Dialog Code
『無の自動化──緊張をギアに変え、不安をコミットで凌駕する』今村佳太 # Dialog Code
2025/03/25

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」
『Dialog Code』
強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。
今回登場するのは、
今村佳太(プロバスケットボール選手・名古屋ダイヤモンドドルフィンズ所属)
【Before Dialog】
Bリーグ屈指のオールラウンダーであり、優勝請負人。今村佳太というプレーヤーを語る時、その華やかなスタッツ以上に注目すべきは、彼が内側に秘めた「狂気的なまでの自問自答」だ。エリート街道を歩んできたわけではない。だからこそ彼は、自分自身を最大の実験台とし、マインドと身体の相関関係を解剖し続けてきた。ノートに思考を凝縮させた時期を経て、彼が辿り着いたのは「無」という名の最適解。思考を止めるのではなく、迷いを削ぎ落とし、オートマチックに身体を連動させるその境地は、飽くなき準備の果てにのみ現れる聖域である。「向上心なくして成長なし」。 その言葉を胸に、彼はなぜ今もなお、泥臭いディフェンスにプライドを懸けるのか。 優勝という頂を経験した男が、なおも渇望する「自分との戦い」の正体とは。 一人の表現者が、いかにして自らの弱さと向き合い、それを「ハングリー精神」という名の武器へと昇華させてきたのか。その思考の断層を、静かに辿っていく。さあ、彼の思考を紐解いていこう。
【Code.1 - STATE】無の自動化──最適解を「考えずに選び続ける」
中山:
試合中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、あるいは短い言葉で表すとしたら、どのような表現になりますか?
今村:
「無」ですね。
中山:
実際に、良い状態の時の「無」とは、頭の中ではどのような感覚なのでしょうか?
今村:
他の競技にも言える部分はあると思うんですけど、特にバスケは、その場その場での判断がすごく大事になってくる競技なので、思考が止まってしまうのはよくないと思っています。 その上で「無」と言ったのは、その場その場の判断が迷いなく、自分の中で最適化されて、次から次へといい判断を繰り返している状態のことです。何も考えていないようでも、体が自然に反応したり、必要なものが見えていたりする感覚がある。そういう時の思考は、考えすぎていないというか、できる限りフラットで、無に近い状態なのかなと思って、そう表現しました。
中山:
なるほど。何も考えていないというよりは、「考える必要がない」状態に近い感覚なのですね。
今村:
そうですね。言葉にすると、深く考えすぎていない、という方が近いかもしれません。その場その場でいい判断ができている時は、何かを考え込みすぎることなく、オートマチックにいい判断ができていて、いいところが自然と見えている感覚があります。景色がすごく俯瞰して見えているような感覚ですね。
中山:
そのような状態の時は、たとえばシュートや判断の感覚はどう変わりますか?「無」の時と、そうでない時とで違いはあるのでしょうか?
今村:
ありますね。特にシュートの時は分かりやすくて、僕は考えすぎると、いわゆる「ショート」して、シュートが短くなりがちな時があります。逆に「無」の状態だと、たとえ外れたとしても少し奥に当たったり、リングの中でクルクル回ったりして、タッチとしては悪くない感覚があります。自分の中では、考えすぎている時ほどショートしやすいと思っています。
中山:
毎試合その「無」の状態に入れたら理想的な一方で、そこに入れる時と入れない時があると思います。その違いはどこにあると感じていますか?
今村:
もちろん、試合に入った段階から自分の中でいいメンタリティで、そのままスッと入れる時もあります。ただ、そうではない時に「無」の状態に入るきっかけになるのは、自分の中で何か一つでもいいプレーが出た時ですね。たとえばディフェンスでもいいですし、本当にシンプルに、オープンの味方に簡単なパスをきれいに通せた時でもいい。そういう判断が一つでもできると、一つの成功体験のような感覚になって、そこから一気に「無」の状態に入って、いつも通りの感覚に戻れることがあります。試合中は、そういう一つのプレーをきっかけにスッと入ることがあります。
中山:
一つのプレーがきっかけになるのですね。しかも、それは一見シンプルに見えて、実は大きな意味を持っている。先ほど「入りから比較的いいメンタリティでそのまま入れる時もある」というお話もありましたが、そのような時は頭の中ではどのような状態なのでしょうか?
