Dialog Code
『“自分”という素材を、武器に変える──「テニスの顔になる」その日まで』坂本 怜 # Dialog Code
2025/07/16

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。自分自身と向き合い、考え、気づくこと——それが次のステージへ進む鍵になる。『Dialog Code』—— アスリートたちの言葉から、その可能性を探るシリーズ。
今回登場するのは、坂本 怜(プロテニス選手・IMG所属)。
さあ、彼の思考を紐解いていこう。
1. 全部、自分のせい。それが、たまらなく心地よかった。
中山(Dialog Partner):
テニスとの出会いについて聞いていきたいのですが、テニスで一番最初に記憶に残っている景色は何ですか?
坂本:
僕がテニスを始めたのは、家の近所の小さいインドアのテニスクラブだったんです。6歳から小学校4年生くらいまでそこでやってたんですけど、週1回行くくらいの感じで、楽しくやってました。今パッと思い浮かぶ景色で言うと、そのクラブのフロントで、80円くらいでアイスが買えるんですよ(笑)フロントから左の方に少し歩いたところにアイスの売り場があったことが今でもすごく印象に残ってますね。
中山:
そうなんですね。習い事の記憶で、テニスそのものではなく周辺の記憶が残っているのは面白いですね。
坂本:
そうですね。テニスコートでの記憶って、あまりないかもしれないです。
中山:
先ほど、「週1で楽しくやってた」と言ってましたが、何が楽しかったんですか?
坂本:
親の影響でいろんなスポーツをやって、バレーボール、水泳、野球もちょっと部活でやってた時期があったんですけど、テニスが一番楽しかったですね。
正直言うと、チームスポーツをやると自分の思い通りにいかない部分が多すぎて、それが楽しくなかったんです。例えば味方にイライラしちゃうとか。水泳とテニスは個人競技だったんですけど、水泳は練習がきつすぎて…正直あんまり楽しくなかったですね(笑)
消去法っぽく聞こえるかもしれないですけど、結果的にテニスが一番楽しかったんですよね。勝っても負けても、全部自分の責任。自分が悪いプレーをしたから負けたし、自分がいいプレーをしたから勝った。それがすごく分かりやすくて、僕の中では一番しっくりきました。
中山:
なるほど。個人競技の特性が坂本さんにはしっくりきたんですね。サッカーだと、点を取ったら嬉しいとか、友達とやってるのが楽しいとかがあると思うのですが、坂本さんがテニスで一番楽しさを感じていたのはどこでしたか?
坂本:
絶対に「勝つこと」ですね。死ぬほど負けず嫌いなんですよ。それこそ水泳の大会に一度出たことがあるんですけど、8人中6位とかで。もう全然楽しくなかった(笑)テニスは結構上手かったんだと思います。他の子より早めに上のクラスに上がれたりして、それも嬉しかったし、1対1のポイント練習とかもすごく楽しかったです。勝ち負けがハッキリしてる場所にいるっていうのが、僕にとっては一番楽しかったんだと思います。
中山:
もともとの負けず嫌いという性格と、水泳よりもテニスの方が成果も出やすかった。今振り返ると、自分にテニスの適性があったのはどのあたりだと思いますか?
坂本:
手先が器用だったっていうのもあって、ラケットスポーツは向いてたんだと思います。あと、これは始めたときは全く意識してなかったんですけど身長が高くて、今195cmあるんです。その身長って、今考えるとテニスにとっては“ゴールデンサイズ”なんですよね。だから、身長と器用さ。この2つの要素は、テニスに向いていたんじゃないかなと思います。
中山:
なるほど。当時から身長は高かったんですか?
坂本:
めちゃくちゃ高かったですね。何事もなくそのまま195cmになったので(笑)
中山:
確かに、その2つを聞くとテニスの適性はありそうですね。
坂本:
そうですね、本当に。

2. 泣かない自分が泣いた日──未知の世界への扉が開いた瞬間
中山:
では、テニスをやっていて一番嬉しかった若い頃の経験は何になりますか?
