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Dialog Code

『キレの正体──「自分」を表現し続けた実験の終着点』筏井りさ # Dialog Code

2026/02/06

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」

『Dialog Code』

強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。

今回登場するのは、
筏井りさ(フットサル選手・バルドラール浦安ラス・ボニータス 所属)

【Before Dialog】
フットサルは、一瞬の「ズレ」が勝敗を分かつ競技だ。 コンマ数秒の判断、数センチのボールの置き所。その極限の状況下で、筏井りさは自らの感覚を研ぎ澄ませ、「キレ」という言葉に集約される至高の状態を追い求めてきた。
彼女のプレーを支えるのは、長年積み上げてきた直感だけではない。「なぜシュートが決まったのか」「どうすれば相手の軸を剥がせるのか」。大学院での研究経験も持つ彼女は、自らの身体を実験台にするかのように、プレーの再現性を徹底的に解剖し、言語化してきた。感覚を信じて自由に舞うための、緻密でストイックな「準備」という名の裏付け。
キャリアの終盤を迎え、彼女が見つめているのは自らのゴールだけではない。戦術の波に身を委ねながら、仲間を生かし、ゲームを構築する喜び。不安や緊張さえも「新しい経験」として受け入れ、宝物へと変えていくしなやかさ。
この対話は、単なるベテラン選手の回顧録ではない。感覚と論理の間で揺れ動きながら、進化を止めない一人の表現者が、いかにして自らの「正解」を導き出してきたのか。その思考の断層を、丁寧に掬い上げていく。さあ、彼女の思考を紐解いていこう。



【Code.1 - STATE】キレの構造──思考し続け、思考を手放す

中山(Dialog Partner):
試合中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、もしくは短い文章で表すとしたら、どのような言葉になりますか?

筏井:
「キレキレ」ですね。

中山:
この「キレキレ」という表現には、どのような感覚や状態が含まれているのでしょうか?

筏井:
私は感覚でやるのが楽しいというか、あまり頭で考えすぎたくないタイプなんです。特にフットサルは戦術的に決まった動きがあって、「ここにつけたら、この人が間で止まってサポートする」とか、そういう約束事があるのですが、自分の目の前を剥がせればその人を使わなくてもいい場面もある。そういう感覚でやるのが楽しくて、感覚的にプレーしてきたところはあります。例えば、目の前の相手の軸を剥がす場面でも、「ここを剥がしたら次の優位性が作れるよね」っていうのが感覚的に分かるんです。

試合で活躍できている時は、「ここズレてるよね」「ここ打てるよね」「この角度でドリブルしたらシュートコースあるよね」といった、サッカーの頃から積み上げてきた感覚でプレーができている時です。

中山:
「キレキレ」というのは、単に動きのキレというより、次の一手が自然に見えている状態に近い感じにも聞こえました。

筏井:
そうですね。その上で、フットサルをやっていて新しく気づいたのは、感覚だけじゃなくて、周りとうまく噛み合わないといけない戦術の存在です。どのスペースを誰がどう使うかがすごく重要で、被ってしまうと相手に取られてしまう。そういうことも学んだ上で、感覚的にプレーできている時は、本当に調子がいいと感じます。

中山:
感覚的に頭が冴えている状態と、身体的なキレもあるように思います。筏井さんとしては、何がキレている感覚なのでしょうか?

筏井:
体がキレていると相手を剥がせますし、そうすると思考にも余裕が生まれます。一方で、思考がキレていて、それに体がついてきて、結果的に余裕が生まれている時もあると思うんです。

中山:
その体のキレを生み出すために、日頃の体づくりや試合に向けた準備で、意識的に取り組まれていることは何ですか?

