Dialog Code
『野生を正しく扱う──自分を知り、結果につなげるための冷静さ』 #牛山恭太 Dialog Code
2026/9/2

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」
『Dialog Code』
強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。
今回登場するのは、
牛山恭太(パワーリフター・アイアンジム所属)
【Before Dialog】
パワーリフティングは、極めて明快な競技だ。スクワット、ベンチプレス、デッドリフト。3種目9試技の先に残るのは挙上重量という数字であるが、そこにたどり着くまでの判断は決して単純ではない。どの重量を設定し、どこで余力を残し、どこで勝負をかけるのか。自分の感覚をどこまで信じ、セコンドの客観的な視点を取り入れるのか。失敗への不安や緊張が生まれたとき、意識をどこに向けるのか。牛山恭太は、自らを守りに入るより攻めるタイプだと話す。一方で、競技を続けるなかで身につけてきたのは、ただ攻め続けることではなかった。第一・第二試技では余力を残し、第三試技で野性味をむき出しにする。記録が伸びない時間には、数字の外側にある小さな変化を拾い続ける。かつてはさまざまなスポーツに取り組みながら、納得できる結果を残せずに抱えた不完全燃焼。その感覚は、現在も自分自身に満足するための挑戦へと彼を駆り立てている。数字で明確に結果が示される競技で、なぜ数字だけを見ないのか。攻めることを好む選手が、なぜ余力を残すのか。さあ、彼の思考を紐解いていこう。
【Code.1 - STATE】第三試技に懸ける───余力を残し、野生味を解放する
中山:
大会中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、もしくは短い文章で表すとしたら、どのような言葉になりますか?
牛山:
過去の経験を生かせている状態です。
中山:
具体的にどのような状態なのでしょうか?
牛山:
パワーリフティングには重量申請というものがあります。スクワット、ベンチプレス、デッドリフトの三種目の合計挙上重量で競うのですが、各種目に第一試技、第二試技、第三試技の3回があるため全部で九試技あるんです。その中で、第一試技から重量を攻めすぎないことが第三試技で自己新記録を出すために重要です。第一試技から攻めすぎてしまうと、その後に重量を下げることはできないので最初からリスクを取ることになるんです。
さらに、第一、第二試技で粘ってパワーを使いすぎてしまうと、最後の第三試技が上がらなくなってしまいます。第三試技でしっかり記録を残すために、第一、第二試技をどう進めるかが重要です。
そのためには、過去の経験がかなり生きています。例えばスクワットの場合、深さという判定項目があるのですが、第一試技で攻めすぎると深さが少し浅くなって赤判定が出てしまうことがあります。そこで第二試技は深くしゃがむことを意識するのですが、今度はそれを意識しすぎることですごく重く感じてしまうんです。なんとか粘って成功させても、そこで力を使い切ってしまって第三試技が上がらないパターンも経験しています。だからこそ、過去の経験を踏まえて次の大会ではどうすればいいのかと考えるようになりました。
中山:
そうした経験の蓄積は、普段の練習の中ではどのように活かされているのでしょうか?
牛山:
意識していたポイントはどこなのかを次の練習でもしっかり感じることですね。 その結果、自分の良い動きが無意識の中で自然と出るような状態にしたいからです。
逆にうまくいかなかった日は、なぜうまくいかなかったのかを自己分析して、自分なりに仮説を立てます。それを実際に試して、うまくいったら継続していく。そうやって自分の経験として蓄積していきます。これらができている時に、過去の経験を生かせているという感覚になるのだと思います。
中山:
そうした日々の試行錯誤の一つひとつを自分の中に蓄積しており、大会においては重量申請をどのように設定するかが重要な鍵になるのですね。
牛山:
そうですね。自分の試技を確実に成立させる上で重要です。
中山:
目指す記録がある一方で、実際の大会ではその日のコンディションやウォーミングアップの感触を見ながら申請する重量を調整していくと思います。実際にはどの程度そうした調整をするのでしょうか?
