Dialog Code
『騙し合い──世界を欺き、頂を睨む思考』名和田我空 # Dialog Code
2026/02/25

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」
『Dialog Code』
強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。
今回登場するのは、
名和田我空(プロサッカー選手・ガンバ大阪所属)
【Before Dialog】
サッカーという「騙し合い」のゲームにおいて、名和田我空は冷徹なリアリズムと燃えるような野心を同居させている。彼がピッチ上で追求するのは、何者にも揺るがされない「冷静」というステートだ。それは単なる落ち着きではない。数千回、数万回と繰り返された反復練習によって結晶化された「自分の形」への絶対的な自信。そして、コンマ数秒の混沌の中で相手の逆を取り、守備組織の綻びを見つけ出すための、極めて高度な情報認知の状態を指している。昨シーズン、メンバー外という苦境を味わいながらも、彼は腐ることなく自らを研ぎ澄ませてきた。緊張を「思考の加速」と捉え、プレッシャーを「力が漲る源」へと変換する独自の思考。そこには、若き才能にありがちな危うさはなく、プロの世界の厳しさを肌で感じ、泥臭い「闘志」を守備というベースに置き直した、一人のフットボーラーとしての覚悟が宿っている。 ワールドカップ優勝という目標を「夢」ではなく、地続きの「前提」として語る世代。その最前線を走る彼が、いかにして情報の荒波を乗りこなし、自らの個性を勝利の手段へと昇華させているのか。静かな語り口の裏側に潜む、鋭利な知性と飽くなき渇望。さあ、彼の思考を紐解いていこう。
【Code.1 - STATE】冷静の構造──情報の認知と「自分の形」への自信
中山:
試合中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、もしくは短い文章で表すとしたら、どのような言葉になりますか?
名和田:
「冷静」ですね。
中山:
その「冷静」という言葉を選ばれたのは、どのような理由からでしょうか?
名和田:
慌てれば慌てるほど自分はプレーがうまくいかないタイプなんです。ゴール前も含めて、よく相手を見て相手の逆を取るプレーを得意としているので、常に冷静な時こそ首を振って周りを見ていますね。
中山:
なるほど。では、ピッチ上で「今日は冷静にプレーできているな」と感じる瞬間はありますか?
名和田:
首を振るということを意識している中で、ボールが足についているとか、そういう技術面のところで感じることはあります。いつも練習で当たり前にできていることが、試合で相手を見てしっかり判断できた時に「今日調子いいな」と思えます。その状態の時は冷静にプレーできていると感じますね。
中山:
なるほど。普段自然にできていることが、試合でも自然に出せている時に冷静さを感じるのですね。では、その冷静でいるために大切だと感じることは何ですか?
名和田:
緊張感が少しある中でも、しっかり自信を持ってプレーすることだと思います。
中山:
「冷静でいるために自信を持ってプレーする」というのは興味深い表現です。
名和田:
去年は悩んだ時期もありましたけど、自分を信じて、自分のストロングを出しつつ、そのストロングの部分に関しては自信を持って出していく必要がある。それを見失うことが一番ダメだというのを去年気づかされました。
中山:
なるほど。「ストロング」と「自信」がキーワードなんですね。
名和田:
そうですね。「こういうところで勝負したら、自分はこういうプレーができる」というのを想像しながら、常に自信を持ってプレーしています。
中山:
先ほど「去年気づかされた」というお話もありましたが、名和田さんの中で自信が揺らぐ瞬間や、「それでも自信を持たなきゃいけない」と感じるような葛藤があったのでしょうか?
名和田:
去年メンバー外の日々が続いたりしたときに、メンバー外であることが当たり前という感情になった時期があって。「またメンバー外れるんだろうな」みたいな思考で、試合前日の練習とかを過ごしていた時期もありました。
中山:
そのような状況の中では、どのように受け止め、向き合っていたのでしょうか?
