Dialog Code
『構造を捉え、心理でも勝つ──勝者の知性』三浦成美 # Dialog Code
2025/12/17

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。自分自身と向き合い、考え、気づくこと——それが次のステージへ進む鍵になる。『Dialog Code』—— アスリートたちの言葉から、その可能性を探るシリーズ。
今回登場するのは、三浦成美(プロサッカー選手・Washington Spirit所属)。
さあ、彼女の思考を紐解いていこう。

1. “何もしていない”の正体──自分だけの役割
中山(Dialog Partner):
三浦さんがサッカーを最初に始めたときの景色を教えてください。
三浦:
始めた日とかは覚えてないんですけど、兄がサッカーをやっていて、その練習についていった端っこでボールを蹴ってた、みたいな景色はなんとなく覚えています。
中山:
自然な流れで始まっていったんですね。
三浦:
そうですね。自然と家の中でボールを蹴ったり、お兄ちゃんやその友達、その弟たちと一緒に蹴ったりしてましたね。
中山:
当時、ほかに何か習い事はされていましたか?
三浦:
水泳、ピアノ、あと英語というか劇をやる習い事もしてました。セリフを言って、みんなで練習して、舞台で発表するみたいな。
中山:
習い事は、親御さんが「やってみたら」と促してくれたのか、三浦さんが「やりたい」と思って始めたのか、どんな感じだったのでしょうか?
三浦:
完全に親ですね。親は「自分がやりたいって言った」と言ってるんですけど、そんなことないだろうと思ってます(笑)
中山:
なるほど(笑)三浦さん的にはやらされて始めた感覚もあったんですね。そんな中でもサッカーは続けていき、本格的に始めたのはどのあたりだったんでしょう?
三浦:
どこからが本格的と言えるのかわからないですが、チームに入ったのは小学校1年生ですね。幼稚園の頃から幼稚園サッカーをしていて、スクールにも通ってました。
中山:
幼少期から習い事がいろいろある中で、最終的にサッカーが残ったわけですよね。当時の自分なりに、どこにサッカーの面白さや喜びなどを感じていたのでしょうか?
三浦:
あんまり深く考えてなかったですね。ただボールを蹴るのが楽しかったし、褒められたりすると嬉しかったし、という感じで。あとは、兄弟同士で1対1とかもよくやってました。
中山:
アニメみたいな話ですね。その後、中学から日テレ・メニーナに進まれたんですね。
三浦:
そうですね。小学校6年生のときにセレクションを受けて、中1から入りました。
中山:
その頃は「上手くなりたい」「プロになりたい」という気持ちはすでにあったのでしょうか?
三浦:
ありましたね。小学校高学年くらいから、もちろんサッカーは楽しいんですけど、競争みたいな感覚も出てきて。ただ「サッカー選手になりたい」という大きな気持ちはずっとあって、とにかく上手くなりたい一心でボールを触ってました。セレクションの面接でも「サッカーが大好きっていうのが1番伝わってきた子」と言われました(笑)

中山:
相手にそう感じさせるほど、好きという気持ちがにじみ出ていたんですね(笑)そこからメニーナに入り、ユース、そしてトップ昇格と進んでいくわけですが、学生時代で、指導者や大人から言われた言葉で印象に残っているものは何ですか?
三浦:
ベレーザの永田監督という方がいて。当時私は試合には出ていて代表にも入っていたんですけど、派手なプレーをするタイプではなく、自分の長所がわからずに悩んでいました。そんな時、永田さんが「あなたは素晴らしい人だよ。あなたにしかできない仕事がある」と。私がしていることは、「11人のうちの10人をつなげる役割だ」と言ってくれて。その言葉で救われましたし、自分の長所は人をつなげることなんだと捉えられるようになりました。
中山:
リフレーミングが起きたんですね。長所がないと思っていた部分こそが、本当は大きな価値だったと転換され気づく。その気づきは、自身のプレーやサッカー人生にどのような変化をもたらしましたか?
