Dialog Code
『不安を準備に、挫折を進化に変える───三度の壁を乗り越え、姿で誰かの心を動かす選手へ』 #髙原春季 Dialog Code
2026/05/27

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」
『Dialog Code』
強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。
今回登場するのは、
髙原春季(バスケットボール選手・東京羽田ヴィッキーズ所属)
【Before Dialog】
勝負の世界では、迷いのなさが強さに見える。大事な場面で、迷わず打ち切ること。緊張に呑まれず、自分の役割を遂行すること。けれど、その強さは最初から備わっている才能ではない。不安や失敗と向き合い、準備を重ねた先に、ようやく立ち上がるものである。彼女は、試合中に判断が研ぎ澄まされている状態を「無」と表現する。余計な思考が入り込まず、見えたものに対して体が自然に動く状態だ。だが、その「無」は偶然ではない。あらゆる状況を想定してシュートを打ち込み、不安を事前に潰していく。試合中に流れを失いそうになれば、得点だけに固執せず、リバウンドやディフェンスを通じて自分を戻していく。緊張は、恐れるものではなく高揚へ。不安は、備えを深める起点へ。そして三度の大怪我は、彼女に挫折だけでなく、変わる力をもたらしてきた。髙原春季は、どのように自分を整え、傷ついた経験を次の力へ変えてきたのか。さあ、彼女の思考を紐解いていこう。
【Code.1 - STATE】迷いの事前処理───不安を処理し、試合を"いつも通り”にする
中山:
試合中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、もしくは短い文章で表すとしたら、どのような言葉になりますか?
髙原:
「無」です。余計な思考回路が一切ない状態ですね。
中山:
「無」というのは、具体的にどのようなことでしょうか?
髙原:
一見、「無」というと本当に何も考えていないというか、空っぽみたいなイメージだと思うのですが、そういう感じではなくて。バスケは状況判断をしたりシュートを打ったりする時に、本当にいろんな情報が入ってくるんですよ。ディフェンスの動きや、自分のボディバランス、体幹、足の使い方、手の角度とか。
でも、そこで逐一思考を働かせている暇はないんです。目で見て、一瞬で判断した後、そのまま体が動く。その間に雑念や自分の気持ちが入っていない状態ですね。私はシューターなので、3ポイントを打つ時は絶対にディフェンスが跳んでくるんです。もちろん相手のことは気になるし、視界にも入っているのですが、それをいないかのように打てる感覚というか。相手に左右されず、自分のタイミングで、自分のフォームのまま打てている状態です。オフェンスでもディフェンスでも、余計なものが一切ない感覚ですね。
中山:
逆に、「余計なことを考えているな」という時は、どのような雑念があるのですか?
髙原:
その時々で違うのですが、例えばシュートが入らない時は、相手よりも自分のボディバランスやフォームのことを考え始めてしまうんですよね。シュートを打つにしても、「今ちょっとズレたな」「もっとこっちを意識しなきゃ」「左を強めにしなきゃ」「もっと足を使わなきゃ」とか。そうやって細かいところを意識し始めると、逆にズレていくんです。いろんなことを考え始めている時は、あまり良くないですね。
中山:
細かく考えるほど、逆に良くないのですね。
髙原:
そうですね。もちろん、練習でうまくいかない時やシュートが入らない時は、その中で修正はするので、調子の戻し方を掴めるようになってきました。私の場合は、練習中にズレたりしたら意識して修正するのですが、試合では「考えなくてもできる状態」で臨むようにしています。たとえ外れたとしても、気にせず自分のフォームで打てていればOKというか、「打ち続けていれば入る」と思える自分がいるので、必然的に入っていきます。
もちろん、ものすごく右にズレて外れた時は「ちょっと左に寄せよう」など、そういう修正はします。でも、自分のフォームそのものや細かい部分はいつも通りですね。自分のフォームは完成しているので、そのまま打ち切るという感じです。
中山:
細かく考えすぎるのではなく、いつも通りやることを大事にしているのですね。
髙原:
外し方による部分もありますが、基本的にはそうです。

中山:
他に、試合中に自分を取り戻すためにやっていることは何ですか?
