゃあその逆をやってやろう」っていう天の邪鬼な部分があるんです。

中山:
なるほど。逆に言うと、その「イライラする」というのは何に対してなんでしょう?

福:
自分のボールに対してもそうですし、「自分はこう投げてるつもりなのにいっていない」とか「外角に投げるつもりが引っ掛けてワンバウンドになる」とか、そういう時に「なんでだ?」ってイラっとすることもあります。また、僕たちの競技は審判ありきなので、「今の決まったでしょ?」って思ってもボール判定された時なんかは特にイライラします。

実際、試合後に確認したらボールだったりするんですけど、そういう時って大体イライラしている時なんですよね。気持ちが高ぶってると「絶対入ってるだろ」って思い込みが強くなってしまうんです。

あと、決め球を投げたのにボテボテのヒットで打たれたりすると、「ヒットはヒットだ」と思いつつも「いやいや、今のは取れるだろ」っていう気持ちがどうしても出てしまいます。そんな自分に対してイライラすることもあります。

中山:
自分が望んだものが発揮されていない時の自分へのストレスもあれば、外的要因に対してのイライラもあるんですね。リアルです。でも、それを俯瞰して見るために「わざとイライラしながら投げてみる」っていう方法も取り入れてみたり、冷静にやってみているんですね。

福:
そうです。そういう自分をわざと作り出して、落ち着けるようにするんです。無理にイライラを抑えようとはせず、「今はイライラしたまま投げてみるか」ってやってみる。そして「あ、これは違うな」と思ったら落ち着く方向に切り替えるという感じです。

中山:
冷静になるのって難しい作業だと思いますけど、どうやって冷静にしてるんですか?

福:
無心ですね。「無」です。本当にキャッチャーの構えたところに自分の足を上げて投げるだけ。それでうまくいかなかった時は「もうどうしようもない」と諦めの方にシフトするんです。

そこからはもう「バッターの人、頼みますよ」「後ろの守備の人、お願いします」って他に任せる気持ちに切り替えます。段階としては、思考を簡略化する方向に持っていくようにしています。

中山:
面白いですね。一方で「イライラのまま投げる2球」という話もありましたが、その時って何か考えてるんですか?それとも感情のままですか?

福:
感情のままですね。フォームとか一切気にせず、本当に「オリャ!」って言いながら投げる感じです。声に出しながらも投げ終わりなんてどうでもよくて、ただぶん投げるだけです。

中山:
その方法と冷静に投げる方法、どちらが良い結果を生むことが多いと肌感ではありますか?

福:
振り返ると、「オリャ!」って投げてズバッと決まった時が一番良いですね。「これだ!」ってなって、逆にその瞬間にイライラがスッと消えるんです。その感覚が出た時は、試合中にどんどん感覚が研ぎ澄まされていく感じがあって、結果も良くなることが多いです。

中山:
それがうまく乗っていくトリガーになるんですね。

4.競技以外の時間でも考えてしまう野球のこと

中山:
今プレーの話を聞きましたけど、普段の日常生活で競技以外の時間でも競技のことを考えている時間ってどの程度ありますか?

福:
僕は結構考えるタイプですね。やりたいことが多いので、歴代のレジェンドと言われる人たちの良いピッチングを見て「こういう感じなんだ、やってみたいな」とか「このフォームかっこいいな」「こういう投げ方をしたらバッターって差し込まれるんだな」とかを無意識に見てしまうことが多いです。

特に一人の時間の時はそういうことを考えがちで、プライベートでも野球のことをどうしても考えてしまいます。でも家族がいる時は考えないようにしてます。

中山:
なるほど。考えてしまうという表現がありましたけど、ビジネスパーソンでも「休みたいのに仕事のことを考えちゃう」っていう話はよく聞きます。福さんはこのことをどう思いますか?

福:
あまり良くないことだと思います。2月にメンタル講習会を受けたんですけど、その時に講師の方が「グラウンドを離れたら野球のことは考えないようにしてください」って言っていたんです。結局、考えることって「たられば」じゃないですか。

僕もその話を聞いて「確かにそうだな」と感じました。たらればって、良いことも悪いことも考えてしまうので、どうしても思考に負担がかかってしまうんです。「こうすれば良くなるけど、甘く入ったらまずいよな」とか、正解の範囲が広すぎることに対してストレスを感じてしまう。

中山:
なるほど。では考えないようにするには、どう対処してるんですか?