三浦:
以前は、「悪くないけど特に何もしなかった」みたいな感覚があったんですけど、そこからは試合でも練習でも、自分らしくいられるようになりました。細かいところのポジショニングや状況のバランスを自分にしか見えない角度で判断できるようになって、さらにその気づきをチームに発信できるようにもなった。「自分がいないとダメだ」という感覚がモチベーションにもつながって、どんどんポジティブに、力強い方向へ進んでいったという認識があります。
中山:
なるほど。自分の強みを認識し、理解したことでそれをさらに磨こうという意識が生まれ、存在価値も感じられるようになり、自信やパフォーマンスにもつながっていったんですね。「第三者からの視点によるリフレーミングが行われた」貴重な対話だったと聞こえました。
三浦:
そうですね。まさにそう思います。そして、特に海外にいると、その強みに気がつけた重要さをすごく感じますね。
中山:
どういうことでしょうか?
三浦:
海外だと、足が速い選手や点が取れる選手はたくさんいるので、「自分の強みは何か」「それを勇気を持って出せるか」はすごく大事です。その上で、私の強みは他とは違う種類のものなので、自信を持って発揮しようと取り組めています。
中山:
確かにそうですね。そこが曖昧なままであった場合、「スピードもパワーもないし目立つ特徴もない」という自己評価のままプレーしていた可能性もありますよね。でも今は「これが自分の武器」と明確に認識されていて、周囲との違い、差別化になっている認識ですよね。
2. 呼吸と身体へのアプローチ──自分と向き合う価値

中山:
時間軸を最近のところに移して伺いたいのですが、今、日々の練習はどのくらいされているのでしょうか?
三浦:
週によりますが、週1試合の時は週5練習、もしくはアウェイだと移動もあるので練習+移動みたいな感じになります。週2で試合がある時もあるので、そこは基本的に月曜日がオフで、という形です。
中山:
アメリカでは2部練もあるのでしょうか?
三浦:
チームにもよりますが、基本はないと思いますね。トレーニングをして、その後に筋トレの時間があるくらいです。
中山:
今、三浦さんが練習に取り組む際、事前に意識していることや準備などは何ですか?
三浦:
自分は準備に時間をかけるタイプで、準備は努力できるところだと思っています。もちろん、いろんなことを試してきて今の形がありますが、週の中で、試合の前日なのか、2日前なのか、3日前なのかで、刺激の入れ方を変えたりしながら体を作っていくというイメージです。
中山:
言える範囲で、例えばどんなことをされていますか?
三浦:
週明けだったらコアを多めに入れたり、試合2日前だったら刺激系を多く入れたりとかですね。基本的には体をほぐすところから始めて、頭をフレッシュにして、呼吸を整えてから動的系をやって、その後に細かい刺激系に入る、みたいな感じです。トレーニング自体も好きなんですけど、体の構造を理解してトレーニングするのが好きなんですよね。
中山:
呼吸やマインドフルネス的な要素も入っているのが面白いなと思ったのですが、こういう取り組みを始めたきっかけは何かあったのでしょうか?
三浦:
やり始めたのはコロナの時期で、先輩を通してたまたまやってみたんです。最初は「なんだこれ?」みたいな感じでいったんやらなくなったんですけど、アメリカでは当たり前というか、専用のスタッフがいてほぼ全選手が取り組んでいる環境なんですよ。脳科学的なアプローチのスタッフもいて、「いい思考状態で試合に臨む準備」というのが本当に当たり前にあるので、そこからもう一度取り組むようになりました。
中山:
言える範囲で、例えば「こんな取り組みをしていて、それによってこういう効果を感じている」というようなことがあれば教えていただけますか?
三浦:
やるタイミングによって少し変わりますが、自分の状態に意識を向けて、まず“気づく”時間をつくるようにしています。あとはイメージですね。試合会場に行く、駐車場に着く、ロッカーに入る、アップに行く、入場する、プレーするというのを一回全部イメージで見ておくんです。それは契約しているスタッフの方に教えてもらって始めたんですけど、一回見た景色をそのまま再生する感覚です。そうすると浮き沈みもなくなり、過度に緊張することもなくなっていきました。脳をいい意味で騙すという意味でも、イメージすることはすごく大事だなと思います。
中山:
なるほど。呼吸や身体への気づきといったマインドフルネス的なアプローチもあり、事前シミュレーション的なイメージワークもされるんですね。先ほど体の構造を理解するのが好きというお話がありましたが、ここ数年取り組んでいた中で気がついたことは何ですか?
