Dialog Code
『遊び心を武器に──楽しいから始まった、世界へ挑む理由』松本直美 # Dialog Code
2025/12/10

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。自分自身と向き合い、考え、気づくこと——それが次のステージへ進む鍵になる。『Dialog Code』—— アスリートたちの言葉から、その可能性を探るシリーズ。
今回登場するのは、松本直美(フットサル選手・バルドラール浦安ラス・ボニータス 所属)。
さあ、彼女の思考を紐解いていこう。

1. 立ち止まった時間と再会の時──ボールがくれた新たな選択
中山(Dialog Partner):
松本さんはもともとサッカーをされていて、高校卒業後に一度競技を離れ、そこから再びフットサルに入られましたよね。最初にフットサルをプレーした当時の感覚や景色、フットサルとの出会いについて教えていただけますか?
松本:
2年間ボールを蹴っていなかったので、最初は本当に体と頭のギャップがあって、頭ではこのプレーできてたのにって思っても体が全然動かないんですよね。そういう悲しい現実を最初はすごく感じたのが始まりでした。
中山:
楽しさよりも、ショックに近い感情の方が強かったんですね。
松本:
そうですね。もちろん楽しいという気持ちもあったんですけど、動けない自分への悲しさの方が大きかったように思います。
中山:
この時に感じられた楽しさは、何に対する楽しさだったのでしょうか?
松本:
やっぱりボールを蹴る楽しさですね。当時いたチームはみんなでワイワイ楽しみながらボールを蹴る雰囲気があったんです。それがすごくいいなって思っていました。

中山:
そのまま趣味として続ける選択もあったと思いますが、本気でフットサルをやろうと思うようになったのはなぜだったのでしょうか?
松本:
そのチームは週1回の練習で、日曜日だけだったんです。当時私はホテルで料理人として働いていたのでなかなか行けなかったのですが、行く頻度が増えていくにつれて「もっとちゃんとチームに入ってプレーしたいな」という気持ちが強くなっていきました。
中山:
自然ともっとやりたいという気持ちが大きくなっていったわけですね。
松本:
そうですね。
中山:
その時から今のように代表を目指していたのでしょうか?
松本:
いや、全くイメージはしてなかったですね。
中山:
シンプルに「もっとフットサルやりたい」「回数を増やしたい」と始まったんですね。キャリア的にもユニークで興味深いのですが、自分に影響を与えた言葉は何ですか?
松本:
当時、調理師免許を取得してホテルに就職したのですが、フットサルをもっとやりたいという気持ちが強くなっている時に親に相談したんです。そしたら「フットサルは年齢的にも体的にも今しかできない。調理師免許は何歳になっても使えるから、今やりたいなら今フットサルをやった方がいいんじゃない」と言われて。それでホテルを辞めてフットサルをやろうと決心しました。
中山:
その言葉は、松本さんにどう届いたのでしょうか?
松本:
まだ1年しか働いていないタイミングで「辞めていいのかな」という気持ちがあったので、その言葉はすごく心に響いて、決断する後押しになりました。専門学校にもお金をかけてもらって、せっかくホテルに就職できたので、親としてはずっと働いてほしいという気持ちもあったと思いますが、背中を押してくれたことに感謝しています。
中山:
お母様の言葉が大きな転機を作ってくれたわけですね。フットサルを始められて最初は楽しさと動けない現実の中で気持ちが芽生え、徐々に「もっとやりたい」へ変化していき、今、代表としてプレーしていますよね。フットサルという競技をプレーする意味や目的は、これまでどのように変わってきたのでしょうか?
松本:
本当に最初は「楽しくボールを蹴りたい」「少し体を動かしたい」ぐらいだったんです。でも、続けていく中で都リーグではずっと試合に出られる環境もあって、物足りなさが出てきたんです。中学高校はジェフでやっていたのでもっと高いレベルでやりたいという気持ちが強くなって、日本リーグのさいたまSAICOLOというチームに移籍しました。そこから代表も少しずつ視野に入るようになりました。
中山:
代表という場所を目指そうと思った背景には、どんな理由があったのでしょうか?
松本:
サッカーをやっていた頃も、なでしこジャパンに入りたいという夢は常に持っていたので、競技をやるからには代表を目指したいという気持ちは昔からありました。
中山:
なるほど。サッカーからフットサルへ再挑戦する中で、不安や怖さみたいなものはありましたか?
松本:
そこはあまりなくて、サッカーを辞めた時は最後の方はサッカーをすることが楽しくなくなってしまって、燃え尽きたようなところもあったんです。なので、フットサルは楽しむことを一番にした状態で始めようという気持ちがありました。そこはとても大事にしていましたね。
中山:
そもそものマインドセットが違ったんですね。