筏井:
普段は仕事の後、夜21時からの練習という生活の中で疲労は溜まりやすいですし、コンディションを保つのは正直難しいです。ただ、シンプルに毎日お風呂に入るとか、ストレッチをするとか、トレーニングをするとか、その日の体の状態を把握することは続けています。

中山:
完璧を目指すというより、その日の自分を把握するという感覚なんですね。

筏井:
そうですね。その日その日の感覚をすごく大事にしています。昨日の練習でこういう疲労感があるなら、今日はまず自分の動きを作ろうとか、体が重いなら今できることをやろうとか。

中山:
「こうあるべき」に体を合わせるというより、体が出しているサインを読み取ることを優先している感じがします。

筏井:
昨日は疲れているはずなのに「なんか今日は動けるな」という日もあるんですよ。そういう時は、その日の流れに身を任せてやる。終わった後には必ずフィードバックして、良かった感覚、ダメだった感覚を整理します。周りから「今日は重そうだったね」って言われても、自分では意外と動けていたな、とか。そういうズレも含めて、「じゃあ何だったんだろう」と考えながら、その時できることに集中する。感覚的ではありますが、常に自分を見つめ直している感覚ですね。

中山:
なるほど。先ほどのお話にもあったように、フットサルでは戦術や周囲との関係性が重要になりますよね。一方で、それを頭に入れすぎると筏井さんの強みである感覚的なプレーを邪魔してしまう可能性もある。そのバランスはどのように取られているのでしょうか?

筏井:
フットサルを始めて8年になるのですが、ここ1〜2年でようやく考えるようになりました。私はピヴォというポジションなのですが、体格で相手を抑えられるタイプではなくて、はずしたり、スピードを生かしたり、足元に入ればボールを扱えます。特に最近は、その強みを生かす戦術って何だろうとか、どうやって味方からボールを受けるべきなんだろうということを考え始めました。

中山:
従うフェーズから、自分の型を持った上で合わせにいくフェーズに変化したのですね。

筏井:
それまでは監督の求める形をやるのが大前提で、得意じゃないことも含めて、言われたことをひたすらやるという感じでした。その中で身についた強さもあります。でもここ1年くらいは、「自分はこういうプレーをしたい」「そのためにどう逆算するか」を考えるようになったんです。それがチーム戦術と合う時もあれば、うまくいかない時もあって、そこは正直難しさもありました。ただ今年は、自由度を高めてやらせてもらえていて、より自分の感覚を活かせていて、得点、アシストが増えている結果にもつながっています。

中山:
納得感のあるプレーが増えた結果として数字がついてきているのですね。

筏井:
頭に入れるところは練習や準備の段階でしっかり入れて、試合やゲーム形式になったら、それを一度解放して感覚的に自由にやる。仕組みや「こうなったら崩せる」という共通認識を持った上で、ピッチでは感覚を信じてプレーする、そんなバランスです。

中山:
準備では思考をフルに使って、試合ではそれを一度手放すという切り替えをしているんですね。振り返りはどのようにされているのでしょうか?

筏井:
毎日コーチが撮ってくれる映像をすぐ共有してくれるので、意図してうまくいったプレーは、何回も見返します。そのシーンを切り取って、「なんでうまくいったのか」とか、キーパーのクリアランスから「なんでここまで運べたのか」とか。再現性が高いものは成功例としてちゃんと残します。一方で、偶然スペースが被ったけど、技術的に相手を引きつけてうまくいった場面もあって、「これは技術があればできるプレーだな」とか。狙ってできた形と、偶然できた形、その両方の良いシーンを自分でフィードバックしています。

中山:
感覚的なプレーを軸にしながら、そこに型や構造が加わってきた印象があります。そのやり方を取り入れてから、この1年でプレーにどんな変化があったのでしょうか?

筏井:
例えば「この時間帯はこうしてほしい」と言われる理由も理解できるようになったので、納得してプレーができ、その中で自分の判断で別の選択をする時との違いが分かってきた感じです。監督の要求をプレーするのは選手として当たり前なので、それもできる選手でいたいというのは最近強く感じています。

中山:
もし仮に、サッカーを始めた頃やフットサルを始めた当初から、今のような振り返りや逆算思考をしていたとしたら、どんな変化があったと思いますか?