坂本:
今でも鮮明に覚えてるんですけど、最初に通っていたアカデミー時代の話です。キッズクラスみたいなところで、まだコート一面は使わせてもらえなかったんですよ。なので、1面のコートを4分割して、小さいネットを立てて練習してて。そのポイント練習のときに、スマッシュを打って、コートの角にスパーンと決まったんです。それがめちゃくちゃ気持ちよくて、今でも記憶に残ってますね。
中山:
へぇー、それって何歳くらいの時の話ですか?
坂本:
たしか小1か小2くらい。結構小さいときだったと思います。
中山:
一方で、一番悔しかった若い時の体験は何ですか?
坂本:
15歳のときの話になるんですけど、同じクラブで練習していたライバル的な同い年の子がいて。その子と全国大会の決勝で当たったことがあるんです。でもその試合で、スコアは6-1、6-3とか…完全にボコボコにされてしまって。全然歯が立たなかった。12歳くらいから、負け慣れしてきてて負けても泣かなくなってたんですよ。でもその試合では泣いてしまって。相当悔しかったですね。
中山:
12歳から「負け慣れてた」というのは、その子にという意味ですか?
坂本:
いえ、テニスそのものですね。試合に出れば負けもある。ずっと優勝できるわけじゃないので、自然と負けに対する耐性はついていきました。
中山:
冒頭で「死ぬほど負けず嫌い」と言ってましたが、その耐性がついていく過程ってどうだったんですか?
坂本:
負けもめちゃくちゃ悔しいんですけど、ただただ「泣かなくなった」って感じですね(笑)

中山:
なるほど。それだけ耐性がついてきていた中で、この試合で泣いたのはなぜでしたか?
坂本:
その試合が、僕がアメリカ(IMGアカデミー)に行く前の最後の試合だったんです。しかも、相手は何度も対戦してきた選手で、会場のコートも自分の得意なサーフェスだったので、自信も期待もあったんですよね。それでまさかのボコボコにされて完敗。期待していた分、そのギャップが大きすぎて。ほんとに死ぬほど悔しかったですね。
中山:
期待をしていた分、ダメージも大きかったんですね。そこからアメリカに行くまでの気持ちの切り替えに関してはどうでしたか?
坂本:
負けを引きずることはなかったです。その日は落ち込んでも、寝たら大体スッキリするタイプなので。でも海外に行くことへの不安は、正直ありましたね。海外で生活したこともなかったし、海外の選手のレベルも分からない。「自分が通用するのか?」っていう不安はありました。でも、楽しみのほうが強かったと思います。
中山:
それが初めての海外でしたか?
坂本:
試合で海外に行ったことは何度かありましたけど、拠点を移してアカデミーで生活するのは初めてでした。だから環境も大きく変わるし、そこは少し不安もありましたね。
中山:
そのときの「楽しさ」と「不安」を割合で表すと、どのような感じでした?
坂本:
8:2で、楽しさが勝ってましたね。
中山:
へー、楽しさのほうが上回ってたんですね。
坂本:
全然、楽しさの方が大きかったです。
中山:
その楽しさは、具体的に何に対するものでしたか?
坂本:
僕が行ったのはIMGアカデミーで、錦織圭選手をはじめ、日本のトップ選手が通っていた場所なんです。そこに自分も行けるということが嬉しかったし、もっとテニスがうまくなれるかも、どんな強い選手がいるんだろう、もしかしたら錦織選手に会えるかも、っていうワクワクがありました。あと、海外の生活自体も初めてだったので、その新鮮さも含めて、いろいろ楽しみがありました。
中山:
その渡米のとき、飛行機の中で一番強く想像してたことって、何でしたか?
坂本:
実は、本格的に行く前に「盛田ファンド」っていう、日本の強いジュニア選手をIMGに送る団体があって、そこでトライアルのテストがあったんです。手紙を書いて、練習試合をして、日本の関係者に評価されて、最終的にIMGでプレーして、合格すれば正式に留学できるっていう流れで。そのテストでアメリカに行ったんですけど、パスポートをなくしてしまって。「終わった。これは落ちたな」って思いながら、飛行機で日本に帰ったことをよく覚えてます(笑)
中山:
本格的にいく前の記憶はなく、トライアルの帰りの飛行機の記憶が鮮明なんですね(笑)
坂本:
めちゃくちゃ悲しかったです。「パスポートをなくすやつ獲りたくないよな」みたいな(笑)
中山:
その時はもう「ダメだろうな」と思いながら帰ってきたんですね。
3. “勝てない理由”を壊したとき、自分のテニスが始まった
中山:
渡米して実際に現地で生活していく中で、日本と大きく違うと感じたことは何ですか?