三浦:
以前は、組んでもらったメニューを言われた通り一生懸命やるという感じで、細かくどこを使って何につながるのかを考えてなかったんです。なので、体の変なところに負荷が来たり、実際のプレーにつながらなかったりしていました。でも、すごく細かく指導してくれるトレーナーさんとの出会いがあって、今もパーソナルでオンラインで見てもらうことで日々のトレーニングの質が変わったと感じています。
中山:
思考と意識が変わったことで、トレーニングの質も変わったのですね。
三浦:
トレーニングもしっかり考えてやることで、効果が出るポイントだったり、実際のゲームにつながる動きにつなげたり。最高速度が上がったり、試合でパンッと動ける・奪えるシーンが増えたりもしてきていて、実際にそれらが数字にも出ているので感覚的にも分かってきました。
中山:
なるほど。メニューをこなす段階から、目的や効果を理解した上でトレーニングする段階に移行したわけですね。それによってプレーとリンクし始めたと。脳科学的なスタッフや専門家がアメリカには当たり前にいるという話でしたが、日本にはほとんどない環境ですよね。この違いはどのように感じますか?
三浦:
私は圧倒的にあった方がいいと思います。特に若い選手に多いと思うんですけど、一生懸命やりたいけど、それが逆に空回りしてしまう時期って絶対あると思うんですよね。人によって合う合わないはあっても、思考や対話の専門に特化した人がいるのはすごく大きいと思います。そこから、実際に知識としてもいろんなものを取り入れて、実践していくことで自分に合うもの合わないものを把握できるようにもなりますよね。そもそも、自分と向き合う時間が確実に増えることが重要だと思います。

中山:
なるほど。結果的に自分と向き合う時間は増えるので自己理解の向上であったり、自分と合うやり方を専門家を利用して一緒に見つけていくということは大事ですよね。どうしても今の日本社会では、仮にメンタルトレーナーみたいな人がいたときに「教えてもらう」「それをやる」といったような、先生と生徒みたいな関わりになっていることが多いなと客観的に感じます。
3. 完璧を手放す──不安を抑えつけない効果
中山:
それこそアメリカだと移動も多くて長距離で大変ですよね。ホームとアウェイでも違うと思いますが、試合前夜はどう過ごしているのでしょうか?
三浦:
ホーム・アウェイで違いはありますけど、本当に移動が多く、国内でも時差があるので調整が大変な時もあります。寝れなかったり、逆に起きるのがキツかったりもします。でも基本的には特別なことはせずに普通に過ごします。ただ、良いイメージだけ持ってお風呂に入って体をほぐしてリラックスはしてますね。
中山:
良いイメージを持つというのは、相手を想像するとか、自分がどうプレーするかを思い描く感じなのでしょうか?
三浦:
サッカーというよりは「明日も良くなるよな」くらいの、ざっくりしたイメージですね。
中山:
なるほど。明日もいい日になるといいなくらいの感覚なんですね。時差や移動といったどうにもならない外的要因の中で、普通に過ごすことの意味や価値をどう捉えていますか?
三浦:
これはとても大事だと思います。日本でプレーしていたときは、サッカーに対して真面目なので「あれができない」「これをしなきゃ」と完璧にやろうとしていましたし、やれてしまう環境でもありました。でも海外に来ると、移動もある、時差もある、日程もすごくタイトで、空港でご飯を食べることもある。絶対に100%完璧にはできない環境なんです。
中山:
完璧にできない前提の環境にいることで、考え方やスタンスも自然と変わっていったんですね。逆にその不完全さの中で、どう自分を整えるかという発想が育っていったというか。
三浦:
そんな中でもプロサッカー選手として、結果を求められて、何万人もの前で戦っている。それでもちょっとしたことで弱音を吐かずにやれる選手たちを見て「カッコいいな」と思ったんですよね。そこから、「無理なものは無理。その中でできることをやる」という考え方に変わりました。それでも全然ゲームには持っていけるんですよね。それも気づきでした。
中山:
完璧じゃなくても戦えるという実感が芽生えたわけですね。
三浦:
逆に「できなかった。明日大丈夫かな」と思いながら試合に挑んでも、絶対いい結果にならないんです。なのでやれることをやる。それがすごく大事だと思います。
中山:
コントロールできない外的要因が多いからこそ、手放す・割り切る力が必要なのですね。試合当日や試合中、緊張やプレッシャー、不安はある方ですか?
