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Dialog Code

『誰かの評価から、自分の決断へ──迷わずゴールへ向かう自分を表現する』 #高尾茜利 Dialog Code 

2026/7/29

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」

『Dialog Code』

強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。

今回登場するのは、

高尾 茜利(フットサル選手・SWHレディース西宮所属)

【Before Dialog】
経験を積むことは、選手としての成長につながる。一方で、その経験が増えるほど、選択肢もまた増えていく。「あの選択もあったかもしれない」「もっと良い判断があったのではないか」。知識や経験が蓄積されるほど、判断の裏側には迷いが生まれる。それでも、勝負の世界では一瞬の決断が結果を左右する。だからこそ、高尾茜利は「迷わずゴールへ向かえる状態」を、自身にとって最も良い状態だと語った。日本代表として戦ってきた経験、新たな環境への移籍、そして女子フットサルワールドカップの代表落選。競技人生の中で積み重ねてきた数々の経験は、時に自分らしさを曇らせることもあった。それでも彼女は、そのすべてを否定することなく、自分の武器と向き合い続けている。経験を重ねた今だからこそ見えてきた、自分らしくプレーするということ。その変化にはどのような真意があるのだろうか。さあ、彼女の思考を紐解いていこう。

【Code.1 - STATE】迷いを超えた決断───選択とともに、迷わずゴールに向かえる選手へ

中山:
試合中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、もしくは短い文章で表すとしたら、どのような言葉になりますか?

高尾:
「迷わず決断できる」状態です。

中山:
具体的には、どのような状態なのでしょうか?

高尾:
イメージとしては、「迷わずゴールに向かう決断ができる」という表現の方が正しいかもしれないです。選手は経験を積めば積むほど、いろんなことを学び、選択肢もどんどん増えていきますよね。それ自体は悪いことではなく、選手としての深みにつながるものだと思っています。

ただ、本当に良い状態というのは、たくさんある選択肢に迷わない状態なんです。選択肢は持っているけれど、決断する瞬間には、それを多すぎると感じない感覚です。

中山:
経験を積むことで膨大な選択肢が蓄積されていく中でも、良い状態の時はゴールに向かう最善の選択が自然と出てくるということなのですね。

高尾:
そうですね。たくさんある選択肢の中から、無意識に最善のものを、最速で選べている状態です。フットサルには状況を認知して、判断し、決断して、実行するという段階があるのですが、その認知から実行までの時間が最も短い時が、無意識レベルでプレーできている状態だと思います。ゴールに向かう最善の決断を、迷わず自然に選べている時が、一番判断がうまくいっている感覚ですね。

それは、「余計なことを考えていない時」とも言えそうです。ただ、どうすればその状態になれるのかは、正直まだ自分でも分かりきっていません。「今日は頭がすごくクリアだな」と感じる日があるくらいです。

中山:
余計なことを考えずに済むと、プレーにはどのような変化がありますか?

高尾:
自分はスピードに乗ってゴールに向かえることが武器だと思っています。だからこそ、良い状態というのは、自信を持って迷わずゴールへ向かえます。

逆に判断が良くない時は、自分に自信を持てなくなり、ゴールより先に周りを見てしまう感覚があります。もちろん、横へのパスが最善の場面もあります。でも、本来はまずゴールに向かうことがあって、その先にパスという選択肢がある。最初から横を選んでしまう時は、自分の中で最善の判断ができていないという感覚があります。

中山:
スピードを生かしてゴールへ向かうことには、どのような価値があるのでしょうか?

高尾:
フットサルは得点を奪うスポーツです。相手からすれば、一番嫌なのは失点すること。その失点につながるような、いつでもゴールを狙ってくる選手が一番の脅威だと思っています。自分自身も得点を取れる選手でありたいですし、ゴールを狙い続ける選手こそ、相手にとって怖い存在だと思っています。なので、自分が一番脅威になれているのは、迷わずゴールへ向かえている時なんです。

中山:
相手にとって最も嫌なゴールへ向かう選択を、高尾さんが迷わず実行できている状態ということですね。

高尾:
経験を積むほど選択肢は増えていきますが、選択肢が増えることで「一番いい選択は何だろう」と考えすぎてしまうこともあるんです。移籍して今年で5年目になりますが、環境が変わり新しい知識を吸収し始めた頃は、その影響でゴールへ向かう選択がまったくできなくなった時期がありました。今振り返ると、あの頃は良い選手ではなかったと思います。自分の武器を発揮できる瞬間が少なくなっていたので、やはり自分にとって一番良い状態は、迷わずゴールへ向かえる状態なのだと思います。

中山:
先ほど「余計なことを考えていない」とおっしゃっていましたが、その「余計なこと」には、何が含まれるのでしょうか?

