Dialog Code
『まだ、全部手に入れていない。異質な進化を追求し続ける哲学』山根 視来 # Dialog Code
2025/06/25

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。自分自身と向き合い、考え、気づくこと——それが次のステージへ進む鍵になる。『Dialog Code』—— アスリートたちの言葉から、その可能性を探るシリーズ。
今回登場するのは、山根 視来(プロサッカー選手・LA Galaxy所属)。
さあ、彼の思考を紐解いていこう。

1. 初めての優勝と初めての涙
中山(Dialog Partner):
まず、過去から聞いていきたいのですが、山根さんがサッカーの記憶で一番若いときに覚えている景色はどんな景色ですか?
山根:
一番は、地元の公園ですね。幼稚園の年中の時にチームに入って練習していたので、そこで練習していた記憶が残っています。
中山:
その頃からチームに入っていたんですか?
山根:
そうです。幼稚園の年中の時にあざみ野FCというチームに入っていました。
中山:
当時のボール蹴ったときの記憶は、何か残ってますか?
山根:
あります、あります。幼稚園なのでとにかくサッカーを楽しく感じられるような練習でしたね。例えばボール当て鬼みたいな遊びとか、そういうのが好きでした。ミニゲームとかでも、点を取るのが好きだったんで、ボールを追っかけないで一番前でずっと待ってました(笑)
中山:
点を取るのが好きだったんですね。それは、何が好きだったんですかね?
山根:
なんですかね…何が好きだったんですかね〜。
中山:
例えば、周りの反応とか、達成感とか?
山根:
いやー、わかんないですけど、幼稚園のときなんてパスしても嬉しくないじゃないですか。
中山:
確かに(笑)子どもの純粋な欲求ですかね、「点取りたい!」みたいな。
山根:
そうですね。点取って「イエーイ!」って、多分そのためだけにやってたんだと思います。
中山:
そうなんですね。一番嬉しかった若い頃のサッカーの出来事は何ですか?
山根:
年長のときに小学校1年生のチームに入っていて、たしか招待杯の決勝戦で僕がボレーシュートを決めたのが一番記憶に残ってる出来事ですかね。それはなんとなくどういう感じだったかもいまだに残っています。
中山:
おー、それはなぜ嬉しかったんですか?
山根:
僕の学年じゃなくて1個上の学年のチームで出ていて、優勝がどういうものかっていうのも当時理解していて、その試合で自分が点を取って優勝して、みんな寄ってきてくれて。「なんかこれすごい!」って思ったのをなんとなく覚えています。
中山:
山根視来というサッカー選手としての初めての“優勝体験”だったんですね。
山根:
そんな感じですね、そんな記憶があります。
中山:
逆に、一番悔しかった若いときの出来事は何ですか?
山根:
年長の時に小1の大会に参加して優勝した後、1年生に上がって小2の同じ大会にBチームとして1年生で出ることになって。僕はその大会に年長の時に出た経験があったので、僕だけがその大会のつながりとか意味を理解してたんですよね。そこでめちゃくちゃボロ負けして、めっちゃ泣いた記憶があります。
中山:
へ〜、そうなんですね。
山根:
周りは何が何だか分かってないって感じだったので。
中山:
何が悔しかったのかは覚えていますか?
山根:
やっぱり、負けることじゃないですかね。あざみ野FCは強いチームで基本的に負けないチームだったので、そういう経験はほとんどなかったんですよ。だからこそ、ボロ負けしてめちゃくちゃ悔しかったんだろうなと思います。
中山:
なるほど。当時から、幼稚園児が小学生に混ざってプレーすることは結構レアなケースだなと思うのですが、緊張やプレッシャーなど、当時はどんな心境でしたか?
山根:
いや、そういうのはなかったですね。今、アルビレックス新潟にいる高木善朗っていう選手がいるんですけど、彼とは幼稚園からの幼なじみみたいな感じだったので、よく一緒に公園でボールを蹴ってたんですよ。彼と同じチームでやりたいからという感じだったので、緊張とかは全くなかったですね。楽しく、嬉しくやってました。
中山:
そうなんですね。なるほど。
2. “当たり前”だった夢と“まだまだ”の言葉
中山:
プロになりたいとか、サッカー選手になりたいって思い始めたのはその頃からですか?