2. 世界基準を越えていく──守備から流れを変える役割
中山:
日々の練習において、練習に向けて意識されていることや、準備段階で大切にしていることは何ですか?
松本:
練習は基本的にチームの戦術を中心に、試合に向けた内容がメインになります。その中でも、最後の部分にこだわることや、絶対に当たり負けしないことなど、世界と戦う基準を常に意識しています。練習以外の部分でも自分に足りていない部分はもっと鍛えたいと思っているので、ジムに行ったりして、コンディションを落とさないように準備しています。
中山:
やや抽象度の高い問いですが、実際に戦ってみて世界と日本のどこに最も違いや差を感じましたか?
松本:
スピードやパワーの部分で差を感じました。以前ポルトガル、ブラジル、スペインと対戦する機会があったのですが、とにかくシンプルに強いんです。全部が強くて、結構な差を感じました。
中山:
フットサルにおいてパワーはどんな重要性を持つのでしょうか?
松本:
やっぱりコートが狭い分、コンタクトがすごく多いので、一対一のぶつかり合いが多いんです。それに加えて海外の選手は足の長さも全然違うので、ちょっとした接触でもお尻あたりがドンとぶつかってくる感じがあります。それと、本当にシュートが強い。日本のリーグではあまり見ないような距離からのロングシュートが普通に飛んでくるので、「ここからこんな強いシュート打つんだ」と驚きました。

中山:
なるほど。その中で考え方としては、自分の強みを伸ばすか、それとも弱点を補うかという問いがありますが、松本さんご自身はどう考えていますか?
松本:
どちらかというより、世界で戦うにはどちらも必要だと思いますね。
中山:
日本の選手、あるいは松本さん自身の強みを挙げるとすると、どんな部分があると感じますか?
松本:
日本は戦術がすごくしっかりしている部分が強みだと思います。4人のフィールドメンバーで細かい部分まで崩していくところは、日本らしい強みです。それと、日本代表が掲げているスローガンにハードワーク世界一というものがあって、「ハードワークで世界一を目指す」というのを監督も強く言っています。その部分は、自分のストロングポイントにも合っています。
中山:
その中で、松本さんご自身の役割としてどんな形でチームに貢献すると考えているのでしょうか?
松本:
私はディフェンス面でチームを引っ張っていく役割でもあるので、特に攻守の切り替えが多いフットサルでは、守備から攻撃に流れを持っていけるような存在になりたいと思っています。そこは自分の役割だと認識しています。
中山:
なるほど。戦術的な細かさや、ハードワークの姿勢は日本人らしさとして発揮できる部分でもあり、松本さん自身の強みとも重なっているわけですね。
3. 認知を研ぎ澄ます──「映像」と「ノート」

中山:
試合前夜はどのように過ごされていますか?
松本:
あまりいつもと変わらない感じで、特にルーティーンなどもないですね。
中山:
例えば、翌日の試合のことをあえて考えないようにしているのか、自然と考えてしまうのか、あるいは全く考えないのか。松本さんはどうでしょうか?
松本:
試合のことは考えています。スカウティング映像を振り返りながら、自分のプレーと照らし合わせてイメージを作りつつ、自分の良いプレーを想像してイメージを膨らませて試合に臨むということをしています。
中山:
なるほど。それを行う意味や価値を言語化すると、どんなところでしょうか?
松本:
フットサルって本当にセットプレーが多いんです。私がキッカーをやることが多いので、そのセットプレーの相手の分析を頭にインプットしておくことで、試合中に瞬時に思い出せる感覚があります。この配置ならこのセットプレーだったなというのが浮かんできたりして、そういう時にすごく役立ちます。
中山:
コートのサイズ的にも距離が近く、時間の流れも速い競技だからこそ、いかに早く認識して瞬時に判断できるかは非常に重要なポイントになりそうですね。
松本:
そうですね。
中山:
スカウティング映像はどれくらいの量や時間、見ているのでしょうか?
松本:
大体映像が10~15分くらいにまとめられているので、それを試合前に見ていますね。
中山:
なるほど。映像を見ながらどのようにイメージを作られているのでしょうか?
松本:
私は書いた方が覚えられるというか、頭にインプットされるタイプなので、ノートに書いたりします。
中山:
では、試合当日の移動中や会場に向かう間などに、そのノートを見返すこともありますか?
松本:
見返したりもします。忘れないために、改めてインプットして試合に挑むという感じです。