名和田:
悔しい時やどうすれば良いかわからない時こそ、悔しい気持ちをここで腐らせたらダメだなっていうのは、常に自分に言い聞かせながらやり続けてました。その時、筋トレや自分のやるべきことに付き合ってくれる先輩がいたのも大きかったですね。
中山:
なるほど。先ほど「こういうところで勝負したら、自分はこういうプレーができる」といったお話もありましたが、名和田さんの中では、「このシーンではこの強みが出せる」「この状況ではこうする」といったプレーのパターンのようなものはどのように積み上げていくのでしょうか?
名和田:
自分の形は持っていると思っています。難しいパスを含めてチャレンジすることが多くある反面、ボールを失う場面もあるので、そこはコントロールしないといけないと思っています。僕は他のチームの試合を見ている時も、「ここで俺だったら出したかもな」とか、「ここでシュート打ってたかもな」って思いながら観てることが多いのでそれかもしれないですね。
中山:
「自分の形」というものは、経験の積み重ねで蓄積していくものなのでしょうか?
名和田:
僕は高校時代から何本も何本も同じ練習をしてきました。例えばシュートの形では自分が得意だと思った形をひたすら練習するタイプです。これはプロに入ってからも、「この形で打てば得点する確率は明らかに高い」と思いますし、「この位置で持てば得点は取れる」という感覚は常に持ちながらやっています。
中山:
なるほど。「この形が得意」と感じたものを、繰り返し磨いていく中で「自分の形」にしていくのですね。では、調子が良い時は冷静であるというお話がありましたが、名和田さんの中で「冷静さが一番活きる」と感じるのは、どのようなプレーの場面でしょうか?
名和田:
相手の逆を取るプレーですね。今まで育ってきたチームが相手を見て判断を変えるというのを大事にする指導法だったので、そういうプレーが体に染み付いている部分があります。例えばゴール前は相手を滑らせて切り返すという場面が多いですし、冷静な時こそ相手を見て、逆を取って、キーパーまで見えてる時が一番理想です。そういう時は冷静さが一番活きると思いますね。

中山:
判断の質においても、「冷静さ」は大きく影響してくるんですね。
名和田:
そこはかなり影響してくると思います。
中山:
逆に、「今日は少し冷静さを欠いているかもしれない」と感じる瞬間はありますか?
名和田:
シュートを打った後に周りを見て、自分がどフリーだった時はそう感じます。慌てることが一番、冷静ではない状態なので。ただどのエリアでもゆっくりやりすぎるのは良くないというのはプロに入って気づいた部分でもあります。
中山:
なるほど。あるアクションの後に、「今、少し慌てていたな」と気づくこともあるわけですね。
名和田:
そうですね。あと、試合の最初のプレーで決まる感じがあるのでそこは大事にしています。ファーストプレーがダメでも、その後に徐々に調子が上がっていく日ももちろんありましたけど、今までプレーしていく中で、ファーストプレーで自分の思う通りにパスやトラップができた時には、その日の自分の気持ちの部分はものすごく軽くなります。
中山:
「冷静」というモードに入るための入口として、まずファーストプレーを大切にされているんですね。一方で、プレッシャーが大きい局面ほど、冷静さを取り戻すのは難しいこともありますよね。
名和田:
まさにそうですね、そして本当にいろんなシチュエーションがサッカーにはあるので常に最終手段の逃げ道は持っておくようにはしています。自分のプレースタイル的にも本当に狭い局面の時があるので、失いそうになった時に逆サイドに選手がいるというのは、常に事前に目で見て、頭の中にインプットしておくように意識しています。
中山:
なるほど。最終手段は常に持っておくようにしているのですね。僕もサッカー経験があるので聞きたいのですが、その逆サイドの選択肢はしっかり最終手段として絶対に見て認知しておくのか、システムの構造上そこに人がいるはずという前提でプレーするのか、この辺りはどうでしょうか?
名和田:
たしかに見ないで蹴る時もありますね。でもそれは「そこにいる」ということは事前に見て分かっているのもあります。ボールをもらってコンマ何秒かの時間で逆サイドに振る。そんなことを常に頭に入れながら、逃げ道として理想の逆も意識してサッカーをしています。
中山:
冷静でいられる時は、周りを見ているだけでなく、状況をしっかり認知できているということですね。誰がどこにいるか、どういう状況か。
名和田:
そうですね。認知することが一番、自分の中で大事にしていることです。首を振っても周りを見れていない時が、それこそ本当に慌てている時です。味方も相手の状況も見れるというのが自分の強みです。
中山:
とても興味深いです。サッカーのような競技は、ある種、闘争心や熱量も求められると思いますが、名和田さんの中で「冷静さ」と「闘志」はどのように共存していますか?