山根:
小学校くらいまでは、なりたいっていうより当たり前になると思ってました。よくあると思うんですけど、プロになった選手って「自分は将来、日本代表になるんだろうな」って思いながらサッカーしてる感じ、あるじゃないですか。ちょっと勘違いしつつ(笑)
でも、それを勘違いとも他の人を下に思っていたわけでもなくて。自分をすごいと思ってるとかでもなくて、自分は多分そうなっていくんだろうなと思ってたんです。だから、なりたいとか、目指すっていう感覚ではなかったんですよね。
中山:
なりたいとかではなく、そういう人生なんだと捉えてたんですね。
山根:
そうです。サッカーはずっと続けていくだろうと思ってましたし、日本代表があるというのも知ってました。当時はJリーグにはそこまで興味がなかったんですけど、例えばブラジルのロナウドがすごく好きで。彼のように、ドリブルで持っていくようなプレーに憧れてました。足も速かったので、特に疑いもせず大人になっても、なんとなく多分こうなっていくんだろうなって思ってましたね。
中山:
そうすると、その時のサッカーに対するモチベーションや目的は、何でしたか?
山根:
なんだったんですかね…好きだから始めたっていうより、得意だったから好きになったのかなって気がします。そっちの方が強い気がします。周りの子よりできたからというのもあるんじゃないですかね。
中山:
ちなみに幼少期にいろんな競技をやる子もいると思いますが、山根さんはどうでしたか?遊びでも、部活でも、習い事でも。
山根:
いろいろやってましたよ。キャッチボールとかバットも振ってたし、体操もやってましたし、水泳も最初はやってましたね。
中山:
おー、いろいろやってたんですね。
山根:
はい、いろいろやらせてもらってました。
中山:
その中でも、サッカーは得意だな、人よりできるなとかそういう感覚だったんですか?
山根:
そうですね、あとは兄がサッカーをやっていてチームに入ってたので、僕も自然とやるようになった感じで。近所の5個、6個上のお兄ちゃんたちとも一緒に幼稚園の頃から走り回ってて、その人たちもサッカーをやってたので、サッカーをする機会が多くて。なので自然とサッカーチームに入りました。
中山:
そうなんですね。幼少期から強いチームに入って、そこから小中高とプレーしていたと思うのですが、学生時代の指導者の言葉や親を含めた大人の言葉で、今でも自分に残っている言葉は何かありますか?

山根:
小5の時にヴェルディに入ったんですけど、よく言われていたのは「(周りから)“上手くなったな”とか言われた時に“自分はまだまだです”って言うようにしろ」と言われていました。なんとなくその言葉の意味を“満足するな”みたいな感じかなと理解をして、それが自分の中で口癖になっていて、今でもそうなのですごく良い言葉だったんじゃないかなと思います。
中山:
これは誰から言われましたか?
山根:
ヴェルディのコーチだったかな。小学校の頃だったので、学年で担当があって。有名な都並さんなどもクラブハウスにいて「なんかお前最近いいじゃないか」と声をかけてもらったりして嬉しかったりもするんですけど、そういう時にも“ありがとうございます”じゃなくて“まだまだです”って、そういうマインドでいろって。そういうのは染み付いていました。
中山:
おー、なるほど。いわゆるまだ先を見据えるというか、現状に余白を持たせるようなフレーズだと聞こえました。一方、人によっては「まだまだです」と言いつつそれがプレッシャーになったり、もっとできなきゃダメみたいなことになる人もいるのかなとも思いましたが、当時の山根さんはどう捉えていましたか?
山根:
「まだまだです」と言いつつ、当時はヴェルディで試合に出ることがどういうことかもなんとなくわかっていて。プロになると思っている自分もいたので、本質までは理解できていない感じだったんですけど、プレッシャーとかは別になく、それを自分で言いながらその意味を自分の中に深く落とし込むような感じでした。今考えると、僕の性格とすごくマッチしていたんじゃないかなと思います。
中山:
なるほど。マッチしていたからこそ、今だに口癖として使われ続けているんですね。
山根:
そうですね。
3. バキバキに折られたプライド、あるのは目の前だけ
中山:
次に、いきなり時間軸を最近に近づけていくのですが、プロになってからの日々の練習の中で、意識的に取り組むことや、事前に準備していることはありますか?