牛山:
かなり調整しますね。目指したい記録には、その数字自体に自分の期待も含まれているため、実際の大会でそのまま実現できるとは限らないと思っておいた方がいいです。ただ、高い目標を持つことは非常に大事で、それがあるからこそ質とモチベーションの高い練習を積むことができます。
だからこそ、実際の大会ではあえてその期待を優先しすぎないようにして、客観的な意見を取り入れます。パワーリフティングにも、ボクシングと同様にセコンドと呼ばれる存在がおり、一人つけることができます。ウォーミングアップの段階から見てもらい、普段と比べて調子がどうかを客観的に評価してもらったうえで、予定していた重量より下げるか、普段通りいくか、あるいは上げるかを判断します。自分の主観的な感覚と客観的な評価を照らし合わせながら進めていくことが、非常に大切だと思います。

中山:
こうした考え方に至った背景には、どのような経験があるのでしょうか?
牛山:
まず一つは、競技を始めて2大会目に失格してしまった経験があります。当時はセコンドをつけず、自分一人で重量を決めて申請していました。第一試技から攻めすぎて深さの判定で失敗し、第二試技も同様にうまくいかず、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトの順で行うこの競技において、最初のスクワットの三試技すべてを成功させることができませんでした。結果として記録なしという形で終わってしまったという経験が大きく影響しています。
もう一つは、性格的に守りに入るよりどうしても攻めてしまう傾向があることです。攻めた結果うまくいかず、記録自体は残せても自分が狙っていた結果には届かないことがありました。最後のデッドリフトで記録を出せば、自分が狙う記録に届くという状態まで持っていきたいので、スクワットとベンチプレスでは少し余力を残すくらいがちょうど良いと、その失敗から考えるようになりました。そのためには、主観的な判断だけでなく客観的な意見をしっかり取り入れたほうが成功率が上がると、大会を重ねる中で実感してきました。
中山:
特にパワーリフティングにおいては、野性味やその瞬間の攻める気持ちが、重量を上げる際の力になることがあると思います。設定や戦略の面では冷静さや客観性が求められる一方で、攻めたい性格というものは競技の中でどのような影響を与えているのでしょうか?
牛山:
やはり第三試技において、攻める気持ちがあることが良い結果につながります。第一、第二試技で余力を残しているからこそ、第三試技では野性味をむき出しにして「絶対に上げる」という強い気持ちで臨むことができます。過去に上げたことのない重量であっても、攻めの姿勢を持つことで、自分は第三試技の一発に強いのだと自分自身を洗脳するというか、成功のイメージだけを持って挑むことができます。
一方で、第三試技で思い切って勝負するためには、そこまでの準備を冷静に進めなければいけません。攻める場面と保守的になる場面を使い分けることがこの競技では非常に大切だと思います。
中山:
面白いですね。第一、第二試技で余力を残し第三試技で勝負するというやり方が牛山さんには合っていますが、他に異なるスタイルで臨む選手もいるのでしょうか?
牛山:
いろんな選手がいますね。目立つのは、三本とも保守的で自己ベストの更新にこだわらず、確実に上げられる重量を揃えるタイプです。自分としてはそれではもったいなく感じてしまうので、失敗するリスクがあったとしても力を出し切って終えたいタイプです。この競技を10年続けていますが、九本すべてを成功させたことはいまだになく、どこかで一本は落としてしまいます。
一方で、九本すべてを成功させる大会の方が多いという選手もおり、そこに違いが表れると感じています。逆に、自分よりもさらに攻める姿勢で第二試技でPR(自己最高記録)を狙いに行くような選手もたまにいますが、トップクラスの選手になるほどそうした例は少なくなる印象です。第二試技まではしっかり揃えて、第三試技で勝負をかけるというスタイルが多いように思います。確実に三本揃えるタイプか第三試技で勝負するタイプか、トップになればなるほどこの二つのスタイルに分かれていく印象がありますね。
中山:
牛山さんは第一、第二試技で余力を残しながら、第三試技で野性味と攻めの姿勢を発揮するというスタイルなのですね。そうした選択の背景を知ると、競技の見え方がまったく変わります。
【Code.2 - EMOTION】失敗した後の未来──────目の前のバーベルに意識を戻す
中山:
大会前や大会中に生じる「緊張」や「不安」という感情は、牛山さんにとってどのような存在ですか?