筏井:
もっと今よりいい選手になっていたと思います。フットサルは相手の守り方への対応をすごく求められる競技なので、「こういうケースではこう選ぶ」という判断を、周りに伝えられる選手になっていたかもしれません。私は練習内容が変わると対応が難しいタイプでもあるので、もっと早く型の振り返りなどの取り組みができていたらなとは本当に思いますね。

中山:
フットサルという競技に出会ったことで考えざるを得なくなり、身についたとも言えそうですね。そしてそれが結果的に自分の競技レベルを上げることに繋がったのですね。

筏井:
今後は指導者ライセンスも取れたらと思っているので、その探求は自分なりに続けていきたいですね。

中山:
サッカーとフットサルは共通点も多いですが、フットサルの視点や考え方が癖づいた状態でサッカーに戻ると、また景色が全然変わりそうですね。

筏井:
本当にそう思います。今サッカーをやればもっと多角的に見られると思います。私はもともと技術型で、キックの質や判断を極めるのが好きなんです。例えば、ボールを足元に置いてギリギリまでキックモーションの中で判断を変えられる部分にはすごく自信がありましたし、フットサルでも、狭い中でどうゴールを奪うか、3対2でどの角度でパスを出すか、余白をどう残すか、そういう技術的な感覚にはずっとこだわってきました。ただ、味方とどう構築するかという戦術的な部分は後から身についた感覚で、そこを補えたことで全体として良くなったという感じです。得意な分野が違ったということなんだとも思います。

中山:
たとえが合っているか分からないですが、職人気質の技術者が経営も学んで、視座が一段上がったことで視点が増え、それにより技術がさらに磨かれ全体として底上げされているみたいな感じですね。

筏井:
元々すごく考えてしまうタイプだったので「切り替えが遅い」と言われることも多かったのですが、フットサルは考えすぎることが許されない競技なので、プレー中は感覚で、そして終わってから徹底的に映像で考える。例えばもう一個タイミングをずらすために半歩ずらしてから打ったらどうだったかとか、こういう置き所にしたらよかったなとか、私はそういうことばっかり考えています。映像をコマ送りして、股が開いているのか、切り返しか、左足で打てたほうがコースが増えるのか、確認してます。その積み重ねが今につながっていると思います。

【Code.2 - EMOTION】 緊張と不安の定義──新しい経験

中山:
試合前や試合中に感じる「緊張」や「不安」は、筏井さんにとってどんな存在でしょうか?

筏井:
「自分でやってきたこと、過程を確認するもの」だと思います。

中山:
なるほど。これまでのお話を伺っていると、一言で言えば“準備”にもつながる感覚なのかなと受け取りました。筏井さんの場合、不安や緊張が立ち上がってくるのは、どんなタイミングが多いのでしょうか?

筏井:
苦手としている守備のところで失点に絡むとか、チームに迷惑をかけることが一番心配でそこの不安があります。結果に直結するので、そういうプレーはしたくないなと思います。自分でも失敗の経験から分かっているので、「そういうことが起きるかもな」と思う時は少し不安になりますが、試合中にそうなった瞬間にはある意味割り切るというか、「(もしそうなっても)自分で取り返そう」「みんなで取り返そう」と思ってやるしかないんです。「なるようになるな」という感覚もあります。

中山:
「今は」という表現があったので、少し過去にも触れて伺いたいのですが、サッカーをされていた時期や、フットサルを始めたばかりの頃は、どのような種類の不安や緊張がありましたか?

筏井:
サッカーの時も、常に「失点に絡んだらどうしよう」というのはありました。今でも覚えているのが、長野パルセイロ戦で横山久美に真ん中でボールを取られて失点したシーンで、あれは本当にショックでしたね。浦安に来て1年目は、守備の立ち位置やセットプレーの守り方など、本当に不安なところがあったので、「これで失点に絡んだらどうしよう」と毎試合思っていました。

中山:
「できるかどうか」という不安というよりも、ご自身の能力や、出せるものがその局面で足りるのか、発揮できるのか、といった不安に近いのでしょうか?