中山:
なるほど。松本さんは不安や緊張といった感情は出るタイプですか?
松本:
あんまりないですが、緊張する時はキックオフ直前、本当に笛が鳴る直前ですね。その時は緊張します。でもそれ以外はあまり緊張しない方ですね。
中山:
直前だけグッとピークが来るような感じなのですね。その瞬間の緊張はどんな種類の緊張なのでしょうか?
松本:
んー…これから試合に臨む、戦うぞっていう感じの昂まっている感じです。会場の雰囲気とか歓声とかでもそういう気持ちになります。
中山:
不安というよりも、エキサイティング(=興奮)に近い緊張なんですね。
松本:
そうですね。そっちの方が大きいと思います。
中山:
面白いですね。だからこそキックオフ直前にだけなのかもしれませんね。
では、試合後の振り返りはどのようにされているのでしょうか?
松本:
とりあえず試合を全部見て、気になった部分は聞いたり話し合ったりします。
中山:
どんなポイントや視点で見ているのでしょうか?
松本:
自分の動きと、味方の動いていたスペースとか、「ここ動いてたのにパス出さなかったな」とか、そういう部分を見ます。あとは相手のディフェンスを見て、「このセットプレーは、こっちの方が空いてたな」とか、そういう感じです。
中山:
サッカーをやられていた時も同じように振り返りはされてたのでしょうか?
松本:
サッカーの時もビデオは結構見てましたね。
中山:
サッカーとフットサルだと見ている視点がかなり違いそうだなと思ったんですが、どうですか?
松本:
フットサルは全部が映るカメラで撮ることが多いので、4人の連動した動きを重視しているんです。4人の息が合ってこそその戦術が成立して、相手を回避して攻撃に行けるという流れが作れます。なので、全員の動きが合っていないと難しいですね。
中山:
個の発揮というよりも、全体の動きや連動性を読み解く戦術的な視点がより求められる競技なんですね。
松本:
そうですね。特にクリアランスからの構築では、4人の連動が合わないと相手ディフェンスに食われてボールを失ったり失点したりします。逆に相手コートに入ったら、個人の戦術や個を発揮するシーンも多いですが、自陣では連動性がすごく大事だと思います。なので、サッカーの時よりも全体を見ることは、振り返りも含めて増えたと思います。
4. 制限が生む自由──フットサルの“遊び心”
中山:
サッカーからフットサルに競技が変わったことで、別競技だなと感じた場面や瞬間はありましたか?
松本:
動きも全然違いますし、トラップも絶対に足の裏なので、蹴ること以外は全部違うのかなと思います。スローインもなく、4秒ルールとかもあったりして。本当にサッカーとは違うんです。同じように見えて、全然違う。みんな結構サッカーのコートが狭くなったバージョンみたいな感じで言う人が多いのですが、サッカーの動きのままだと全然回避できないというか。やっぱり全員の戦術、動きが合うからこそ返しができて攻めることができるんです。知れば知るほど、フットサルは深いなと思いました。
中山:
今のお話の一つひとつがサッカーと全然違うなと感じました。
松本:
フットサルって、カーテンとかブロックとか、むしろバスケに近い動きも多いんですよ。サッカーだと、あまりブロックしたりクロスする動きってないじゃないですか。そういう動きもフットサルを始めてから覚えましたし、やっぱり結構違うなと思います。
中山:
なるほど。ではフットサルという競技の美しさや奥深さをもし一言で表現するとしたら、どんな言葉が近いですか?
松本:
んー...なんていうか、表現が難しいのですが、「遊ぶ」ですかね。遊びでやる人も多いじゃないですか。でも競技としてやっていても、個人技術の部分で遊びのフットサルに近い動きがあったりもして。
中山:
フットサルは局面が狭く、スペースも限られていて、1対1の要素もあれば4対4の要素も同時に存在する。その制限があるからこそ生まれる余白や、遊びがないと打開できない瞬間があるのかなと聞いていて感じました。フットサルのように制限があるほど、遊びの価値が大きいのかもしれませんね。
松本:
そうなんですよね。遊びは大事だと感じます。
中山:
「フットサルで最も磨くべき能力は何か?」という問いにもし答えるなら、何を1つ選びますか?何が一番大事だと思いますか?
松本:
えー…なんだろう。でも、戦術にとらわれない心は必要なのかなって思います。それこそ、遊び心というか。フットサルって戦術のフォーマットがすごくしっかりしていて、もちろんその戦術があるからこそ個人発揮ができる部分もあって。でも、その戦術にとらわれすぎて「この形をやらなきゃ」となるんじゃなくて、その局面を個の技術で打開したり、違う戦術を出したり。そのような遊び心的な心を常に持っておく方が、すごく面白いし、楽しめるんじゃないかなって思います。