福:
自分がやりたいことをやるようにしてます。YouTubeを見たり、野球とは全く関係ないことを調べたりとか。僕はドライブが好きなので「ここに行ってみたいな」とか「車をこうやって整備するんだ」「洗車の方法はこうなんだ」みたいなことを見たりして、趣味に時間を使っています。無理やりそっちに意識を向ける感じですね。

中山:
野球に対する良い影響を与えるような学び方、時間の使い方もあるけど、逆に良くない試合をした後に野球のことを引きずってしまうこともあるんですか?

福:
めちゃくちゃ引きずります。そこが自分の一番悪いところで、修正しなければならない点だと思っています。

中山:
どんなことを引きずってしまうんですか?

福:
例えば、打たれた時です。ホームやビジターでの試合だと、喜んでる人とため息をついてる人が両方いるんです。集中砲火を浴びた時なんかは「逆だったらよかったな」と思いますし、自分が抑えていればみんなが喜んでくれたのになぁとか考えてしまいます。

試合で負けてしまった時にロッカーに戻ってくると、チームメイトの中には打って活躍した人もいるし、抑えた人もいる。でも自分のせいで負けた試合だった場合、その人たちに対して若干気まずさを感じるんですよね。自分のせいでチーム全体の雰囲気を悪くしてしまっているんじゃないかって考えたり、コーチから「次大丈夫だよ、次いけるよ」と言われても「次って本当にあるのかな?」って疑問に思ったりしてしまうんです。

中山:
それはなかなか辛いですね。試合の結果によって周りとの関係も変わるというか。

福:
実際に打たれた日の翌日に抹消されることもあるんです。コーチは「次々」って言ってくれるけど、次の日に練習行って「福、ちょっと」って言われたら「もう二軍か…」って考えちゃうんですよね。コーチが「大丈夫、次だよ」って言ってくれたことって、一体何だったんだろうって。

打たれた時に「しょうがない」って割り切って帰っても、ロッカーで他の選手が喜んでる中で自分だけ落ち込んでると、それもそれで違和感があるというか。逆に、打たれたのに平然としてると「何してんねん」って批判されることもある。結局、何をしても非難される時はされるんですよ。

中山:
そうですよね。理想としてはしっかり切り替えて次に向けてやれることがベストだと思いますけど、今はその複雑な感情とか思考とどう向き合っているんですか?

福:
僕は、当日の12時までに悩みを全部出し切るって決めています。つまり、その日だけはしっかり悩む。でも次の日には絶対に引きずらないようにする。

反省する時間に対する成果って、あまり見合わないと思うんですよ。丸一日寝れなかったり、落ち込んで切り替えられなかったりすると、その次にチャンスが来た時に重い状態で戦うことになってしまう。それは本当にもったいない。

だから12時になったら無理やり違う方向に気持ちを持っていって、YouTube見たり動画見たりして切り替えるようにしています。そして寝て、次の日の朝起きたら身体的なアプローチに集中するようにしてます。「昨日投げたからここが張ってるな、じゃあストレッチを多めにしよう」とか、そういうふうに意識を持っていくんです。

中山:
体の方へ意識を向けることで気持ちの切り替えを図るわけですね。

福:
そうです。思考的なことをずっと考えてもキリがないので、極力「前日と同じコンディションを整えよう」と心がけています。

中山:
「反省にかけた時間に対する成果のリターンが見合わない」っていうのは名言ですね。確かにその通りです。

福:
そう思うようになったのは、10年やってきてようやく気づいたことですね。

中山:
思考の変化について聞きたいのですが、昔はこう思ってたけど、今はこう考えているっていうピッチャー論や野球論って何ですか?