名和田:
でも結局魂とか、そういう気合が入っている選手の方が、やっぱり最後は勝つかもしれないと思います。そういう意味では、自分はそれを見せる場面は守備だと思っています。守備でどれだけチームのために走って、ボールを奪って、ボールを外に弾いて。ボールに逃げずに向かう姿勢は、僕の中では魂ですね。
中山:
なるほど。面白いですね。名和田さんのプレーは、攻撃のクリエイティブさや得点能力に注目が集まりやすいと思いますが、その攻撃では「冷静さ」がより重要で、戦う姿勢や闘志においては守備のところをベースに表現している感覚なのですね。
名和田:
そうですね。特に戦う姿勢や闘志はベースとしてないといけないなというのは、ガンバのようなレベルの高いチームに来てから感じましたし、意識して取り組んでいます。
【Code.2 - EMOTION】緊張の正体──力が漲り、思考が加速する
中山:
試合前や試合中に感じる「緊張」や「不安」は、名和田さんにとってどのような存在でしょうか?
名和田:
ある方が力がみなぎります。いいパフォーマンスを出すなら必要だと思います。
中山:
そう考えるようになった背景には、どのような経験があるのでしょうか?
名和田:
練習試合とJリーグでは、Jリーグの方がもちろん緊張感があります。高校時代もそうでしたけど、「ここは絶対に勝たないといけない」という状況こそ自分は楽しみになるんです。緊張というよりは、そっちの方が力がみなぎる。そういうシチュエーションの方が「試合に出たい」という感情が強くなります。
中山:
なるほど。緊張が高まるほど、むしろ「楽しみ」や「出たい」という感情につながっていくのですね。少し踏み込んで伺いたいのですが、そんな名和田さんでも「この試合は、できれば避けたいかもしれない」と感じるような、強い緊張の局面はこれまでにありましたか?
名和田:
いやー、まだないですね。やっぱり「出たい」が一番最初にきます。でも、去年の夏はずっと出られなくて、最後の最後、シーズン終わる寸前にACLで試合に出て得点を決めて、その次の試合でJリーグに出た時は久しぶりに緊張しました。途中からというのもありましたし、自分の中で緊張感はありましたね。

中山:
その「緊張」は、名和田さんの場合、どのような形で表れますか?
名和田:
頭の中で色々と考えちゃいますね。そわそわするわけじゃないので、外から見て「緊張してる」と思われることはないと思います。悩むというよりは、何回も何回も考えている感じです。昨シーズン一番緊張したのは、途中から入った福岡戦でしたね。
中山:
なるほど。緊張というのは「何かを考えること」から生まれてくる側面もありますよね。たとえば期待に応えたい、自分のパフォーマンスが出せるか、など。名和田さんの場合、緊張の“発生源”として特に意識が向くのは、どのあたりでしょうか?
名和田:
特に去年は結果を残さないと試合に出られない立ち位置にいたので、どう得点やアシストにつなげられるかばかりを考えていました。出番がある時は大体が負けている状況で、監督から「得点、アシスト、結果で示してこい」みたいな感じで送り出されたので、「やるしかないな」という感情と同時に、いろんなシチュエーションを頭で考えすぎて、その時は自分でも「緊張してるな」と思いましたね。
中山:
その時の緊張は「やらなきゃ」と焦ってパニックになるというより、頭の中に様々なシチュエーションが次々に浮かんでくるような感覚に近いんですね。
名和田:
そうですね。常に自分が得点するイメージは、どんな状況だろうと考えてます。
中山:
なるほど。いわゆる「頭が真っ白になる」ようなタイプとは少し違うのですね。
名和田:
頭が真っ白になったことはないですし、何も考えないということも一回もないです。
中山:
逆に、いつも以上にいろんなパターンが浮かんで、「ああなったらこうしよう」「こうなったらこうしよう」と、分岐が増えていく感じでしょうか?