髙原:
私の役割はチームの中で得点を取ることなんです。なので、点が入らない、シュートが入らない、打たせてもらえないなどのようにネガティブなことが続くと、いろいろ考えてしまったり焦ったりする時があるんです。そういう時こそ、リバウンドなどの別のことにフォーカスして、頑張るようにしています。そうしていると、知らない間にシュートも入っていますし、ベストパフォーマンスもできていますね。
中山:
気づいたら良い状態に戻っているのは、どうしてなのでしょうか?
髙原:
それこそ、私の場合は得点を取ることが仕事なので、取れなかった時に「何としてでも点を取らなきゃ」という気持ちが強くなってしまい、それが逆に空回りしてしまうんです。なので、そこばかり意識していると、他がおろそかになってしまうんです。だからこそ、他のことを頑張るようにしています。
バスケは切り返しの早いプレーが本当に多いんです。少し専門的な話になりますが、例えばリバウンドを取った時に、たとえ自分が点を取れていなかったとしても、オフェンスリバウンドを取って、もう一回跳べば、それだけで2点取れることもある。それは3ポイントでも自分の1対1からの得点でもないのですが、リバウンドを頑張って取って、リング下を決めるだけでも同じ2点なんですよね。
あとは、ディフェンスを頑張って、すぐに走るだけでも、チームの流れは良くなったり、盛り上がったりするんです。その流れの中で、徐々に自分の調子も戻っていく感じですね。
中山:
他の形でチームに貢献することで、結果的に自分も乗っていくということですね。
髙原:
そうです。勝手に乗っていって、 気づけばちゃんと戻っていることが多いです。
中山:
これまでのプロキャリアの中で、こういった自己理解をどのように深めてきたのでしょうか?
髙原:
私は今年でプロ10年目になるのですが、本当にいっぱい失敗してきましたし、大事な局面で空回りして得点につながらなくて、自分のせいで負けた試合もたくさんありました。そういう経験をしてきた中で、私は結構人に聞くことが多いです。「どうしたらよかったんだろう?」「客観的に見てどうだった?」というように、昔からよく聞いていました。20代前半くらいの時に教えてもらったのが、「他のところを頑張ったら戻ってくるよ」ということでした。
そこから、競った試合や大事な試合、うまくいかない時にそれを思い出して試していく中で、「他のところを頑張った方が、自分もチームも乗ってくるな」と実感できるようになっていった感じですね。本当に、たくさん失敗して、教えてもらって、実践して、ようやく実現できました。
中山:
ご自身の経験だけではなく、周囲の意見も取り入れながら、自分に合う形を見つけてきたのですね。
髙原:
あとは、ミスを引きずりすぎないことですね。今でもたまにあるのですが、最初の頃は一回スティールされたり判断ミスをしたりすると、ずっと引きずってしまっていたんです。でも今は、「どう切り替えるか」というより、「次、次」というように本当に考えないようにしています。それが結果として、リバウンドやディフェンスを頑張ること、走ること、声を出すこと、そういう行動に全部つながっているのかなと思います。
中山:
切り替えた先に、自分が何をすべきかという具体的な行動が整理されていることが、すごく大事なのだと感じました。
髙原:
そうですね。ミスの度にネガティブな感情になるよりも、「いかに次に備えられるか」という感覚ですね。
中山:
その状態で試合に入るために、準備段階でやっていることはありますか?
