株式会社Athdemy(Athdemy Inc.)

Dialog Code

『プライドの応酬──正解のない世界で、最高の自分を提示し切る』半井彩弥 # Dialog Code 

2026/04/29

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」

『Dialog Code』

強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。


今回登場するのは、

半井彩弥 (ブレイクダンサー・株式会社アントレックス所属)

【Before Dialog】
ブレイキンという、音楽・身体・精神が極限で交錯する表現の世界において、半井彩弥が見せるムーブは、スキルの羅列だけではない。彼女の踊りが放つ圧倒的な「陽」のエネルギーは、観る者の心に直接火を灯すような、抗いがたい引力を持っている。10歳からこの世界に身を投じ、常に先駆者として道を切り拓いてきた彼女が語る「無敵無双」の境地。それは、緻密な準備によって「不安」を「緊張(ワクワク)」へと変換し、思考と身体が完全に一致した瞬間にのみ訪れる、純度の高い没入状態だ。かつては「結果」という外的な評価に翻弄され、自分を見失いかけた時期もあった。しかし彼女は、結果を「自分を知るための資料」と再定義することで、矢印を再び内側へと向け、踊ることの本質を取り戻した。勝負を「Pride vs Pride」と呼び、相手を否定するのではなく、互いの「プラス」を積み上げ合うブレイキンの美学。自らを「踊るパワースポット」と称し、違いをリスペクトするカルチャーの先に「世界平和」という壮大なビジョンを見据える。その指先一つ、ステップ一つに込められた、しなやかで強固な哲学の深層は何か。さあ、彼女の思考を紐解いていこう。

【Code.1 - STATE】思考判断と動作の一致──即興性の中で精度を保つ

中山:
試合中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、もしくは短い文章で表すとしたら、どのような言葉になりますか?

半井:
「無敵無双」です。

中山:
具体的に、身体の感覚はどのような変化が起きているのでしょうか?

半井:
ものすごくフロー状態になっているというか、頭で考えた上で動くというよりは、考えと身体の動きが完全に一致している感覚があります。練習や大会のあとに『今日は一生踊れそう』と思えるほど、自然体で動けています。単にラフに踊っているということではなくて、「こうだと思ったものが、こうなる」という感覚です。どちらかが先行されているわけではなくて、頭と身体が一致している状態が生まれています。 なので、「こうしよう」という判断と身体がマッチするというより、同時に起こっている感覚なのかなと思っています。

中山:
ブレイキンは音楽が流れている競技ですが、感覚としては「踊っている」のか「音に乗っている」のか、どちらに近いのでしょうか?

半井:
その時にかかる音楽に対して、踊り方や表現するニュアンスは自然と変わるタイプです。反対に、うまくいっていない時はすごく違和感があります。どんな音楽がかかっているか分かっているのに、動きがついてこないというか、「ハマっている」感覚がないんです。ミスをしているわけでもなく、練習通りのことをやれているけれど、踊っている実感がない状態に落ちる時があります。そうなると「無敵無双」ではありません。

必ずしもすべてが当てはまるわけではありませんが、自分の放ったものがすごくフィットした時は楽しさや気持ちよさがありますし、「今、めっちゃ乗っているわ」と感じる時のパフォーマンスには、大体良い反応が返ってきます。ダンスの会場は、お客さんが声を出したり拍手を送ったりできる環境なので、やはり良いパフォーマンスには良い反応が返ってくるとすごく感じますね。

逆に「何かかましてやろう」と思った時は、 かましたつもりでも自分でも手応えがない瞬間もあります。ちゃんと自分も楽しめて、動きと身体が「無敵無双」の状態に入った時こそが良いダンスに見えるので、良い反応も返ってくるのだと思います。

中山:
周囲の反応はパフォーマンスに影響するのでしょうか?