名和田:
そうですね。ありえもしないシチュエーションを想像するというか。
中山:
ありえもしないというのは、悪い方の想像が膨らむのですか?
名和田:
いや、いい方のありえないのも出てくるので両方ですね。
中山:
それは面白いですね。良いイメージも含めて、幅広く可能性を描いている感覚なんですね。
名和田:
いろんなこと考えてるなーと思いながら試合に入る時に、「いや、普通にいつも通りプレーすればいいんだよな」と思いながらピッチに入っていました。
中山:
なるほど。では、ピッチに立つ直前は、ある意味ご自身と対話しながら整えていく時間になっているのですね。
名和田:
そうですね。「いつも通りしよう」というのはありますし、「点取れるシーンやったら絶対足振ろう」みたいな感じで、頭で考えながら入ります。でもピッチに入ったら考えている暇もないので、ピッチに入る前が一番いろんなことを考えますね。
中山:
なるほど。逆に緊張感が少ない試合で意識していることはあるのでしょうか?
名和田:
緊張感がない練習試合だからこそ、自分の持ってるものを出さないといけないということは大事にしています。特に去年は自分の100%を常に出さないといけない状況だったので、練習試合だからといって舐めてプレーをしてたら、そんな選手は試合には使われないよなと思いながらプレーしていました。
中山:
練習試合の中でもご自身で緊張感をつくりながら臨んでいた感覚があるんですね。
名和田:
作るようになりましたね。高校の時なんかは練習試合があると「なんでこんなにやるんだよ」って思ってました。プロに入って試合に出られなくなって、試合が恋しくなったというか。
中山:
なるほど。元々は、緊張感のある試合と、緊張感が薄い試合を、はっきり区別していた部分もあったんですね。
名和田:
ありましたね。練習試合でも、相手に煽られることが多かったんですよ。「お前そんなもんかよ」みたいに言われることも多くて、それでイライラして試合に入ったり。公式戦のような緊張感でやってたかって言われると、プロに入る前はそんなことはなかった。自分はまだまだだなとプロになって気づきました。

中山:
なるほど。ここまでの話を伺うと、名和田さんの場合は緊張が良い方向に作用することが多い印象です。一方で、緊張で固まってしまったり、思うように動けなくなる選手もいますよね。もし、身近にそういう状態の選手がいたとしたら、名和田さんならどんな声をかけますか?
名和田:
そうですね。自分も常に完璧にプレーできるわけではなく、誰でもミスはするので、「俺もカバーするから、俺のミスもカバーしてくれよ」というのを伝えて、自分だけが緊張してるわけじゃないぞっていうのを伝えながらですかね。「緊張するな」って言ってもするもんなので、「いつも通りやれよ」って言っても緊張すると思いますし。それよりは「お前のミスもカバーするから」っていうのを伝えることによって、「俺だけじゃないんだな」と感じてくれたらそれでいいと思います。それでも緊張はすると思いますけど。
中山:
なるほど。自分だけではないという感覚をつくりつつ、ミスを前提に「お互いにカバーし合おう」と伝えることで、少し肩の力が抜けるような状態をつくっていくんですね。
【Code.3 - COGNITION】手札の蒐集──「逆を取る」ための、冷徹なリアリズム

中山:
名和田さんにとって、サッカーという競技はどのような「ゲーム」だと捉えていますか?
名和田:
「騙し合い」ですね。
中山:
「騙し合い」と表現されたのは、どのような感覚や経験からなのでしょうか?
名和田:
相手の逆を取って、相手が予想してないタイミングでパスを出したり、予想してないタイミングでシュートを打ったり。フリーキックとかPKは特にそういうのが見えるシーンですよね。フリーキックで同サイドを打ち抜くシュートが上手い人もいるじゃないですか。そういう選手は駆け引きが上手いなと思いますし、自分はサッカーは常に「騙し合い」のスポーツだと思っています。
中山:
なるほど。少し変な質問かもしれませんが、スポーツにはその人の価値観や性格が表れることもあると思っています。「騙し合う」という感覚は、名和田さんの中で“逆を取る”ことがそもそも好きだったのか、それとも“騙すことが勝率を上げる”と感覚的に学んでいったのか、どちらに近いのでしょうか?