坂本:
一番衝撃だったのは、コーチと選手の距離感ですね。日本にいるときって、コーチに質問するとか、話し合うとか、なんなら意見を言うとか、ありえなかったんですよ。でもこっち(アメリカ)は全然違っていて。一歩間違えたら緊張感がなくなるくらい、目線が「横」の関係なんだなって。これはかなりの衝撃でした。
中山:
その違いは選手にとって大きな影響を及ぼすと思うのですが、坂本さんにはどう働きましたか?
坂本:
ただ僕の場合はちょっと特殊で、IMGのコーチではなくて「盛田ファンド」の日本人コーチがついてたんですよ。だから実は、そこまで劇的な変化はなかったんです。ただ、周りを見ていると、選手たちがコーチと楽しそうに話していたり、たまにちょっと喧嘩かな?くらいに言い合ってたりもして。そういう光景は衝撃でしたね。
中山:
近くで見ていて、まさにカルチャーショックだったわけですね。
坂本:
そうですね、ほんとにカルチャーショックでしたね。
中山:
競技面でいうと、僕もサッカーで地元を離れて強いチームに移ったとき、様々な違いを感じました。坂本さんが日本とアメリカのトレーニングで、一番違うと思ったことは何でしょうか?
坂本:
日本でも全然強くなれると思うんですよ。ただ、アメリカに来て一番最初に感じたのは「あれ? 意外と大したことないな」って。日本にいたときは「海外の選手=強い」っていうイメージがすごくあったんです。野球で言えば助っ人外国人がめちゃくちゃ打つみたいな。だから「背が高い」「球が速い」=「テニスが上手い」っていう偏見を勝手に持っていて。でも実際に来てみたら、いい意味でその偏見がなくなって、「あ、俺でもいけるんだ」って心から思えた。それがすごく大きかったです。そこからは、日本にいるときとやっていることはあまり変わらなくて。ただ、目の前の相手と試合をしていく、という日々になりました。

中山:
「海外の選手=強い」というイメージから、「意外といけるぞ」というマインドチェンジが起こったんですね。僕も若い頃にフランスで練習試合をしたときにまさに同じような体験をしました。この「海外=すごい」のような漠然としたマインドは、日本という島国特有のものな気がするんですよね。坂本さんにとって、このマインドチェンジが起こったことは、自分の競技感にどう影響したと思いますか?
坂本:
そうですね。日本にいるときも、年上の選手とやるときとかに、似たような感覚があったんですよね。「年上だから負けてもしょうがない」「海外の選手だから勝てなくて当然」みたいな。そういう考え方って、自分で自分に壁を作っちゃってるんですよ。可能性を自分で閉ざしている感覚。
でも「意外とそんなに差はないんだな」って、本当に心から感じられたときって、負けてもしょうがないじゃなくて、「勝ってやろう」って思える。そういうマインドでいるときのほうが、明らかに成長が早いと思います。毎回自分で壁を作って、それを越えるのに1年かかってたら、すぐ40歳になっちゃいますから(笑)だから、「誰でもいける、準備できてます」っていうマインドは、本当に大事だと思いますね。
中山:
そのマインドは、プレーにも影響する実感はありますか?
坂本:
めちゃくちゃありますね。例えば、僕は相手が強いと思ってるときに後手に回っちゃう癖があったんです。最近は意識しなくなったんですけど、以前は自分より下のランキングの相手だと、自分からポイントを動かしにいったり、積極的に主導権を握りにいけていた。でも相手が強いと思ってしまうと、「これ通用しないかも」「もっとやらなきゃ」って考えすぎて、気づいたら後手に回っている、みたいなことがありましたね。
中山:
後手に回るテニスじゃなくて、自分から試合を動かしていくテニス。そこに違いが出るんですね。
坂本:
僕の中で気持ちが後手に回ってるときと、攻撃的になっている時では全然違います。たとえディフェンスの状況でも、気持ちが攻撃的で、自分が主導権を握ってるって思えているかどうかは大事だと思いますね。
4. 「勝ちたい」ではなく、「何をするか」──思考を切り替える技術
中山:
渡米してから、テニス以外で強くなったと感じる出来事は何ですか?