今村:
やるべきことがすごくはっきりしている感覚があります。オフェンスでもディフェンスでも、その試合において自分が相手に対してどういう嫌なことができるか、自分たちのチームにどういうアドバンテージをもたらせるか、そういうことが明確になっている状態です。そういう感覚は、試合前の段階で自分の中で分かる時があります。
中山:
その「相手にとって何が嫌か」「自分たちにどんなアドバンテージをもたらせるか」といった、自分がやるべきことの整理については、前日や当日など、何か取り組まれていることはありますか?
今村:
Bリーグは土日ゲームや水曜ゲームが多いので、ある程度準備する期間があります。次の対戦相手が決まると、前の試合が終わった次の日くらいから相手のスカウティングが入ります。その段階で、相手がこういうディフェンスをしてくるなら自分はこういうプレーができそうだなとか、相手のオフェンスに対してこういう守り方をした方がいいんじゃないか、という準備は結構早い段階からしています。そこから当日が近づくにつれて、さらにクリアにしていくイメージですね。
中山:
ちなみに、今村さんはノートに書くなどの形で整理されることもあるのでしょうか?それともどちらかというと頭の中で整理していくタイプですか?
今村:
僕の場合は、ゲームの中の雰囲気もそうですし、今お話しした相手のスカウティングもそうなんですけど、あまり頭でっかちになりたくないという感覚があります。ノートを書くこと自体はすごく大事だと思いますし、それをやっている方は本当に素晴らしいと思います。でも自分は、以前それをやった時に少し頭でっかちになりすぎてしまって、「ここはこうだからこうするべきだ」とか、「このタイミングならこのプレーを選ばなきゃいけない」といったマインドに寄りすぎてしまったことがありました。 準備してきたことが試合の中で100%そのまま当てはまるかというと、そうではないですし、試合中に何が起こるか分からない中で、それにどう対応できるかが大事だと思っています。だからどちらかというと、生の流れというか、「試合は生き物」と言われるような、その感覚を失いたくないですし、そこに敏感でいたいんです。なので、練習中もそうですし、特に試合中は、そういう感覚をすごく大事にしています。もちろん、プレーの狙いや相手の特徴は頭に入れていますが、ガチガチには固めすぎないようにしています。
中山:
一度は整理する方法も試されたけれど、その結果、決められたことに縛られすぎてしまい、ご自身の当日の感覚や感性が少し活かしにくくなった。だからこそ、今のやり方に辿り着いたのですね。
今村:
そうですね。
中山:
まさに今、「生の流れ」に敏感でいたいというお話がありましたが、一瞬の判断が求められるバスケットボールにおいて、その流れを感じ取るために意識していることはありますか?
今村:
僕はコミュニケーションかなと思っています。やっぱり一人でやるには限界がありますし、バスケは5対5なので、自分一人で「ここはこう守りたい」と思っていても、チームメイトが違う判断をした時に対応できなくなってしまいます。 なので、その時にどういう守り方をしたかったのか、チームとしてはこういうベースで守りたいけれど、この場面、たとえばピックアンドロールの守り方はどうするのが最適だと思うか。そういったコミュニケーションをしっかり取って、5人で擦り合わせることが大切だと思っています。5人が共通認識を持ってプレーすることがすごく大事だと思っているので、コミュニケーションは特に求められますし、すごく大切にしています。

中山:
一人では完結しないからこそ、流れというものも5人の中で生まれていくのですね。
今村:
そうだと思います。だからこそ、コミュニケーションはかなり必須ですね。
中山:
このあたりの考え方は、キャリアが進むにつれて変化してきた部分でもありますか?
今村:
そうですね。キャリアの最初の頃は、大学のカテゴリーからプロに入って一番高いカテゴリーでプレーすることになった時、スカウティングの細かさや要求が一気に増えました。その時は、さっきお話ししたように、ノートを取って「ここはこう来るからこう守る」といったことをかなりガチガチに考えていて、それだけやればいい、くらいの感覚でやっていた部分もありました。 ただ、やっぱりレベルが上がれば上がるほど、相手もその逆を取ってきたり、それを分かっていても止められないことが出てきたりするんです。そういう経験を通して、ベースとして持っておくことはもちろん大事だけれど、それ以上に「アジャストする力」や、コミュニケーションで何とかできる解決策を持っておく必要があるなと感じるようになりました。そこは大きく変わった部分です。ただその一方で、一人を一人で守りきる力は忘れてはいけないとも思っています。チームメイトを信頼することもコミュニケーションも大事なんですけど、そこに頼り切ってしまうと個のレベルは上がらないと思っているので。コミュニケーションを大切にしつつ、一人で一人を守りきるということも同時に大事にしています。
中山:
若手の頃は分析や研究が増える中で、それに完璧に応えようと取り組む。ただ、それに従うほど、相手はその逆を取ってきたり、上回ってきたりする。その経験があったからこそ、コミュニケーションやその場での対応力の重要性に気づいていったのですね。
今村:
そうですね。
中山:
先ほども「頭でっかちになりたくない」という言葉がありましたが、今村さんご自身が「考えすぎているな」と感じる時は、どのような思考に陥っていることが多いのでしょうか?