筏井:
そうですね。明らかにそこが弱点だとチームとしても分析されますし、相手にも狙われるだろうなという感覚は常にあります。でも、その部分さえ抑えられれば大丈夫だ、という感覚も同時にありました。今は、やられた経験もあるし、「ここを乗り越えられたら、こっちの勝ちだよね」という形で勝てた経験もある。だから今は、どちらの結果も知った上で「どちらになるか」という感覚で向き合えています。

中山:
そういう経験が積み重なったことで、今は「自分で」あるいは「みんなで取り返そう」というマインドに切り替えられるようになったということなんですね。

筏井:
経験があるから、今はそう思えています。若い選手がミスして「やばい」と感じるのは当たり前ですし、私が「大丈夫だよ」と言ったとしても、その瞬間にはなかなか伝わらない。だからこそ、「それなら私が取り返すのを助けられる存在でいよう」と思いますし、プレーでそういう流れをつくる役割として、先陣を切りたいという気持ちは常にあります。

中山:
では、若い頃に不安や緊張が強く出ていた時は、どのように扱っていたのでしょうか?

筏井:
ノートを書いたり、映像を振り返ったりしていました。なぜうまくいかなかったのか、やられたシーンについてはかなり考えていたと思います。ただ、それは今振り返ると、やっぱり積み重ねの途中段階だったなと感じます。当時は悔しい気持ちも強かったし、恥ずかしいとか、試合に出られなくなるかもしれないという不安もたくさんあって、そこまで深くは考えられていなかったと思いますが、その中で「考える」「向き合う」ことが、その時の自分にできる精一杯だったんだと思います。

中山:
当時の自分なりに向き合ってはいたものの、今の視点で見ると「まだやれていなかった領域」があったという感覚なのでしょうか?

筏井:
今思えば、本当の要因を深く掘ったり、守備のステップを根本から改善したり、そこまで本気で取り組めていたかというと、正直そうではなかったと思います。苦手だからこそ、避けていた部分もあったというか。もっとやれることはあったはずだなと感じていて、今は「今できることを割り切ってやろう」という感覚です。

中山:
なるほど。

筏井:
練習の中で苦手なシーンが出てきたら、「自分が苦手なところだな」と気づいて、その場で修正しようとする。でも、その練習を何度も繰り返す時間は、今の自分には限られている。だからこそ、その一回で気づけたなら、そこで修正することを大事にしています。全部を完璧に変えようとするのではなく、得意なことも苦手なこともある自分を受け入れた上で、気づいたところは改善する。指導者に聞くことが一番はっきりすることもありますし、適切なコーチングがあれば変われる機会になることも分かっています。その場で聞くのか、自分でステップの練習をするのか、映像を振り返るのか。できることをひたすらやる、という感覚です。

中山:
緊張や不安があることで、むしろ助けられている部分もあるように聞こえたのですが、筏井さんは、緊張や不安があることで得られているものは何だと思いますか?

筏井:
「残された時間で何をしようか」と考えられることですかね。ワールドカップの時も、やったことのない舞台だったので、「これは新しい緊張が出てくるだろうな」と思いました。前日にはノートに、自分がやることを書いて、「今できることはこれだ」と整理して、それでできなかったらそれは仕方がないと思って臨みました。新しい挑戦をする時、自分ができることとできないことがまだ見えない部分もありますが、日々のリズムはある程度想定できる。そういう確認を怠らずに続けることが大事なんだと思います。

中山:
準備を怠らないためには、ある意味、緊張や不安があるほうが“自分と向き合う時間”は増えていく、ということなんですね。

筏井:
そうですね。

中山:
不安や緊張がほとんどない試合と、強くある試合では、パフォーマンスに違いは出るのでしょうか?

筏井:
もちろん、不安や緊張がないことで、得意なことに集中しやすくなる場面もあります。「これだけやってきた」という感覚があると、自然と良いプレーが出ることもある。ノリや勢いでうまくいった試合もあれば、緊張や不安を抱えたまま、しっかり固く入ってうまくいった試合もあります。逆に、どちらでも全然ダメだった試合もある。なので、不安や緊張がある・ない、どちらが良いという話ではなくて、試合ごとに状態は違う、というのが正直な私の見解です。今のチームは4連覇した経験もあって、去年は負ける試合が少し増えました。開幕戦を落としたり、想定外の負け方をしたりすることもあって、明らかに勝てるだろうという試合では、不安や緊張は強くない。その分、「点を取りに行こう」とか、「多少ミスしても誰かがカバーしてくれるだろう」という甘さが出ることもあると思います。

中山:
なるほど。緊張や不安がある・ない、どちらにも特性があって一概には言えないという見解なのですね。少し話を広げて伺いたいのですが、若い選手の中には「不安や緊張=ダメなもの」と捉えている人もいますよね。もしそうした捉え方をしている若手選手に対して、不安や緊張を“捉え直す”言葉をかけるとしたら、筏井さんならどのように表現しますか?

