Dialog Code
『執着と還元──代えのきかない「ピース」の行き先』江川涼 # Dialog Code
2026/02/11

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」
『Dialog Code』
強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。
今回登場するのは、
江川涼(プロフットサル選手・SWHレディース西宮所属)
【Before Dialog】
フットサルという競技は、情報量が多い。コートは狭く、時間は短く、判断は一瞬で求められる。その中で江川涼は、ただプレーを選択するのではなく、場の空気を読み、流れを感じ取り、仲間とゲームをつくる選手だ。ゴール前で体を張るピヴォとしての役割。声を出し、周囲を動かし、局面を変えていく存在感。そこには、技術やフィジカルだけでは説明できない「判断の質」がある。その判断は、どんな状態から生まれているのか。緊張や不安と、彼女はどんな関係を結んでいるのか。そして、彼女にとってフットサルとは、どんな“ゲーム”なのか。この対話は、プレーの解説ではない。勝ち方を教えるものでもない。彼女自身が、自分の内側をどう捉え、どう言葉にしているのか。その思考の構造を、静かに辿っていく。さあ、彼女の思考を紐解いていこう。
【Code.1 - STATE】余裕とプチパニック──選べる時と選べない時
中山:
試合中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、もしくは短い文章で表すとしたら、どのような言葉になりますか?
江川:
余裕があってクリアな状態ですね。
中山:
では「余裕があってクリアな状態」とは、具体的にどういう状態なのかと聞かれたら、まずどのように説明されますか?
江川:
フットサルっていろんな戦術があるんですけど、余裕がある時は一番いい選択肢が瞬時に「これだ」と自分の中で正解が見えているような状態です。迷いなく選択できている時ですね。クリアっていうのは、邪念がないというか、正解だけがパッと思い浮かんで選択できる状態、みたいな感じです。
中山:
なるほど。「クリア」というのは“邪念がない”“迷いがない”という感覚に近いのですね。一方で余裕があるという言葉は、また少し違うニュアンスにも聞こえます。余裕があるというのは、具体的にはどんな状態でしょうか?
江川:
余裕があるというのは本当に選択肢がいっぱいある状況ですね。逆に、うまくいっていない時は本当に余裕がなくて、プチパニックみたいな感じなんです。「何も見えない」みたいな状況ですね。
中山:
プチパニックの時、頭の中ではどんなことが起きていますか?
江川:
色々なことがぐちゃぐちゃです。今までフットサルを長くやってきたんですけど、選択肢が出てきすぎてどれにしたらいいかわからないみたいな。私は自分を持っているタイプなんですけど、自分で選択できない状態になります。
中山:
なるほど。ある程度、選択肢の枠組みは持っているつもりでも、その場でどれが正しいかが瞬時に出てこない状態なのですね。「余裕があってクリアな状態」になれる時は、試合のどんな展開や、入り方の時に起きやすいですか?
江川:
どんな時だろう...やっぱり自分の調子がいい時ですね。相手が仮に強くても格下でも、強い時の方がうまくいかないとかそういうわけでもなくて。相手がどんなに強くても、調子がいい時はそれが発揮できるし、相手がどんなに格下であっても、自分の調子が悪かったらそれは発揮できないし。何をすれば自分が調子いい時になるかというのは、まだよく分からないかもしれません。
中山:
そこは言語化が難しい部分ですよね。ちなみに「今日は調子がいいな」と感じる時、何か傾向やタイミングはありますか?
江川:
ボールが足についてるとか。あとはやっぱり一番わかりやすいのは点が取れている時ですね。
中山:
逆に、先ほどのプチパニックに陥ってしまう時は、何かきっかけがあるのでしょうか?
江川:
パスミスが多い時ですね。そうなると単純にミスがすごく増えます。本当にいい時は、ボールを失わないし、ミスが少ないんですよ。
中山:
なるほど。パスミスが続くことで、さらにミスが増えていって、思考もぐちゃぐちゃになっていく感覚でしょうか?
江川:
そうですね、そこから結構マイナスになりますね。
中山:
では、余裕がある時とない時で、見えている情報の量や質は変わるのでしょうか?
江川:
全然違いますね。良い時は、客観的に全てを見れる感覚があって。でも悪い時は、本当に全然見えていない。周りの言葉とかも聞いてはいるけど、「どうしよう」みたいな感じで。私は結構ネガティブだと思うんですよね。落ちてきます。
中山:
なるほど。周りの声は聞こえているけれども、言葉が入ってこないというか、頭の中では自分の声の方が大きくなってしまうような感覚でしょうか?