髙原:
私、ルーティンが全くないんですよね。
中山:
ここまでの話を聞く限り、なさそうだなとは思っていました(笑)。
髙原:
全然ないですね(笑)。でも、心配性なんです。シューターなので、フォーメーションも本当にたくさんあるんですよ。この場面では3ポイントを取ってほしいとか、2点が欲しい時に絶対に決め切るフォーメーション、味方からアシストをもらってクイックで打つ、時間がない中で決め切るものなど、本当にいろんなシチュエーションがあります。
なので私は、その心配を「試合までに全部なくす努力」をしています。あらゆるシチュエーションでシュートを打ちますし、両足で打つのか、右左でストップして打つのか、左で止まるのか、少しバックステップを踏みながら、バックランしてボールをもらって打つのかとか。本当に一歩二歩の世界なのですが、そこがすごく大事です。
シュートは一瞬なので、その瞬間を逃したら打てないんです。なので、どんなボディバランスでも、足さばきでも、自分のフォームでいつでも打てるように、そこは責任を持って練習しています。それをやっているからこそ、試合で入らなくても試合中は気にせず打ち続けられるというか、「打ち続けていれば入ってくる」と思えるのもそこにつながっています。
中山:
起こり得るあらゆるシチュエーションを想定して、それを一つひとつ潰していくという準備なのですね。
髙原:
私の中でのモットーというか、昔から「試合中は本当にいつも通りやる」というのが、一番大事にしていることなんです。なので、「いつも通りできるように準備する」という感覚ですね。
【Code.2 - EMOTION】恐怖をワクワクへ、不安を準備へ───大怪我で得た「視点のスイッチ」
中山:
試合前や試合中に生じる「緊張」や「不安」という感情は、髙原さんにとってどのような存在ですか?
髙原:
必要不可欠な大事な感覚です。大事な試合の時はもちろん緊張しますが、私は毎回、「きたきた、この感覚」とプラスの感情になります。緊張はワクワクするし、不安があるから徹底的に備えられます。この二つが、適度に私の中にあれば良い感覚です。
中山:
「きたきた、この感覚」というのは、 具体的にどのような感覚なのですか?
髙原:
ネガティブな感情は一切なくて、楽しさに近いかもしれないです。ものすごく緊張することは、そこまで多くなくて。2シーズン前に、優勝をかけた大事な試合があったんです。2日連続の試合で、相手はどちらか1試合勝てば優勝。でも私たちは、1試合でも負けたら終わりという状況でした。
試合が始まってしまえば全然緊張しないんですけど、試合前はすごく緊張しました。でも、その時も「めっちゃ楽しいな」と思っていました。めったにない感情だからこそ、「きたきたきた」みたいな感覚になるんです。
中山:
めったにない感覚だからこそ、それが恐怖になる人もいると思います。髙原さんの場合は、それが「楽しさ」や「ワクワク」になるということでしょうか?
髙原:
確かに、緊張すると落ち着かなかったり、ソワソワしたり、「ああ……」ってなる人もいると思いますが、私は「きたー!」ってなるんです。楽しみというか、ワクワクというか、「今からどうなるんだろう」「始まるぞ」「来た来た、この感覚!」という感じです。
中山:
その緊張は、どのタイミングがピークなのでしょうか?
髙原:
バスケは試合直前に「スターティング5」といってレギュラーの5人が入場するのですが、その時が一番緊張します。アップ中は全然緊張しなくて、いつも通り体を動かします。ベンチに戻ってチームの作戦を聞いて、「よし、始まるぞ」という時が一番緊張するようにしています。
選手が5人並んで、アナウンスを待っている時がピークですね。でも、審判が笛を鳴らして試合が始まった瞬間、私の緊張は一気に飛びます。それが私のスイッチなんです。並んで、笛が鳴って「よし!」と切り替わる。それ以降、緊張することはありません。

中山:
一方で「不安」についてですが、そもそもどのような不安が生じますか?
髙原:
「自分が点を取れなかったら、チームが苦しくなるだろうな」という不安は常にあります。だから練習するという感じですね。あとは、シチュエーションごとにしっかり決めきれるか、勝たせられるか、 相手のキープレイヤー、自分がマッチアップするであろう選手とかですね。
特にうちのチームはスカウティングの対策がすごくて、相手のフォーメーションをほぼ全て覚えるんです。種類が膨大にある中、その一つひとつに対してディフェンスの守り方が全部違うので、「間違えちゃいけないな」という不安はあります。チームで遂行すべきことをしっかりできるかという点ですね。
中山:
そうした不安が出た時、どのように準備へつなげていくのでしょうか?