半井:
特に私は影響します。ブレイキンの中でもいろいろなダンススタイルがあって、大技を決めたら人間は「すごいな」と思う生き物なので、自然と反応が出やすかったりします。逆に細かい動きが得意で、着実に点を重ねるタイプの人もいます。大会で面と向かって相手とやり合う一回の出番を「ワンラウンド」と言いますが、私の踊り方はワンラウンドの中でじわじわ詰めてジャブを打つタイプというより、3つか4つの見せ場がある攻め型です。その分、反応してもらえたら嬉しいなと思います。

感覚の話なので目に見えるものではありませんが、無双状態に入った時は、たとえ良い反応が分かりやすく返ってこなくても、「今日は会場が味方な気がする」という感覚がして気持ちいいんです。理由は分かりませんが「気持ちいいな」と思えている時はあまり余計なことを考えず、その時に出たパフォーマンスにハマっている感覚です。

中山:
半井さんのダンスの場合は、いくつか見せ場があるスタイルだというお話がありましたが、技を出すタイミングの判断はその場でするのでしょうか? それとも自然に出てくるのでしょうか。

半井:
トーナメント制の大きな大会になればなるほど、踊る回数が多くなります。そうなると、全てを100%フリースタイルで臨むのはかなり難しいので、ある程度戦いに合わせたなんとなくの枠組みは作っています。その上で、かかった音楽など、その場にしかない生のものに合わせて少しずつ組み替えたり、もともとやろうと思っていたことを一気に変える判断をします。

ワンラウンドの中の話で言えば、ガチガチに枠組みを固めてはいないので、曲によっては「ここで音ハメが来る」というポイントを狙うこともあります。でも、用意してきたまま出してしまうと逃したり間に合わなかったりするので、フリースタイルな部分を作ったり、逆に削って間に合わせたりなど調整しています。あとは、もともとある構成にその場でひとつ足すといった判断をすることもありますね。

中山:
では、「無敵無双」状態になるためには、どうしたらよいのでしょうか?

半井:
私は18年間ダンスをやってきていますが、まだ確実に「これ」といったものがないんです。例えば、何も用意していなかったり、枠組みを20%ほどしか決めていない状態で臨んでうまくいった大会もあれば、逆に20%で臨んでしまったことによって、頭の中が真っ白になってしまった時もあります。たまに、決勝までを見据えて「このセットで行く」と決めてものすごく練習して、「これだけ練習したから大丈夫」と思って迎えても、逆にそれに囚われすぎて思いっきり踊れず、自由が利かなくなることもあります。

ミスをせず練習通りにできているのに全く楽しくない時もあれば、練習のおかげですんなり動ける時もあるのですごく難しいんですよ。正直、自分の中でもまだ正解を見つけられていません。ただ、一番ベストな状態なのはその中間だと思っています。動きがちゃんと身体に入っている状態で、それに縛られすぎず自由に踊れる余裕がある。その瞬間が一番「無双無敵」状態に入れるのかなと思っています。

中山:
おそらく、絶対に「ハマる」というベースはなかなか作れないのでしょうね。

半井:
そうですね。本当に生ものすぎて。他のスポーツもそうですが、例えばサッカーなら相手ありきで 、傾向はつかめても絶対にその動きをやってくるというわけではないので、その場での判断が必要ですよね。ブレイキンも同じで、練習してきたものを100%出せるとは限らないし、相手が想像以上にかましてきたら、それを超えるパフォーマンスを上乗せしなければならない瞬間が出てきます。なので、本当に「絶対」というものが存在しないんです。

いかに自分がその日のフロー状態に入れるか。無理をせず、その場を楽しむ余裕がある状態になれていればいいのかなと思います。でも、正解がないからこそ面白いのだと思いますし、自分のレベルが日々変動する中で、昔と今ではまた感覚が変わっているのだろうなと感じています。

中山:
無敵モードは、スキルの高さからくるものなのか、マインドによるものなのか、どちらが大きいのでしょうか?