牛山:
十分な準備をしていても感じてしまう、仕方がないものです。ただ、自信を持てるだけの準備ができていれば、不安や緊張と戦うことができると思います。
中山:
準備を十分にしていても不安や緊張が出てくるのは、なぜだと考えますか?
牛山:
自分は昔から、不安や緊張をすごく感じやすいタイプです。自分のやるべきことをやりきって、もうこれ以上やることはないという状態になれば不安や緊張はなくなるとよく言われてきました。なので、自分が不安や緊張を感じるのは単純に準備が足りないだけだと思っていました。
また、小中学生の頃は違う競技をやっていたので、パワーリフティングを続け、ある程度高いレベルでできるようになってもやはり不安や緊張はどうしてもありました。そのため、準備次第でどうにかなるものではないのだと、なんとなく思うようになったんです。
失敗したらどうしようという考えは今でもよぎりますが、昔と絶対的に違うのは多くの経験を積んできたことで、不安や緊張とうまく付き合えるようになったことです。それすらも記録を出すための大事なものであり、大会などの緊張する瞬間に臨めるようになりました。だからこそ、自分にとって準備とは不安や緊張をなくすためではなく、そうしたストレスと戦える状態に持っていくためのものだというイメージがあります。
中山:
不安や緊張はどうにかできるものでもないからこそ、経験を重ねるなかで向き合い方を身につけてきたのですね。
牛山:
そうですね。あとは、ストレスがかかる舞台に立ち続けることも大事だと思います。練習では大会特有の緊張感はどうしても再現しきれない部分があるので、そこはやはり場数で、その舞台に立ち続けるということが大事だと思います。

中山:
牛山さんの場合、緊張や不安はどのようなことから生まれるのでしょうか?
牛山:
自分の場合は、失敗したときに自分がやってきたことが実らなかったと思ったり、応援してくれた人がどう思うのかという他人からの見え方や、自分自身が後でどう思うかといったことをつい考えてしまうんです。考えすぎてしまうがゆえに、不安や緊張を感じてしまうというイメージですね。
中山:
過去の積み上げが自信になり、次のパフォーマンスにつながる一方で、その積み上げが結果として実らないかもしれないという恐怖心や、他人からどう評価されるかといった不安など、いくつかの種類がありそうですね。そうしたものとうまく付き合うために意識していることは何でしょうか?
牛山:
まず、不安や緊張は自分が今まで本気で取り組んできたからこそ、生まれるものだと思うようにしています。失敗したらどうしようという考えがよぎることもありますが、それは思考が失敗した後の未来に向かっている証拠なので、意識を今この瞬間に引き戻すようにしています。目の前にあるバーベルに対して最高のパフォーマンスを出す、その競技動作に集中することが、今に集中することなのではないかと思います。
中山:
先のことに向きがちな意識を今に引き戻すことによって、どのような変化や影響があると感じますか?
牛山:
その瞬間に意識を向けることを習慣にしていると集中できるので、良いパフォーマンスにつながると思います。もしそれで失敗してしまったら、また未来への不安がよぎるような思考に戻ってしまうこともあります。ただ、それは仕方のないことだと思うので、次のアクションでまた同じように意識を戻すことの繰り返しだと思います。
中山:
パワーリフティングは、味方や相手の動きや調子に左右される対人競技と比べて外的な要素が少なく、自分が積み上げてきたものを当日どれだけ発揮できるかという側面が大きいように思います。そうした競技特性は、自信の持ち方にも影響しているのでしょうか?
牛山:
昔自分は野球をやっていたのですが、例えば相手ピッチャーの調子が分からないなど、外的要因が多い競技だと思います。だからこそ、どれだけやっても不安が残るんです。自分の競技力が単純に低かったということもあると思いますが、やってきたことが必ず結果に出るとは思えないところがありました。
一方で、パワーリフティングは基本的に条件が一定なんです。床の感覚や会場の広さなど細かな違いはあるかもしれませんが、サッカーのような競技に比べればその差はとても小さいです。同じ条件でできるという、競技性そのものから来る自信は間違いなくあると思います。陸上競技もそういう側面が強いと思いますが、パワーリフティングも同じで、自分がやってきたことが忠実に結果へ表れやすいです。そうした競技性が、自分は好きなのかもしれません。
【Code.3 - COGNITION】成長率という座標───数字にならない成長を見逃さない
中山:
牛山さんにとって、パワーリフティングという競技はどのような「ゲーム」だと捉えていますか?