江川:
まさにそうですね。
中山:
そういう状態から立ち直る時、江川さんは具体的にどんなことをされるのでしょうか?
江川:
自分が一番信じているのが監督の言葉なんですよ。監督は私の中の絶対的存在であり答えなので「今日はどうしたらいい?」「何をしたらいい?」って聞くんです。そうするととりあえずその言葉だけは信じられるというか。それによって信じられるものができるんですよね。

中山:
自分の中で湧いてくる不要な声を消すために、監督の言葉を上書きするようなイメージなのですね。
江川:
「すみません、お願いします」みたいに上書きする感じですね。自分の中の思いもあるから、その思いと監督が言っていることが合致したら、かなり自信を取り戻せるというか、「やっぱり」みたいな感じで持ち直せることはあります。
中山:
もし、その時にご自身の感覚と監督の言葉が一致しない場合は、どのように判断されるのでしょうか?
江川:
その時はもう割り切るしかないですね(笑)
中山:
その考え方は面白いですね。これはちなみに今の監督だから信じてるのでしょうか?「監督」という役割を信じているのでしょうか?
江川:
今の監督だからですね。私の中で監督にはこだわりがあってすごく大事にしていて。チーム選びにおいても監督が一番大事だと思って選ぶタイプです。
中山:
なるほど。今の監督の言葉だからこそ信じられるということなんですね。「余裕があってクリアな状態」で試合に入れるのが理想だと思うのですが、その状態を意識的に作りにいくことはありますか?それとも、結果としてそうなることが多いのでしょうか?
江川:
作ろうとはしているんですけど、結果的な方が多いですね。
中山:
なるほど。その状態を作りにいくこと自体についてはどう感じますか?難しさがあるのか、あまり意識してこなかったのか、あるいはまだ試したことがないのか。そのあたりも含めて伺いたいです。
江川:
余裕を持って試合に臨むにあたって、相手の分析は結構します。この選手はこうだからこうしていこうという準備です。試合当日は直前に自分の気持ちを持っていくようにしています。その準備としては、とにかく自分のいいプレーとか、良かったシーンを思い出したり切り取ったりして、それを見ていいイメージだけを入れて臨むという感じです。それがすべて「余裕を持ったクリアな状態」に持っていけるかって言われたら難しい時もあるんですけど、作ろうとはしています。結果的に「今日よかったな」「やっぱり余裕あったな」っていう感じになることはありますね。
中山:
お話を伺っていると、まずは純粋に「良いプレーをするために、良いイメージを入れている」という意図が強いように感じました。加えて、その日のボールの感触や得点など、目に見える良いアウトプットが出ることで、自然と状態が整っていっている印象です。
【Code.2 - EMOTION】 嫌な存在──それでも必要なワケ
中山:
試合前や試合中に感じる「緊張」や「不安」は、江川さんにとってどんな存在でしょうか?
江川:
嫌な存在ですね。
中山:
先ほど「私はネガティブだと思う」といったお話がありましたよね。試合前・試合中に湧いてくる緊張や不安について、「嫌な存在」と表現してくださったのは、どういう感覚からでしょうか?
江川:
とにかく緊張するんですよ。ワールドカップも本当に緊張しましたし、吐きそうになるぐらいの時もあって。緊張しない人やその状態を楽しめる人はすごいなって思います。私は緊張を楽しめるとは思えなくて、本当に嫌だなって思います。緊張がなくなってくれたら、もうちょっと試合前に余裕を持って過ごせるのかなって思うので、なくなってくれればいいなってずっと思ってます。
中山:
その「嫌だな」と特に強く感じるのは、どんな瞬間でしょうか?緊張のピークのようなタイミングはありますか?
江川:
入場前が一番ピークかもしれないです。さらに上がる時があって、私ファースト(スタメン)が苦手なんですよ。本当にネガティブでいろいろ考えちゃうんですよね。失点したらどうしよう、流れを悪くしてしまったらどうしようとか。試合のスタートってすごく大事だと思ってるので、特にそこで自分が失敗してしまったらって考えてしまいますね。
中山:
伺っていて「緊張や不安が嫌だ」という感覚は、失敗への恐れに近いのかもしれないと感じました。緊張や不安があることで、「失敗するんじゃないか」「パフォーマンスが下がるんじゃないか」といった方向に意識が向いてしまう、という感覚でしょうか?
江川:
まさにそうですね。
中山:
「嫌だな」と思いながらも、競技を続ける以上、緊張や不安とはどうしても付き合っていく必要があると思います。その中で、江川さんはこれまでどのように向き合ってこられたのでしょうか?