今村:
たとえば自分たちのオフェンスの時、相手もいろいろ守り方を変えてくるんですけど、その中で自分たちが持っている解決策を、「こうやられたらこうするよね」という形で考えすぎてしまうことがあります。 もちろん、俯瞰して理論的に見ればそれが正解なこともあるんですけど、そればかりをやろうとしてしまうと、本来自分たちが目指している「ボールを動かして、流動的にプレーする中でオープンなシュートを作る」というスタイルを見失ってしまうことがあるんです。たとえば高さのミスマッチがあると、そこを突きたい気持ちが強くなって、そこに固執しすぎてしまう。そうなると、ボールが一か所で止まってしまう。そういう時は、無意識のうちに「そこにアドバンテージがある」と思い続けているからこそ、固執してしまっているのかなと感じることがあります。
中山:
自然にいい状態に入っていける時もあれば、小さな成功体験をきっかけにそこへ入れる時もある。一方で、「今日は少し調子が良くないかもしれない」と感じた時に、その状態からリカバリーするために意識していることはありますか?
今村:
プレーの調子って、バスケの場合は特にオフェンスに出やすいと思うんですよね。シュートが入らないとか。自分も、めちゃくちゃシュート成功率が高い選手かと言われると、そうではないと思うんですけど、もちろん決めるべきところは決めなきゃいけない。 ただ、そういう時こそ、リングに近い位置でアドバンテージを取ったシュートを打てるようにするという技術的な工夫はします。その上で、自分はディフェンスの部分は「気持ち」だと思っているので、調子がよくないなと感じた時は、とにかくディフェンスで相手に激しくプレッシャーをかけたり、ルーズボールに思い切って飛び込んだり、リバウンドにハードに行ったりします。そういうプレーを通して、自分がコートにいる理由は何なのかをもう一度自分に証明するというか、自分で自分を鼓舞するような感覚ですね。そうすることで自分の中にリズムが生まれて、結果的にオフェンスにもいい影響が出てくる。自分がうまくいかない時は、そういう動きが一番多いと思います。
中山:
やはり調子はオフェンスに一番表れやすいのですね。守備での不調は、そこまで分かりやすく可視化されづらいかもしれませんね。
今村:
そうですね。バスケではよく言うんですけど、ディフェンスはやっぱり気持ちが一番だと自分も思っているので、そこには調子の良し悪しはないと思っています。だからこそ、そこは一貫していなきゃいけない。自分がコートに立っている意味もそこにあると思っているので、そこは自分のプライドとして大事にしています。
中山:
今村さんにとってディフェンスとは、土台でもあり、強いプライドが宿っている部分なのですね。
【Code.2 - EMOTION】思考の断捨離──緊張を、集中力の「ギア」へ変換する技術
中山:
試合前や試合中に生じる「緊張」や「不安」という感情は、今村さんにとってどのような存在ですか?
今村:
「必要な存在」ですね。
中山:
なるほど。では、緊張や不安が必要だとすると、それがない状態というのは、逆にどのような状態になるのでしょうか?
今村:
それがないと、一定の集中力が保てないのかなと思っています。やっぱり、それは自分が求めているプロの試合ではないのかなとも感じます。緊張と不安は似ているようで少し違うものだとも思うんですけど、でもやっぱり自分の中には両方あって、それを乗り越えるからこそ、ファンの皆さんにいいものを届けられる。なので、ある意味では、その緊張や不安すら少し楽しんでいる感覚があります。

中山:
その感情自体も楽しむ感覚があるのですね。緊張や不安があることで、ご自身の中では何が一番良くなる感覚がありますか?
今村:
やっぱり集中力ですね。そこにつながっていると思います。危機感というほどではないですけど、自分の中には感覚的なギアがあって、緊張や不安があることで、そのギアが何段階か上がるような感覚があります。
中山:
そのギアが上がることで、プレーにはどのような影響が出ると感じていますか?
