Dialog Code
『自分を信じて、まだ知らない自分へ──変化の中で力を発揮する内なる軸』 #黒川圭介 Dialog Code
2026/8/26

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」
『Dialog Code』
強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。
今回登場するのは、
黒川 圭介(サッカー選手・D.C.ユナイテッド所属)
【Before Dialog】
2025年までガンバ大阪で7シーズンを過ごし、Jリーグの舞台でキャリアを積み重ねてきた黒川圭介。2025年12月31日、そのキャリアに一つの大きな転機が訪れた。海を渡り、MLS(メジャーリーグサッカー)のD.C.ユナイテッドへ完全移籍。長く身を置いた日本を離れ、初めての海外挑戦を選んだ。国が変われば、サッカーを取り巻く環境も大きく変わる。プレースタイルや試合のテンポはもちろん、スタジアムの空気、文化、日々の生活まで、これまで当たり前だったものが当たり前ではなくなる。そんな新たな環境に身を置く今、彼は自身のプレーやキャリアをどのように捉えているのだろうか。そして、プロとして経験を重ねた今その先にどのような景色を見据えているのか。積み重ねてきたものを携えながら未知の環境へ踏み出したその現在地と、変化の中でも変わらない内側にあるものとは。さあ、彼の思考を紐解いていこう。
【Code.1 - STATE】最高のプレーを引き出す平常心───環境に飲まれず、熱量は力に変える
中山:
試合中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、もしくは短い文章で表すとしたら、どのような言葉になりますか?
黒川:
「平常心」です。
中山:
なぜ、そのように表現されるのでしょうか?
黒川:
毎試合、対戦相手やスタジアムが変わりいろんな外的要因がありますが、自分の中で心地よい感覚や感情でいられる状態の時は、いつもより周りが見えるんです。考えるスピードも速くなりどんどんいい循環が生まれていくので、それが良いプレーにつながる感覚がありますね。
中山:
外的なものに意識や気持ちを持っていかれるのではなく、自分自身の感覚に意識を向けられている状態なのですね。
黒川:
そうですね。自分の中で「今、この状態いいな」と思える感覚があります。平常心と言いつつも程よい緊張感はありますが、しっかりプレーできている感覚です。
中山:
良い状態だと感じるのは、どのタイミングで分かるのでしょうか?
黒川:
様々ですね。例えば、アップ中に感じることがあります。毎回同じ状況ではなく、スタジアムやその時の環境によって集中がしにくいこともあります。ふわっとまではいかないですが、自分の中でも普段より試合に入りきれていないのを感じることが多いです。
そういう時は、その場で瞬時に変えようとするというより、自分がそういう状態だということを分かっていれば、一度ロッカーに戻ってからこの状態ではダメだなと考えます。そこで、もう一度自分の中で試合に向かう気持ちを作ったり、自分が今どういう状態なのかを確認しながら試合に向かうようにしています。
中山:
試合に入りきれていない状態の時は、気持ちがふわふわしていることもあれば、そこから身体が浮ついているように感じることもあるのでしょうか?
黒川:
いろんな状況がありますね。例えば、身体が重いと感じると、思考も止まってなかなかプレーが追いつかないことがあります。なので、そういう変化をいち早く自分の中で感じるようにしています。状態の戻し方や、今の自分ができるプレーを認識しながら、その時の自分にとっての平常心に戻していく作業をしていますね。
中山:
例えば、アップの段階で違和感を感じて気持ちを整える時には、どのような言葉を自分にかけたり、考えたりするのでしょうか?
黒川:
毎試合しっかりパフォーマンスを出したい、いいプレーをしたい、チームの勝利に貢献したいという思いは、根本的に自分の中にあるんです。その思いを引き出すような感じですね。
中山:
一度頭の中で改めて何かを整理するというより、意識を戻していくのでしょうか?
黒川:
そうですね。ふわふわしたまま試合に入って、もったいないプレーをしてしまうのがすごく嫌なんです。だからこそ、「それはダメだ」と自分に言い聞かせているというか、毎試合しっかりパフォーマンスを出すことをプロとしてすごく意識しています。そのために、自分をその状態に持っていく感じです。
中山:
意識を切り替えたからといって、必ずしもプレーに反映されるとは限らないと思います。それでも自分のパフォーマンスを出すと意識することで、実際の何かしらの影響や変化はどのように感じるのでしょうか?