高尾:
「この判断は間違っているんじゃないか」「ミスしたらどうしよう」と考えてしまうことですね。もちろん、ミスは怖いです。でも、それを考え始めるとチャレンジできなくなってしまいます。実際、自分がそういうことばかり考えていた時期は、本当に何もうまくいきませんでした。

中山:
そういう思考が出てきた時、高尾さんはどのようにして、そこから抜け出そうとしたのでしょうか?

高尾:
それが本当に難しかったですね。この壁にぶつかったのは、移籍したタイミングでした。福井で20年近くプレーし、初めて新しい環境にチャレンジしたタイミングで、この壁にぶつかったんです。自分では抜け出したくても抜け出せなくて、いろんな人に「自分の武器って何?」「一番怖かった時期の自分と、今の自分は何が違う?」と聞いて回っていました。自分の武器すら分からなくなるくらい、迷子になっていたんです。

でも、返ってくる答えは、結局自分でも分かっていることばかりだったんですよね。自分が自分のことを一番分かっているし、周りからどう見られているかも分かった上で、それでも何かを求めていました。その中で、「やっぱり自分の武器はここなんだな」というところに戻ることができました。

中山:
自分の武器が何かを分かっているとはいえ、それを実際のプレーで表現することはまた別の難しさがあると思います。ただ、今お話をされている様子を見ていると、その頃とは少し変わってきているようにも感じます。

高尾:
自分の一番良かった時期に戻れたかというと、まだ戻れていませんが、昨年一つ抜け出せたような感覚がありました。

私はずっと、日本代表を軸にして選手生活を送ってきました。もちろん所属チームも大事ですが、一選手としては代表を目標にやってきた部分が大きかったんです。早い段階で代表に入ったこともあって、一度その世界を知ってしまうと、そこから外れることはすごく苦しくて。だからこそ、「もう一度代表でプレーしたい」という思いをずっと持ち続けていました。

ちょうど自分が移籍したタイミングでワールドカップの開催が決まり、「ワールドカップに行きたい」という気持ちも、移籍を決断した大きな理由の一つでした。もちろん、チームの優勝を第一に考えてプレーしていたことに嘘はありません。でも、心のどこかでは「代表に選ばれたい」「評価されたい」という気持ちがずっとありました。可能性が低くても、「厳しいな。でも行きたいな」と思い続けていて、その誰かに評価されたいという思いが自分の中では大きなプレッシャーになっていました。

でも、ワールドカップのメンバーが決まり、大会が始まった瞬間に吹っ切れたんです。自分が変わったのは、間違いなくこのタイミングでしたね。

中山:
なぜ、吹っ切れたのでしょうか?

高尾:
誰かに評価されるためにやるんじゃないと思えたからです。それまでは、「これをしたら、こう評価されるんじゃないか」「今ミスしたら、評価が下がるのではないか」というように、考えたくなくても頭に浮かんでいました。

でも、ワールドカップのメンバーが決まり、大会が始まった時点で自分は選ばれなかったんだと受け入れることができました。自分の負けを認められたという感覚に近いのかもしれません。

そこからは、「誰かのためにフットサルをするわけじゃない」「誰かの目を気にしてプレーする必要もない」と思えるようになったんです。自分が本当にフットサルをしたいチームで勝ちたい。そう考えられるようになった時に、すごく吹っ切れましたね。もう自由だという感覚でした。

中山:
純粋な動機に戻れたことで、高尾さんらしいプレーが自然と出せるようになってきた感覚なのですね。

高尾:
そうですね。自分的に一番良かった時期に戻れたとは思っていないのですが、一つ抜け出せたのかなとは思います。

【Code.2 - EMOTION】不安よりも、試合への期待───できる準備をやり尽くし、試合そのものを楽しむ

中山:
試合前や試合中に生じる「緊張」や「不安」という感情は、高尾さんにとってどのような存在ですか?

高尾:
「スイッチ」です。

中山:
「スイッチ」と表現されたのは、どのような理由でしょうか?