山根:
準備については、プロ1年目の湘南の時にすごく学びましたね。練習への姿勢というか、細部に何かが宿るとか、練習で出し切れないものは試合で出せるわけがないっていうことを、言われて過ごしてきたので。それはもう染みついてますね。僕の中で一番大切にしている部分だと思います。
当たり前なんですけど、これってなかなかできないんですよね。できないんすよこれは。だからやるんです。
中山:
それをインストールできた山根さんが思う、できる人とできない人の違いって、もしあるとしたら何だと思いますか?
山根:
なんですかね…あんまり偉そうなことは言いたくないんですけど、僕は当時“真っ白だったな”って思いました。大学で試合に出て、選抜にも選ばれて、プロに行くっていうことは、大学内ではある程度力があったということ。高卒でも大卒でも、プロに入る選手ってみんなある程度自信を持って入ってくるんですよ。
でも、多くの選手は一回びっくりするんですよ。僕もそうだったんですけど、その時に真正面からぶつかってきてくれる監督がいて。
変なプライドとか、「俺はこういう選手だし」みたいなイキってた部分を、全部バッキバキに折られて、更地の状態でプロ1年目が始まったので。実際にJリーグの出場時間も0分だったし、大学生との練習試合で途中出場で途中交代させられて、「お前は走っとけ」みたいな屈辱的な経験でした。去年までは大学生相手に当たり前のように良いプレーをしていたのに、醜態を晒して”脇で走らされている山根”みたいな。
中山:
いやー、それはリアルですね。
山根:
そのときは本当に、まさか自分がプロになってそんなことをするなんて思ってなかったし、当時はめちゃくちゃムカついて。怒られて泣くことはなかったんですけど、人生で初めて指導者に怒られて泣きました。本当にボロボロにされて。
中山:
それはすごい経験ですね。
山根:
でも、諦めたくなかったので、その真っ白な状態から、いろんなものを吸収してこれたのかなと。そこの差なのかな。そういう出会いや運が巡ってきて、それを素直に全部受け入れたからこそ、ここまで来れたんだと思います。偉そうなことは言えなくて、そうせざるを得ない状況でもあったし、そういう外からの影響を受けての今なのかなと思います。
中山:
なるほど。正直なことを言えば、そういう時の出会いや、運、タイミングなどもすごく影響しますよね。
山根:
そうですね。さらに自分の中で思うのは、出会いや運は確かにあるんですけど、それを掴めるかどうか、監督の心に響かせられるかどうかっていうのは、結局はそのバキバキに折られている最中の日常や、そこでどれだけ踏ん張れたかという話なので、それだけではないっていう自負もあります。
中山:
この時の支えや、活力は何でしたか?このまま破壊されて消えちゃう人もいると思うのですが。
山根:
なんですかね...僕もそう思ってました。契約年数を全うしたら、そのまま引退だと思ってたので。
中山:
その真っ白からどうやって、色がついていったんですか?
山根:
タイミングがすごく良くて。その年、湘南ベルマーレはJ2に降格して、2年目はJ2だったんですが、主力選手がけっこう抜けて、新しく入ってくる選手たちがいて。でも、僕は1年間、死ぬほどの思いで練習してきたから、「お前らなんかに負けねえよ」っていう気持ちがあったんです。だいたい湘南の練習にきた人は面食らうんですよ。
その時のポジションが左のウイングバックだったんですけど、右のセンターバックに怪我人が出ていて、キャンプ中に「お前ちょっとやってみろ」って言われて、そこで人生初めてディフェンダーをやりました。
中山:
そこで初めてだったんですね。
山根:
そうなんですよ。怪我人が出たことと、J2に落ちたことと、タイミングなんですよね。その中で1年間やってきたものが発揮されて。死ぬ気で掴みにいきました。
中山:
「この1年間やったんだから、どんなチャンスでも掴む」っていうスタンスだったんですね。
山根:
そうですね。いろんな考え方はあると思うんですけど、実はキャンプに行く前に肉離れしてて、でも「ここでやめたらもうチャンスはこない」と思ってたので、ちぎれてもいいからやり続けるっていう気持ちでした。本当は2〜3週間休んだら治る怪我だったんですけど、無理して続けてたんで、半年くらい引きずりました。それでも試合に出続けたし、やらないという選択をしなかったので、そこは今でも誇らしいですね。
中山:
聞いていると、そのときは“何年後に代表入りしたいから頑張る”のような目標設定やモチベーションがあったわけではなさそうですね。
山根:
ないです、そんなものは。もう目の前だけ、一歩目しか見てなかったですね。
中山:
今日の練習、明日の試合、それしかなかないみたいな。
山根:
今日の練習で外されたら俺なんかすぐ飛ばされて終わりだという気持ちでしかなかったです。本当にそう思ってるんですよ。口だけではなくて、練習もめちゃくちゃ怖かったんですよ。そんな1年間を過ごしていました。
中山:
未来を見ている暇もなければ、お尻に火だけは付いている、という感じですね。
4. 強制の破壊から、自発の破壊を求めてLAへ

中山:
そこからフロンターレに行き、今はLAに来て、国も文化も変わって。考えなければいけないことも増え、サッカー観もすごく変わりますよね。その辺りは普段どのように自分と向き合っていますか?