黒川:
例えば、試合数を重ねていくとJリーグデビューした時の一試合と、100何試合とプレーしてきた中での一試合では、どうしても感覚が変わってくると思うんです。良くも悪くも、いろんなことに慣れている状況ですが、そこでふわっと入ってしまうのではなく、この一試合のためにパフォーマンスを出して試合に勝つということを大事にしています。そうすることで、本来なら起こり得ないようなミスも気持ちを作ってしっかりプレーすることによって、なくしていけるのではないかと思っています。

中山:
なるほど。過去にどれだけ試合をしてきたか、ここから先どうしていくかということよりも、まずは目の前の一試合に視点を置いているのですね。
黒川さんは昨年末、MLS(メジャーリーグサッカー)所属のD.C.ユナイテッドへ移籍されました。日本とアメリカのスタジアムの雰囲気はどのように違うのでしょうか?
黒川:
まずスタジアムの違いでいうと、アメリカは本当にエンタメに寄っている感じがします。例えば、試合に入場するところにガラス張りの場所があって、そこにVIPのラウンジや席が用意されているんです。そこにいる人たちから「行け!」というような声を受けながら入場したり、ピッチサイドにもテラス席があってそこで食べたり飲んだりしながら見ている人たちがいたりなど、観客との距離が近いです。本当にイメージしていた通りのスタジアムが多いですね。僕のホームスタジアムも同じような雰囲気です。
中山:
平常心が良い状態と言っている黒川さんは、この環境が変わったことでご自身のプレースタイルや意識に変化はあるのでしょうか?
黒川:
もちろん平常心ではいるのですが、観客の熱量や熱気を自分の力に変えたいという思いはあります。これは日本にいる時から意識していました。自分はアグレッシブに、攻撃でガッと前に行くプレーが持ち味なので、チームの流れが悪くてみんなが後ろ向きになったり、押し込まれたりしている時に、一発そういうプレーをすると観客も沸いてくれます。そうすると、「いけるぞ、大丈夫」というチームの雰囲気になる経験をしてきたことがあるんです。
自分が局面を変えることでクラブやチームの流れも変えられますし、スタジアムも巻き込めることは身をもって感じている部分です。平常心ではいながらもそういうところを意識して、スタジアムの熱気も自分の力に変えるようにしています。
中山:
アメリカのようなエンタメ性の高い環境だと、ふわふわしている時にさらに気持ちがそちらに持っていかれそうな感じも聞いていて感じたのですが、実際はどうでしょうか?
黒川:
ありますね。アウェイの試合で少しお祭り騒ぎのような雰囲気のスタジアムに行くことがあります。独特の応援や雰囲気がありますし、アウェイチームに対してヤジが飛んでくることもある環境だと、いつもよりふわっとするような感覚はありますね。
中山:
そのような時は、どのようにフォーカスを自分に戻しているのでしょうか?
黒川:
相手を応援している人たちが「なんだ、あいつ」のような感じになってくれた方がいいなと考えています。先ほどの話にもつながるのですが、そういう反応も力に変えるというか、「あいつ、やってくるな」と思わせるくらい、雰囲気に飲まれずに矢印を前に向けるということは常に意識しています。
中山:
環境を生かして、自分にとって良い方向に働くようにしているのですね。
黒川:
そうですね。それができている時は自分も落ち着いていて、「やってやろう」という気持ちはありつつも試合に力が入りすぎていないんですよね。そういう状態すらも楽しむという感覚です。
中山:
面白いですね。外の状況と自分の状態を、かなり解像度高く行き来しているような印象を受けました。以前からそのような感覚を持っていたのでしょうか?