坂本:
ほったらかしにされることが増えて、自分でいろいろやらなきゃいけない状況になったことですかね。コートでも、コーチがいない練習だったり、適当なコーチがついてる日もあるんです。そういうときに、「このままただ混ざって練習してたらダメだな」と思った瞬間がありました。
中山:
なるほど。もう少し詳しく聞かせてください。
坂本:
僕、最初は15歳から17歳くらいまで盛田ファンドの日本人コーチに見てもらってたんですけど、その方が辞めて、新しい日本人のコーチがついたんです。その人は放任型というか、あまり細かく指導しないタイプだったんですよ。それが逆に良かったなって思っていて。「このままじゃマジで日本に帰されるぞ」と思いながらやってました。
盛田ファンドでは、毎年課題が出されるんです。「この大会でこの結果を出さなかったら、日本に帰しますよ」っていう明確なラインがあって、焦ってましたね。コート上でも「どうやったらうまくなれるか」を自分で考えるようになったし、「何かを吸収しよう」っていうハングリーさが自然と生まれてきました。
中山:
自分で考えざるを得ない環境に追い込まれたことで、思考も変わっていったんですね。
坂本:
まさに「課題提出の締め切りギリギリにようやく動き出す」っていう、あの感覚です(笑)
中山:
普段の練習前や試合に向かうときのことも聞きたいのですが、事前に準備や頭の整理をしたりすることはありますか?
坂本:
昔は、毎日「テニス日記」を書いてたんです。でも途中でやめました。というのも、僕の場合は大事なことって自然と頭に残るし、逆に重要じゃないことは抜けていくんですよね。書いてたときは、言われたことを暗記するために書いてただけだったんです。自分で噛み砕いて理解してたわけじゃなくて、ただただ暗記するために書いていたので、それはあまり意味がない気がして。一方で、自分から出た言葉や思考って簡単には抜けていかない。そう思ってから、自然と書くのをやめてました。
中山:
なるほど。ちなみに、それを書き始めたきっかけは何かありましたか?
坂本:
YouTubeで本田圭佑さんが子どもたちに「夢ノートを書きなさい」って言ってる動画を見たのがきっかけですね。それで始めましたが、合わないなと結局すぐにやめました(笑)

中山:
なるほど。自分にとって大事なことは、ちゃんと自分の中に残っているからやめたんですね。では、何か課題があったり改善したいことが出てきたときは、どう取り組んでいますか?
坂本:
今はテニスコーチとフィットネストレーナーがいて、僕が忘れるよりも先に彼らがちゃんと伝えてくれるので、抜けることはほとんどないです。でもそれも同じで、言われたことをただやるんじゃなくて、「自分から求めてるとき」のほうが習得も早いと思うので、意識的に自分から取り組むようにはしてます。
中山:
なるほど。今はコーチたちがサポートしてくれる部分も含めて、自分の準備をしてるんですね。試合の前日や前夜はどのように過ごしていますか?
坂本:
特別なことはしてないですけど、ご飯をしっかり食べて、サプリをちゃんと飲んで、Netflix観て寝るっていう感じですね。
中山:
対戦相手の情報を入れたりもしますか?
坂本:
もちろんやります。でも、自分の場合は相手に合わせすぎると自分のテニスが後手に回ってしまうので、そこはあまり考えすぎないようにしています。相手の情報は入れつつも大前提は主導権を握っている方がいいテニスをするので、情報はコーチに端的に伝えてもらって、その上で自分のプレーをベースに細かい調整をするっていうやり方にしてます。
中山:
なるほど。あくまで「自分が主導権を握る」という前提を大事にしてるんですね。
坂本:
そうですね。考えすぎるとかなり緊張してしまうので、なるべく考えすぎないようにしています。リラックスのために、Netflixを観たり、友達と電話したりして過ごすことが多いですね。
中山:
試合前夜は「リラックス」をテーマにおいてるんですね。先ほど盛田ファンドの話もありましたが、明確な結果が常に求められる環境では、緊張やプレッシャー、ストレスも大きいと思います。そういうものにはどう向き合っていますか?