牛山:
自分の成長率を、挙上重量という記録で表せていけるわかりやすいゲームです。その中には、大会や普段の練習のPR更新というイベントもあります。
中山:
パワーリフティングを、自分の成長を記録で表せるゲームだと感じるのは、どのような理由があるのでしょうか?
牛山:
決められたルールの中で挙上重量が伸びれば、自分の競技力が上がっているという絶対的な指標になるんです。数字として明確に分かりますし、自分がレベルアップしていることがわかりやすいんです。
中山:
数字が伸びることは、牛山さんにとって日々の取り組みをどのように評価するものなのでしょうか?
牛山:
自分が普段やってきたことが、正しかったのか、正しくなかったのかを測れるイベントなんです。仮説を立てて実行していくのですが、それが良かったのか悪かったのかを判断しやすいですね。
中山:
なるほど。一方で、こうした記録の競技ではなかなか日々の積み重ねが数字に出ないという期間があると思います。自分の変化や成長が見えにくい時期をどう捉えているのでしょうか?
牛山:
そういう時期は絶対に来ると思います。最終的には記録を伸ばすことがゴールですが、記録にはさまざまな要素が関わっているので、それらの要素が伸びているかどうかに目を向けることが非常に大事だと思います。
例えば、以前は苦手だった動きができるようになったり、股関節をうまく使えなかった人が適切な競技動作を身につけたり、あるいはベンチプレスで安定しなかったボトムポジションが、肩甲骨の使い方を改善することによって安定するようになったりすることがあります。こうしたことは、人によって記録に直結する場合とそうでない場合がありますが、長い目で見れば動きの成長は記録以上に大事だと思います。
自分の動きの引き出しや筋肉量など、記録以外の伸ばすべき要素が伸びているかどうかに目を向けてあげることで、その時点では記録が伸びていなくても長い目で見たときに、積み上げてきたものがぐっと記録に反映されてくる時があります。常に右肩上がりというわけではなく、停滞している時期にもそうした要素を伸ばせているかどうかに目を向けることが大切だと思います。
中山:
記録というわかりやすい結果だけでなく、それを構成する一つひとつの要素が伸びているのかにも目を向けているのですね。
牛山:
そうだと思います。
中山:
とても客観的な考え方だと感じました。こうした考え方をするようになったのは、どのような経験からなのでしょうか?
牛山:
単純に、パワーリフティングをやっていて記録が伸びない期間がどうしてもあったんです。ビッグスリー(スクワット・ベンチプレス・デッドリフト)の重量が伸びていなくても、それらを伸ばすための補助種目にも取り組んでいます。そうした種目のどれかは必ず伸びているので、自分が成長しているという実感は持てていました。
ほかに、ピラティスにも取り組んでいるのですが、これは動きの引き出しを増やすうえで有効なものだと思います。動きの引き出しを増やしていく中で苦手な動きができるようになったという積み重ねがあると、記録自体はその時点で停滞していても絶対に未来につながるという感覚を持って、日々競技に打ち込むことができていました。
それが実った瞬間がいくつもあったので、記録だけではない、見えないところの積み重ねが非常に大事だと感じています。もちろん、それが最終的に記録につながるかどうかはしっかり見続けなければいけません。ただ、自分の繊細な感覚や、他の種目の重量の変化にも目を向けながら養っていくことで成長を実感してきました。それが何年かかるのかはわかりませんが、そうした積み重ねが後になって記録に反映されてきたという経験があるので、こういう考え方を持つことができたのだと思います。

中山:
結果が出ない時にも自分を信じるという言葉がありますが、牛山さんは成長を感じられる要素をご自身できちんと理解していて、客観的な数字と自分自身の感覚の両方を持っているのが、とても面白いと感じました。
もう一つ、「大会や普段の練習でのPR更新というイベントもある」とおっしゃっていました。この普段の練習や大会でのPR更新というのは牛山さんにとってどのようなイベントなのでしょうか?