今村:
シンプルに、調子が良くなる感覚はあります。言葉にすると難しいんですけど、それこそ先ほどお話しした「無」の状態に近づいていく感覚があって、アグレッシブになれたり、よりクリアな判断ができたり、体の状態も良くなったりする。そういう感覚があります。
中山:
逆に言うと、緊張感がないと集中力が保ちにくく、「無」の状態にも入りづらくなる感覚があるのでしょうか?
今村:
ありますね。余計なことまで考えてしまうというのは、自分の経験の中でもあります。
中山:
緊張と不安は少し違うかもしれないというお話もありましたが、たとえば試合前に、その日のプレーに対して不安を感じることはありますか?
今村:
もちろん、全試合100%のコンディションで臨めたら理想ですけど、そうじゃない時もあります。ただ、そういう時でも、「今日はこれができないかもしれない」とか「シュートが入らないかもしれない」といった不安は、正直あまりないです。自分はキャリアの中で怪我がすごく多かったわけではないんですけど、怪我を抱えながら試合に出る時に、「どこまでプレーできるかな」という不安を感じたことはあります。ただ、比較的フラットな状態で試合に入る時は、不安はそこまで持たないようにしています。
中山:
今の「持たないようにしている」という表現が、とても印象に残りました。学生時代の頃から、同じように不安を持たないタイプだったのでしょうか?
今村:
学生の時は、むしろ不安ばかりでしたね。学生の時は特に、自分が中心、もっと言うと「自分がやらないとダメだ」という感覚のあるチームだったので。しかも、なかなか勝てなかった時期でもあったので、「自分ができなかったらダメだよな」とか「どうしよう」といった不安はずっとありました。中学や高校の頃も、そういう感覚はありましたね。
中山:
かなり今村さん自身に責任が乗っている感覚があったのですね。
今村:
実際にそこまで重かったわけではなかったのかもしれないですけど、自分で勝手にそう思っていたのかなと思います。
中山:
プロになると、勝利に対する責任感はさらに増していく部分もあると思います。その中で、「不安を持たないようにする」と意識して実践するために、どのような整理をされているのでしょうか?
今村:
勝ちに対する不安というのは、絶対にあると思うんです。何が起こるか分からないので、当然あるとは思います。でも、その不安を持ったまま試合に入るのは、自分の中では、さっきの「無」の状態にも近づきにくいのかなと思っていて。 だから試合になったら、自分のやるべきことに、そしてチームのやるべきことに100%コミットして、勝利をつかみに行くだけだと考えるようにしています。自分でコントロールできないことは、もう考えないようにしています。そのマインドセットができるようになってからは、試合終盤、たとえば4Qのラスト5分や3分くらいの場面で出ることも、自分はすごく好きになりました。自分のやるべきことにフォーカスできている時は、結果も良かったので。だから、「不安を持たないようにしている」という感覚があります。
中山:
ご自身がやるべきこと、そしてチームとしてやるべきことにどれだけコミットできるか、そこだけに意識を向けているのですね。
今村:
そうですね。
中山:
そうすると、意識が自然とそちらに向く分、漠然とした不安の方にはあまり引っ張られなくなる。今村さんにとって緊張は、「消すもの」ではなく「扱うもの」に近いのでしょうか?
今村:
そうですね。自分の糧にできれば、自分が持っている以上の力を引き出してくれる存在なのかなと思っています。やっぱり、それを乗り越えるかどうかは自分の中ですごく大きいですし、実際にBリーグファイナルのような大きな舞台でも緊張はありました。でも、緊張しているからこそ、それを乗り越えた時に、いつも以上のプレーができたり、あるいはいつも通りのプレーを出せたりすることがあった。自分のパフォーマンスを出す上で、集中力を高めてくれる糧のような存在だと捉えています。
中山:
「消さなければいけないもの」というより、自分にとって必要な一つの要素なのですね。
今村:
そうです。変に消す必要はないかなと、自分の中では思っています。
中山:
まさに集中力の話ともつながりますね。たとえば本当にレベルの高い試合などで強い緊張を感じた時、ご自身が取る行動やルーティンのようなものはありますか?
今村:
すごくベタなんですけど、本当にシンプルに、目をつぶって深呼吸します。大きく深呼吸して、少し胸を叩いたりもします。ちょっとした儀式みたいなものですね。集中したい時によくやります。
中山:
それをやると、ご自身の中ではどのような感覚になりますか?