坂本:
まず、それ自体すごく大事なことだと思っています。僕の性格上、夏休みの宿題も最後までやらないタイプなので。盛田ファンドのように「1年ごとに明確な成績目標がある」っていうのは、僕にとってめちゃくちゃ良いプレッシャーでした。「この日までには間に合わせなきゃ」っていう焦りが生まれて、それが自分にとっては良い方向に働いたと思います。それでもめちゃくちゃ緊張するんですけど、「本気で準備すればなんとかなる」っていう感覚があるので、なるべく楽に考えるようにしてます。
中山:
なるほど。お尻に火がつくと、パワーが出せる感じですね。やらざるを得ない状況になったときにやれるというか。
坂本:
そうですね。でもほんとに、それを前もってできるようにしたいんですよ。「先にやっとけよ」って自分に思います(笑)
中山:
客観的に聞いていると、その坂本さんの特徴をそのまま活かす方がいいのでは、とも感じました。基本的に人の特性は、ポジティブに働くと強みになって、ネガティブに働くと弱みになります。追い込まれたら頑張れるという部分はポジティブに働けば逆境に強いとかに繋がりますが、ネガティブに働けば期日までに課題を出せないなどが起きますよね。ただ、そもそも表裏一体なので完全には消せないんですよね。なので、自分の特性を理解して、上手く使ってデッドラインを設定することで自分の尻に火をつける方法を知っていることは大切です。
坂本:
なるほどなるほど。
中山:
「お尻に火がつく」という話も出ましたが、例えばテニスの場合「あと1点」みたいな場面ってありますよね。そういうとき頭の中ではどんな思考が浮かびますか?
坂本:
テニスって、「これを取られたら負ける」より「これを取ったら勝てる」っていうポイントの方が、100倍緊張するんですよ。最後の1点を取るまで終わらないスポーツなので、どんな場面からでも逆転があって。なので、マッチポイントって本当に“一番取りたい”って気持ちが湧いてくるポイントなんです。それをいかに抑えるか。欲が出ると固いプレーにつながってしまうので、なるべく「普通のポイント」だと思えるように意識を向けています。
中山:
その思考への切り替えは難しさもあると思うのですが、具体的にどうやっていますか?
坂本:
例えば「これはマッチポイントではなくて2−2のゲームの1ポイント目だ」とイメージしてみたり、何も考えないようにしてみたり。最近うまくいってるのは、「勝ちたい」じゃなくて、「どこに打つか」「どう足を動かすか」という戦術的なことだけで頭をいっぱいにするようにしてます。「勝ちたい」で頭がいっぱいになると固くなってしまうので、それ以外で埋めると余計なことを考えずに済むんですよね。
中山:
この思考プロセスは、自分でやってみようとなったんですか?
坂本:
いや、だいたいこういうのは誰かから聞いたり、本を読んだり、コーチと話したりして取り入れたものです。いつも人の言葉や考えを自分なりに試して、良さそうなら取り入れて、ダメならやめる。その繰り返しですね。
中山:
なるほど。いろいろな情報をインプットしながら、自分の中で検証してるんですね。先ほどの「勝ちたい」から「どうプレーするか」へのシフトは、例えばサッカーのFWの選手とかでも同じことをやったりします。「俺が絶対点を取るんだ」とかをイメージしまくるとかではなく、「そのためになにするの?」という話ですよね。そこがないと、もし点が入れば、そう思ったから点が入ったと思うし、もし点が入らなかったら、そう思っても意味なかったみたいなスピリチュアルっぽくもありますよね。
坂本:
そこにいくまでに、“具体的に何をするか”ってところってことですよね。
中山:
そうですね。「点を取るために今自分がするべきことは?」という問いを立てると、坂本さんが言ったような戦術や、具体的に何をしたらいいのかという部分に頭が働くので、「点を取る確率を上げる作業」ができますよね。ちなみに、元々こういうことを考えることは好きなんですか?