江川:
とにかく高望みはしないことですね。もちろん活躍はしたいですけど、スタートは本当に大事なので、「とにかくミスをしない」「失点をしない」を心がけています。いいプレーをしようというより、とにかく何事もなくやり過ごす。フットサルはすぐ交代するので、まず最初の1周目を終えようという気持ちに持っていっています。それがうまく付き合えているかは、ちょっと分からないですけど(笑)

中山:
なるほど。いろいろな不安が出てきたとしても、最後は「これでいこう」と決め切ることで、緊張のピークが少し落ち着いて、プレーがはっきりしていくようにも聞こえました。
江川:
そうかもしれないです。
中山:
では一方で、緊張や不安が「役に立った」「必要だったかもしれない」と感じた経験はありますか?
江川:
難しいですね…でもファーストで大きな失敗をした経験はあんまりないです。1試合通して考えると、最初の入りが大事だからよりセーフティーにいこうという方向には動いています。自分自身もそうですし、周りにも「ファーストは大事だから、まずは失点しないように」「無理しないでセーフティーに」って伝えたりします。ちょっと繋げそうなところでも、一旦クリアしたり、ディフェンスからやり直そう、っていう判断は結構しますね。
中山:
なるほど。緊張や不安があるからこそ一番重要なファーストの失敗確率を下げる行動につながっている、ということでもあるのですね。
江川:
そうですね。
中山:
もし緊張や不安が完全になくなったとしたら、プレーはさらに良くなると思いますか?それとも、何か大事なものが失われる感覚でしょうか?
江川:
どうだろう…プレーに責任感がなくなるというか、「なんとかなるっしょ」みたいなプレイヤーになっちゃう気がします。もともとそういう感じがあんまり好きじゃなくて。なので、緊張感や不安がなくなったら、逆に良くなさそうですね。
中山:
そうすると、「嫌な存在」ではあるけれど、今の話を踏まえると、緊張や不安は江川さんにとってどんな存在になっていきそうでしょうか?
江川:
嫌だけど嫌じゃない、みたいな(笑)なくてはならないまではいかないですけど、うまく付き合っていけばいい存在なのかなって、話してて思いました。

【Code.3 - COGNITION】限界でも考え続ける──認知と決断の競技
中山:
今の江川さんにとってフットサルという競技は、どのような「ゲーム」だと捉えていますか?
江川:
休む間もなく、常に頭を働かせ続けないといけないゲームですね。
中山:
ぜひ、もう少し詳しく教えてください。
江川:
休む暇がほとんどなくて、展開もとても速いので頭を休める瞬間が本当にない。オフェンスでもディフェンスでも頭を使いますし、「休む間もない」という表現が一番しっくりくるんですよね。
中山:
「頭を働かせないといけない」という言い方が印象的でした。その表現には、どのような意味が込められていますか?
江川:
攻守の切り替えが本当に速いですし、体力的にも頭的にも限界で、正直、何も考えられないような瞬間も出てきます。でも、そういう時でも、絶対に頭を働かせてプレーしなければいけないという感覚があります。
中山:
体も頭も限界に近い状態でも、それでもなお「考え続ける必要がある」ということですね。
江川:
そうですね。交代は自由ですけど、例えばディフェンスが続いてしまった時とかは代われない瞬間もあります。足も心拍数もかなりきつい状態でも、頭を使えばうまく守れたりするので、本当に頭を使うスポーツだなと思っています。
中山:
その「頭を働かせる」というのは、具体的にはどのような判断の連続なのでしょうか?
江川:
認知と決断の連続ですね。状況も相手もどんどん変わりますし、強いチームほどルールが整理されています。一方で、いろいろな相手と戦う中では、秩序があまりないチームも出てくる。だからこそ、まず状況を認知することがすごく大事で、そのうえで決断をしていく。その繰り返しだと思います。
中山:
そうすると、試合後は体だけでなく、頭の疲労もかなり大きいですか?
江川:
疲れますね。特に強い相手とやる時は、監督同士の戦術の駆け引きになることも多くて、試合ごとにやることが全然違います。なので、上の相手と戦う時ほど、頭の疲れは大きいです。

中山:
とても興味深いですね。
江川:
日本だと、試合ごとにそこまで戦術を変えてくるチームは正直あまり多くないと思います。だからこそ強い相手とやるのは面白い反面、頭もかなり疲れますね。
中山:
お話を聞いていると、フットサルは単に体を動かすスポーツというより、将棋やボードゲームのように、思考を巡らせ続ける競技にも感じられます。そう考えると、頭と体の両方が疲れる競技だからこそ、鍛え方やリフレッシュの仕方も重要になってきそうですが、その点についてはどう感じていますか?