黒川:
やっぱりサッカーをやっている以上は、自分のパフォーマンスをしっかり見てもらいたいし、しっかり出したいという思いがあります。観客が自分のプレーで盛り上がってくれたら自分の気持ちも乗ってきますし、それによってチームが良くなるのであれば自分がやらないといけないと思っています。
大舞台でより大きな熱気に包まれている時こそ、自分はしっかりパフォーマンスを出したいと思っています。そういう環境でうまくやれてきた経験もあるので、どんな熱気に包まれていてもそういう舞台で自分がナーバスになることはないですね。
【Code.2 - EMOTION】ピッチで揺らがない自己信頼───自分を信じ切る強さ
中山:
試合前や試合中に生じる「緊張」や「不安」という感情は、黒川さんにとってどのような存在ですか?
黒川:
集中力を高めてくれる存在であり、試合中においての不安は必要のないものです。
中山:
緊張が集中力を高めてくれると感じるのは、どのような時でしょうか?
黒川:
僕は緊張するタイプです。例えば、スタジアムに出発する前に試合前のミーティングがあり、どんどん試合に向かっていくフェーズに入っていく中で、自分がしっかり高ぶってくる感覚があります。そういう状況の中で緊張するのですが、それがないと気持ちがふわっとしてしまうんです。しっかり緊張することによって、「今日もこの試合に向けて自分がやるぞ」という気持ちに持っていきやすくなります。
中山:
なんとなくふわっとしている状態から、集中モードに入っていくという感覚なのですね。
黒川:
そうですね。緊張感があることで、集中状態に入れる感覚はあります。
中山:
緊張は人によって生まれる要因は異なりますが、黒川さんの場合はどのようなことに対して緊張が生まれるのでしょうか?
黒川:
要因は一つではないのですが、試合前にうまくいっていない自分を考えてしまう時があります。日によりますが、うまくいくかどうか不安になることで緊張につながることもあります。あとは、試合の空気感そのもので緊張することもありますね。
中山:
そうした緊張や不安と、どのように向き合っているのでしょうか?
黒川:
いろいろ考えてしまうこともありますが、昔から試合になれば自分には自信があるんです。試合に入った時には「絶対できる」と毎回思っていて、ピッチに立てばそれまで考えていたことは全部忘れてしまいます。
中山:
自信を持てるのは、もともとそのような性格だと認識しているからなのでしょうか?それとも、スキル面での実感が積み重なり自信につながっているのでしょうか?
黒川:
おそらくどちらもあると思います。僕はエリートの道を歩んできたわけではなく、どちらかというと這い上がってきたサッカー人生です。その中でも常に自信は持っていたんですよね。昔から自分はプロになれると思っていましたし、周りの人や親からも「その自信はどこから来るんだよ」みたいなことをよく言われてきました。自分より良い選手がいっぱいいることも分かっていますが、それでも「自分はできる」というマインドはずっと持っていました。
あとはスキルの部分で、自分は攻撃的な局面を変えたり、チームを前進させたりすることができるのを実際にプレーし続ける中で、自分はできるという感覚をどんどん蓄えていって、それが身についていったのだと思います。そういう積み重ねが、今の絶対できるという自信につながっているのかもしれないです。
中山:
なぜ、自分はできると思い続けられるのでしょうか?
黒川:
やっぱり自分を信じているからですね。自分の可能性や自分のことは自分自身が一番分かっています。周りは周り、自分は自分というように自分は絶対できるという思いは昔からありました。
それに、親に褒められて育って自信がついたわけでもないんです。むしろ親からは「あんたより上手い子なんかいっぱいおる」と言われてきて、親も僕がプロになれるとは思っていませんでした。そういう環境の中だからこそ、逆説的に「いや、自分はできるよ」というマインドになったのかもしれないですね。
中山:
自分のことは自分が一番分かっているという認識が、もしかすると自己認識の高さにもつながっているのかもしれないですね。自分と他人は別だという視点も、すごく重要なポイントなのではないかと思いました。
一方で、試合中においての不安は必要ないものという回答がありましたが、そう考えるようになったきっかけはあるのでしょうか?