筏井:
不安や緊張は、絶対に生まれるものだと思っていて、ネガティブな感情や「負けたらどうしよう」という勝負への意識から生まれるもの。でも、それこそが一番の経験の場で、勝ったのか負けたのか、その一つひとつが確実に力になっていく。不安や緊張を抱えながら試合に臨める状況そのものが、アスリートにとっては「全てが新しい経験」なんですよね。そう考えられれば、後から振り返った時にその経験が必ず宝物になる。そう捉えると、若い選手でも大丈夫なんじゃないかなと思います。

中山:
なるほど。不安や緊張を「新しい経験」と捉えるのは、ありそうでなかった定義かもしれないですね。経験のあることには不安や緊張は生まれにくいですよね。

筏井:
ワールドカップの時も、「これが最初で最後かもしれない」と思った瞬間に、強い緊張を感じました。でも、「一生に一度かもしれない」と思えたことで、「これは大事な一日だな」と感じられたんです。終わった後に笑いたいと思えたことで、前向きに緊張と向き合えました。後から絶対に宝物になると分かっていれば、その時間を大事にできる。不安や緊張で終わらせるのではなく、「じゃあ、どうするか」を考える。ノートに書く人もいれば、人に話す人、映像を見る人、あえてリラックスする人もいて、向き合い方はそれぞれでいいと思います。その時間をどう使うかを大切にすることは、引退が見えてきている今の自分にとって、とても大きな意味があるんです。残り少ない試合の中で、緊張する場面もまた来ると思います。コンディションが完璧じゃないかもしれない。でも、その中でベテランとして結果を出し、チームに優勝をもたらせたら最高だし、もし叶わなかったとしても、「悔いはない」と思える形で終えたいなと思っています。

中山:
不安や緊張は、消すものでも、克服するものでもなくて、「いま、自分がどこに立っているのか」を教えてくれるサインなのかもしれないですね。新しい経験として受け取り、どう向き合うかを選び続けてきたその積み重ねが、今の筏井さんのプレーと、残された時間への向き合い方につながっているように感じました。

【Code.3 - COGNITION】実証の場──試験としての競技、舞台としての試合

中山:
今の筏井さんにとってフットサルという競技は、どのような「ゲーム」だと捉えていますか?

筏井:
「日々のトレーニングが正解だったかを試合で確認するもの」ですね。

中山:
そうすると、筏井さんにとって試合というのは、ある種“答え合わせ”に近い感覚なのでしょうか?

筏井:
相手も分析した上で攻めてくるので、自分の得意なことが必ずしも当てはまらない場面もたくさんあります。そう考えると、「答え合わせ」という言葉は少し違うかもしれません。ただ、チームとして「こういう戦術でいこう」と決めた時に、それが自分の得意な形でなかったとしても、ちゃんと体現できるのかどうかも含めて、「できますか?」と問われているような感覚があります。なので、試験に近い感覚ですね。一方で、人に見てもらえる場でもあるし、自分を一番発揮できる最高の舞台でもあって「自分はプレーするだけだよね」という感覚もあります。私は試合に入り込みすぎて、チームから言われていることを忘れてしまう時もあるので、そこは確認しながら。そういう意味で、試合は“披露する舞台”でありつつ、週の準備やその日に向けて積み上げてきたことが、選手として正しかったのかを確認する場でもありますね。

中山:
試合は「試験」でありながら、「舞台」でもある、という二つの側面を持っている感じなのですね。では分析や準備を重ねて、試験・舞台として試合が行われたあと、振り返りで確認するのはどこなのでしょうか?