三浦:
なくなってきたんですけど、昔はある方だったと思います。
中山:
そういった緊張やプレッシャーと向き合うために、今までどんなことをされてきたのでしょうか?
三浦:
緊張してるなと思った時に、無理やり「大丈夫だよ」って言い聞かせても意味がないなと思っているんです。自分の緊張や不安を、逆に出してしまったほうが良いというか。でも、それは日頃準備していることがあるから安心できる部分でもあります。試合当日はやっぱり呼吸をしますね。ゆっくり3回くらい呼吸するとか、自然に入れるようにしています。
中山:
先ほど言い聞かせることに意味がないという話がありましたが、自分が何に不安なのかをちゃんと見ることの意味はどういうところにあるのでしょうか?また、言い聞かせるだけではダメだと感じたのはどのような経験からだったのでしょうか?
三浦:
実際に体感したんですよね。無理やり「大丈夫」と言いながら挑んで、プレーが良くなくて「何が大丈夫なんだ…」と落ち込んだ経験があったんです。途中で代えられたりもしましたし、その経験から変わりました。
中山:
なるほど。そこと向き合って出すことで、どんな変化がありましたか?
三浦:
気負いしすぎず、「やってきてるんだから大丈夫でしょ」みたいな感じで気楽になりました。見えることで和らぐというか。自信って持てと言われて持つものじゃないと思っていて、後から勝手に出てくるものというイメージがあるんです。例えば「前向きにパスを出す勇気」っていうのも、自信を持てでは腑に落ちなくて。勇気を持ってやることのほうが大事で、その後にじわじわ自信が出てくるんだと思います。

中山:
「自信を持て」は難易度が高いですよね。持てと言われて持てるなら誰も苦労しないというか。不安に蓋をせず、見える状態にしてあげるだけで不安が軽減されるというのは1つのやり方として良いですよね。真っ暗で先の見えないトンネルに入っていくのは不安でも、ライトをつけて小石・障害物・出口の方向さえ見えれば、安心して進める。どちらも能力に変わりはないのが面白いですよね。今のお話を聞いても、三浦さんにとって自然で安定した向き合い方になっているんだろうなと感じました。
4. 身体と戦術と心理──分けて捉え、統合して戦う思考
中山:
ご自身のプレーにおいて課題や改善点を発見した時はどのように取り組んでいるのでしょうか?
三浦:
まず、基本的に試合後は、編集スタッフの方が映像をまとめてくれたりもするんですけど、昔から「自分で映像を全部切って編集する」というのをやっています。自分で切って、良かったシーンやフィードとかを細かく分けていくのが好きなんです。自分で編集までするって結構珍しいと思いますけど(笑)
中山:
自分で細かく切っていくとなると単なる振り返りの枠を超えてますね(笑)どういう視点で切り分けているのでしょうか?
三浦:
ワンシーンごとに一喜一憂するというより「これは良かったな」という感じでまとめていきます。その中で、体の動きの問題はサッカーの部分とは別に考えて、「動きについていけなかったな」と思ったら、パーソナルのトレーナーの方に映像を送って「こんな感じだったんですけど、どうですかね?」と相談したりしています。”サッカーのことなのか体のことなのか”、分野を分けてアプローチしていますね。

中山:
なるほど。課題を整理して分解して、それぞれの分野で専門家の力を借りに行く。この感覚は、一般的なビジネス現場では当たり前とも言える感覚ですが、アスリートでここまで明確に取り組んでいる方は少ない印象です。こういうスタイルをとるようになった理由を、ご自身ではどう捉えていますか?