高尾:
女子フットサルは、バスケットボールやバレーボール、野球、サッカーのように毎週試合があるわけではないんです。試合がある週もあれば、何週間か空くこともあって、一定のリズムを保つのが難しいです。なので、モチベーションを維持するのも簡単ではありません。

一方で、一試合一試合が本当に大事ですし、一つ負けるだけで優勝から遠ざかってしまうような緊張感もあります。なので、試合が近づいてくると「あ、試合だな」と思うんです。私にとって、「あ、試合だな」という感覚が、普段の日常から試合モードへ切り替わるスイッチなのだと思います。

中山:
試合がある週とない週では、練習に向かう気持ちも変わってきそうですね。

高尾:
そうですね。監督が用意してくれる練習も、試合がある週とない週では内容が少し変わります。試合がある週の練習になると、「今週は試合があるな」と気持ちも高まっていくんです。どんどんモチベーションが上がっていって、最後の練習を終えた時には「次はいよいよ試合だ」と少しドキドキします。その感覚が、私にとってのスイッチですね。

中山:
選手によっては、試合当日までまったく緊張しない人もいますよね。高尾さんはどうでしょうか?

高尾:
私も、もともとまったく緊張しないタイプでした。でも、今振り返るとそれは子どもだったからなのかなとも思います。最初は、サッカーもフットサルも習い事でした。でも、大人になるにつれて、単なる習い事ではなく、プライベートの時間を削って人生を懸けてやっているものになっていきました。だからこそ、本気でやればやるほど、試合の重みを感じるようになり、緊張も大きくなっていく感覚があります。

中山:
試合だと感じることで、良い意味で少しドキドキして試合モードに切り替わる。その意味での「スイッチ」ということなのですね。

高尾:
そうですね。まさに私の場合は緊張や不安というより、「ドキドキ」や「ワクワク」に近いんですよ。もちろん、大きな試合の前には緊張もしますが、緊張によって不安になる感覚ではないんですよね。昔から、今さら緊張して不安になっても何も変わらんやろと思うタイプなんです。

いろんな選手の話を聞くと、「緊張はあった方がいい」「緊張は必要だ」と言うじゃないですか。なので、自分って変なのかなと思うこともあります。でも、今さら不安になったところで急に上手くなるわけでもないので、試合前はドキドキしながらもワクワクしている感覚ですね。

中山:
そのワクワクは、何に対するワクワクでしょうか?

高尾:
試合をすることが楽しみなんです。試合のために練習しているので、「どんな試合になるんやろう」というワクワクがあります。もちろん、不安がまったくないわけではないですし、本気になればなるほど試合の重みも感じます。でも、それ以上に試合をすること自体が好きなんです。試合まで二週間、三週間空くこともあるので、早く試合したいという気持ちの方が強いですね。

中山:
試合は、ご褒美のような存在なのですね。

高尾:
はい、そうですね。

中山:
不安になっても何も変わらないと思えるのは、もともと性格によるものなのでしょうか?それとも、これまでの経験を通して、考えても意味がなかったと感じてきたからなのでしょうか?

高尾:
もともとの性格のような気がします。昔から、緊張するタイプではありませんでした。

中山:
「今さら考えても何も変わらんやろ」というのは、試合直前や試合中の話にも聞こえました。一方で、試合前日や数日前なら、まだ準備できる時間はあると思います。その段階での不安はどうでしょうか?

高尾:
なるほど。でもそういう経験は本当にないですね。例えば前日に「やばいかもしれない」と思ったことはないです。

中山:
試合前日も当日も、不安な気持ちはあまり変わらないのですね。

高尾:
そうですね。もちろん、良い準備はしようと思います。ケアもしますし、食事にも気をつけますし、映像も見ます。できることは全部やります。ただ、前日になって「まだ何かできるのではないか」と焦るとか不安を抱くようなことはないですね。

中山:
明日うまくいかなかったらどうしよう、と考えることもなさそうですね。

高尾:
ないですね。うまくいかなかったら、「そういう運命だった」と思ってしまうんです。それまでの準備が足りなかったのであれば、そこからどう改善するか、試合の中でどう持ち直すかを考えます。もちろん、一発本番ではなくて事前にやるべきことはやりますよ。それでもできなかったなら仕方ないです。それも含めて実力だと思っています。