筏井:
まずは結果に直結する部分ですね。勝った要因は何だったのか、得点なのか、失点なのか。そこを最初にチェックします。その上で映像を見て、自分が試合中に感じていたことと、実際に起きていたことが一致しているのか、ズレているのかを確認します。「こう思っていたけど、案外うまくいっていなかったな」ということもあります。私はピヴォなので、「ピヴォとしてどれくらいボールを受けられたか」というところも見ます。回数を細かく数えるわけではないですが、感覚的に「今日は良かったか」「あまり良くなかったか」を確認して、そこから何が良くて、何が悪かったのかを振り返る感じです。

中山:
自分の感覚と、実際に起きた事実との一致・不一致や、感覚の良し悪しを照らし合わせているんですね。

筏井:
そうですね。

中山:
では、フットサルを始めてからを振り返って、「このトレーニングは自分にとって正解だったな」と思えるものは何ですか?

筏井:
今37歳で、まだ自分の強みが「キレ」や「初速」の部分なので、身体的なフィジカルトレーニングをやってきたことは、間違いなく正解だったと思います。初速というのは、0から1に動く部分。そのためには、大きな筋肉の力だけではなく、自分の体重を支えられる安定感、つまり0の状態を安定して扱えることがすごく大事です。前十字を怪我してから7年間続けてきましたが、そういう動きを積み重ねてきたことは、自分の中では間違いなく良いものだったと思っています。特に「キレトレ」と呼ばれる、ラグビー選手と一緒にやってきたトレーニングは、やってきて良かったなと感じています。

中山:
さらっとおっしゃいましたが、37歳でキレや初速を武器にできているのは、正直かなりすごいことだと思います。言える範囲でいいのですが、この「キレトレ」で特に大きかった気づきは何でしょうか?

筏井:
キレトレは、5センチくらいの板の上を跳んだり、そこに乗ったりするトレーニングなんですけど、自分の体を支えるポジションを掴めることと、安定して乗るための股関節の使い方を学べるのが一番大きいです。大きなパワーを出すとか、重いものを持って動かすことも大事ですが、それ以上に「自分の体を最大限に安定させて止まれる、捉えられる」ことが重要だと思っています。スプリントトレーニングも同じで、「どこに足をつくのか」「どこから反発をもらうのか」という部分がスピードアップにつながる。自分の体を正しいポジションで捉えて、股関節を正しく使ってコントロールする。無駄がなくなることで、0から1に素早く動くことも、横の動きが入った中で動くこともできる。それをひたすら続けてきたことが、今につながっていると思います。

中山:
なるほど。瞬発力そのものというより、0の状態をどう安定させて、どう1に入っていくか、その“入り口の質”を高めてきた感覚なんですね。

筏井:
そうです。もう一つ良かったトレーニングは、得点に迫るという自分の役割に関する部分です。世界と比較して見た時に、シュートのパワーが足りないという弱みがありました。シュートレンジが狭いとか、ターンした瞬間にパワフルなシュートが打てないとか、サイズの問題も含めて課題はありました。でも、前向きで反応するとか、ワンタッチで合わせるとか、そういう「自分のタイミング」でプレーする部分は、これまでフットボールをやってきた感覚値が、今でもしっかり出ているなと感じます。子どもの頃から一番楽しくやってきた、「たくさんボールを触って、ボールをうまく扱う」ということが、今も活きている。「ゴールのバリエーションが多い」と言ってもらえたのも、すごく嬉しかったですね。

中山:
パワーやサイズではなくて、「自分のタイミング」で勝負できる感覚が、今の筏井さんの得点力を支えているのですね。

筏井:
今年は戦術的にもチャレンジしたことがあって、「なんでこのシュートは左足で決められたんだろう?」と自分でも考えることがありました。例えば、左サイドで、味方から前方のスペースに出されたボールに走り込んだ場面がありました。少し距離のある位置からでしたが、キーパーが一度反応した瞬間に、逆サイドのゴール上隅に決めたシーンです。その時のポイントは、相手が少し並走気味、もしくは一歩遅れて来た状況で、ボールをそのまま前に置いて打つとキーパーが反応しやすいコースしか残らない。でも、少し外側に置いて、左前からファー上に蹴ることで、コースが生まれました。サッカーのクロスに近い形で、相手がスライディングしても届かないし、自分の足を自由に使って蹴れる。前に置くと蹴れる角度が直線になって内側に入りやすいけど、それを外に置けたことが大きかった。ファーストタッチがストレートだったら、たぶん入っていなかったと思います。