山根:
フロンターレで自分のサッカー観が固まって、キャリアを飛躍させてくれた4年間だったので、自分のキャリアはこうやって進んでいくんだというのはなんとなく出来上がって。自分のプレースタイルや考え方も、その4年間で出来上がって固まりつつあったんです。
でも、それを壊さなきゃいけなかった。まだできないこともあった中で、それを壊したいという想いもあって移籍しました。やっぱり想像以上に難しかったんですけど、例えば僕の性格上、相手に合わせようとして考えが後手になっていくとだいたい良くないので、まず味方に何ができて何が苦手なのかとかも含めて自分を知ってもらうことを最初に意識しました。
中山:
そもそもなんですが、それまで築いたものを、なぜ壊したかったのでしょうか?
山根:
常に成長したいじゃないですか。例えば、ウイイレ的な六角形があるとして、その自分の形がそのまま成長しても一回り大きくなるだけですよね。そうではなくて、“異質な伸び方をしたい”みたいな。急に「こいつ伸びたな」みたいな感じで思われるくらいの成長というか。
サッカーをやっててできないプレーがあると悔しくて、できるようになりたいんですよ。シュートももっと上手くなりたいし、ヘディングも強くなりたいし、中盤でなんでもプレーできるようにもなりたい。僕だけなのかはわかりませんが、そういう欲求が今でも常にあって、それが全てなのかなと。変な話、左ウイングで出ろって言われても活躍したいんですよね。今できるできないは別として、純粋にできるようになりたいんです。
中山:
とても面白いです。プロ1年目は「強制的に破壊されて」、その後は「自分から破壊しに行った」んですね。
山根:
そうですね。
中山:
「破壊から創造」のプロセスの中で、山根さんが新しい自分を作っているようにも聞こえたのですが、破壊することの価値は何だと思いますか?
山根:
なんですかね...「生きてるなあ〜」って感じじゃないですかね。今だにめちゃくちゃストレスなんですけどね(笑)変なところでムカついたりもしますし、日本ではありえないような対応をされたり、ピッチ外でもピッチ内でも、人間関係でも。でも、そういうのも含めて、人間的にも“嫌いなタイプのベテラン”にはなりたくないので、すごく良い機会だなと思っています。プライドだけ高くて若手から嫌われるような、そういうのにはなりたくなくて。人間って居心地がいいところにいたら、少しずつそういうふうになっていってしまう気がして。環境を変えてこっちに来ると、若手から「Hey ,Bro!!」みたいに言われるんですよ(笑)
中山:
なるほど(笑)人によっては価値観を破壊することに、怖さや難しさ、ストレスもあると思うんですけど、山根さんからは恐怖以上に異質な変化や、さらに自分が変わっていきたいという純粋な欲求が上回っているんだと、聞いていてすごく感じますね。
山根:
そうですね。つまらないんですよね、停滞してると。過去を思い返すと、モヤがかかってたようなシーズンもあって。でも、変化が大きくてめちゃくちゃできること増えてるなって思えるシーズンって、めちゃくちゃ楽しいんですよ。だから、そういうのを求めに行ってるのかなと思います。
中山:
なるほど。すごく面白いです。
5. 「いま、自分に必要な問いは何か?」
中山:
よりリアルな部分として、試合前後や試合中のことについても聞かせてください。それこそアメリカだと移動時間も長かったりすると思うのですが、試合までの移動時間や、試合が始まるまでの間に頭を整理するとか、サッカーのことを考えるような時間はありますか?