中山:
高尾さんからは、腹の底にある割り切りの良さや芯の強さを感じます。

高尾:
どうなんですかね(笑)。でも、スポーツ選手って緊張した時はこう考えて、こうコントロールして…というように自分の感情をすごく分析しているイメージがあります。私は、そんなの全然ないけど、大丈夫かな?と思っていました(笑)。そこまで深く考えていないんですよね。

中山:
高尾さんは、一般論から自分を当てはめて考える作業は、あまり必要ではなさそうに思えました。

高尾:
なので、自己啓発本などもあまり読まないです。読書は大好きですが、人の成功法則や人生論をまとめた本は、本当に読まないですね。


【Code.3 - COGNITION】経験の先にある自己表現───知識と本能を一つのプレーに収束する

中山:
高尾さんにとって、フットサルという競技はどのような「ゲーム」だと捉えていますか?

高尾:
「自分を表現するもの」です。

中山:
この回答には、どのような思いが込められているのでしょうか?

高尾:
記憶にないくらい小さい頃から、ずっとボールを蹴ってきました。フットサルという競技が、自分のすべてなんですよね。保育園や小学生の頃から、「サッカーやフットサルをしている高尾茜利」が自分そのものというか、自己紹介のような存在でした。周りから見てもそうですし、自分自身もボールを蹴っている自分という感覚が当たり前だったんです。なので、フットサルは自分を一番表現できるものだと思います。

一番得意なことでもありますし、一番時間をかけてきたことでもある。誰よりも頑張ってきたという自信を持てるのもフットサルです。自分を説明しようとすると、出てくるのは全部フットサルに関わることなんですよね。自分の性格が一番表れるのもフットサルですし、一番良かったことも、一番嫌だったことも、人生で印象に残っている出来事は全部フットサルです。だから私にとってフットサルは、自分自身を表現する場所です。一番素の自分が出る瞬間でもあります。

中山:
スポーツでは、その人の性格や価値観がプレースタイルに表れることもあると思います。高尾さん自身は、プレーを通してどのような自分が一番表れていると感じますか?

高尾:
「自分自身を表現するもの」と言いましたが、移籍してから性格が変わった気がしているんですよね。福井にいた頃は、とにかく負けず嫌いでした。誰にも負けたくないし、自分が一番点を取りたい、一番目立ちたい、一番活躍したい。そうした「自分が一番でありたい」という気持ちが、そのままプレーに出ていたと思います。

でも、日本代表を目指す選手が集まるチームに来て、代表で一緒にプレーしていた選手たちとも同じチームになって、上には上がいるということを実感しました。そこから、ピッチの外での性格も少し変わった気がするんです。

だからこそ、自分が一番良かった頃のプレーに、まだ戻り切れていないという感覚にもつながっています。少し控えめになったというか、誰にも負けたくないという気持ちよりも、「自分よりすごい人はたくさんいる」「自分は一番じゃない」という感覚が強くなり、それがプレーにも表れてしまっています。性格がそのままプレーに表れるというのは、本当だと思っています。

中山:
福井にいた頃の誰にも負けたくないという気持ちは、実際のプレーにどのように表れていたのでしょうか?

高尾:
それこそ、迷わずゴールに向かえていました。当時は今ほど経験がなかったので、判断材料も少なかったんです。他の選択肢を知らなかったからこそ、迷わずゴールへ向かえていた部分もあると思います。

それでも、自分が点を取りに行くという気持ちは、今と比べると強かったですね。当時のチームでは自分が一番年上だったので、自分が引っ張らないといけないという責任感もありましたし、勢いもありました。今振り返ると、あの頃のほうが良い選手だったと思うこともあります。

中山:
一方で、今は「自分より上の選手もいる」「自分は一番じゃない」という感覚が生まれました。その変化は、プレーにどのように表れていますか?

高尾:
今の自分は少し控えめなので、福井にいた頃なら迷わず仕掛けていた場面で、一度止まってパスを選んでしまうことがあります。以前ならダイレクトで振り抜いていたシュートも、一度コントロールして、なんとかきれいに決めようと考えてしまう。がむしゃらさがなくなったというか、少し大人になってしまったのは自分でも感じていますし、周りからも言われます。なので、昔の映像を見返して前はこんな感じだったなと確認することがあります。

中山:
変化がそのままプレーに表れているのですね。ただ、高尾さんはここからもう一段階アップデートしていくと思いました。福井時代に戻るというよりも、福井で培ったものと、西宮で積み重ねてきた経験の両方を持った高尾さんになれるのではないかと。そう考えた時、これからはどのような自己表現ができる選手になっていきたいですか?

