Dialog Code
『「自分しか自分を助けられない」──プロサッカー選手として生き続けるための思考習慣』西村拓真 # Dialog Code
2025/05/13

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。自分自身と向き合い、考え、気づくこと——それが次のステージへ進む鍵になる。『Dialog Code』——アスリートたちの言葉から、その可能性を探るシリーズ。
今回登場するのは、西村拓真(プロサッカー選手・FC町田ゼルビア所属)。
さあ、彼の思考を紐解いていこう。
目次

1.自然に始まったサッカーと、厳しかった原体験
中山(Dialog Partner):
サッカーを始めたきっかけは何でした?
西村:
兄がサッカーをやってて、それについて行ってたのが始まりですね。3歳くらいの頃から一緒に練習を見に行ってて、気づいたら自分も自然に混じってやってました。だから本当に、気がついたらサッカーをやってたという感じです。
中山:
他のスポーツや習い事は?
西村:
全くやっていなかったです。小学校の時にソフトボールの大会に出たりはしたんですけど、習い事としてやっていたのはサッカーだけでしたね。環境的にも自然とサッカーをやっていました。
中山:
拓真さん(西村)がソフトボールを続けていた未来も、見てみたいですけど(笑)
西村:
僕自身も、野球とか他のスポーツをやってみたかったなっていうのはありますね。適正かどうかは分からないという点では、サッカーじゃなくてもよかったかもなって。個人スポーツの方が向いていた可能性あるよなーとか思います(笑)でも、サッカーは一度始めたらもう手放せなかったというか。
中山:
そう思いながらこれまでやってきたのは面白いですね。では、サッカーを始めて若い記憶で一番嬉しかった記憶は何ですか?
西村:
うーん…小学校の時、うちのチームは人数が足りなくて、11人いなかったんですよ。それで僕が友達に声をかけまくって、なんとか11人以上集めて試合に出られるようになって。やっとサッカーの試合ができるって、その時がすごく嬉しかったですね。大会に出てサッカーができてたことが嬉しかった。
中山:
サッカーをしてること自体が楽しかったのですか?
西村:
はい、ただサッカーをしてるだけで嬉しかったですね。あと、県トレセンやナショナルトレセンに入れた時も嬉しかったです。小学生の頃から目指していたので、「受かった!」っていう喜びは今でも覚えてます。
中山:
その時はまだ「個人スポーツの方が向いてる」とかは思ってなかった?
西村:
いや、全く思ってなかったですね(笑)純粋にサッカーだけを楽しんでいました。
中山:
何が楽しかったって覚えてますか?「あの瞬間、楽しかったな」っていう記憶。
西村:
やっぱり、ゴールを決めたり、自分が目立っている時が嬉しかったですね。親からは「一番になれ」ってずっと言われてたので。自分が活躍して目立っていると、「よし!」って思ってました。弱小チームでも、その中で自分が一番活躍してるって感じられるのが好きでしたね。
中山:
「1番になれ」という言葉は、子供ながらにどう感じていましたか??
西村:
嫌ではなかったですね。自然とその言葉が自分の中に入ってきてました。ずっと「上には上がいる」「絶対努力しないと勝てない」って言われ続けてたので、厳しい環境だったと思います。それが当たり前になってました。それでも、周りの環境に恵まれていたのは大きな財産でした。周りにサッカー好きな友達が多くいたので、声をかけてサッカーが一緒にできたことに、今ではすごく感謝しています。
中山:
環境はとても大切ですよね。聞いていると拓真さんからかなり声をかけていたようですね。集団競技も向いてそうですが(笑)
2.悔しさと自己評価、そして気づいた“ベクトルは常に自分”
中山:
では一方で、サッカーで一番悔しかった記憶ってありますか?若い頃の。
西村:
練習試合とかですね。僕らのチームって町クラブだったんで、グランパスと試合をしても、一つ下の学年としかやらせてもらえなかったんですよ。それで、その一個下のグランパスのチームにボコボコにやられて(笑)帰り道、泣きながら帰ったのを覚えてます。しかも親にもめちゃくちゃ怒られて、車に乗せてもらえなかったこともありました。
中山:
おお。何を怒られていたんですか?
西村:
とにかく「負けたこと」「自分の出来が悪かったこと」ですね。父は、普段は誰に対してもフレンドリーで僕の友達選手とも仲良くしているタイプで2日に1回は友達が家に来ては家族共々一緒に過ごすような人です。ただ、勝負ごとに関しては僕は常に厳しく言われてましたし、負け方についても指摘されていました。当時は、車に乗るのもすごく嫌でした。友達も僕が怒られているところが見たくないので、乗るのを嫌だと言うくらいでしたからね(笑)
中山:
それはいつ頃の話ですか?親の厳しさを感じていたんですね。
西村:
小学校5,6年生くらいだったと思います。でも、逆に言うとサッカーのことしか言われなかったんです。勉強しろとか、生活面については何も言われなかった。でも「うまくなるためには努力しろ」とは常に言われてました。すごくメリハリがあったなと思います。