半井:
もちろんスキルの高さや、「私が一番最強やから」というマインドに持っていくこともありますが、結局どれだけすごい技を持っている人でも、本番で100%、120%の力を出せないと最強にはなれません。ブレイキンの特性として、いっぱい回れば絶対に勝てるわけではなく、決まった難度点がないのがポイントです。

私は女性選手があまりやらないようなダイナミックな繋ぎや技を武器にしていますが、パッと見では気づかないような細かい動きまで洗練された人と戦う時は、本当にどちらに転ぶか分かりません。なので、無敵なのはやはりどちらかといえばマインドの部分ですね。自分自身がここまで磨き上げたものだから、「最強だ」と思えるかどうかだと思います。

中山:
スキルとマインドの掛け算ながらも、マインド面はやはり大きい要素なのですね。

半井:
そうですね。どこかに不安要素があると、思い切りパフォーマンスを出せなくなってしまいます。

【Code.2 - EMOTION】「結果=ダンスの価値」からの脱却──矢印が変わった時に始まる自己対話

中山:
試合前や試合中に生じる「緊張」や「不安」という感情は、半井さんにとってどのような存在ですか?

半井:
どちらも「挑戦している時」に現れる存在です。緊張は、その瞬間に集中している時に出る良いものであり、逆に不安は、準備不足な時に現れる存在だと思います。

中山:
緊張と不安を明確に分けていると思いますが、自分の中ではどう線引きされているのでしょうか?

半井:
どちらも「慣れていない何か」に対して感じるものだと思っています。でも、どちらかというと緊張は良い場面で出てくるイメージがあり、不安はネガティブなイメージが自分の中にあります。

緊張している時は、必ずしも良くない結果が待っているというよりは、それだけ集中しているから出るものというか。自分がやってきたものを「ここで100%、120%出すんだ」ということに対して、もはやワクワクしている感覚に近いです。不安は、「練習してきたけれど、本当にここで出せるだろうか」という感情です。そう思うということは、どこかに準備不足があるんですよね。

分かりやすく言うと、新しい「アヤネスペシャル」を出す時に「緊張するな」と感じるのは、「ここで出すぞ、どうなるんやろ」という、技を初めて出せることに対してのワクワクが勝っている状態です。逆に「不安やな」と思う時は、まだ技が完全に完成していなかったり、出し切れない何か不安要素が残っている感覚です。

中山:
半井さんはこれまで数々のステージに立たれてきましたが、緊張や不安とはどのように向き合ってこられましたか?

半井:
ブレイキンを始めてからすぐ大会やイベント、ショーの案件に出ていましたが、どちらかというと、昔の方が「無敵」だった気がします。失うものもなく、とりあえず「私のことを知ってもらいたい」という気持ちが強かったです。性格的に目立ちたがり屋なのもあって、「今日こそ絶対に爪痕を残したい」という、何の根拠もない自信に溢れていました。周りからどう見られるのかという緊張感はあっても、あまりいろいろなことを考えずに、純粋に「やってきたことを出し切るぞ」というテンションでしたね。

中山:
そこから経験を重ねていくうちに、どう変化していったのでしょうか?

半井:
結果がついてくるようになったり、いろんな人が自分のことを知ってくれるようになると、フェーズが変わりました。ただ踊るだけではなく、「この結果が次のステップにつながる」と思うようになりました。例えば、オリンピックの期間なら「この大会の結果でオリンピックへの道が続くかどうかが決まる」といった状況になると、先のことを考えてしまうんです。

「失敗したら負けるだろうな」「負けたらこれで終わるな」といった「たられば」の不安要素が入り込んで、純粋に踊るだけでは済まなくなってしまいました。周りの見られ方を気にしたり、「応援してもらっているから勝たなきゃ」と結果に振り回されたり、練習はしているけれど「うまくいかなかったらどうしよう」という感覚に陥ることが増えていった印象ですね。

中山:
「見てほしい」という純粋な意欲が、いつの間にか「見られている」という重圧や評価への不安に変わっていったのですね。その変化に対してどう向き合い、消化してステージに立てるようになったのでしょうか?