名和田:
それはものすごく自分も思う部分があって、バカ正直にめちゃくちゃ優しい人が活躍できるかって言ったら、そういうスポーツではないと思うんですよね。これは特にプロに入ってから強く思ったことです。性格が悪いとかではなく、勝つために。例えば、シミュレーションをするとか、時間を稼ぐとか、これがいいプレーかと言われるとそうではないかもしれないですけど、そういうのも含めてサッカーだと自分は思います。実は真面目な人こそ損することが多いスポーツなんじゃないかなと思ったりもします。ちなみに人狼ゲームがめちゃくちゃ得意です(笑)
中山:
確かに得意そうですね(笑)
名和田:
嘘つくことが好きというわけではないんですけど、相手を騙す。目で騙す。そういうのを出すゲームは、結構得意ですね。ずる賢さとか、性格の悪さとか、そういうのはうまくサッカーにも取り入れながら、例えば相手を目だけで騙したり。中にはわざと高圧的な言葉をかけてくる選手もいます。それに対してイライラしてしまうこともあるんですけど、それもその人の技術だと僕は思いますね。
中山:
先ほど「プロに入って強く思った」というお話がありましたが、実際にご自身が受けたり、体験した出来事があってそう感じるようになった部分もあるのでしょうか?
名和田:
ありますね。嫌なところでファールをもらって倒れて、再開しようとしたらボールを蹴って邪魔してくるとか。地味なストレスを与えてくる選手はいますよね。
中山:
なるほど。そういう振る舞いを、ある程度客観的に見られているんですね。では、少し視点を変えて伺いたいのですが、「騙す側」と「騙される側」を分けるものは、どこにあると思いますか?
名和田:
めっちゃ難しいですね(笑)性格なのかな。人を騙すことに罪悪感がある人っているじゃないですか。そういう人って、めちゃくちゃ真面目で優しくて。もちろんそういう選手で活躍してる選手もいますけど、少なくとも自分はそういうプレイヤーではないですね。狭いエリアでプレーする選手だからこそ、いろんな手は持っておきたい。ゲームでもそうですが、相手を騙すための手法はサッカーにおいてもすごく大事な部分だと思います。
中山:
なるほど。勝つための「手段」の一つとして、駆け引きや“騙し”を位置づけている感覚なんですね。それも手札の一つという。
名和田:
そうですね。特に外国人選手とかは上手いですよね。シミュレーションも技術の一つだと思うんですよ。やり過ぎるとよくないかもしれないですけど、それも一つの手なんだなと思います。
中山:
先ほど「目で騙す」という話もありましたが、実際に相手を騙す時は、頭の中ではどんなことを考えていたり、どこを見ているのでしょうか?
名和田:
少しでもそっちの方向に行くよっていうのを、どれだけ相手に伝えられるかだと思っています。ガンバにもたくさん上手い選手がいて、自分も逆を取られてびっくりする時もあるので。「このタイミングだと人間って足が出ないな」とか。例えば、腰あたりにボールが通されるのが一番足が出ないところなので、そういう空間の使い方とか、ガンバには上手い選手はたくさんいるので、学んでます。試合を見ながら、練習しながら、騙される側にもなりながら、これもいいなって思いながらやってます。

中山:
なるほど。相手を騙すこともあれば、自分が騙される側になることもあって、その両方の体験が「手札」としてどんどん増えていく感覚があるんですね。
名和田:
まさにそうですね。
中山:
例えば、プロを目指している学生に「サッカーで何が大事ですか?」と聞かれて、「騙し合いだよ」と伝えるとしたら、どう説明すると伝わると思いますか?