中山:
その時の拓真さんは、親の厳しさをどう受け止めていたんですか?
西村:
恐怖でしたよね(笑)試合が終わって車に乗る時は、いつもビクビクしてました。でも、その経験があったからこそ、「今日の自分はどうだったのか」を自分でしっかり評価するというか、振り返る癖がついたと思います。
中山:
そのいわゆる自己分析の習慣は、その頃から?
西村:
はい。小さい頃から、試合が終わった後に「今日どうだった?」と聞かれることで自分で考える癖ができたと思います。いい意味でも悪い意味でも、自分自身をしっかり見つめることができるようになったと思います。でも今となっては、それが悪い方向に働くこともあるんですよね。
中山:
時には厳しすぎたり、自分に対して否定的になりすぎたり。
西村:
そうですね。トモさん(中山)と話してる時にもフィードバックがありましたが、必要以上に自分に厳しすぎる部分はあります。
中山:
こういった原体験で、形成された思考があるようですね。他に印象的だった言葉や、キャリアに影響を与えたフレーズは何ですか?
西村:
言葉か、沢山ありますけど…1つ選べと言われればやっぱり「ベクトルは常に自分」っていう言葉ですね。プロになってから刺さった言葉は、「他人の評価を自分がしない」っていうのもあります。
中山:
それはどういうことですか?
西村:
プロの世界で戦っている上で、他の選手のプレーを自分が評価している場合じゃないってことです。あいつは今日ダメだったとか、あいつのせいでとか、そういうことを言ってる暇があったら、自分のプレーに集中しないといけない。結局、他人は自分を助けてくれないので。
中山:
その考え方に気がついたのは、大きな分岐点に聞こえました。
西村:
そうですね。プロに入った頃は、まだ少し調子に乗ってた部分もあったと思います。他人を評価して、「あいつは〇〇だ」みたいな。でも、言っても何も意味ないし、誰も自分を助けてくれないってことに気づいて、「あ、これじゃダメだな」って思いました。
中山:
他人を評価するのではなく、自分にベクトルを向ける。
西村:
そう。「他人を評価しても意味がない、自分しか自分を助けられない」っていうのは、今でもずっと意識しています。当たり前ですが、自分のプレーが悪くて首を切られようが、誰も助けてくれないですよね。結局自分に集中していないと、サッカー人生が終わっていくだけ。ここに早く気づけてよかったです。もし気づけてなかったら、きっとプロとして10年も続けられてなかったと思います。

3.思考との向き合い方と、プロで生き抜くための“準備”
中山:
プロになって10年、大事な試合の前に考えることは何ですか?
西村:
うーん、やっぱりその時その時で感情も違うし、考えることも毎回違いますね。日々の感情に左右されることも多くて。
中山:
そうですよね。大事な試合って言っても、同じような状況にはならない。
西村:
そうです。試合の状況や、自分が置かれている状況や立場によっても全然違うので、毎試合毎試合、考えていることは変わってきます。
中山:
そこに対して、どのように考えていた、または向き合っていたか、を聞いても良いですか?
西村:
はい。自分一人で考える時は、明日はこうしようとか、イメージトレーニングみたいなことをよくしていましたね。頭の中でいろんな状況を想定して、起こりそうなことを沢山シミュレーションするんです。それを紙に書き出したりもしてました。
中山:
なるほど。かなり具体的に準備するタイプ。
西村:
そうですね。加えて、個人でサッカーの映像分析をしてくれる人も付けたりして、できる限りプレーを客観的に見ようとしていました。
中山:
自分で考えてきたことも多いと思いますが、自分以外の外部との対話を通して、工夫するようになったことや変化は何ですか?
西村:
一番は、「その時の自分をそのまま受け入れること」ですかね。トモさんとのセッションで学んだことでもありますけど、無理矢理ポジティブになろうとするのではなくて、今の自分の心理と思考の状態をしっかり分析して、理解して、それを受け止める。その上で、どういい方向に持っていくか?を考えるようになりました。
中山:
ポジティブな言葉を使って、無理矢理変えようとしない。
西村:
はい。以前は悪い状況や思考の時に、なんとか言葉で自分を無理矢理鼓舞しようとしてたんですけど、結局試合で何もできなかったり、ミスばっかりだったり…ってことも多かった。なのに、ポジティブに考えないと、前向きに捉えないと、と固執していました。、でもそれだとパフォーマンスに波のある選手になる。でも今は、違う対応の仕方を意識して取り組むことで、パフォーマンスの振れ幅が小さくなってきています。
中山:
無理矢理ポジティブに、というのは結構ありますよね。ある意味、筋肉痛に対してさらに自分から筋繊維を痛めにいく行為というか。感情や思考に関して、これも“技術”みたいな感覚でしょうか?
西村:
そうですね、まさに思考も技術トレーニングだなというか。Athdemyでのセッションを繰り返す中で、自分がどういう時にどう考えるかっていうのも、段々パターンが見えてきて。それに気づいて、どう調整するか。そこまで含めて技術的にやっていくことが大事かなと思ってます。
中山:
最近のセッションでも、拓真さんが自分で「こうなってる気がする」とか「このままだとこうなりそう」って言っていることがすごく印象的でした。
西村:
話してる中で自分でも「あ、今の俺こう考えてるな」って気づけることってあるんですよね。”自分を知れる”っていうのが、やっぱりあるのかな。対話しながら発展していくというか、言語化していく中で自分を知れる感覚があります。
中山:
まさに“自分を知れる”ってことなんですね。それは、簡単なようで一番難しいことかもしれません。
西村:
はい。自分のことを本当に理解するって、ずっとやっていてもなかなか答えが出ない。でも、繰り返していく中で、少しずつ見えてくるものがあるし、それをセッションという場で鍛えてる感覚がありますね。
4.「ただ純粋に勝ちたい」という思い