江川:
そうですね。どうリフレッシュするかは大事だと思います。私はひたすら寝ます。何も考えない、というのが一番ですね。
中山:
なるほど。一度、意識的に「考えるのをやめる」時間をつくるのですね。
江川:
そうですね。一回、電源を切る感覚です。
中山:
認知と決断を延々と繰り返す中で、「頭を働かせる力」として、特に価値が高いと思う能力は何でしょうか?例えば、認知のスピード、視野の広さ、疲れていても考え続ける頭の体力、あるいは俯瞰する力など、いろいろあると思います。
江川:
やっぱり一番は視野の広さだと思います。まず認知して状況を把握することが最初で、一番重要なんじゃないかなと。相手がどこにいるのか、味方がどこにいるのか、どれくらいの距離感なのかを、瞬時に理解・認知できた方がいい。それができなければ、いい決断もできないと思います。
中山:
なるほど。視野の広さが、非常に重要なポイントになるわけですね。この「視野の広さ」は、生まれ持ったものだと思いますか?それとも、鍛えられるものだと思いますか?
江川:
鍛えられるものだと思います。
中山:
どのように鍛えられるのでしょうか?
江川:
経験の積み重ねだと思います。その中でいろいろな指導者の方に出会って、さまざまな視点を教えてもらってきたその経験が一番大きいです。
中山:
経験によって「視点が増える」ことが、そのまま「視野の広さ」につながっている、ということですか?
江川:
そうですね。自分が見えている状況だけじゃなくて、他の人から「こういう見方もあるよ」と言われることで、「そんな見方もあったんだ」という発見をたくさんもらってきました。
中山:
面白いですね。「視野が広い」という言葉だけだと、単純にコート全体が見えているかどうか、という話になりがちですが、見る“視点”が2つなのか、10あるのかで、同じ景色でも入ってくる情報は全く変わってきますよね。今のお話を聞いて、その意味での「視野の広さ」がよく伝わってきました。つまり、見えているだけでは不十分だ、ということですね。
江川:
本当にその通りです。

中山:
これまでのお話を伺っていると、監督を信頼して対話を重ねてきたことや、いろいろな指導者から視点をもらってきたことが、今の江川さんを形づくっているように感じます。実際、監督やコーチとの対話は、これまで多く重ねてきた方ですか?それとも、ご自身との対話が中心でしょうか。
江川:
監督やコーチとは、結構話してきた方だと思います。今は自分の中に正解や選択肢が増えてきましたけど、それでも分からないことがあれば、今でも監督に確認します。話しながら教えてもらって、選択肢が増えて、引き出しが増えていく、という感じですね。
中山:
なるほど。そうして蓄積された引き出しを頭の中に持ちながら、絶えず行き来させて、「これはどうだ」「次はどうだ」と認知と決断を繰り返しているわけですね。
【Code.4 - VISION】唯一無二──代えがきかない存在へ
中山:
この競技を続けていった先で、「こんな状態・景色に辿り着いていたらいいな」と思うものがあれば教えてください。
江川:
自分のチーム、または日本の唯一無二の存在になることです。

中山:
まず、この「唯一無二」というのは、能力の話でしょうか?それともあり方や影響力など、どこを指しているのでしょうか。
江川:
両方かもしれないです。チームにとって、誰でもなく、代えがきかない存在。それはプレーヤーとしても、存在としても。ピッチ内でもオフザピッチでも、そういう存在になれたらいいなと思っています。
中山:
なぜ唯一無二である必要があるのでしょうか?
江川:
ただの点取り屋だったら、点を取るだけだったら誰でもできるというか。もちろん、一番点を取るってなったら難しいかもしれないですけど、点を取るスポーツなので誰でもできるっちゃできるところだと思うんです。そうじゃなくて、「私じゃないとできないこと」とか、「私じゃないとなれないピース」でいたいなと思ったので。
中山:
ちょっと嫌な質問かもしれないですが、この「唯一無二」というのは、周りから見て唯一無二だと言われたいのか、それとも自分の中で唯一無二だと思いたいのか、どちらが近いと思いますか?
江川:
周りから、ですね。
中山:
周りから「江川涼という選手は唯一無二だ」と評価される見られ方。その選択をした理由はどんなところにありますか?