半井:
最初は本当に振り回されていました。負けるたびに気持ちが下がって、毎回食らってしまっていましたね。 私は10歳からブレイキンをしていますが、当時はまだ競技人口も少なくて、特に女の子のキッズダンサーは少なかったので、何をやっても評価されやすかったんです。そこから人口が増えて、ライバルと比較される対象が少しずつ出てくると、最初は「なにくそ」とパワーに変えられていたのですが、ある時から「決まった人にどうしても勝てない」といった傾向が出始めたんです。そうした時に、勝手に人と比べて自信をなくす負のループに入ってしまったんです。特に Road to Paris 2024(パリオリンピック)を目指していた期間は、その傾向が強かったですね。

そんな時、チームジャパンのコーチや、今までずっと応援してくださっている方たちが、「確かにシビアな世界だけれど、一回の結果であなたのダンスの価値が落ちるわけではないよ」と気づかせてくれたんです。そこで勝手に落ち込んでダンスに向き合わなくなれば、本当に自分の価値は下がっていくけれど、今回の結果はあくまで「参考」にするものであって、自分のダンスが根本から否定されたわけではない。そう気づかせてもらったことで、ようやく矢印を自分に向けられるようになりました。

中山:
評価と価値が分離され、正しく自分に矢印が向くようになったのですね。そのことは実際にご自身にどう作用しましたか?

半井:
周りと比べるのではなく、「前回大会の自分よりここが良かった」「今回負けたのはここが足りなかったからだ」と自分の成長に目を向けられるようになってきました。もちろん結果に対して悔しいと思うことは今もたくさんありますが、「この結果を踏まえて次に繋げよう」という切り替えがだいぶできるようになりました。 あと、良い意味でみんな思っているほど私のことを見てないというか、「負けたら誰も応援してくれなくなるんじゃないか」と究極まで考えてしまったこともありましたが、応援してくれる人は誰かと比べて私を見ているのではなく、私単体のダンスや活躍を楽しみにしてくれているんだなと気づいてからは、向き合い方がだいぶ前向きになりました。

中山:
踊る楽しさから期待への責任や比較へと移り、苦しんだ時期を経て、「結果=ダンスの価値ではない」という気づきに至ったのですね。結果を自分を知るための資料として捉え、矢印が他者から自分に向いたことで、「もっと上手くなりたい」という純粋なベクトルに戻れたということですね。

半井:
本当におっしゃる通りです。

中山:
アスリートはどうしても結果で判断されがちですが、自分が120%出しても相手がそれ以上なら負けますし、逆に70%の出来でも勝ててしまうのが勝負の世界です。コントロールできない「結果」ではなく、自分の「成長」に指標を置いたことが、パフォーマンスの安定に繋がっているのかもしれませんね。

半井:
まさにそうです。結局、結果は自分が決めるものではなく、人が決めるものですから。自分が120%の力を出しても負けてしまう時はあるので、「だったら毎回100%出そうよ」という考え方に変わりました。結果のために踊るのではなく、自分が「やりきった」と思えるところまで踊りたい。 昔は、負けた事実が悔しかったですが、最近は「もっと踊りたかった」という理由で悔しさを感じることが増えました。あんなに準備して、披露したいものがたくさんあるのに、途中で負けるとフィールドに残れず、それを披露する機会を失ってしまう。今は「もっと見せたかったのに」という悔しさのほうがものすごく大きいですね。

中山:
そう聞くと、昔の「もっと見てほしい」という感覚に近くなってきていますね。

半井:
そうですね。だから「次は絶対やりたい、一回でも多く踊れるように勝ちたい」という感覚なんです。

中山:
勝つことが目的というより、自分をもっと見せるために勝つ。その目的の変化が、今の半井さんを突き動かす大きな要素なのですね。


【Code.3 - COGNITION】「Pride vs Pride」──異なるスタイルが優劣ではなく表現量でぶつかる

中山:
半井さんにとって、ブレイキンという競技はどのような「ゲーム」だと捉えていますか?

半井:
「Pride vs Pride」です。正解がなく絶対もない。だからこそ、PrideとPrideをぶつけ合える「上げ合い」のゲームだと思います。

中山:
ブレイキンでの「プライド」を分解すると、具体的にはどのような要素で構成されているのでしょうか?