中山:
聞いていて思ったのですが、学生時代の「勝ち負けにこだわっていた時期」と、プロになった今の「勝ち負けへのこだわり」って、感覚的に何か違いはありますか?それとも、意外と変わらないですか?
西村:
現象として起きることは違いますけど、僕の中では感覚は同じです。プロになれば、成績として勝てばお金が入るとか、自分の評価が上がるっていうのはありますよね。でも、高校の時も、目の前の試合に勝ちたいという気持ちは同じだったし、今も「ただ純粋に勝ちたい」という思いは変わっていないですね。優勝したい、ということしか考えていないですしそこは変わらないところです。
中山:
プロとしての報酬や評価などは違えど、根本にある気持ちは変わっていない。
西村:
そうですね。僕、今も独り身なので、守るものとかがあるわけではなくて、ただただ「上手くなりたい」「勝ちたい」「より上に行きたい」という気持ちしかないですね。サッカー少年のままです。
中山:
本当に純粋な動機ですね。
西村:
サッカーに対しては、常に真摯に向き合っていたいと思っています。
5.中高生へのメッセージ
中山:
では最後に。今、例えば中学・高校で頑張ってるけど、「周りと比べて自分は全然上手くないな…」とか「頑張っているのに伸びてる感じがしない」って感じてる子どもたちに、何か伝えたいメッセージはありますか?
西村:
いや〜...そう思うことってありますよね。やっぱり、苦しんでいる人には「今目の前で起きていることに左右されるな」と伝えたいです。気持ちはすごく分かるんですけど、そこに左右されてしまうと、ブレやすくなると思います。
中山:
今の自分に対する評価で、ブレてどうするんだと。
西村:
そうです。自分が最終的に「どうなりたいか」をしっかりイメージして、そこから逆算して自分に厳しくしていってほしい。気持ちはわかります、難しいのも分かります、僕も当時本当にそう感じていたし思っていましたから(笑)。それこそ、僕はアンダー世代の代表なども1回も選ばれていないので、いわゆるエリート街道を歩んできた選手ではありません。でも、目の前の失敗とか、周りとの比較とか、トレセンに落ちたとか、いろんなことがあると思いますが、それらはあくまで全てが通過点。自分だけは、自分の可能性を信じてあげてほしいです。
中山:
僕の話になってしまいますが、僕もJFAアカデミー時代に自分には才能がないとか、周囲から評価されないとかで結構落ち込んでいました。でも、まさに、「自分が一番、自分を見捨てているな」って当時気がついたんですよね。
西村:
すごく共感します。やっぱり自分自身を信じられるかどうかって、すごく大きいですよね。あと、「最終的に、俺はこうなる」という芯だけは持って欲しいというか。僕も、誰よりも自分を信じていなかったら、今こうしてサッカーを続けられてなかったと思います。
自分の未来を変えられるのは、結局自分しかいないし、周りに上手い選手がたくさんいたって、自分の芯がブレなければちゃんと前に進めると思います。
中山:
当時の自分に、これを聞いて欲しかったです。拓真さんのその姿勢や考え方は、プロになった今も大切にしているんですね。
西村:
プロになってからは、誰も何も言ってくれなくなるんですよ。周りの選手も当然自分のためにやっているし、指導者がわざわざ声をかけてくれる機会も減るし、自分で考えて、自分から動かないと何も変わらない。だからこそ、自分が変わるには貪欲さを持ち続けるしかない。色んな人にも話を聞きにいくべきだし、自分を知ろうとする姿勢も本当に大事ですよね。
中山:
それは、競技面だけでなく日々の思考や行動にも言えることですよね。
西村:
はい。僕は、何かを吸収できるなら全て吸収するっていう姿勢でいます。そのためにも、目的と手段を間違えないようには意識しています。やること自体が目的になってしまわないように、「何のためにやっているのか」を常に問い直すようにしています。
中山:
拓真さんのその目的に忠実な姿勢があるからこそ、今までプロとして長く続けてこられたんだろうなと感じました。今日は、改めてお話を聞かせてもらえてとても良かったです。ありがとうございました!
西村:
こちらこそ、ありがとうございました!

答えは、すぐには見つからないかもしれない。
それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。
思考を解き明かす対話は続く。
『Dialog Code』——次は、誰の思考に触れようか。
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