高尾:
そうですね。もちろん、自分の武器である「ゴールへ向かう」という姿勢がなくなったわけではありませんし、今はいろんな選択肢や経験が増えたことで、少し迷いが生まれているというか、頭の中で混ざってしまっている感覚があります。

でも、西宮に来て積み重ねてきた4年間があります。福井にいた頃にはなかった知識も経験も得られましたし、それは選手としてキャリアアップするために必要な時間でした。だからこそ、その経験を持った上で、自分の武器を発揮できるようになりたいと常に思っています。

西宮で得た経験を土台に置きながら、自分の武器であるスピードをこのリーグで絶対的なものにしたいです。ちゃんと発揮できれば誰にも負けないと思っているので、自分が持っているものを最大限出せる選手になりたいですね。

中山:
移籍してから積み重ねてきた経験が、当初はもともと持っていた武器の上に重く乗ってしまっていたように感じます。ただ、今はその経験がようやく自分の土台になりつつあるのですね。

高尾:
そうなんです。でも、それをどうすれば発揮できるのかが難しいので今頑張っているところですね。

中山:
今は、実践の中で少しずつそのバランスを身体に染み込ませていく段階なのかもしれませんね。現在、高尾さん自身は、どのようなことに取り組んでいるのでしょうか?

高尾:
監督からは、とにかく「シュート数を増やせ」と言われています。ボールを持った時に、そこからどう運ぶかという過程を考えるのではなく、まずシュートを打つことを考える。そうすれば、自然と前を向くことにもつながるのではないかと、自分では解釈しています。ドリブルをすることや、一対一を仕掛けること自体を目的にするのではなく、シュート数を増やすことにずっと取り組んでいます。

中山:
結果として、それが自分の武器である「ゴールへ向かう」というプレーにつながっていくと期待しているのですね。

高尾:
そうですね。ずっと取り組んでいるテーマです。こうした部分を一つずつアップデートしていければ、チームの力にもなりますし、個人としてももう一度日本代表につながっていくと思っています。

【Code.4 - VISION】2029年への約束───今日の30分が、3年後の自分をつくる

中山:
この競技を続けていった先に、どのような状態や景色に辿り着いていたいと考えていますか?

高尾:
この競技に人生を懸けてよかった、やりきったと心の底から思いたいです。

中山:
人生を懸けてよかったと思えるのは、どのような状態なのでしょうか?

高尾:
それは、私にもまだわかりません。フットサルという、自分の日常の一部が終わる時が来ることを今は想像できないです。だからこそ、その時が来た時に「やってよかった」と思えたら一番いいなと思っています。

選手生活は、99%はしんどい時間だと思うんですよ。残り1%のために、苦しい時間を耐えているようなものです。なので、その1%を、もう1%でも増やしていきたいです。「続けてきてよかった」と思える瞬間を、一つでも多く残したいです。

中山:
いつか競技を終える時が来るとして「やり切った」と思うために、これだけは大切にしたいという価値観は何ですか?

高尾:
昨年、女子フットサルのワールドカップがありました。私はそこを目指してずっとやってきたのですが、いろいろあって自分の中ではやり切れませんでした。

高校生の頃から代表に入っていたので、代表から外れること自体が本当に悔しすぎて。これまでは、自分がメンバーから外れた大会の映像なんて見られなかったんです。でも、ワールドカップだけは見ることができました。それが、逆にすごく悔しかったです。

「なんで自分は選ばれないの?」ではなく、「もうこの場には、今の自分では立てない」と思ったんです。そこに立てるだけの努力ができていなかったと、自分で認めることができたというか。選ばれなかったこと以上に、悔しいと思えるほどの努力ができなかったことが、一番悔しかったんです。

女子フットサルのワールドカップが初めて開催されると決まった時から、そこを目標に努力してきたつもりでした。でも、自分の中ではやり切れなかった。なので、昨年のワールドカップを区切りに、現役を引退しようとも考えていました。ただ、悔しいと思えなかった自分が、一番悔しかったんです。だからもう一度、次のワールドカップを目指そうと思いました。今の自分にとって、一つの区切りは2029年のワールドカップです。

もちろん、その時に代表へ選ばれるためにやっていきますが、どんな状態でもやりきったと思える自分で終わりたいです。その目標や夢のために、自分ができる努力を最大限やり切ったと言える自分でいたいですね。

中山:
そう考えると、前回の「やり切れなかった」という経験は、これからの3年間に大きく活きてくる気がします。次のワールドカップまでの期間で、これだけは大切にしたいというものは何ですか?