福:
そうですね、5、6年前の話ですが、1軍でどんどん投げさせてもらって、1軍の舞台で投げるのが当たり前になっていた時期がありました。その頃は「俺がチームを引っ張っていく」という意識がありました。自分がマウンドに上がっている時間は「自分がチームを背負っている時間だ」と思っていました。

でも、今は年齢も重ねて、1軍と2軍を行き来する状況になりました。そこで気づいたんですが、人間って興味がないことに対してはすぐに忘れるものですよね。

過去の自分は「俺がチームを引っ張ってる」っていう意識が強すぎたんです。周りに対して「自分はこんなに抑えられるピッチャーなんだ、応援してください」っていうアピールを無意識にしていた。でも、それって全然興味のない人に対して無駄なプレゼンをしていただけとも言えると思うんです。

今は「自分のできることを、自分が納得するまでやらないと意味がない」という風に考え方が変わりました。いらないものは背負わないようにして、自分のプレーに集中するようにしています。

中山:
周りを引っ張っていくという意識よりも、自分が納得するまでやるというアプローチに変わったということですね。

5.対話によって変わった思考

中山:
ところで、AthdemyでもDialog Partnerとして僕が福さんと長期間お付き合いさせてもらっているわけですが、プレーやメンタルに影響を与えたセッションや気づきはありますか?

福:
一番印象に残っているのは「学習の5段階」の話と、自分がどう終わりたいかを考えるセッションです。どれくらい花火を打ち上げて終わりたいかって話をした時のことですね。その2点が特に記憶に残っています。

思い返すと「笹の葉のようになりたい」とか「芯はしっかり通るけど、しなやかでありたい」という外在化の話を中山さんとして、それが今は無意識でできるようになっていると感じます。

第三者からの「どう思いますか?」という問いに対して、自分の言葉で発して思考を整理することで、無意識でやらないといけないという意識が焼き付いているんだなと思います。セッションを重ねるごとに勝手にできるようになったというか、学習の5段階を知り、意識せずに無意識化を実践できるようになったんじゃないかと思っています。

中山:
意識的に取り組んでいたのが、まさにあのセッションの期間中でしたよね。うまくいくケースもあれば「こういうところもあるな」っていう課題もありましたが、そこから数ヶ月経って無意識的にできている自分に気づけたんですね。

福:
はい、本当に実感しています。

中山:
対話によって考え方に変化があったこと、と言われるとどんなことが思い浮かびますか?

福:
対人関係の相談もしていたと思いますが、その中で「相手の見方を変えてみる」という視点を学びました。今では「この人はこの様に見ているかもしれない」「この人は今感情で動いている」など、相手の状況を冷静に見ることができるようになりました。

クイックコールを通しての指摘で、新しい考え方を得られたことが大きかったです。まだまだ未熟だとは思いますが、去年と比べると大きな収穫だったと感じています。

中山:
周りの人から「変わったね」みたいなフィードバックはありましたか?

福:
フィードバックと言えるか分かりませんが、例えば外国人選手とコミュニケーションを取ることに対して「なんでそんなに普通に話せるんですか?」と言われることが増えました。以前は英語を話せないことを恥ずかしく思って話しかけなかったんですが、今は知っている単語を駆使して話しかけることができるようになりました。

行動力が増したのか、周りから見ても「すぐ突撃しに行くんやな」という印象を持たれているようです。

中山:
確かに以前は「周りがどう感じているか、考えているか」を気にしすぎていたところがありましたよね。でも今はそれがうまく切り替えられているんですね。

福:
相手の機嫌なんて目に見えるものじゃないし、自分に向けられた怒りでなければ気にしないようになりました。今では「イライラしてるなら、僕に当てつけしないでください」って言えるくらい実践する力はついたと思います。

中山:
自分と他人を良い意味で切れる様になったんですね。その変化が起こったことで、良い変化としてはどんなものがありますか?

福:
それこそ外国人選手と話すことが増えて、文化の違いや考え方の違いに気づけるようになったことですね。アメリカ人の野球観や、キューバの選手が「ご飯が配給だから生きるためにガツガツやる」「人のことを考えている暇はない」というバックボーンを持っていることを知って、自分の中で足りなかったと思うような新しい視点がどんどん増えていきました。

自分の中で「自分はこう思うんだけど、どう?」と気軽に聞けるようになったし、後輩にも「これどう思う?」って尋ねられるようになりました。以前は後輩に意見を聞くのが苦手でしたが、今では少しずつコミュニケーションの取り方も工夫するようになっています。

中山:
なるほど。外部と対話する価値を感じたからこそ自分が他者と会話する機会も増えたし話を聞きに行ける様にもなったんですね。さらに、コミュニケーションの取り方も工夫を入れるようになったと。

福:
そうですね。どうやったら相手が気を使わずに本音を言えるかという点も意識するようになりました。例えば、「これについてどう思う?」って聞くのではなく、「これについてどう思う?良いですね以外の言葉で教えて」など、工夫してフィードバックがもらえるように関わる様にしています。

6.引退についての考え方の変化

中山:
最後に未来について聞いていきたいんですけど、競技人生を終えた時にどういう選手だったと思われたいですか?