髙原:
シュートに関しては、日々の基礎練習から徹底しています。基礎練習は地味なのであまり好きではないのですが、その時から指先まで意識して「絶対に落とさない」という細かいこだわりを積み重ねることが大事だと思っています。ディフェンスがいない練習でも、5対5の練習でも絶対に決めきる。どの瞬間でも自分の役割は点を取り続けることなので、その1本で勝敗が決まります。一瞬一瞬を全部こだわっていれば、試合中は意識しなくても入るんです。全てが繋がって「いつも通り」になれるんです。
中山:
チームの戦術やスカウティングが緻密がゆえに「覚えきれない」と苦労する選手もいると思うのですが、髙原さんはどのように準備されているのですか?
髙原:
チームとしてもかなりやり込みますし、データ化されたスカウティングレポートも用意されています。サッカーやバスケなどのスポーツでよく使われる「フォーメーション図」があって、そこにチームとしての動きが細かく示されているのですが、私はそこに自分のポジションの動きをめちゃくちゃ書き込んでいます。
とにかくメモをして、「やるしかない」と自分に言い聞かせて覚える。練習で実際に動いてみて、帰宅してからもう一度おさらいする。さらに、試合会場にもその紙を持っていって、控室でも直前まで見返すようにしています。常に確認していますね。
中山:
いざ試合が始まった時に、「考えなくても動ける状態」を作るための準備ということですね。
髙原:
たまに忘れることもあるんですけどね(笑)。
中山:
過去に、大きな怪我を数回経験されていますが、それによって緊張や不安の捉え方に変化はありましたか?
髙原:
ものすごく変わりました。私は今リハビリ中で、実は今回で靭帯を切るのは3回目なんです。3回とも膝の怪我なので、スポーツ選手にとっては致命傷というか、1回目で引退を考える選手も多いと思います。
私は「怪我をして良かった」とは一切思いませんが、怪我のおかげで得たものはたくさんありました。今はシューターと言っていますが、昔は3ポイントをできる限り打ちたくない選手だったんです。初めて右膝を切った時は、ガンガン中へ切り込んでいくドライブ型でした。でも膝を怪我して復帰するとなると、以前のようなスタイルを貫くのは1年目だと厳しい。プロの世界は甘くないので、どう生き残るかをリハビリ中に考え抜いた結果、「苦手だけど3ポイントだ」と決めたんです。リハビリ期間中にフォームを1から作り直して、3ポイントが得意になったことで、復帰後はシューターとして起用してもらえるようになりました。
中山:
怪我という大きな挫折を、プレースタイルの転換という見事な進化に繋げられたのですね。
髙原:
1回目の怪我がなかったら、私に3ポイントという武器はなかったですし、今の自分も存在しなかったと強く思います。その経験を通して、物事の捉え方がガラッと変わりました。怪我をした瞬間はどん底ですが、「悪いことばかりじゃない」ということを身をもって2回経験してきましたから。
もちろん今回、3回目の怪我をした直後は「もう頑張れないかも」と初めて引退も考えました。でも、過去2回とも怪我がきっかけでバスケット人生が良い方向に変わっているので、少し落ち着いてからは「次はどのように自分を変えられるんだろう」と、どこかワクワクしている自分もいました。緊張が「楽しさ」に変わるのも、そういったことに繋がっているのかもしれません。もともとはネガティブな性格ですが、そう思えるようになったのは、やはりこれまでの怪我があったからです。緊張が「楽しさ」に変わるのも、そういったことに繋がっているのかもしれません。
中山:
強制的に視点を切り替えないと次に行けないという状況が、結果として「視点を変えるスキル」として身に付いたように思います。
髙原:
そうかもしれないです。
【Code.3 - COGNITION】対話で成り立つ格闘技───己を知り、他者と補い合う
中山:
髙原さんにとって、バスケットボールという競技はどのような「ゲーム」だと捉えていますか?