半井:
先ほどの話とも重なりますが、踊る理由もスタイルも人それぞれです。「自分の身体を使って何を表現したいか」は、本当にダンサーによって違います。もちろんバトルという場に立つからには、勝ちたい気持ちはゼロではありませんが、「なぜ勝ちたいか」という部分も人によって全く異なるのかなと思います。

私の場合、今の自分の100%を皆さんに届けたい、最大限の自分を出し切りたいという気持ちがすごく強いです。そして出し切ることで、見ているお客さんや応援してくれる人にパワーを与えたい。それがバトルのたびに掲げている大きな目標です。「あやねちゃんのダンスを見ると元気をもらえる」と言っていただけたり、結果を残せた時に「感動した」という声をいただくことが多いので、自分のダンスは人の感情を揺さぶり、影響を与えられる表現なんだと気づかせてもらいました。だからこそ、これからもパワーを与え続けることが私のプライドです。

私らしいパフォーマンスを全開にすることで初めて元気を与えられるので、「勝っている私」からパワーをもらっているのではなく、「私のダンス」からパワーを受け取ってくれていると思うんですよ。だから、「自分らしいパフォーマンスを全開にする」という目標がありながら、相手がどれだけかましてこようが「私はこれで戦う」という信念をぶつけるんです。

中山:
相手もまた、異なるプライドを持って立っているわけですね。

半井:
そうですね。相手もパフォーマンスを通じて叶えたい夢やビジョン、譲れないスタイルといったプライドを持って戦っていると思います。レベルの高い大会になればなるほど、まさに「Pride vs Pride」だなと感じます。それがこの業界の面白いところで、お互いをリスペクトしているからこそ成り立つんです。相手のプライドに対して「私の方が」みたいな気持ちはありつつも、「プライドの強さは私の方が強いぞ」といった気持ちです。

相手の踊り方や表現を否定するために負かすのではなく、「あんたのその素敵なプライドに対して、私はこのプライドで打ち勝ってやるよ」という感覚です。お互いに良いところを出し合う、「上げ合い」に近いですね。

中山:
勝負と聞くと「どちらが優れているか」という序列の争いを想像しがちですが、半井さんのお話は「自分自身の誇りをいかに100%提示できるか」という戦いのように聞こえます。ブレイキンはもともと喧嘩のような文化から始まっていると理解していますが、現代ではその質が変わってきているのでしょうか?

半井:
「こっちの方が上だ」という気持ちも、もちろんゼロではありません。特に自分とスタイルが近い相手だと意識することもあります。先日行われた第7回全日本ブレイキン選手権の決勝で、オリンピック日本代表のAYUMIさんと対戦したのですが、彼女と私のスタイルや踊り方は、何もかも真逆なんですよ。なので比較ではなく、いかに「自分らしさ」を出せたかの勝負になります。

もちろんミスをしないといったことや、練習したものを100%発揮するのもそうですが、そこにどれだけの「思い」を乗せて、どちらがより自分らしく踊れるかだと思うんですよね。全く違う者同士が戦う世界なので、ジャッジも相対評価ではありますが、「どちらがその項目に対して自分らしさを体現できていたか」を見ている部分もあると思います。

中山:
例えばサッカーのような競技でも、対峙した瞬間に相手の「気迫」や「意志」を感じることがあります。ブレイキンにおいて、プライドがぶつかり合うのを最も感じるのはどんな瞬間ですか?

半井:
言語化するのは難しいですが、ステージに立った時にパッと相手を見た瞬間に分かりますね。「めっちゃ気合い入ってるな」とか、逆に「少し不安そうだな」「自信なさそうだな」というのを感じる瞬間があるんです。なので実際に結果が出るまで分かりませんが、相手に少しでも不安が見えた時点で、「これは勝てる」と確信することもあります。それは技術の差ではなく、感情の部分で「私は負けていない」という気持ちになれるからです。逆に、相手の目線やオーラがすごかったら、少し引いてしまうこともあります。そういう時は、もともとやろうとしていたことを変えて、相手が持っていない自分の必殺技で攻めようと判断を変えたりします。

中山:
「Pride vs Pride」という話があったと思いますが、上に進むほどに競争率は高くなっていきますよね。「リスペクト」と「競争」はなぜ共存できると思いますか?