三浦:
もう本当にシンプルで、上手くなりたいし、成長したいっていう想いだけで自然と始めました。「食事が原因かな?」と思ったら、周りにいる栄養の方に相談するし、「動きが悪いな」と思ったらパーソナルのケアの方に「どこほぐしたら良いですかね?」と聞いたり。そういった形で、とにかく人に頼りまくってますね。
中山:
まさにチーム三浦ですね。ご自身で環境を整えていっていると感じました。映像はスタッフから送られてくるのに、あえてご自身で一から切って編集されている意味や、もらった映像を見るだけとの違いは何でしょうか?
三浦:
違いはやっぱりあると思います。最近は自分のプレーだけ切って10分くらいの映像にして送ってくれる人やチームが多いと思うんですけど、全体から自分でもう一度見て、そこにコーチのアドバイスや課題感を重ねる。その擦り合わせが大事だと思います。自分への入ってき方が違うと感じますね。
中山:
部分だけを見るのではなく、全体像を捉え直したうえで二重の視点を持つことで、ある意味、ゲーム全体を文脈として読む行為にも近いのかなと感じました。読書で言うところの、目次だけで気になる文章だけを読むのではなく、全体文脈の中で部分を見ていく感じ。捉え方や理解が変わりますよね。
三浦:
まさにそれですね。そして、自分の感覚と外から見ている人の感覚、両方を持つということが大事だと思います。1試合を通して見る中で、自分では「こうだった」と思っているプレーでも、その前段階の流れや試合全体の文脈が分かると判断も変わってきます。ゲーム全体の中で見直すことは大事ですし、あとは単純にゲームを見るのが好きなのもあると思います。もちろんオフで今日は見ないという日もありますし、「今日は一回サッカーから離れよう」みたいな日も全然あります。
中山:
参考になる考え方ですね。試合の流れを読む、全体をとらえるという場面で、普段ピッチ上ではどんなところを見ていて、何を意識しているのでしょうか?
三浦:
まず、ポジショニングをかなり意識しています。アンカーをやっていたら当たり前なのかもしれないですけど、相手のプレッシングのかけ方とか、どこから侵入できるかとか。自分がここに立つことでインサイドハーフが開くなとか、そういうのはゲームを読む上で大事にしていますね。
中山:
どこに立つかによって味方の選択肢がどう変わるか、相手の強度がどこでズレるか、そういう構造を読みながらプレーしているんですね。
三浦:
そうですね。そしてゲームの流れというのは段々と分かってきました。今28歳ですけど、21歳でワールドカップに行かせてもらった時は、本当にガムシャラだったというか、ただ感性だけでやっていました。でも今思えば、最近は何を見ているというよりは感じ取れるようになってきています。相手にずっと攻められていたら「ここは一回落ち着かせた方がいいな」とか、「前に行けるけど、ここは少し時間使った方がいいな」とか、「ここは逆にファールした方がいいな」とか、そういういやらしさも含めて。これは年齢と経験と、海外の選手がやっていることを真似する中で、両方から身につけてきた気がしますし、スタッフからも言われることがあります。
中山:
どのように言われるのでしょうか?
三浦:
スペインのバルセロナから来た監督がいたんですけど、その監督はいやらしさが身体に染みついている方で。日本人は良くも悪くも本当にいい子が多くて、フェアプレーを良しとする文化があって。でも最後の10分の時間の使い方とか、ちょっと時間を作るとか、そういうのって日本ではあまり習わないですよね。でもその監督は、それを練習にもルールにも取り入れてくるんです。
中山:
なるほど。勝つためのリアリティを、文化として根づいているレベルで要求するわけですね。日本のサッカー教育にはあまりない価値観かもしれないとと思うのですが、そうした振る舞いや考え方を日常の練習から徹底されると、どんな変化がありますか?
三浦:
それを見て、まずは率直に「これがゲームに勝つということなんだ」と思いました。
中山
“勝つためのスキル”として認識されているわけですね。練習やルールにいやらしさを取り入れるというのは、例えばどのように行われますか?