今村:
一回ストンと落ちるというか、力みが取れる感覚ですね。試合ってアップダウンも激しいですし、疲労もあるので、だんだん体に力が溜まって、ガチガチに固まってしまうことがあるんです。そうなると、視野も狭くなっていく。なので、試合中にどれだけ体をフラットな状態に戻せるかを意識していて、それをやると一回リセットされる感覚があります。

中山:
頭に直接働きかけるというより、まず身体にアプローチすることで、力みを整えていくのですね。
今村:
そうですね。そうすると、結果的に頭も少しクリアになるかなという感覚があります。
中山:
こうしたやり方は、ご自身で試していく中で見つけていったものなのですか?それとも、何か学んだり教わったりしたものもあるのでしょうか?
今村:
自分でいろいろ試しました。深呼吸もそうですし、一回ギュッと体に力を入れてから抜くような方法も試しました。そういう中で、自分にとって一番集中力が高まるというか、体も心もキュッと整う感覚があったのが今のやり方だったので。誰かに直接教わってそのままやったという感じではあまりないですね。
中山:
こういう部分も、ご自身で調べたり考えたりしながら試してきたのですね。
今村:
調べたりはしますし、ストレングスコーチに聞いたりもします。ただ、マインドのところは、自分で見つけたいという気持ちもあるので、オリジナリティが結構強いかもしれないです。バスケットボール選手としてキャリアを積んでいく中で、自分で見つけたもので勝負してみたいという感覚もあるので、自分でいろいろ試行錯誤しています。 プレーに関しても、学生の時に、いわゆる関東のトップみたいな環境にチャレンジできたわけではなかったので、自分で何とかするしかない、というのが根本にあったんです。だからこそ、自分で試してみたいという欲が強いのかなと思います。
中山:
プレーの部分でもマインドの部分でも、ご自身を実験台にしながら自己探求を続けてこられた。かなりご自身で試し、変化させながら積み上げてきたのですね。
【Code.3 - COGNITION】理想への渇望──自分と、格上との戦いを終わらせない
中山:
今村さんにとって、バスケットボールという競技は、どのような「ゲーム」だと捉えていますか?
今村:
「人生」というゲームだと思います。
中山:
なるほど。これまでのお話の中でも、学生時代は必ずしも強豪環境の中だけを歩んできたわけではなかったという背景がありましたよね。その中で、この競技が「自分の人生そのものだ」と感じるようになったのは、いつ頃からだと思われますか?
今村:
やっぱり、より強くそう思うようになったのはプロになってからだと思います。もっと言えば、感覚としては昔からあったんですけど、プロになってからはより、自分がバスケットを“やらせていただいている”状態なんだと感じるようになりました。ファンの皆さんが応援してくださって、お金を払って観に来てくださるからこそ、自分はバスケットボールができているので。もちろん、自分が好きで続けてきた競技でもあるんですけど、小学校1年生からずっとバスケットボールをやってきて、人生そのものがバスケットボール一色だったんですよね。その中でも特に大きかったのは、やっぱりBリーグで優勝した時です。その瞬間に、家族が泣いてくれたり、応援してくれた人たちが泣いてくれたりして。自分にとっても、キャリアの中で日本一になって、ある意味報われた瞬間でもあったので、その時に「ああ、自分はバスケットボールが人生なんだな」とすごく強く思いました。もともとプロになってからも、漠然と「バスケットボールしかないな」とは思っていたんですけど、その優勝を経て、引退後もバスケットボールに関わっていきたいと思うようになりましたし、自分にとってすごく大きな分岐点だったと思います。
中山:
なるほど。引退後もなお関わっていたいと思うほど、大きな出来事だったのですね。
今村:
そうですね。消化されたというか、今までやってきたことがようやく報われたという感覚に近かったかもしれません。少し大げさな表現になるかもしれないですけど、本当にようやく家族にもいい結果をもたらすことができたし、沖縄の人たちにもすごくいい思いをしてもらえたかなと思っています。今はその経験を名古屋に還元して、名古屋のみんなで優勝したいという思いにつながっているので、やっぱり優勝がもたらす意味や力の大きさは今でもすごく感じています。
中山:
優勝という結果がもたらす力は、本当に大きいのですね。実際に経験されたからこそ見えるものがあるのだろうなと思います。
今村:
そうですね。実際に経験して、自分のキャリアをすごく引き上げてくれた感覚があります。優勝したからこそ、今こういう形でプレーさせてもらえているとも思いますし、やっぱりそういう経験をしたいし、する必要があるチームだとも思っているので。そこは自分の中ですごく大きいです。

中山:
学生時代からプロ、そしてBリーグ優勝を経て、今は名古屋でまた新たな挑戦をされている。その中で、プロになってからもうまくいかない時期はあったと思います。そういった経験は、今の今村さんにどのようにつながっていると感じますか?人生という観点も含めて、お聞きしたいです。
今村:
やっぱり自分は、バスケットの中でずっと解決策を模索しながらやってきた感覚があるんですけど、それって人生にもすごく似ていると思うんです。人生においてうまくいかない時、自分は習慣がすごく大事だと思っていて。習慣だったり、積み重ねだったり、やるべきことを積み重ねる中で自分を作ってきたタイプなので。根本的に、人より努力することだったり、自分なりの強さや弱さを理解した上で努力を続けることが、自分の強さにつながると思っています。だからそこは、引退した後も自分を支えてくれる大きな一部になると思っていますし、その環境でやってこられたという自信もあります。だからこそ、バスケットボールには感謝していますし、自分を語る上では、やっぱり人生そのものなのかなと思っています。
中山:
うまくいかない時も、ただ落ち込むというよりは、積み重ねること、人より努力すること、自分の強みや弱みを理解した上でやるべきことをやることを、一貫して続けてきた感覚があるのですね。
今村:
そうですね。やっぱりキャリアの特に最初の頃は、うまくいったかと言われればそんなにうまくいってないですし。今でも、うまくいく時期もあればうまくいかない時期もあります。そういう時に、自分が自分である理由って何なんだろうと立ち返ると、やっぱりそういう下積みというか、基盤があることなんですよね。「自分が自分であるのは、こういうことをやってきたからだ」というところに、もう一度立ち返るようにしています。
中山:
なるほど。たとえばチームスポーツの中では、「自分の色を出すこと」と「チームの中で機能すること」のバランスが常に問われると思います。それはバスケットだけでなく、人生全般にも通じるテーマだと思うのですが、このあたりで大事にしていることや、意識的に持っておきたい軸はありますか?
今村:
そこは、自分の中でも結構悩んだ時期がありました。ただ、最終的に落ち着いたのは、「自分の色を出して結果を出すことが、結局チームのためにつながる」という考え方です。もちろん、チームのことを考えて、100%コミットすることは大前提としてすごく大事だと思っていますし、それがないとチームスポーツは成り立たないとも思っています。でも、自分がそれをやりすぎた時に、個人的にスタッツが伸びなかったり、納得がいかなかった時期があって。その時に、それをやり続けたら「自分じゃなくてもいいのではないか」と思ってしまったことがあったんです。自分である必要がない、という感覚ですね。だからこそ、自分が思う「自分の色」を出して、それをチームにアジャストさせていくことで、「このチームに自分が必要なんだ」と証明しなければいけないと思っています。チームにフルコミットする中で、自分の色まで失ってしまったら、自分でやる意味がなくなってしまうと思うので。難しい言い方ですけど、自分の個を高めることが、結果的にチームのためになるという感覚でやっています。
中山:
なるほど。あくまで起点はまず「自分」である、ということなのですね。
今村:
そうですね。そこがないと、生き残れないのかなと、自分は思っています。変な意味ではなく、本当に競争の中で生き残らなきゃいけない世界なので。もちろん、自分のことだけを考えてプレーするのは危険だと思っていますけど、自分の個を出していくことはすごく大事だと思っています。
中山:
今のお話は、スポーツに限らず、ビジネスパーソンにもすごく通じる感覚だなと思いながら聞いていました。日本だとどうしても「会社のために」「組織のために」から逆算して、自分をどう合わせるかという発想になりがちな気がします。でも今村さんのお話を抽象化すると、まず自分の強みや弱みを理解して、それを最大化することが、結果的に今いる場所や周囲に良い影響を与える、という順番なんですよね。そこにとても共感しました。
今村:
そうですね。やっぱり、そういう考え方に陥りがちだと思いますし、特にルーキーの選手たちは難しいと思います。まずはチームのやるべきことをやらないと試合に出られない、というのは現実としてあるので。でも、その中でも取捨選択はしてほしいというか、自分がどういう選手になりたいかで、その選択は変わってくると思うんです。会社に所属して、自分は会社にフルコミットすることがスタイルだ、という人ももちろんいると思います。でも、自分がどういう場所に行きたいのか、どういう風に生きたいのかによって、やっぱり選択は変わってくるはずで。自分のことを過小評価してほしくないという思いもありますし、なので今、中山さんに理解していただいたところは、僕の中ではすごく大きいです。
中山:
ありがとうございます。では、少し難しい問いかもしれませんが、今村さんにとって「バスケットボール選手としての“良い”キャリア」とは、どのような状態を指すのでしょうか?