福:
前までは「ドカンという花火を打ち上げて終わりたい」と思ってたんですけど、今は思考が変化していて「引退っていらないな」って思ってるんですよ。

セッションを通して思考がちょくちょく揺れ動いていたんですが、今は「託す」という考えに至りました。僕の理想は「あの時の中日って、誰々がいて、コアのやつが福ってやついたよね」って言われるくらいの存在になることです。

前時代の山井さんとか岩瀬さん、浅尾さんといったスーパースターの名前が出てくるけど、「あの時の中継ぎに福っていたよね、あれ渋かったよね」って言われる存在でいたい。

つまり、競技人生を盛大に終えますとか「お疲れさまでした、ありがとうございました!」みたいなことはあまり求めていないんです。自分がやりたくなったらまたやればいいんじゃないかっていうくらいの感覚です。

例えば、独立してやるとか、クラブチームとか草野球とか、そういう形で野球を続けるのも選択肢としてあると思うんです。引退試合をして草野球をやるっていうのはあまり自分の中ではないんで。

NPBでのプレーは終わったけど「あ、こいつまだ野球やってんだ」ぐらいがちょうどいいんじゃないかなって。

中山:
終わった時に、福って選手がいたなあ、って思われるくらいが良いと考えているんですね。

福:
そうです。何でも終わった時って美化されると思ってるんで、「福っていう渋い選手がいたな」くらいで終わるのが僕の中では一番心地がいいんです。名前を聞いて「ん? そういやあの選手いたな」って思い出されるくらいでいいんですよ。

中山:
ここまでの一連の話は『引退のない世界をつくる』(Athdemyのビジョン)ということとすごく連動しているなって思いますね。

福:
はい、本当に今回1年間セッションしていて、そこはすごく感化されていると思います。

7.これからのキャリアと新たな挑戦

中山:
では最後に、今後の福さんのキャリアとしてどう考えているかを聞かせてください。競技なのか、それとも競技の枠を超えて目指すものがあるのか?

福:
僕は贅沢な生活をしたいとも思ってないんです。夫婦共働きで2馬力で働きたいと妻も言ってるし、そこまでお金に固執する生活はしなくていいと思っています。

今までの10年間、そして去年のセッションを通して得た知識を普及させたいという思いが強いんです。狭い世界で生きてきた自分が、その中で「これが正解だ」と思い込んでいたことが、広い世界で見ると必ずしも正解じゃなかったりする。

だから、それを気づかせられるような人になりたいと思っています。野球教室を全国に行ってもやりたいし、過疎化した場所で「野球ってこんなに楽しいんだよ」って教えたいし。

どんなタイミングからでも人の思考って変えられると思うんです。例えばですが、鬼軍曹みたいなチームに行ってセッションを重ねて、少しずつその人が変わっていくというのをサポートできたら面白いなって思います。

中山:
いやもう、ぜひDialog Partnerやってくださいよ。

福:
全然やりますよ、競技引退したら仕事ください(笑)

中山:
ぜひぜひ。今ちょっと聞きたくなったんですけど、「お前はカエルぞ」って言われたじゃないですか。今の福さんを動物で例えると何ですかね?

福:
今は本当にトンビだと思います。カエルからトンビになったって感じです。

中山:
トンビですか?

福:
はい。なんか近くをくるくる飛んでいる感じで、タカほど怖くない存在じゃないですか? ヒナの時はわからなくても、成長したら街中の上の方で飛び回っている。別に何かをガサガサ取りに行くわけでもなく。

自分もふわふわしている人間なんで、知識を広げたり、いろんな視点を得るために漂いながら自分の道を模索している感じです。

中山:
視野が広くなったっていう見方もあるし、いろんなことを探してかじりに行ってるっていう姿が想像できますね。

福:
そうですね。多分空を飛んでいる存在っていうのが自分のイメージなんだと思います。

中山:
カエルからトンビになったというインタビューですね。すごく面白かったです。今回はありがとうございました。


答えは、すぐには見つからないかもしれない。
それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。

思考を解き明かす対話は続く。
『Dialog Code』——次は、誰の思考に触れようか。


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