髙原:
奥が深く、魅力あるゲームです。この競技は、自分自身と向き合うきっかけを何度もくれます。いろんな景色を見て経験した時には、誰かに頼る勇気を持つことや支え合うことの大切さを学び、アスリートである前に一人の人間として成長させてくれます。
中山:
バスケが「人としての成長」を促してくれると感じるのは、具体的にどのような経験からなのでしょうか?
髙原:
「チームスポーツであること」が一番大きいと思っています。自分一人ではなく、みんなで戦うからこそ「この人は何が得意なんだろう」「この子はどうしたかったんだろう」と、相手の気持ちを考える癖がつきました。自分だけでなく周りの人に目を向ける。何か問題が起こっても、他者がどう思っているかを想像する癖がつきました。
それからコミュニケーションの重要性ですね。どんな競技もそうだと思いますが、戦術以前にコミュニケーションをたくさん取らないとダメだなと。みんな一人の人間ですし、私のような考え方をする人もいれば、ネガティブに捉えてしまう人もいる。性格や捉え方がバラバラな中で、一つの目標に向かっていくためには、コミュニケーションを通じて相手の気持ちを考えることが、バスケのおかげで身についたなと思います。
中山:
先ほど「自分と向き合うきっかけを何度もくれる」というお話もありましたが、髙原さんは普段から自分自身を振り返る機会が多いのでしょうか?
髙原:
他の人よりは多いと思います。
中山:
具体的に、どのようなことを考えるのですか?
髙原:
それこそ怪我をした時に「生き残るためにどうすべきか」を考えたこともそうですし、「どうチームに貢献するか」もそうです。自分と向き合う時間にもなりましたが、特に副キャプテンという立場になってからは、「自分はどういうバスケットをしたいのか」「自分が本当にしたいことはなんだろう」「描いている理想のチーム像や選手像は何なのか」といったことを深く考える機会が本当に増えました。
中山:
そうした問いに対しては、基本的にはご自身で向き合うことが多いですか?それとも、誰かに相談されるのでしょうか?
髙原:
一旦は自分で考えてみます。ただ、それがコミュニケーションを必要とする内容であれば、直接本人に聞くようにしています。

中山:
一方で、バスケットボールを「競技面」から捉えると、どのようなゲームだと言えますか?
髙原:
「格闘技」だと思います、バッチバチです。
中山:
その「バッチバチ」というのは、イメージ通り体が激しくぶつかり合い、相手と戦うという意味での格闘技ということですか?
髙原:
はい。本当によくぶつかるので。
中山:
その「格闘技」において、必要なスキルを一つ選ぶとしたら何を選びますか?
髙原:
言葉にするのが難しいですが、あらゆる面を含めて「コミュニケーション力」です。
中山:
それはなぜでしょうか?
髙原:
得点力などの要素ももちろん大事ですが、バスケは展開が非常に速く、常に5人で連動しています。だからこそ、自分の苦手なところや味方の不得意なところを、誰かが必ず補い合わなければなりません。自分が調子悪くても、誰かの調子が良ければ勝てることもある。 相手と自分がどうしたいのか。仲間やコーチとコミュニケーションを取って、互いの状況を把握しておくことは、個人の技術以上に大切なことだと思っています。
中山:
では、あらためてバスケの「魅力」を一言で表すなら何でしょうか?
髙原:
やっていない方の視点に立つと、「展開の速さ」が一番の魅力かなと思います。どのスポーツよりも速いんじゃないでしょうか。常に走っていて、たった5人で動いているので、少しでもサボればすぐにバレてしまうくらい展開が早いですよね。
中山:
先ほどの「格闘技」という表現の通り、目の前で筋肉の動きが見えたり、激しくぶつかる音が聞こえてきたりするライブ感はすごいですよね。
髙原:
そうですね。バチバチと音が鳴るくらい激しいです。
【Code.4 - VISION】記憶に残る体現者───挑み続ける姿で、再起のきっかけを灯す
中山:
この競技を続けていった先に、どのような状態や景色に辿り着いていたいと考えていますか?