中山:
なるほど。そう聞くと松本さんが大事にされてきた楽しむという姿勢は、遊び心にも繋がる感じがしますね。とすると、試合中の局面ではその場その場で判断したり、柔軟に対応する力も非常に重要なのでしょうか?
松本:
そうですね。戦術はあるけど、その通りにいかないことも多いので。その局面に向き合った時に、柔軟に対応できるようなプレーを持っておくことは大事だと思います。
中山:
では、この戦術にとらわれない遊び心は、どのように鍛えられると思いますか?
松本:
いろんなプレーを見ることはすごく大切で必要なことだと思いますね。それは男女含めてで、男子の方が個人で打開できる局面が多く、逆に女子は戦術で打開していくチームが多かったりします。どちらにもそれぞれ魅力があり、様々なプレーのパターンがあります。男女どちらのプレーもたくさん見て、引き出しを持っておくことが遊び心にも繋がるのかなと思います。
中山:
引き出しをどれだけ持つか、そして現場でそれを柔軟に取り出せるか。それが遊び心として非常に重要になってくるわけですね。
5. 競技と発信の交差点で──子どもたちへ渡すバトン

中山:
サッカー、あるいはフットサルを通して培ってきたことが、今のお仕事やSNSでの発信活動など、競技以外の領域で役に立ったと感じることはありますか?
松本:
なんだろう…でもホテルで働いていた時は、人生で一番きつかったと思います。一週間家に帰れなかったり、本当にまっすぐ歩けなくなるくらいきつくて。でも、それまでサッカーをずっとやり続けてきた継続力とか忍耐力を発揮できたのかなと思っていて。「1年間はやり続けよう」という目標を持って続けられたのは、サッカーを長く続けてきたからこそだなと感じました。
中山:
なるほど。継続力や忍耐力という部分ですね。それこそ代表選手としてのプレッシャーや、発信者としての顔もお持ちだと思うのですが、そうしたプレッシャーや責任は松本さんにどんな影響を与えているのでしょうか?
松本:
日本代表としてプレーできているのは、本当にいろんな人の支えがあるからだと思っています。なので、常に感謝の気持ちを忘れずにプレーすることを心がけています。あとは、日本の代表として世界と戦うという部分で、そこに入りたくても入れない選手もいるので、いろんな人の思いを背負いながらプレーする覚悟と、日本代表という自覚を常に持ってプレーしています。

中山:
代表であることと発信者としての活動は別々のようでいて、実はどこかでつながっている感じがします。
松本:
そうですね。発信者としてSNSを頑張り始めたきっかけも、より多くの人にフットサルの魅力を届けたいと思ったからなんです。私をきっかけにフットサルを知ってもらえたり、見に来てもらえたり、女子のフットサルを盛り上げられる存在になりたいと思って、いろいろ発信をするようになりました。
中山:
なるほど。発信によって多くの人に知ってもらうことで、松本さんを支える人も増えるし、松本さんもその思いを背負ってプレーしている。別々の活動のようで、掛け算になっているのですね。
最後に未来のお話も伺いたいのですが、プレイヤーとしての松本さんが、これから挑戦したいことを一つ挙げるとしたら、何ですか?
松本:
挑戦したいこと…。フットサルという競技を、子どもたちに「将来やりたい」「憧れる」「目標にしたい」と思ってもらえるものにしたいです。それを現役でプレーできる今だからこそ、プレーを通して伝えていきたいという気持ちがあります。
中山:
そうした未来像を描く中で、どんなプレーで、どんな姿で子どもたちに影響を与えたいと思っているのでしょうか?
松本:
世界一を目指して戦いたいと思っています。そこで結果を出すことで、いろんな人に注目してもらえる機会が増えると思うので、本当に世界の舞台で日本のフットサルの強さや魅力を見せたいです。
中山:
その世界一という目標に向かっていくうえで、松本さんが今、大切にしたいと感じている姿勢やこだわりはどんなところにありますか?
松本:
やっぱり選手だからこそ、会場に見に来てもらってプレーを届けられるというのは、選手である今にしかできないことだと思うので、ピッチに立ってプレーする姿を見せることですね。その部分で、ピッチに立てば結果も内容もこだわりながら、毎試合戦っていきたいと思っています。
中山:
選手である今を最大限に生かして、プレーでも発信でも価値を届けていく。競技と表現、その両面からフットサルを広げていく姿勢がとても伝わってきました。松本さんの言葉から、フットサルへの純粋な情熱と、この競技を未来につなげていく強い覚悟を感じました。本日はありがとうございました。
松本:
ありがとうございました!

答えは、すぐには見つからないかもしれない。
それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。
思考を解き明かす対話は続く。
『Dialog Code』——次は、誰の思考に触れようか。
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