黒川:
不安に思うのは試合前だけでいいと思っているんです。昔は試合前に、「自分がミスをして負けてしまったらどうしよう」「何もできなかったらどうしよう」と考えることがありました。今でも、「うまくいかなかったらどうしよう」と思うことはあります。
でも、それは悲観すべきことではなく、そう思うのであればそう思っていていいんです。不安に思っている自分がいることを認識したうえで、もっとアグレッシブにやらないといけないと、自分のマインドを持っていくんです。試合前に不安になることは当然ですし、むしろいいことだと思っています。ただ、ピッチに入った時に不安を抱えたままプレーしてしまったら、絶対にうまくいきません。これまでにも、不安から消極的になってしまった経験はあります。そうなると本当にうまくいかず、どんどん見えるものも狭くなっていきます。
そういう時に何が大事かというと、やっぱり前向きにプレーすることです。いろんな指導者の方からもそう教わってきましたし、自分の特徴もそこにあると思っているので絶対にやらないといけないと思うようになりました。不安は試合前にありながらも、試合に入れば自分はできるという自信もある。だからこそ、ピッチに入ってしまえば不安は必要ないと思っています。
中山:
不安に思っている状態をそのまま認識し、前向きにプレーしようと意識を持っていくのでしょうか?
黒川:
持っていっているというのもありますし、自分はそれをするためにピッチにいると思っているんです。試合前に不安な感情が出てきたとしても、結局ピッチに入れば「自分はできるよね」という感覚になります。持っていくというより、自然とそうなる感じです。
中山:
そもそも、自分がそういう選手だと思っているからこそですね。
黒川:
そうですね。いろんな不安な感情が出てきた時も、その感情を受け止めすぎないというか、不安は側に置いておこう、ピッチに入れば自分はいいプレーができるというマインドなんです。
そもそも不安があること自体は全然問題ではなく、試合に入れば関係ないです。そこを頭で分かっていればいいと思っています。不安な感情が出てくるのは普通のことなので、どうしようと思うことはないですね。
中山:
試合が始まれば不安は終わるものだし、なくなるものでもある。不安があること自体も特別なことではないということですね。
黒川:
別に普通です。当たり前のことですね。

中山:
黒川さんだからこそ伺いたいのですが、日本からMLSへの移籍は、競技面だけでなく生活面でも大きな変化があり不安を感じる場面が多いのではないかと思います。食事や買い物、移動手段、細かいですが右側通行への順応など、環境が大きく変わりますよね。
そうした競技外での不安と、試合中に感じる不安とでは、付き合い方に違いはあるのでしょうか。ここまでのお話を伺っていると、競技外でもうまく不安と付き合っているように感じますが、実際には競技外の方がむしろ難しいと感じる部分はあるのでしょうか?
黒川:
面白いですね。僕は結局、なんとかなると思っています。正直しんどいことも多いですし、新しい環境に来て慣れないコミュニケーションも大変です。私生活もガラッと変わって、日本はすごく便利な国なのだと感じる日々ですし、これまで感じなかったようなストレスもたくさんあります。
それでも、なんとかなるという感覚がありますし、どうしようもない状態になるわけではないとも思っています。それはサッカーで、結局自分はできる、なんとかなると思っているところにも、もしかしたら似ているのかもしれないです。自分のパーソナリティーとしても、妻から「なんとかなるというマインドを持ってるよね」と言われたりするので、過度に気にしないところはあるのかもしれないですね。
中山:
確かに黒川さんのお話を聞いていると、不安をなくそうとするのではなく、適切な距離を保ちながら付き合っている印象があります。
黒川:
そうですね。でも、常に良い状態でいられるわけでもないです。考えてしまう時もありますし、しんどいなと思うこともあります。でもそこから、なんとかなるという感情に持っていける自分がいます。
中山:
究極の開き直りのような方法を持っているのですね(笑)。
黒川:
そうですね(笑)。
【Code.3 - COGNITION】居心地の良さを抜け、未知の山へ───新天地で磨かれる自分の強み
中山:
黒川さんにとって、サッカーという競技はどのような「ゲーム」だと捉えていますか?比喩や感覚的な表現でも構いません。
黒川:
「登山」ですね。
中山:
なぜ、登山という表現をされたのでしょうか?