江川:
やっぱり周りに認められたい、必要とされたいという思いがあります。承認欲求なんですかね(笑)今シーズン、怪我が長引いて、代表に戻れるかも分からない、ワールドカップに出られるかも分からない、という状況だったんです。もう絶対に呼ばれないだろう、くらいのところだったんですけど、その時に監督から「涼にしかできないことがある」とか、「涼じゃないと」という言葉をかけてもらえたのがすごく嬉しくて。それがあったから、リハビリも頑張れたというのがありました。だから、チームでもそういう存在になりたいという思いがあります。
中山:
なるほど。いいですね。その「唯一無二」に江川さんが近づくために、今、最も必要なものは何だと思いますか?
江川:
うわ、なんだろう。難しいですね。
中山:
ピッチ外のオンとオフをしっかり持っているところも含めて、プレーヤーとしてだけではなく、存在としてという話が出たのが、すごく江川さんらしいなと感じたんです。そう考えた時に、今、一番必要だと思うものは何なのか聞きたくなりました。
江川:
唯一無二になる…難しいですね。プレー面では、まだまだ至らないところもたくさんあると思っていますし、オフザピッチでは何だろう、本当に難しい。でも年齢もある程度重ねてきたので、耳を傾けることですかね。私、一人が好きなんですよ。あまりプレー以外のことを喋らないというか、フットサルとプライベートは結構分けたいタイプで。
中山:
なるほど。
江川:
でも、チームの中でも年齢は上の方になってきているので、そういう視点でみんなと会話していった方がいいのかなと思ったりもします。協調性がないわけではないと思うんですけど。あとは、自分の経験を若い選手たちに教えて伝えていくことで、そういう存在にも近づけるのかなと思いました。
中山:
なるほど。唯一無二になるためには、そういった部分もやっていく必要があるということですね。最後にひとつだけ質問させてください。近い将来、日本で唯一無二の存在になっている江川さんが未来にいるとしたら、その江川さんは、今の自分にどんなアドバイスをすると思いますか?
江川:
「周りを助けてあげなさい」ですかね。今は、結構助けられている側だと思うので。選手としてピッチ内でも、私自身が一人で何かできるタイプの選手ではなくて、パスが上手い選手や、ドリブルが上手い選手に支えられて点を取れていると思っています。そういうタイプなので、今度は自分が助けられるような選手になりたいという思いも込めて、そう声をかけたいです。

中山:
なるほど。年齢や経験も含めて、より周りに波及させていったり、チームやフットサル界に還元していくフェーズに入っていくのかもしれないですね。
江川:
そうですね。もうワールドカップも終わったので。そう思いました。
中山:
江川さんがここまで積み重ねてきた経験や、これから「唯一無二」へ向かっていく過程そのものが、きっとこれから先のチームやフットサル界、そしてこの対話に触れた人たちにも影響を与えていくのだと思います。今日語ってくれた言葉が、これからの江川さん自身の指針になり、次の景色へ進む力になっていくのを楽しみにしています。今日はありがとうございました!
江川:
ありがとうございました!
【After Dialog】
判断が冴えるときの「余裕」と「クリアさ」。緊張や不安を「嫌な存在」と呼びながらも、それを完全に排除しようとはしない姿勢。そして、競技を「休む間もなく頭を働かせ続けるゲーム」と捉える知的なまなざし。この対話を通して浮かび上がったのは、江川涼という選手が、感覚や感情を曖昧なままにせず、言葉にしながら自分の輪郭を確かめ続けている存在だということだった。調子の波、判断の迷い、不安の正体。それらを敵として切り捨てるのではなく、どう付き合い、どう活かすかを思考し続けている。「唯一無二になりたい」という言葉も、自己顕示のためではない。代えのきかない存在として、チームに、周囲に、何を還元できるのか。その問いは、プレーの質だけでなく、関係性や振る舞いへと静かに広がっていく。未来の自分から今の自分へ向けた「周りを助けてあげなさい」という言葉は、これまで支えられてきた選手が、次のフェーズへ進もうとしているサインのようにも聞こえた。『Dialog Code』
答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
江川 涼(えがわ・りょう)
1996年3月30日生まれ、東京都板橋区出身。
フットサル選手。SWHレディース西宮所属、背番号9。
中学時代からフットサルを始め、フウガドールすみだレディース、バルドラール浦安ラス・ボニータスを経て、SWHレディース西宮に加入。現在は同クラブの中心選手としてプレーしている。ピヴォを基点に攻守両面で高いインテンシティを発揮し、チームのスタイルを体現。リーグ優勝に貢献するなど、クラブの重要な戦力として活躍してきた。
また日本女子フットサル日本代表として、FIFAフットサル女子ワールドカップ、AFC女子フットサルアジアカップに出場。国際舞台においても、エースとして確かな存在感を示している。【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。
JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。