山根:
基本的に前日移動なんですけど、飛行機で2〜3時間くらいかかって時差もあったりするので、次の日は体が動きづらいんですよ。だからまず、ホテルに着いたらジムに行って汗を流して、それからストレッチして治療を受けて寝るっていうルーティンをしています。これはこっち(アメリカ)に来てからやるようになりました。
中山:
なるほど。では、その時点で何か考えたりしてるわけではないんですか?
山根:
対戦相手もほとんど初見の選手ばかりなので特に考えてないですね。マッチアップする相手の映像はもちろん見ますけど、それ以外は特に。昔から事前にいろいろ考えることはあまりないですね。
中山:
そうなんですね。昔から事前に考えたりすることはしないタイプだったんですか?
山根:
考えないですね。それとは別で、今だにできないんですけど、いかに試合の時にモチベーションをピークに持っていけるかに関してはずっと探している感じですね。まだ見つかってないです。
中山:
なるほど。では、試合中に考えることが多かったりしますか?

山根:
試合中はめっちゃ考えてます。「どうするべきか」とか「今どこに立つべきか」とか、「展開はどうなのか」とか。ミスった時に「あーこれこうすべきだったな」とかって反省したり。ネガティブになることも多いし、自分でメンタルコントロールが上手いとは思わないです。
中山:
先ほど「試合に向けてモチベーションをピークに持っていくやり方がまだ見つかっていない」という話もありましたけど、現状やこれまでにトライしてきたやり方は、何かありますか?
山根:
もちろんあります。モチベーションの映像を見たり、午前中に散歩してみて調子良かったから次もやってみようとか。試合前はご飯を減らしてこのタイミングでしっかり食べようとか。ほんとに些細なことを色々試すんです。でも、正解はわかんないですね。
携帯を見すぎると脳が疲れるってことを聞いて試合の日まで一切見ないで臨んだこともありますし。でも、結局ファーストプレーを強気にできた時がすべてを凌駕するって答えがあるんですよね。僕は大一番の方が得意なんですよ。それはもう理解しているので、めちゃくちゃ緊張してても、自分が「これだ」と思うプレーを自信持ってやれればと思っているからこそ、大一番の方がモードに入りやすいんですよね。
中山:
あー、なるほど。僕も普段この辺りは専門家としてアスリートと日々対話しながら作っていくのですが、多くの選手で共通する部分は「1プレー目に神経を注いで、そのためにどういう準備をするか」というところですね。ここで乗れると順調にいくケース。
一方で、原因論という、プロセスにフォーカスして、「こういう結果が起きたのは、こういうことをやったからだ」と思いたいのが人間なんですよね。それこそ「朝散歩したから良かった。でも次の試合で試したらダメだった」のような。これはやりがちな、望ましくない思考法であることが多いです。
それよりも、よくできた時や良い状態の時の身体はどうなっているか?どこを見てた?どんな思考だった?という部分に目を向けると、うまくいく要因が見えたりするんですよね。
山根:
おー。僕、去年ちょっと気づいたんですよ。試合前のアップ中に。
中山:
おお、どんな気づきですか?
山根:
右サイドバックなんで、右のセンターバックから右足にボールをもらって前を向くときってすぐ近くにタッチラインがあるんですよ。緊張してるときって自信を持とうと胸を張って上体を上げようとするんですけど、これって上ではなくて重心が後ろになっているんですよね。そうすると、トラップしたらボールが流れてタッチラインを割っちゃうんですよ。
中山:
なるほどなるほど。
山根:
その時、「いい時ってどうしてたっけ?何が違うっけ?」と考えたら、明らかに何をしてる時も前傾で重心が前なんですよ。それに気づいてから、アップの時とかに意図的に前に重心を置いてプレーするようにしています。
中山:
それはすごくいい気づきですね。実際に起きている具体から「成功パターン」を観察するというのは、実は解決の糸口が見つかったりすることも多いです。これはある選手の事例で、「適度に集中してる時は観客の顔が見えます」と話してくれたので、では「緊張が過度な時に見てみましょうか」と話してやってみました。すると、かなり変わったという事例もあります。
山根:
へ〜、そんなことで変わるんですね。
中山:
そうなんですよ。意識や思考って何に興味関心を持つかで入ってくる情報が変わったりもするので、そのように身体の状態に目を向けることは1つのやり方として良いですね。
山根:
あれは完全に気づきでしたね。
中山:
山根さんと話していて思うのは、幼少期の頃から自分だけが大会の意味を理解してたみたいなエピソードもあって、俯瞰して見る力や、自分を客観的に捉える視点がある印象を受けたんですけど、それの自覚はありますか?