牛山:
それが何か特別な意味を持つわけではなく、単純に自分自身が自分に満足できるかどうかの瞬間なんですよね。マックス更新を毎日の練習でやるわけではないですし、調子がいいからやってみるというものではなくて、ピークをつくって「ここでやる」と決めた日に挑むという感じなんです。
そこに向けて積み上げてきたものの答え合わせをして、うまくいっていれば自分自身にすごく満足できます。自分自身に満足できれば人生はすごく幸せになると思っています。それを、重量という一部分において感じられる瞬間なんです。
中山:
パワーリフティングで結果を出すためには、身体的な素質だけでなく、継続する力や自分自身を理解する力など、さまざまな要素が必要だと思います。牛山さんが一つ挙げるとすれば、最も重要な能力は何でしょうか?
牛山:
いくつかの要素が混ざってしまうかもしれませんが、決めた目標に対して熱さと冷静さを持ち合わせて、日々やるべきことを淡々と遂行できる能力ですね。
中山:
なるほど。その一言に、ここまで伺ってきた牛山さんの考え方が集約されているように感じます。熱さを持ちながらも、それを発揮する場面を見極め、普段は冷静にやるべきことを積み重ねていく。一つの要素だけでは表せない力ですね。
【Code.4 - VISION】不完全燃焼が駆り立てる───自分自身に満足するまで
中山:
この競技を続けていった先に、どのような状態や景色に辿り着いていたいと考えていますか?
牛山:
自分自身に満足出来たらいいと思っています。ずっと自分に満足ができない人生で悔しい思いをしてきたので、挑戦し続けて少しでもそれに近づければ嬉しいです。
中山:
ずっと自分に満足できない人生というのは、どのような経験から生まれたのでしょうか?
牛山:
単純に、スポーツの結果があまり振るわなかったことが大きいと思います。小中高では野球をやっていて、小中では器械体操にも取り組んでいました。地元が十勝でスピードスケートが盛んな地域だったので、小学校の頃はスピードスケートもやっていましたね。いろいろやりすぎていた面もあると思うのですが、思ったよりうまくいかなかったんです。スポーツで上を目指したいという思いはずっとありましたが、高校までどこか不完全燃焼だったという感覚が自分の中に強くあったんです。
このまま社会人になって仕事だけをやっていく人生では、心残りが強くなるだろうと感じて、いろいろ探していた中で出会ったのがパワーリフティングでした。それがあったからこそ、今もこうして挑戦し続けられているのだと思います。
中山:
スポーツが好きで上を目指したいという思いがある中で、さまざまな競技に取り組みながらも、自分の中で納得のいく結果が得られなかったという不満足感のようなものが土台にあるのですね。
牛山:
はい。それが自分を駆り立てていると思います。
中山:
自分に満足できたらいいとおっしゃる牛山さんにあえて伺いたいのですが、今の牛山さんにとって自分に満足できるとはどのような状態でしょうか?
牛山:
満足できる状態というのは、世界チャンピオンのような肩書きも一つのわかりやすい形だと思いますが、日々やるべきことを淡々とやり続けた先にあるものだと思っています。肩書きで言えば、74kg級でトータル800kgを挙げたり、世界一になるといった目標が思い浮かびます。もっと漠然とした言い方をすれば、やるべきことをやり続けたその先にあるものという感じですね。
中山:
明確な目標はありつつも、やるべきことをやり続けた先にそれが結果として手に入るという考えなのですね。
牛山:
はい。そう思ってやっています。
中山:
そうすると、牛山さんにとって挑戦し続けることは自分に満足するための手段とも言えるのでしょうか?
牛山:
そうかもしれないですね。その上で、満足したいというカテゴリー自体がたくさんあると思っていて、そのカテゴリーはおそらく無限に湧いてくるものだと思うんです。例えば、レジェンドステージでなくなったら、また別のカテゴリーで満足したいという欲が湧いてくるように終わりはないと思います。まさにそれこそが挑戦であり、そのカテゴリーごとに満足を求めていくということなのかもしれません。

中山:
世界一という結果だけではなく自分がやるべきことをやり切ったという実感もあって初めて、心から自分を認めることができるのですね。一方で、アスリートの中には結果に納得して引退していく選手もいると思いますが、牛山さんはいかがでしょうか?