名和田:
なんでしょうね...。例えば、シュートを打つフリをして切り返して相手が滑ったら、それも騙すことですよね。3対2とかの状況で、相手が思ってないタイミングでパスを出すことも騙してる。一つ一つ、あり得るシチュエーションを出していけば、「確かに」って納得してくれると思います。たしかに説明するのが難しい言葉ですね(笑)
中山:
「逆を取る」ことも騙し合いの一つですし、相手を揺さぶる言葉を使うことも含めて、いろんな場面の総体として伝わっていく、ということですね。お話を伺っていて、名和田さんがプロの現場で実際に経験する中で、「それがないと活躍できない世界だ」と感じた、という事実そのものが印象的でした。良い悪いという話ではなく、このゲームで勝つために必要な“視点”の一つなんだろうなと。
名和田:
視点、本当に考え方の違いだと思います。一生懸命やることで勝つっていう人もいると思いますし。でも、うまく休みながらここぞという時に力を出すことが大切っていう人もいますよね。
中山:
本当にそう思います。倫理観や哲学に近い話とも言えそうですね。私はよく「分人化」という言葉を使うのですが、日常生活の名和田我空としての在り方は大切にしつつも、サッカーというゲームに入った瞬間に“勝つための名和田我空”に切り替える必要がある。性格を変えるというより、システムを書き換えるように切り替えた方がいいケースもあるのだろうなと考えています。
【Code.4 - VISION】夢ではなく前提──W杯優勝を目指す世代の野心

中山:
この競技を続けていった先で、「こんな状態・景色に辿り着いていたらいいな」と思うものがあれば、ぜひ教えてください。
名和田:
ワールドカップで優勝することが日本サッカー界の目標としてあげられていますし、自分もそれを達成するための一員になりたいですし、そのために野心を持っていたいです。
中山:
率直に伺いたいのですが、「ワールドカップ優勝」という目標は、今の名和田さんにとってどれくらいリアルなものとして捉えられていますか?
名和田:
今の日本代表を見ても、本当に優勝できるかもしれないレベルまで来てるので、それはやっぱり目指さないといけないところにきたなと思っています。プロになったことが親孝行の一つになっていると思いますが、やっぱりワールドカップに出て活躍した時に、両親がどれだけ喜んでくれるのかすごく楽しみというか、想像がつかないので、その景色に行きたいですね。
中山:
いま「どれだけ喜んでくれるのか」とおっしゃった瞬間、すごくいい表情をされていて、きっとそれが叶った時は、名和田さん自身にとっても相当大きな喜びになるんだろうなと感じました。加えて、「目指さないといけない」という言葉が名和田さん世代から出てきたことが、個人的にはすごく嬉しかったです。
名和田:
誰しも全員が目指してるかって言ったら、そうではないと思いますし、ただ自分は本気で目指しています。夜中に起きて試合を見て、あんなに盛り上がれる大会って本当にないと思うんですよ。前大会でスペインに勝った時の喜び。夜中なのにめちゃめちゃうるさくても許されるぐらい、自分は応援する側として経験したので。次は自分が出たいという想いは本当に強いです。
中山:
いいですね。私が小学生の頃に「ワールドカップで優勝したい」とか書いていた時は、本当に夢物語みたいな感覚でした。
名和田:
そうですよね。それがあり得る時代になってきてると思います。ブラジルでのワールドカップが一番印象に残っていて、そこでプロサッカー選手になりたいと思ったんですよね。本気でここのレベルまで行きたい、ワールドカップに出たいなっていうのは、ブラジルを見て思いました。
中山:
それは何がきっかけで、そこまで強く思うようになったのでしょうか?
名和田:
今はライバルチームにいますけど、香川真司さんが背番号10番で活躍していて。ドルトムント、マンチェスター・ユナイテッドというビッグクラブで活躍して、ワールドカップの舞台や、ワールドカップを決定づける試合で活躍してる姿を見て10番への憧れを持ちました。昨年は開幕戦で相手としてプレーしましたけど、すごく嬉しかったですし、やっぱりああいう選手ともっともっと試合したいなと思うと同時に、やっぱり次は自分がっていう思いは本当にあります。
中山:
いいですね。名和田さんにとって「ワールドカップで優勝する」という目標に対して、今は何合目くらいまで来ている感覚ですか?