黒川:
登山は一人でも行きますし、複数人で登るなら助け合いが生まれますよね。例えば、いろんな知恵や考えを持ち寄って方向性を決めることは、サッカーの戦術的な部分に似ています。気持ちの面でも、誰かの水が足りていなければ自分の分をあげるなど不足やミスをカバーします。サッカーにとっての勝利で、登山にとっての登頂という一つの目的に向かって、協力していくところがすごく似ているなと思いました
一方で、登山は最終的に自分の足で登らなければいけません。そこもチームスポーツとつながります。チームで戦っていても、自分が一歩踏み出さなければプレーは始まらない。その感覚は登山と同じだと思っています。
中山:
登山というのは、チームで頂上を目指す側面もありながら、仮にチームだとしても結局は一人ひとりが自分の足で登っていくという表現だったのですね。黒川さん自身は今どのような山を登っている感覚なのでしょうか?
黒川:
日本でずっとJリーグでプレーしてきて、本当に何も知らない状態でアメリカに来ました。どんな道があるのか、どこがゴールなのかもわからないような山に飛び込んできたような感覚です。だからこそ今は、その山をどう登っていくのかを楽しみながら模索しています。
中山:
そう考えると、今回の移籍は単に環境を変えたというより、登り方そのものを変えるような選択だったのかもしれません。黒川さんにとって、MLSへの移籍はどんな意味を持つ決断だったのでしょうか?
黒川:
ガンバ大阪に入った1年目は、すごく苦しんだんです。大学時代は特別指定選手として試合に出ていたので周囲からは即戦力として活躍するだろうという見られ方をしていましたが、蓋を開けてみればU-23でプレーすることが多く、トップチームの試合にもほとんど出られませんでした。1〜2年はそういう状況が続いて、すごく苦しみました。
そこから少しずつ、自分が積み重ねてきたものが実を結んで、コンスタントに出場できるようになりました。長くプレーを続ける中で、今度は良くも悪くもその環境に慣れてしまったんです。本当に何一つ文句が出ないような素晴らしい環境でしたし、ファンやサポーターの方々にも大切にしてもらって、応援してもらえている実感もありました。だからこそ、その居心地の良さに怖さを感じるようになったんです。
中山:
そのような怖さを感じてから、ご自身の中でどんな変化があったのでしょうか?
黒川:
何か新しい刺激や、新たなチャレンジをすることでこれまで知らなかった自分や、まだ見つけられていない自分の強みが見えてくるのではないかと考えるようになりました。そんな時に、今回の話をもらったんです。
最初はMLSについてほとんど知らなかったですし、詳しく調べていたわけではありませんでしたが、少し見ただけでもリーグそのものが大きく成長していることは感じられました。そのような環境で新しいチャレンジができる絶好の機会だったので、年齢やこれからのキャリアも含めて考えた時に「今だ」と決断しました。
中山:
例えるなら、頂上にいても高度にも余裕が出てきたことによって今度はまた違うものを求めるようになったという感じでしょうか。一方で、今いる山は輪郭すらはっきり見えておらず、まさに未開の地に足を踏み入れたようなフェーズだと聞こえたのですが、いかがでしょうか?
黒川:
そうですね。まさにそんな感じではありますが、同時に、着々と登れている感覚もあります。

中山:
全く未知だった場所に来て1年目のシーズンが始まっていますが、どのように感じていますか?