牛山:
本当に、いま中山さんがおっしゃった通りだと思います。
中山:
では、世界一やトータル800kgなどの目標は、憧れではなく現実的に掴みにいくゴールなのですね。
牛山:
そうですね。タイトルだけを取れても、そこに至るまでの行いや取り組みに自分が満足できていなければ、「やっぱり俺はできるな」と思ってしまうでしょうし、その逆も然りだと思います。
中山:
面白いですね。74kg級でトータル800kgを達成したとしても、また次の目標を設定していくのでしょうか?
牛山:
上げるかもしれないですね。 達成したら、また次が見えてくると思います。
中山:
そう考えると、本当に終わりがないですね。記録やタイトルだけを追いかけるというより、やるべきことを積み重ねた先に結果があるという考え方なのですね。
牛山:
そうなのだと思います。
中山:
パワーリフティングは、外から見ると重いものを持ち上げるというシンプルな競技に映るかもしれませんが、実際には試技の組み立てや準備、感情との向き合い方まで、緻密な判断が積み重なっていることがわかりました。これからも、牛山さんがやるべきことを積み重ねた先で、自分自身に満足できる瞬間を掴まれることを願っています。今日は貴重なお話をありがとうございました!
牛山:
ありがとうございました!
【After Dialog】
決めた目標に対して熱さも冷静さを持ち合わせて、日々やるべきことを淡々と遂行できる能力。パワーリフティングで結果を出すために必要な力を問われた牛山恭太は、そう答えた。熱さと冷静さ。一見すると相反する二つは、彼の競技観の中では切り離されていない。第一・第二試技では、その日の状態を見極め、セコンドの意見も取り入れながら余力を残す。そして第三試技では、「絶対に上げる」という野性味を解放する。不安や緊張を完全になくそうとするのではなく、目の前のバーベルへ意識を戻す。記録が停滞していても、動きや補助種目といった数字になりきらない変化を拾い、未来の記録につながる可能性を積み重ねていく。彼が語る冷静さは、攻める気持ちを抑えるためのものではない。攻めるべき瞬間に、最大限攻めるための冷静さなのだろう。そして、その積み重ねの先に求めているのが自分自身への満足だ。世界一になる。目標の重量を挙げる。明確なゴールを持ちながらも、一つを達成すれば、また別の満足したいカテゴリーが生まれるという。だから、彼にとって挑戦には明確な終点がない。過去の経験を分析し、仮説を立て、目の前の一本に集中する。結果が出なければ、その中にある成長を探し、また次の試技へ向かう。熱さを失わず、冷静に積み重ねる。その繰り返しこそが、いつか自分自身に満足するための彼なりの挑戦なのかもしれない。『Dialog Code』
答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
牛山 恭太(うしやま・きょうた)
1997年8月10日生まれ、北海道出身。
パワーリフター。アイアンジム所属。
男子66kg級を主戦場とし、スクワット・ベンチプレス・デッドリフトの3種目で競うクラシックパワーリフティングの日本トップ選手として活躍している。幼少期から野球、器械体操、スピードスケートなど複数の競技を経験した。2022年、2023年の世界選手権66kg級で3位。2023年、2024年には世界のトップ選手が集う「Sheffield Powerlifting Championships」にアジア代表として出場した。2024年12月のアジアクラシックパワーリフティング選手権では、スクワット247.5kg、ベンチプレス177.5kg、デッドリフト300kgのトータル725kgを記録。当時、クラシックのオープンカテゴリーにおける日本人初のトータル世界記録を樹立した。2025年8月には、中国・成都で開催されたワールドゲームズに日本代表として出場。クラシック男子ライト級でトータル717.5kgを記録し、銀メダルを獲得している。競技活動と並行して、YouTubeチャンネル「パワーチューブ」でパワーリフティングやトレーニングについて発信するなど、競技普及にも取り組んでいる。【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。
JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。