半井:
相手ありきではありますが、まず「自分」なんですよね。自分がその瞬間やろうと思っていたことや、自分を出し切れるかということがファーストに来るからです。 競争と聞くと、言い方は変ですが、相手の足を引っ張ったり、「負かすためにどう意地悪をするか」という戦略的なところも考えがちです。ですがブレイキンは上に行けば行くほど、どれだけマイナスが大きいかというより、どちらの方が加点が大きいかという見方が多いです。マイナスの量で戦っているのではなく、プラスの量で戦っているので、リスペクトと競争が共存できるのだと思います。

だからこそ、勝利できたらものすごく嬉しいんですよ。 自分の力を出し切った上で、結果がついてきた感覚なので。結果は人が決めるもので自分で操作できないので、そういった意味では踊れた時点で自分的には割と気持ちよくなっているのですが、それに結果がついてきたらすごく嬉しいです。逆にすごく出し切って結果がついてこなかったときはすごく悔しいですが、相手に対して怒りが生まれるわけではなくて、「これだけやっても勝てなかったか」という悔しさです。

中山:
「マイナスではなくプラスの量で戦う」という表現は、非常にしっくりきました。相手を削って自分の相対的な勝率を上げるのではなく、お互いが100%を出し合って、加点して、より高い地点へ行った方が勝つ。終わった後の清々しさは、そこから来ているのですね。

半井:
本当にそうです。もちろん大会によっては一勝が大きい瞬間があるので、 必ずしもずっといい人であるとは限りません。相手の調子が悪い瞬間に対して「ラッキー」と思ってしまう瞬間ももちろんあります。でも気持ちのどこかで、相手がベストな状態で勝っていたら「もっと気持ちよかったな」と思うこともありますね。



【Code.4 - VISION】違いが価値になる世界──ブレイキンが示す共存のカルチャー

中山:
この競技を続けていった先に、どのような状態や景色に辿り着いていたいと考えていますか?

半井:
人と違うことが素敵で、違うもの同士をリスペクトし成り立つカルチャーであるブレイキンを、日本全国、そして世界に広げていきたいです。今は考え方の違いなどから戦争や争いごとが起こっているので、ブレイキンのカルチャーが広がれば、考え方や価値観が違うことは決して悪いことではないし、「私はこう考えるけど、そんな考え方あるんだ、おもしろいな」と受け止められるような世界が生まれて、最終的に世界平和につながるのではないかと思います。

中山:
「違いをリスペクトできる世界」という答えには、単なるダンスの枠を超えた思いを感じます。具体的にどのようなシーンをイメージされているのでしょうか?

半井:
今、世の中では戦争などが起きている状態ですが、宗教などが絡んでいたり、あるいは「私はこう思います」という考え方がぶつかった時に、「私の方が正しいんだ」と思い込んでしまうことがあると思います。良し悪しを決めるべき瞬間であればいいんですけど、あるトピックに対して「私はこう思うんですよね」と言った人がいるのに対して、「それは間違っているよ。だってこう思うから」というように、お互いにとっての正解があります。それをどちらかが大きく否定してしまうことによって、話し合いでは収まらずに戦争が起こってしまう。こんなに簡単な話ではないのは分かっていますが、根本的なところは同じだと思っています。

考え方の違いを理解はできなくても、「そういう考え方があるんですね、じゃあどうしましょうか」とお互いが寄り添ったり、相手を下げるのではなく、お互いのいいところを集めて一つにするなど、その様に繋がればいいなと思います。お互いのプライドや踊る理由が全然違う中で戦って、終わった後に勝ち負けがつきます。でも、「あんたのそのカッコよさに、また負けてもうたわ!次は絶対負けへんで」と思える感覚があるんです。レベルが高くなればなるほど、違いがあるからこそ面白い瞬間が生まれるんです。

「人と違うからダメ」ではなく、むしろ「人と違う考え方だからこそ面白い」と思えるのがブレイキンの世界なんです。「こうしなきゃいけない」ことはないので、こういう考え方が広がれば、考え方の違いによる戦いはどんどん減っていくのかなと思います。それが最終的には世界平和につながる感覚です。私が生きている間にそんなことができるか、そんなにライトな話ではないのも分かっていますが、ちょっとでもそのきっかけになればいいなと思っています。

中山:
「違うことが面白い」と身に染みて感じている半井さんだからこその視点ですね。ブレイキンを広めていく中で、半井さん自身はどのような存在でありたいですか?