坂本:
新しい考え方を試して見るとかは好きで面白いですね。コーチと話しててもそうなんですけど、昔から色々試してみてます。リラックスしすぎたらどうかとか、試合直前まで緩めてそこから一気に気持ちを持ったらどうかとか、いろんなやり方を試すのが好きなんですよね。
中山:
それは自分で対話もするし、コーチたちと話しながら気づくこともあるんですか?
坂本:
そうですね。本を読んでる時や動画を観ている時は自分で考えることが多くて、人と話している時は人の考えも参考にして自分のやり方に落とし込むという感じですね。
5. 窮地(極限)に追い込まれたとき、「引っ張り出すモノ」

中山:
試合で「もうあとがない」という場面、たとえば相手にマッチポイントを握られた状況では、自分の中から何かを引っ張り出すようなことはありますか?
坂本:
逆に“開き直り”を引っ張り出しますね。例えば、相手のマッチポイントを3〜4本くらい凌いで勝った試合があったんですけど、ああいうときって逆に、少し開き直れるんですよね。「もう負けてもいいや」って。肩の力がスッと抜けて、めちゃくちゃいいプレーができたりする。なので、実は相手のマッチポイントって結構好きなんです。
中山:
なるほど、開き直った方がいいプレーができる感覚があるんですか?
坂本:
確実にそうですね。相手はマッチポイントなので「この1点取りたい」って思ってる分、固くなってると思うんですよ。こっちはもう「負けてもしょうがない」って思ってるので、むしろノンプレッシャーでいいプレーができるんですよね。
中山:
どうやって開き直るんですか?
坂本:
僕の場合、「開き直った方がいい」っていうのを自分で分かってるので、「相手にマッチポイント握られたし、実質負けたようなもんだ」って一旦思うようにするんです。「もうこのポイント落としても変わらんな」って思うことで、勝ち負けのプレッシャーがパッと抜けて、純粋に“いいボールを打つこと”に集中できるんですよ。
中山:
それって、アーティストでいうとライブの本編が終わった後のアンコールみたいな感じですかね。本編はもう終わったから、最後は好きに盛り上がればいいか、みたいな(笑)
坂本:
たしかに(笑)アンコール、まさにそんな感じです。ほんとはもう試合が終わってるけど、っていう状態でやるような感じです。
中山:
面白いですね。では、最後に未来の話も聞かせてください。いつかキャリアを終えたとき、「坂本怜」という名前が、テニス界にとってどんな意味を持っていたら嬉しいですか?
坂本:
やっぱり、錦織圭選手のような存在ですよね。「テニスといえば錦織」っていうイメージがあるじゃないですか。野球だったら大谷翔平さんとかハンマー投げだったら室伏広治さん、レスリングなら吉田沙保里さん。そういう存在になっていたいですね。「テニスが僕を有名にする」じゃなくて、「僕自身がテニスというスポーツの顔になる」。そんなレベルにいきたいですね。
中山:
その坂本さんのプレーを見た人たちに、どんなことを感じてもらえたら嬉しいですか?
坂本:
この間、フレンチオープンの決勝で、世界1位と2位の選手が5時間の歴史に残る試合をしたんですよ。ああいうファイトを見せられると、テニスをしたくなるし、勇気ももらえますよね。テニスをやってる人はもちろん、たとえば毎日会社に行ってる人でも「昨日の試合すごかったから、今日もうちょっと頑張ってみようかな」とか。そんな“小さなエネルギー”を与えられる選手になれたら最高ですね。
中山:
見ている人に、勇気とかエネルギーとか、「俺もテニスやってみたい」って思わせられたらという感じですね。
坂本:
そうですね。「こうなりてぇな!」って思ってもらえたら、なお最高です。
中山:
とても面白かったです。これから坂本さんがどうなっていくのか本当に楽しみですし、今日話してくれた体験や思考の変遷、すでに始めている取り組みのプロセスを定期的に残していけるといろんな人への価値になると思いますし、聞いている僕も勇気をもらいました。ありがとうございました!
坂本:
ありがとうございました!

答えは、すぐには見つからないかもしれない。
それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。
思考を解き明かす対話は続く。
『Dialog Code』——次は、誰の思考に触れようか。
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