山根:
いや、あんまりないですね(笑)
中山:
先ほどの気づきは、どうやって出ましたか?自分一人で考えたんですか?
山根:
自分で気づきました。「なんでトラップ流れるんだろう」って思って、足がふわふわしてる感じがしたんです。踏めてない感じ。踏めてないってことは、どこかに逃げてるんだろうなというところから始まって。緊張してる時ってやっぱり踏めてないんですよ。試合中もタッチが悪い時って足がふわふわしてて。良い時は足に重心をしっかり感じるんですよ。
中山:
おー、なるほど。
山根:
そこから「じゃあ、重心を前にしたらどうなんだろう」ってところから始まりました。
中山:
これは、試合が終わってから考えたんですか?
山根:
いや、最中ですね。アップ中のポゼッションの時に一回タッチをミスって、プレッシャーを感じても重心を前に持っていくと良いんだろうなって気づいたんです。そこから考えていくと、ダメな時っていつもこうだったなって。あるんですよ、調子悪い時って周り見ようとして後ろ重心で見てる感じだけ出すみたいな。でもそういう時って大体ダメなんですよ。
中山:
実際現場で起きた時に「なんでだ」って問いが立って、「こうじゃないか」という仮説が立ったんですね。
山根:
初めてですね、こういうの。なんで今日はダメなんだろう、良い時と何が違うんだろうって。ファーストプレーで良い時は、勝手に重心が前にきているということを見つけられてなかったんですよ。
中山:
客観的に聞いていて、山根さんは「良質な問いを自分で出した」から良かったんだなと思いました。人間の思考は、全て、問いから始まるんですよね。どんな問いを立てるかでそこから模索し始めるのですが、「なんでできないんだろう?」という問いで止まってしまう人が多いんですよ。そうすると「なぜできないか?」を考えるのですが、あんまり答えが出てこないんですよね。
山根さんは、「できてる時と何が違う?」という問いが出ましたよね。そこが1つ大きなターニングポイントだったと感じました。問いの質ってすごく大事で、このようなセルフミーティングで山根さんの状態に問いを立てて、仮説検証するプロセスは問いの質で結構決まったりするんですよね。
山根:
ちょっとメモっていいですか?忘れそうなんで(笑)
中山:
ぜひぜひ(笑)どんな問いを立てるかってすごく重要なんですよね。なので考えていてもわからなかったり、思考が堂々巡りだなという時は、「今、自分に必要な問いは何か?」という問いを立ててみてください。
山根:
おー、なるほど。
中山:
今日の時間もそうですが、山根さんがいろいろ考えてくださっているのは、僕が問いを投げているからですよね。なので、それを自分にも考えるきっかけをどう設計するかが大事なんです。
山根:
僕、こういう専門家の人と何か話すのって、ほとんどしたことなくて。ずっと己の本能で突き進んできたので。パーソナルとかもつけたことないですし。
中山:
そうなんですね。でも今のは山根さんがやったことを僕が言語化しただけなので、基本的には現場で起きることが全てなんですよね。理論はあとから生まれるので。ただ、このように言語化することで、再現性は生まれますよね。それがこういう「対話の価値」でもあったりします。
山根:
なるほど、かなり面白いです。
6. “全身の毛穴が開く瞬間”を、追い求めて
中山:
では最後に、未来の話も聞いていきたいです。まだ“破壊”を続けている最中の山根さんが、現時点で「まだ手に入れていないもの」は何ですか?