半井:
私は、自分のパフォーマンスで人に元気を与えたり、誰かの活力になりたいです。自分のことを「踊るパワースポット」と言っているんですけど、自分が踊れば人がハッピーになる。そんな存在を目標にしています。

そういう存在になるには、人を常に否定したり、何でもかんでも「これが正解だ」と自分の考えを植え付けるような人間では、絶対にパワーは伝わらないと思うんです。だから自分は人の意見に対して「あなたはそういう風に考えるんや、自分にはなかったから面白いな」という気づきにしていきたい。気づいて学んで、それを自分なりにどう落とし込むか考えて、またパワーに変えて人に与えたいです。「発電機」みたいな感じですね(笑)。

自分と違うものがゴロゴロ転がっているこの世界で、それを拾い上げて「こういうのもあるよ」と言えるような、存在感のある人間でありたいです。「こいつを通したら全部ポジティブなパワーに変わるやん!」と思われるような存在でありたいですね。

中山:
相手を否定して自分の正しさを証明するのではなく、互いのプライドをぶつけ合って高めていく。ブレイキンのあり方は、今の時代にこそ必要な、しなやかな強さだと感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました!


【After Dialog】
半井彩弥が語る「無敵無双」の正体とは、単に試合に勝つことではなく、自分という存在を100%提示し切る「自己表現の極致」に他ならない。彼女にとって、結果はダンスの価値を決めるものではなく、次の成長へと繋げるための「資料」へと昇華された。このパラダイムシフトこそが、重圧を推進力に変え、彼女を再び「踊る楽しさ」の原点へと連れ戻したのだ。ブレイキンを「Pride vs Pride」の加点ゲームと定義する彼女の視線は、もはや競技の枠組みを越え、社会のあり方そのものへと向けられている。相手の足を引っ張るのではなく、互いの個性を最大限に発揮し合い、その「違い」を「面白さ」として享受する。その調和的な戦い方は、価値観の対立に揺れる現代社会において、一つの希望の光として機能するだろう。「自分を通せば、すべてがポジティブなパワーに変わる」。そう言い切る「発電機」としての覚悟を胸に、彼女は今日もステージに立つ。半井彩弥が描き出す「違いが価値になる景色」が、日本、そして世界へと波及したとき、私たちはブレイキンというカルチャーが持つ本当の意味での「無敵」さを知ることになるかもしれない。彼女が放つポジティブなエネルギーは、これからも多くの人の心を揺さぶり、世界をより鮮やかな色に塗り替えていくに違いない。

『Dialog Code』

答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
半井 彩弥(なからい・あやね)
1997年11月26日生まれ、大阪府出身。
ブレイキンダンサー。株式会社アントレックス所属。

6歳からダンスを始め、10歳でブレイキンと出会う。B-girl AYANEとして活動し、実兄であるB-boy Shigekix(半井重幸)と共に、日本のブレイキンシーンを牽引する存在である。プレースタイルは、女子選手としては稀有な、パワフルでダイナミックな技の繋ぎを武器とする。身体能力の高さを活かした大技だけでなく、音楽に細かく合わせる「音ハメ」や、独創的なフリーズ(静止動作)を織り交ぜた、爆発力のあるパフォーマンスが持ち味。関西外国語大学時代の2019年には、第1回全日本選手権で優勝。翌年には商社に勤務しながら、世界最高峰の大会で4強入り。2021年には、アジア競技大会の日本代表に選出され、「Red Bull BC One World Final」への出場など、国際舞台でも豊富な実績を誇る。競技者として勝利を追求する一方で、ダンスを通じた自己表現や、他者とのリスペクトを重視する独自の哲学を持ち、カルチャーの体現者として世界中にエネルギーを与え続けている。
【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。

JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。

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