今村:
僕は順風満帆なキャリアがあまり好きではなくて。キャリアへの嫉妬と言うと少し違うかもしれないですけど、常に高いレベルの人を倒したいという気持ちがあるんです。ハングリー精神って、自分で言うと少し恥ずかしいんですけど、本当にそれの塊なんじゃないかなと思っています。だから、自分にとって良いキャリアというのは、常に苦労して、常にもがきながら戦ったからこそ見える景色がある、そういうキャリアなんです。少し青臭いかもしれないですけど、自分はそういうものがあると信じています。トップ・オブ・トップの人たちを倒していくことに楽しさを感じますし、そういう相手に対して「自分はしっかり戦ってきた」と胸を張って言えるようなバスケット人生が、いいキャリアなんじゃないかなと思っています。その姿勢は、キャリアが終わるまで貫きたいですし、自分を支えてくれている大きなベースでもあるので、常にそういうハングリー精神を持って戦い続けたいと思っています。

中山:
なるほど。常に戦うものがあり、挑戦し続けている状態が、今村さんにとっての良いキャリアなのですね。
今村:
そうですね。結局は、自分です。自分と常に戦っているという感覚が一番近いです。もちろん、トップに勝ちたいという思いはあります。でも、そのためにはやっぱり自分自身と常に戦っているキャリアなんだと思うし、そういうキャリアであり続けたいと思っています。
中山:
この「自分との戦い」には、いろいろな種類がある気がしています。たとえば、怠けそうになる自分を奮い立たせることもあれば、優勝したことで「もういいじゃないか」と限界を決めてしまいそうになる自分との戦いもあるかもしれません。今村さんは、どんな自分と戦っている感覚がありますか?
今村:
自分の中ですごく大事にしている言葉があって、「向上心なくして成長なし」だと思っています。優勝した時もそれはすごく感じました。自分でも「優勝したんだ」と思いましたし、周りからも「優勝してよかったね」とか、ある意味そこで一区切りついたようなニュアンスで言われることもありました。でも、自分としては、まだまだ理想の選手像には達していないと思っているんです。だからこそ、毎朝起きて、ジムに行って、練習して、トレーニングして、休んで、また練習する、という生活を繰り返している。それを苦だとは思っていないですし、むしろ続けたいと思っています。もちろん、朝起きた時に「今日はきついな」と思うこともありますけど、それでもバスケットボールが楽しいからやっているし、やりたいと思っているから続けている。自分は、やりたいと思えないことはやらない人間だと思っているので。だからこそ、自分が成長したい部分を成長させたいと思って、ずっと続けている感覚があります。
中山:
十分に伝わっています。理想にまだ届いていないからこそ、その理想に近づくために生まれてくるいろいろな感情や葛藤とも、今まさに戦っているのですね。
今村:
そうですね。やっぱり、日本で一番のプレーヤーになりたいという思いもありますし、そこに達するにはまだまだ必要なことがあると思っているので、それを感じながら練習しています。
【Code.4 - VISION】受容から還元へ──「夢中」の種を、次なる世代へ手渡すために

中山:
この競技を続けていった先に、どのような状態や景色に辿り着いていたいと考えていますか?
今村:
人生が豊かになって、社会に向けてバスケットやスポーツを通じて何かを還元できれば、幸せだと思っています。
中山:
その「人生が豊かになる」というのは、今村さんの中ではどのような状態を指しているのでしょうか?