名和田:
ワールドカップ優勝ですよね。どうだろうな。目標の本当に最終地点というか。優勝ってものは本当に頂点ですよね。5以下ぐらい。4、5ぐらい。
中山:
なるほど。まだ道のりは長いという認識でありながらも、確実にそこへ向かって進んでいる感覚があるんですね。先ほど「そのために野心を持っていたい」という言葉もありましたが、名和田さんにとって「野心」とは、どんな感情なのでしょうか?
名和田:
自分の同年代でも活躍してる選手はたくさんいますし、そういう選手を見た時に負けたくないとか、ムカつくというか、そういう悔しい感情は常に持っています。世代別の代表にも最近入ってないので、そういう部分も含めて、「俺が選ばれたらこういうことができる」というのは常に思いながら、自分の良さをもっと出しながら、目標としているところまでは常に貪欲にやっていきます。そんなこと思ってるやつなんて、いくらでもいると思いますし、そういう選手たちに負けたくない。世界中にいますからね。
中山:
いまの言葉を聞いて、日本のサッカーがこれからどう進んでいくのか、その輪郭が少し見えた気がしました。名和田さんのように、現実を見据えながらも野心を失わずに前へ進む選手がいること自体が、もう一つの希望なんだと思います。その先にある景色を、心から楽しみにしています。本日はありがとうございました。
名和田:
もっと活躍して上にいった時、またその時に取材してください。ありがとうございました。

【After Dialog】
「冷静」という言葉の解像度を極限まで高め、ピッチ上の事象をすべて「手札」へと還元していく、冷徹かつ情熱的な思考の軌跡。対話を通じて浮かび上がったのは、自らの技術を「表現」ではなく、勝つための「合理的な手段」として徹底的に客観視する名和田我空の姿だった。
彼にとってのサッカーは、美学以上に「騙し合い」としての側面が強い。相手の逆を取る、視線一つで出し抜く、あえて隙を見せる。そうした狡知とも呼べる駆け引きを、彼は「人狼ゲーム」を楽しむかのような軽やかさで、プロの戦術論へと接続している。それは、真面目さが裏目に出ることもある勝負の世界で生き残るための、彼なりの誠実な生存戦略でもある。
苦境を乗り越えた経験が、彼に「守備という名の魂」を植え付け、攻撃における「冷静さ」をより強固なものにした。緊張によって思考の分岐が増えるという特異な性質は、彼が常に最悪の事態(逃げ道)と最高のイメージ(得点)を同時にシミュレーションできている証左だろう。
「ワールドカップ優勝までまだ5合目」。その自己評価は、現状への満足を許さない強烈な野心の裏返しだ。憧れの存在と同じ舞台に立ち、次は自分が主役になると言い切るその眼差しには、時代を背負う者の重圧と、それを凌駕する純粋な楽しみが混在している。認知を研ぎ澄まし、手札を増やし続ける彼の旅路は、日本サッカーが未だ見ぬ「頂」へと至るための、確かな道標となっていくはずだ。『Dialog Code』
答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
名和田 我空(なわた・がく)
2006年7月29日生まれ、宮崎県出身。
プロサッカー選手。ガンバ大阪所属。全国中学校サッカー大会で優勝し、得点王を受賞した。高等部へ進学後は、10番や神村学園のエースナンバーである14番を背負い、3年時にはキャプテンを務めるなどチームを牽引。世代屈指のアタッカーとして脚光を浴びる。2023年にはAFC U-17アジアカップで大会MVPと得点王の二冠を達成し、日本の連覇に大きく貢献した。
2025年、ガンバ大阪に加入。相手の逆を突く卓越したテクニックと、ピッチ全体を俯瞰する高い認知能力を武器に、若くして攻撃のタクトを振るう。プロの厳しさに直面しながらも、持ち前の「冷静さ」と「野心」を糧に急成長を遂げ、守備の献身性と勝負強さを兼ね備えた現代型のアタッカーへと進化を続けている。日本サッカー界の未来を担う逸材として、ワールドカップ優勝という至高の目標を掲げ、その歩みを止めることはない。【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。
JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。