髙原:
バスケットに関わらずスポーツは誰かの心を突き動かす、言葉では表現できない特別な力があると思っています。私は膝の大怪我を三度しています。アスリートも人間なので、落ち込む時、やる気がわかない時、逃げ出したくなる時、不安になる時、たくさんありますがそれでも頑張り続けることができる原動力がそれぞれにある。高みをめざす中でいろんな景色を見て、感じて、経験して、たくさん失敗して、そうして人間力が磨かれてます。
勝負の世界なので結果が全てですが、その過程は何にも変えられない財産だと思っています。これはスポーツに関わらず、誰にでも当てはまることで、どんな状況でも諦めなければ道は開けるし、いくらでも変えられる。今この瞬間の自分の積み重ねが、これからの私を創る。これを私自身が体現していきたいです。今はまだ成⻑途中ですが、たくさんの人を巻き込んで見たことのない景色を見たい。その先で誰かの人生に何かの光を与えられるようなきっかけを与えられる人になっていたいです。
中山:
「誰かの心を動かす」というのは、具体的にどのような瞬間をイメージされていますか?
髙原:
例えば、誰かに言われた素敵な言葉や、参考になる考え方は世の中にたくさんあるじゃないですか。文字として目に入ってきたり、人からの情報が耳に入ってきたり。でも私が大切にしたいのは、そういうものではなくて。例えば、今の私がバスケットボールをしている姿を見て、誰かが「ハッ」とする。自分の中から無意識に、自発的に湧き上がる感情こそが、何をするにも一番大事だと思うんです。
自分で「わっ」と気づいたことや心から感じたことは、ずっと記憶に残りますし、何より強い原動力になりますよね。だから、自分が何かに挑戦し続ける姿を「体現」することで、誰かの心の中に頑張るためのきっかけや原動力を生み出せる人になりたいなと常々思っています。
中山:
特定のメッセージを送るのではなく、見た側がそれぞれの状況に応じて何かを受け取ってほしいということですね。
髙原:
同じシチュエーションを見ても感じることは人それぞれ違うと思うので、その人の何かのきっかけになったり原動力になることができたら理想です。
中山:
髙原さんご自身が、これまでに誰かに心を動かされた経験はありますか?
髙原:
一番最近で言うと、女子リーグのファイナルを観戦した時のことです。自分たちは負けてしまったので客席から見ていたのですが、そこで戦っているのは普段私たちが対戦している選手たちです。特定のプレーというわけではないのですが、例えば、一つのルーズボールに対してめちゃくちゃ必死に追いかけて、滑り込んで取っている姿。そういう泥臭い一つひとつのプレーに「気持ち」が見える瞬間に、やっぱり私はすごくグッとくるんです。
昨シーズンも、同じチームメイトの本橋菜子さんの姿に心を打たれました。彼女は日本代表にも入っていて、人としても本当に素晴らしい方なのですが、チームの負けが続いてモチベーションの維持が難しい時期の中で、最年長として誰よりもチームのために体を張っていました。コンディションが万全ではない中で、必死に戦うその背中を見た時、「言葉では表現できないところで、人の心を掴むのはこういう人なんだな」と感じたんです。昔からそういう瞬間をたくさん見てきたからこそ、私も誰かに何かを与えられる「体現者」でありたいと強く思いました。
中山:
先ほどのお話にもありましたが、三度の大きな怪我を経験されました。その経験を持つ髙原さんだからこそ、誰に、どのような影響を与えられると考えていますか?