今村:
今の時点でも、十分幸せだと思っています。僕の中では、人生の中で何か一つでも夢中になれるものがあれば、それだけで人生は豊かだし、幸せだと思っているので。 バスケットボールが終わった後も、自分の考え方や経験を伝えることで、子どもたちに「人生にとってプラスになりました」と思ってもらえるのであれば、それはやってみたい。まだセカンドキャリアでこれをやりたいと明確にあるわけではないんですけど、今年30歳になって、自分はこれまでずっと与えてもらってきたなとすごく感じたんです。だから、これからはもっと人に「与えたい」というか、自分にできることは何なんだろうと考えるようになりました。 自分はバスケットボールという夢中になれるものに出会えたので、まだそういうものに出会えていない人たちに対して、「バスケットボールっていういいものがあるよ」とか「こういう考え方を持つのも一つだよ」ということを伝えられる人間になれたらいいなと思っています。
中山:
名古屋ダイヤモンドドルフィンズでの目標を追いかけながらも、視野がより広く、社会の方にも向いているように感じます。
今村:
自分のできる範囲で、関われる範囲の人たちを幸せにしたいという気持ちがあります。もちろん優勝はマストで狙っていきますが、それは現役中だからこそできる、周りの人に元気を届けるためのフルコミットです。その先に続くセカンドキャリアで自分に何ができるのかを考えた時に、今のような答えになったという感覚があります。
中山:
バッシュを脱ぐ瞬間、つまりプロとしての競技生活を終える時、どのような選手でありたいと思っていますか?
今村:
「めちゃくちゃ戦ったな」と思ってもらえるような選手でいたいです。泥臭くてもいいですし、かっこよくてもいいんですけど、バスケットボールですごく戦っていたな、勇気をもらったな、と思ってもらえる選手であれたらいい。 一番は、息子に何か感じてもらえたらいいなという気持ちが今すごくあります。「勇気をもらったな」と思ってもらえるようなキャリアにしたいです。

中山:
まずは、ご自身のお子さんにどれだけの影響を与えられるか、ということでもあるのですね。
今村:
そうですね。やっぱり、自分が与えられる範囲というか、自分の手が届くところは助けたいし、何かを与えたいという思いがあるので。
中山:
今日のお話を通して、今村さんがどれだけ自分自身と向き合い、試行錯誤を重ねてキャリアを築いてこられたのかが伝わってきました。その根底にある「自分と向き合い続ける姿勢」こそが、多くの人に勇気を与えていくのだと思います。本日はありがとうございました!
今村:
ありがとうございました!
【After Dialog】
「無」という言葉の裏側に、これほどまでに濃密な「試行錯誤」が詰まっているとは。対話を通して見えてきたのは、今村佳太という選手が、自らの感覚を極限まで客観視し、制御しようと格闘し続けてきた「探求者」の姿だった。思考をガチガチに固める「頭でっかち」な状態を経験し、あえてそれを手放すことで掴み取った、俯瞰した景色。シュートが「ショートする」という身体的なサインから自らの心理状態を読み解く鋭い観察眼。彼は、コート上で起きる現象のすべてを、自らの内面を映し出す鏡として捉えている。特筆すべきは、彼の語る「ハングリー精神」の質。それは単に相手を圧倒したいという外向きの衝動ではなく、「昨日の自分を超えているか」「理想の選手像に近づいているか」という、内なる審判との終わりなき闘争である。優勝という最高の結果を得てもなお、朝のジムでのルーティンを「楽しい」と言い切るその姿勢に、彼がバスケットボールを「人生」と呼ぶ真意が宿っている。「めちゃくちゃ戦ったなと思われたい」。そのシンプルな願いは、息子という最も身近で大切な存在への、そして彼を支えるファンへの、最大級の誠実さの表明だ。泥臭いルーズボール一つに宿るプライド。その積み重ねが、バッシュを脱ぐその日まで、彼の「今村佳太」としての色を鮮やかに描き続けていくに違いない。『Dialog Code』
答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。
【Athlete Profile】
今村 佳太(いまむら・けいた)
1996年1月25日生まれ、新潟県出身。
プロバスケットボール選手。B.LEAGUE 名古屋ダイヤモンドドルフィンズ所属。ポジションはSG/SF。
新潟経営大学時代、「自分で考え、自分に合った努力を」という教訓のもと、無名校から世代別代表候補に上り詰めた異色のキャリアを持つ。2017年に地元・新潟アルビレックスBBでプロデビュー。2020年に琉球ゴールデンキングスへ移籍すると、勝負どころでの爆発的な得点力と高い守備強度を武器にエースへと成長。2022-23シーズンにはチームの悲願であるB.LEAGUE初優勝の立役者となった。2024-25シーズン、さらなる高みを目指し名古屋ダイヤモンドドルフィンズへ電撃移籍。日本代表としてもアジアカップ予選やアジア競技大会など国際舞台での経験を積み、Bリーグを代表するオールラウンダーとしての地位を確立している。【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。
JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。