中山:
その一瞬の判断やボールの置き所に、これまで積み重ねてきた感覚と、筏井さんの研究者気質を感じました。

筏井:
一応、大学院にも行っていましたから(笑)そういう感覚が出た時に、大学時代や研究室でもそうでしたが、技術を高めるためにトレーニングを重ねて、ボールにたくさん触って、キックを研究してきたことは間違いじゃなかったな、とこの年齢になって強く感じます。年齢で括りたくはないですが、今でもキレや初速を自分の武器としてプレーできているのは、その積み重ねだと思っています。

中山:
身体づくりだけでなく、ボールの扱い方やキックも含めて、本当にご自身を実験台にして研究してきたんだなと感じました。これは、何らかの形で残してほしいですね。

筏井:
初速を上げたいアスリートが多くて、最近はキレトレ仲間も増えてきています。私はそれを体現できているので、「20代の選手がやったら、絶対もっとできるよね」と思うんです。これまでいろんな指導者やトレーナーとトレーニングをしてきましたが、「なぜこのトレーニングが活きているのか」を考えながら取り組んできました。それを大学時代からずっと続けてきて、ウエイトもスプリントも全部やってきた。その積み重ねが今なので、「誰にでも自分の最大値をあげる伸び代はある」と思っています。

中山:
意外と、そこまで体系的に勉強する人は少ないですよね。

筏井:
最近のJリーガーは意識して取り組んでいる人も多いと思いますが、全体で見ると、まだまだ少ないんじゃないかなと思います。

【Code.4 - VISION】自信の輪郭──選択を信じられるということ

中山:
この競技を続けていった先で、「こんな状態・景色に辿り着いていたらいいな」と思うものがあれば教えてください。

筏井:
「自信を持って戦える状態」「引き出しとなる武器がある中で戦える状況」です。

中山:
もしそういう状態の筏井さんがいるとしたら、どうプレーしていると思いますか?

筏井:
例えば「このターンを決めたい」という“技1”があるとして、ずっとそれだけをやっていたら、相手も対応してきますよね。だから、技1、2、3と選択肢がある中で、「いつ1を出すか」みたいに、「こうやったら点が取れそうだな」とか、「前回こういう対策をしてきたから、今回はこう来るだろうな」とか、そういう読み合いの中で、お互いにやり合いながらプレーできることが理想ですし、最近それを楽しめている時もあります。そこまで持っていける余裕がある試合運びができていると、自信を持ってプレーできるし、純粋に楽しいなって思います。もちろんそこに至らない試合も多少はありますけど、そういう時は「じゃあ自分は何をするか」というところに戻るだけで。今は、その“技”が少しずつ増えてきたので、楽しい状態ですね。

中山:
「自信がある」という感覚は、誰かの評価というよりも、ご自身の中で満たされている感覚に近いのですね。

筏井:
そうですね。

中山:
その「引き出し」や「武器」という話でいうと、最近「これは武器になってきたな」とか、「このあたりが見えてきたな」と感じるものはありますか?

筏井:
今まではピヴォで、3対1の形でポストプレーをするために前で張る、という規定の中でやってきました。でも最近は、4枚で降りていく形も使えるようになってきて。自分が降りることで、相手がマンツーマンで警戒してきたら、誰かが飛び出していける。その流れの中で、味方を使えるようになったのが、今の一つの喜びです。だからアシスト数も少し増えました。ピヴォって、セグンドで最後に決めるとか、シュートパスをパッと決めるとか、もちろん大事なんですけどそれだけじゃなくて。得点のパターンが増えたことと、味方に点を取らせてアシスト回数が増えたことが、新しい喜びですね。まだパスの質や種類は全然なんですけど、そういう形を少しずつ作れたのが嬉しいです。