高尾:
そんなに大きなことはないですが、日常の中で一日一つでも何かを続けるだけでも積み重なればすごく大きなものになると思っています。一日に数分でも、フットサルに向き合う時間を増やしていく。その積み重ねによって、3年後、4年後の自分はどうなっているのかを考えます。

「毎週パーソナルジムに通えばよかった」といった、一つの大きな取り組みの話だけではないと思っています。代表に選ばれている選手たちも、表に見えることだけをやっているわけではないと思うんです。実際にどのようなことを積み重ねているのかは分かりませんし、自分も代表にいた頃、まだ足りないところはたくさんありました。

だからこそ、ワールドカップの開催が決まり、移籍を決めたあのタイミングから、毎日あと30分でもフットサルに向き合う時間を増やせていたら、どうなっていたのだろうと今でも思います。これからは、一日一日、フットサルに向き合う時間を少しでも増やし、その積み重ねを大切にしていきたいです。

中山:
もし3年後のワールドカップで、高尾さんが代表選手としてピッチに立っているとしたら、その未来の高尾さんは今の自分にどのように声をかけると思いますか?

高尾:
「間違ってなかったよ」と言うと思います。今やっていることがすぐに結果に表れるわけではないですし、何かにつながっているのかも分からないじゃないですか。なので、「間違ってなかったね」と言っていてほしいですね。

中山:
自分を信じられるだけの日々を1日単位で積み重ねていくことが、ワールドカップに近づく可能性を高める、一番確かな方法なのかもしれませんね。

高尾:
そうですね。でも、何が正解か分からないまま続けるのは、結構怖いですよね。

中山:
正解が分からないまま続けることには、本当に勇気が必要ですよね。だからこそ、一日一日の積み重ねに意味があるのだと思います。今日お話を伺って、3年後の高尾さんがどのような選手になっているのか、本当に楽しみになりました。今日は貴重なお話をありがとうございました!

高尾:
ありがとうございました!


【After Dialog】
「迷わずゴールへ向かう」。一見すれば、プレースタイルを表すシンプルな言葉に聞こえる。しかし、その言葉の裏側には、経験を積んだからこそ生まれた迷いと、もう一度自分らしい決断を取り戻そうとする葛藤があった。他者からの評価を追い求め、自分の武器を見失いかけた時間。代表落選という現実を受け止め、自分は何のためにフットサルを続けるのかを問い直した時間。そして、「人生を懸けてよかった」と思える未来のために、一日一日の積み重ねを選び続ける現在。高尾茜利が目指しているのは、過去の自分へ戻ることではない。これまで培ってきた経験も、自分らしさも、そのどちらも抱えたまま前へ進むことだ。正解は、まだ誰にも分からない。それでも、自分を信じて積み重ねた時間は、いつか「間違っていなかった」と言える未来につながっているはずだ。

『Dialog Code』

答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
高尾 茜利(たかお・あかり)
1999年3月13日生まれ、福井県出身。
フットサル選手。SWHレディース西宮所属。

4歳で競技を始め、福井丸岡ラック(現・福井丸岡RUCK)で育った。2015年には、16歳でAFC女子フットサル選手権に臨む日本女子代表のメンバーに選出。ベトナム戦で得点を記録するなど、早くから国際舞台を経験した。2017年には第5回アジアインドア・マーシャルアーツゲームズに出場し、決勝でも得点を挙げるなど、代表の一員として存在感を示してきた。国内では福井丸岡RUCKの中心選手として長くプレーし、スピードを生かした突破力と得点力を武器に、日本女子フットサル界の第一線を走り続けてきた。2022年にSWHレディース西宮へ移籍し、攻撃を仕掛けるアラとしてチームをけん引。2026年6月には、女子Fリーグ史上初となるリーグ通算100試合出場を達成した。豊富な経験に裏打ちされた判断力と得点感覚を武器に、日本女子フットサルの発展を支える存在として活躍している。
【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。

JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。

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