山根:
え〜なんですかね...ほとんど全部じゃないですかね。ヨーロッパでサッカーをすることもそうですし、チャンピオンズリーグにも出ていないし、ワールドカップでも活躍していないし、英語も喋れないし、お金も持ってないし、私生活でもまだまだ心の余裕もないし。もう、全部ですよ。
中山:
なるほど。聞いてると、先ほどもシュートがもっと上手くなりたい、中盤でもプレーできるようになりたいって話がありましたけど、本当に自分の中にある余白すべてを埋めにいこうとしてる感じするので「全部」とうい答えがが一番しっくりくるとは感じますね。
山根:
近くにいる人の存在がすごく大事だと思っています。今だったら、隣に“吉田麻也”という偉大な選手がいて。例えば、ワールドカップに出たことで地元の友達に「すごいね」って言われても、自分としては活躍してないと思っているので、僕はすごくないという基準にいるんですよ。もっとあそこで何かを残した人たちがいて。
たとえば、麻也くんは日本人で初めて海外でセンターバックとしてプレーして、プレミアリーグで7〜8年いて。その凄さって、僕がほんとにすごいことなんだろうなと思う以上に、とんでもないことをしていて。そういう人と一緒にいると、何も成し遂げてないなって思います。しかも麻也くん本人も自分なんかまだまだだって思ってるんです。自分が見上げてる人が、さらに上を見上げてる、みたいな。
なので自分が何かに満足することって、多分この先もないんじゃないかなって思います。
中山:
なるほど。サッカー選手としての話に絞ったときに、これだけは一番手に入れたいというものを1つ選ぶとしたら何ですか?
山根:
やっぱり、ヨーロッパでサッカーをすることじゃないですかね。
中山:
そこへの思いは結構あるんですね。

山根:
本当の意味で「全身の毛穴が開く」ような体験ってあるじゃないですか。これまでも自分のレベルに合わせて各ステージでしてきたんですけど、ワールドカップや最終予選みたいな極限のプレッシャーを経験すると、それを超えるものってなかなかないんですよね。
中山:
なるほどなるほど。
山根:
それを超えるためには、やっぱりヨーロッパ、それも今の日本代表の選手たちが日常的にプレーしている場所に行くしかないのかなって。そこでしか見えないもの、感じられないものがあると思ってます。憧れ込みなんですけど、自分がその舞台をどれだけ高く設定してるかっていう話でもあると思っています。
それこそ最初はJ2の開幕戦がデビュー戦だったんですけど、自分にとってものすごく高いステージだと設定していたからめちゃくちゃ緊張したし、プレッシャーも感じてました。でも、それが日常になると、今度はJ1、カップ戦の決勝、日本代表、W杯最終予選…って、1つ1つクリアしていくことで自分の基準がどんどん上がっていくんですよ。一度上まで行くと、人間ってその基準を下げられないんだなと思います。
中山:
いやあ、良いですね。「全身の毛穴が開く瞬間」っていう表現、すごく印象に残りました。そして今日のこの1時間で、僕は山根さんのファンになりました。
山根:
ありがとうございます(笑)
中山:
本当に思ってます。話を聞けば聞くほどもっと聞きたいなと思わされる1時間でした。吉田麻也さんの名前も出ましたが、もし機会があればぜひ吉田さんの叡智も社会にシェアをしていただきたいなと思いました。
山根:
あの人はもう、考えてる次元が違いますね。もはや一選手の括りではないです。でも、ちゃんとサッカーするし、自分と向き合って、治療も準備も、終わった後のケアも。怪我したら1秒でも早く治すために自分の時間を全部使ったりするんですよ。
中山:
まさに、山根さんが今日の途中で仰っていた「出し切ること、細部にこだわることは言うのは簡単だけどできないんですよ」というのは、こういうことなんですね。
山根:
そうですね。これは難しいです。とにかく続けるのは難しいですね。
中山:
僕も聞いていて、すごく身が引き締まりました。今日は本当にいい時間をありがとうございました。
山根:
僕も、「問いを自分自身に立ててみようかな」って思いました。忘れないようにどこかに貼りつけておきます(笑)
中山:
ぜひぜひ。それぐらい、“問い”はすごく力があるものなので。僕自身にとっても、すごく大切にしているテーマです。今日はありがとうございました。

答えは、すぐには見つからないかもしれない。
それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。
思考を解き明かす対話は続く。
『Dialog Code』——次は、誰の思考に触れようか。
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