三浦:
絶対に勝負に入れてきます。ひとつのポジションでもスコアリングして必ず勝ち負けがつくようにするんです。サッカーテニスみたいな遊びでも、監督が時間の使い方をわざと見せたり、変なことを言ってペースを乱したりします。あと、PK戦も専門のスタッフがいて研究しています。本当に負けたことないくらいです。
中山:
徹底していますね。テクニックでも戦術でもなく、振る舞いや心の揺らぎのような、人間の心理そのものにアプローチしていく感じでしょうか?
三浦:
そうですね。心理そのものに働きかけるという印象です。相手がどんな空気を受け取るか、自分たちがどんな心理状態でいられるか、そうした“流れの握り方”を行動レベルでつくっていくイメージです。小さな振る舞いでも、そこに明確な意図があることで、試合の結果が変わるんだなと学びました。
中山:
人間の心理を活用する・利用するということが、スキルとして当たり前に存在しているんですね。非常に面白いですし、日本でももっと発信してほしいくらいです。
三浦:
でもバレちゃいますね(笑)みんな勝っちゃう。
中山:
そうですね(笑)ただ重要だと思ったのは、これをスキルとして認識して取り組んでいるという点ですね。前回の男子W杯でも、PK戦を観ていてここの部分においてもう少し突き詰めるポイントがあるなと率直に感じたのを思い出しました。
三浦:
そうですね。なんだかんだ人って合理性よりも感情のほうが思考に影響するので、そこも含めてフルで使ってるなと思いましたし、とても重要だと思います。
中山:
日本では当たり前ではない当たり前を経験されているというのは、本当に貴重ですね。

5. 2027年への照準──勝ち切る強さを備え、世界一へ
中山:
最後に、未来のお話も伺いたいなと思っています。三浦さんも海外でのプレーが長くなってこられましたし、これまでワールドカップにも出場されていますよね。3〜5年後くらいの中長期の未来を思い描いたときに、「自分はここにいたいな」と思う景色はありますか?どんな姿を思い描かれているのでしょうか?
三浦:
3〜5年後ぐらい…そうですね、30歳になる2027年のワールドカップで世界一を獲るというのは、21年の東京五輪が終わってからずっと描いています。もう10年弱くらい前から焦点を置いているところで、そこを自分のピークに持っていきたいと思っています。サッカー経験もそうですし、これまで自分が得てきたものを全部出して戦いたいという感じです。
中山:
三浦さんだからこそ見せられるプレー、表現したいものは何ですか?
三浦:
ワールドカップの場は、自分の中で本当に大きくて。代表に入っていない時期もあったので、また代表に戻ってきた時に「どれだけ自分にとって代表が大きな存在なのか」というのを改めて感じたんです。その感覚を経験できているのは、本当に大きいなと思っていて。ずっと代表にいれればいいんですけど、そこに対する想いの強さに気づいた時に、自分が持っている想いもそうですし、今アメリカで高い強度の中でプレーをしていることでついてきたチームを勝たせる強さも感じていますしそこを出したいですね。

中山:
アメリカでのフィジカルや強度の高さの中で鍛えられた部分は日本の環境だけでは得られない武器だと思います。その上で、三浦さん自身のつなぐ力や流れを読む力が合わさると、唯一無二の存在になりますよね。
三浦:
上手い選手は日本にもたくさんいますけど、上手いけど勝てないじゃなくて、そこに力強く勝ち切るというところをプラスしていきたい。そういうプレーを出していけたらいいなと思います。
中山:
巧さと強さの掛け算ですね。日本が世界で勝ち切るために必要な要素を、自分のプレーで体現していく。そういう未来を描いているんだなと聞いていて感じました。2027年の三浦さんが、ワールドカップの舞台で三浦さんらしく戦われている姿を楽しみにしています。本日はありがとうございました。
三浦:
ありがとうございました!

答えは、すぐには見つからないかもしれない。
それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。
思考を解き明かす対話は続く。
『Dialog Code』——次は、誰の思考に触れようか。
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