髙原:
今回に関しては、さすがに3回目の怪我だったので、周りも「続けるのかな、引退するのかな」と心配するレベルだったと思います。自分自身、3回目は初めての経験ですが、来シーズンは完璧な状態で復帰するつもりですし、今のところ非常に順調です。なので、「怪我をしたことを感じさせないコンディション」でカムバックしたい。私がそれを成し遂げることで、「自分もまだできるかもしれない」と勇気を持てる人がきっといると思うんです。
実際、1回目や2回目の時も、ファンの方や同業者の友人たちから「怪我からここまで戻ってきた姿を見て、自分ももっと頑張れると思った」と言ってもらえる機会が多くありました。一昨年ベスト5に選んでいただいた時も、たくさんの反響をいただきました。
だからこそ、この3回目は、同じように怪我で苦しんでいる人だけでなく、仕事や人生のいろんな場面で「もう不可能だ」「無理じゃないか」という苦境に立たされている人たちに向けて、活躍している姿を見せたいんです。そうすることで、「まだできる」「やれば可能性があるんだ」ということを証明したい。自分のためでもありますが、誰かの「原動力」になるために、私はその姿を体現し続けたいと思っています。
中山:
最後に、この「3回目の壁」を乗り越えた先に、どのような選手になっていたいですか? 目指したい境地や、得たいものがあれば教えてください。
髙原:
抽象的かもしれませんが、一番は「たくさんの人の記憶にしっかり残る選手」になりたいです。これまで、1回目の怪我が代表活動中だったりと、自分にとって大事なタイミングで怪我をしてしまうことが多かったんです。それでも、うちのチームのファンの方は本当にいい人ばかりで、どんな状況でもずっと応援し続けてくれます。
綺麗事に聞こえるかもしれませんが、私は本当に、ファンの皆さんの笑顔が見たい。喜んでいる姿が見たいからこそ勝ちたいし、今年もまた優勝を狙いたいです。以前優勝したとき、ブザーが鳴って「勝った」と確信するよりも先に、観客席からの凄まじい歓声で「勝ったんだ!」と気づいた瞬間がありました。喜んで抱き合っている皆さんの姿を見て、「頑張ってきて良かった」という感情が湧いてきたんです。それくらい、私にとってファンの皆さんはかけがえのない大切な存在です。
中山:
髙原さん自身が誰かの原動力になり、その姿が記憶に深く刻まれていく。そしてその皆さんの喜びが、また髙原さんの力になる。そんな素晴らしい循環を感じます。結果はもちろん大切ですが、最終的に「記憶に残る選手」として、髙原さんらしさを貫きながら競技人生を全うされることを願っています。今日は貴重なお話をありがとうございました!
髙原:
ありがとうございました!

【After Dialog】
髙原春季の強さは、不安や迷いを持たないことではない。それらを準備へ変え、試合では「いつも通り」に戻っていけることにある。緊張を高揚として受け入れ、不安を細部へのこだわりに変え、うまくいかない時には別の貢献から自分のリズムを取り戻す。その積み重ねが、彼女のプレーを支えている。三度の大怪我も、競技人生を止めるだけの出来事にはならなかった。 一度目の負傷はシューターとしての現在につながり、三度目の壁を前にした今も、「次はどんな自分になれるか」と未来を見据えている。その先で彼女が目指すのは、ただ復帰することではない。挑み続ける姿によって、誰かに「まだできる」と思えるきっかけを届けること。ファンの記憶に残り、誰かの原動力になれる選手であることだ。不安は、弱さではない。挫折は、終わりではない。向き合い方次第で、それらは次の自分をつくる力になり、いつかは誰かの心を動かす力になるのだ。『Dialog Code』
答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
髙原 春季(たかはら・はるき)
1999年3月13日生まれ、大阪府出身。
バスケットボール選手。東京羽田ヴィッキーズ所属。
縄手南小、縄手南中を経て大阪薫英女学院高校へ進学。高校時代にはインターハイ、ウインターカップでともにベスト4を経験した。早くから年代別日本代表にも名を連ね、U16アジアカップ準優勝、U17ワールドカップ9位、U18アジアカップ準優勝、U19ワールドカップ4位を記録している。2017年にアイシン・エィ・ダブリュ(現・アイシン ウィングス)に加入し、Wリーグでのキャリアをスタート。5人制に加えて3人制でも代表経験を持ち、2018年のFIBA 3×3 U23 Nations League、2019年の3×3女子日本代表メンバーに選出された。2022年に東京羽田ヴィッキーズへ移籍。173cmのサイズを生かした得点力に加え、3ポイントシュートを武器とする。2026-27シーズンも東京羽田でプレーすることが発表されている。【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。
JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。