黒川:
まず、どんなリーグなのかというところで言うと、正直ものすごくレベルが高いです。よりフィジカルかつスピーディーで、攻守にわたってすごくアグレッシブなので、見ている人にとってはすごく面白いと思います。試合中もあまり暇がないというか、攻守が目まぐるしく入れ替わって、みんなが常にゴールに向かっていきます。プレーしていてすごく楽しいです。
このような環境は、もともと自分の特徴にも合うのではないかと思っていたのですが、こっちに来てからあらためて自分の強みはこういうところだと気づきました。この半年で、自分の特徴をより活かせる部分が見えてきて、それがさらに攻守ともにものすごくタフで、パワフルになってきている感覚があります。だからこそ、今はまだ登っている途中なのだと思いますがすごく良い感覚があります。
中山:
アメリカという新しい山に来てみたら、自分が培ってきた強みがもっと活きる場所があるのだと感じられたのですね。
黒川:
そうですね。強みは活きていますし、もっと強くしたいと思っています。特にウイングには本当にすごい選手がたくさんいるので、そういう選手たちと毎試合バチバチやれるのも楽しいです。その中で自分の課題とも向き合いながら、今ある良さをさらに伸ばしていくことにフォーカスしてやっています。
中山:
黒川さんのようなプレースタイルでアメリカのようなリーグでプレーしたら、すごく楽しそうだなと思いました。余計なことを考えすぎず、自分の持っているものを思い切りぶつけて戦えそうな気がします。
黒川:
はい。すごく楽しいですよ。やる側も、観る側も。
中山:
試合のテンポも、バスケットボールくらい激しいですよね。
黒川:
本当にそうですね。攻守の入れ替わりがすごく目まぐるしいです。日本では、まだMLSというリーグ自体がそこまで認知されていないですし、すべてが理解されているわけではないと思います。メディアを通して日本で目にする機会も、Jリーグに比べるとまだまだ少ないです。わからないことも多いと思いますが、実際にこっちに来て肌で感じているのは、MLSというリーグの面白さとレベルの高さですね。
中山:
確かに日本にはまだ届いていない魅力がたくさんあると思います。黒川さんを通して、MLSの面白さや魅力を、もっとかっこよく、美しく届けていけたらいいですよね。
黒川:
そういう発信もやってみようかなと思います。
中山:
今回のアメリカでのワールドカップをめぐっても、さまざまな意見が飛び交いましたが、やはりスポーツは一種のエンターテインメントでもあると思います。
黒川:
そうですね。ワールドカップ後の試合は、本当に観客も増えましたよ。
中山:
それは体感としても、実際の数字としても感じるものだったのでしょうか?
黒川:
事実としてもありますし、体感としてもあります。ホームスタジアムの雰囲気が、すごく良くなりました。2万人弱収容できるスタジアムなのですが、満員になることもあります。去年はD.C.ユナイテッドの成績があまり良くなくて、MLSの中でも苦しいシーズンだったんです。今年の開幕戦に出た時も、観客が少ないなと感じました。
ただ、今年は少しずつ成績も上がってきて、ホームでも良い試合ができるようになってきました。そうすると、アメリカの人たちはエンターテインメントとして、成績も良くなってきたから見に行ってみようという感覚で足を運んでくれるんですよね。それでシーズン中にもどんどん観客が増えていったんです。そこからワールドカップのブレイクを挟んでリーグが再開したら、さらに観客が増えていました。
中山:
最初の頃と比べると、何倍になったのでしょうか?
黒川:
開幕戦は、確か1万人ほどしか来ていなかったと思います。それが今は、もう2倍くらいの約2万人になっています。ワールドカップの効果は間違いなくあると思います。
中山:
それだけ観客が増えれば、スタジアムの雰囲気も変わりそうですね。
黒川:
そうですね。かなり変わって、すごく良いなと思っています。
【Code.4 - VISION】自分らしさを貫き、その頂上へ───タイトルの先に見たい景色
中山:
この競技を続けていった先に、どのような状態や景色に辿り着いていたいと考えていますか?
黒川:
頂上に辿り着ければ幸せです。
中山:
これまでの黒川さんの話を聞いていると、どんどん次の頂上を目指しているような印象を受けます。良い意味で、頂上というものはあるようでないとも言えそうです。
黒川:
そうですね。もともと自分にとっての頂上は何なのかを考えながら、ずっとやっています。その中で、これまでキャリアを積み重ねてきて、自分がまだ成し遂げられていないものを考えると、やっぱりタイトルを取ることなんですよね。2024年にガンバで天皇杯決勝まで行きましたが、そこで敗れてしまった時に本当に悔しい思いをしました。チームとしてタイトルを成し遂げて、そこに自分がいるという経験をしたいなと純粋に思ったんです。
それがMLSで成し遂げられたら最高ですし、Jリーグに帰ってきてここでのいろんな経験を生かして、自分がタイトルというものに貢献できればすごく嬉しいです。今はその景色を見たいなと思っています。
中山:
サッカー選手としてだけではなく、黒川さんの人生としてここまで登ってきたと感じたいものを考えた時に、タイトルというのは大きな意味を持つのでしょうか?