中山:
引退もすでに発表されている中で、最後に、どんな景色を見たいのか、どんな状態で「終わりだ」と思いたいのか。筏井さんの言葉で聞かせてもらえますか。

筏井:
リーグと、その次に選手権、やっぱりどっちも大事です。リーグは最後、浦安でホーム最終戦があって、そこで「引退します」と言って、関東での最後だから「見に来てください」と呼びかけています。ただ、正直「自分の試合」みたいにならなくても全然いいと思っています。このフェーズまで来たら、「自分が点を取りたい」というより、勝ちにつながるならやりたいけど、誰が点を取ってもいいし、誰が活躍してもいい。とにかくチームとしてちゃんと勝って、結果を出したいです。それと、フットサルはまだまだマイナーなので、見に来てくれた人たちに「面白いね」と思ってもらえる試合にしたい。戦術までは見切れなくても、途中でパワープレーが始まったり、そういう“フットサルならでは”も含めて、「面白い」と思ってもらえたら嬉しいです。そして、これから若い子たち、後輩たちがまだ頑張っていくので、そこに繋がるような景色を残したいです。本気で競技に向き合ってひたむきにやっている選手たちはいると思うので、そういう人たちを心から応援したい。そういう子たちに「頑張ってね」って思える自分でいたいし、プレーで何かを残して終わりたいなって思っています。

中山:
自信や武器は、結果や称賛の先にあるものだと思われがちですが、筏井さんの話を聞いていると、それは「積み重ねてきた思考と選択を、自分で信じられている状態」なんだなと感じました。最後まで“考えて戦う”という姿勢を貫いてきたその姿は、きっとこれから競技に向き合う人たちにとって、一つの道しるべになると思います。本日はありがとうございました!

筏井:
ありがとうございました!

【After Dialog】
自らの「キレ」を徹底的に言語化し、感覚の再現性を追求し続けてきた探求の軌跡。引退を目前に控えた今、対話から見えてきたのは、積み上げた理論の先に、純粋な競技への没入を見出そうとする一人の選手の姿だった。筏井りさという存在は、一瞬の輝きのために心身を削りながらも、そのプロセスに宿る「変化」や「揺らぎ」さえも観察の対象として慈しんできた。

大学院での研究、怪我との対峙、そして戦術の進化。彼女にとってのフットサルは、自らの身体を実験台に、正解のない問いを解き続ける知的な営みでもあった。しかし、キャリアの終着点を見据える中で、思考を積み重ねてきたその先には、「何も考えずに楽しみなさい」という、かつての自分とは対極にあるような、ある種の解放された境地が広がっている。

「キレを追い求めるのは、自分を表現したいから」。その言葉に込められた渇望は、競技生活の終わりとともに消えるものではなく、彼女の生き方そのものを象徴している。思考の階段を登りきり、最後に「楽しむ」ことに重きを置こうとする姿勢は、長きにわたる探求を終える者だけが手にできる、静かな納得感のようにも感じられた。

感覚と論理。その両輪を回し続けた彼女の歩みは、コートを去るその瞬間まで、誰にも真似できない「筏井りさ」という個の輪郭を描き出していく。

『Dialog Code』

答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
筏井 りさ(いかだい・りさ) 
1988年8月12日生まれ、神奈川県川崎市。 
フットサル選手。バルドラール浦安ラス・ボニータス所属、背番号17。 筑波大学女子サッカー部を経て、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース、浦和レッズレディースなどでプレー。その後フットサルへ転向し、バルドラール浦安ラス・ボニータスに加入。圧倒的な技術と「キレ」を武器に、日本女子フットサルリーグ4連覇など、数々のタイトル獲得に大きく貢献した。 また、日本女子フットサル代表としても長年活躍。AFC女子フットサルアジアカップ中国2025での優勝など、国際舞台でもその高い技術と得点能力を発揮してきた。 今シーズンをもって現役引退を表明。競技者として最後まで理想のプレーを追求し続け、多くの選手やファンに影響を与え続けている。
【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。
JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。

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