黒川:
そうですね。純粋にサッカーが好きですし、自分がしっかりいいプレーをして、応援してくれている人たちにそういうプレーを届けることには、すごくやりがいを感じています。それを毎試合できれば自分は幸せですし、それを積み重ねることをプロに入ってからずっとやってきています。
その中で、見てくれている方や応援してくれている方を喜ばせることができたとして、自分がそれ以上に喜びを感じる瞬間は何だろうと考えた時に、自分がまだ成し遂げていないのがタイトルです。タイトルを取った時に自分がどんな感情になるのか、今まで見たことのない景色がどんなものなのか、知らない景色を見てみたいなという思いがあります。

中山:
この頂上を目指すプロセスそのものに、黒川さんにとってすごく意味があるように感じます。振り返った時に、この山を登ってきてよかったと思えるのはどんな道のりだと思いますか?
黒川:
いつかサッカー選手を引退する時に、いつでもアグレッシブで常に攻撃的で、見ていて楽しかったし、応援したくなる選手だったと思ってもらえる選手でありたいです。そうやって誰かの記憶に残る選手になれたら嬉しいですし、その記憶に残る選手になるためにも、自分自身が喜ぶためにも、タイトルというものは欲しいですね。
中山:
黒川さんだからこそできるプレーを最後まで貫いて、「自分がピッチに立つ意味」をしっかり残していく。その先に、タイトルという分かりやすい結果も残したいということですね。
今はまだMLSという新しい山を登っている途中だと思いますが、ここでまた新しい経験や強みを積み重ねていった先に、黒川さんらしいやり方で頂上に辿り着く姿をこれからも楽しみにしています。今日は貴重なお話をありがとうございました!
黒川:
ありがとうございました!
【After Dialog】
環境が変わっても、黒川圭介の根底にあるものは一貫していた。それは、自分自身を理解し、自分の可能性を信じて、目の前の一試合に力を注ぐこと。自分の状態に違和感があれば、それをいち早く察知して平常心へ戻していく。緊張は集中力を高めるものとして受け入れ、不安が生まれても無理になくそうとはしない。それでもピッチに立てば、「自分はできる」と前を向く。決して不安を感じないわけではなく、それに自分のプレーを委ねない強さが彼のアグレッシブなプレーを支えている。その姿勢は、キャリアの選択にも重なる。ガンバ大阪で出場機会をつかみ、長くプレーする中で感じるようになった居心地の良さ。そこに留まるのではなく、まだ知らない自分の可能性を求めてMLSという未知の環境へ飛び込んだ。そこで改めて見えてきたのは、自ら前へ出て局面を変えるという、これまで培ってきた自身の強みだった。サッカーを「登山」と表現した彼は、チームで助け合いながらも、最後は一人ひとりが自分の足で一歩を踏み出さなければ頂上には辿り着けないと語った。今、その先に見据えているのが、まだ手にしたことのない「タイトル」という景色だ。いつでもアグレッシブで、攻撃的で、見ていて楽しい。いつかキャリアを振り返った時、そんな選手として誰かの記憶に残っていたい。その自分らしさを貫いた先で、まだ知らない喜びを知るために。新たな山を登り始めた彼は、自分の足で一歩ずつ、その頂上へ向かっている。『Dialog Code』
答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
黒川 圭介(くろかわ・けいすけ)
1997年4月13日生まれ、兵庫県出身。
サッカー選手。D.C.ユナイテッド所属。
ヴィッセル神戸伊丹U-15、大阪桐蔭高校、関西大学を経て、大学在学中の2019年に特別指定選手としてガンバ大阪に加入。同年のルヴァンカップ・ジュビロ磐田戦でトップチーム公式戦に出場した。2020年に正式加入すると、プロ入り当初はガンバ大阪U-23でのプレーも経験。徐々にトップチームで出場機会を増やし、2022年から左サイドバックの主力として定着し、2024年には天皇杯決勝進出を経験した。ガンバ大阪では7年間にわたってプレーし、2025シーズン終了後、海外挑戦を決断。2025年12月にMLSのD.C.ユナイテッドへの完全移籍が発表され、2026年からアメリカで新たなキャリアをスタート。同クラブとは2028-29シーズンまでの3年契約を締結している。攻撃参加を持ち味とし、前線でチャンスを生み出す力や運動量、守備面での判断力でチームを活性化する。【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。
JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。

