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Dialog Code

『理知的な悪戯──死角から思考をハックし、得意を絶望に変える支配』内村俊太 # Dialog Code 

2026/04/15

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」

『Dialog Code』

強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。

今回登場するのは、

内村俊太(フットサル選手・湘南ベルマーレフットサルクラブ所属)

【Before Dialog】
フットサルという極限の高速演算が求められる盤面において、内村俊太を眺めていると、時折、彼だけが別の時間軸を生きているのではないかと錯覚させられる。激しく交錯するフットサルの喧騒の中で、彼は驚くほど淡々と、まるで「後出しじゃんけん」を仕掛けるかのように相手の自由を奪い去っていく。その佇まいは職人のような堅実さを備えながら、内側には相手を翻弄することを楽しむ「いたずらっ子」のような冷徹な知略が潜んでいる。彼が語る「冷静さ」の正体は、単なる感情の抑制ではない。相手の思考をハックし、直前で判断を書き換える選択肢の豊富さ。それは、幼少期の遊び心が形を変えて競技へと昇華された、彼だけの生存戦略だ。35歳という円熟期を迎え、彼が見据える「世界との距離」と、日本フットサル界に提示する「景色」とは。さあ、彼の思考を紐解いていこう。

【Code.1 - STATE】「キャンセル」を可能にする──冷静さが生む判断の余白

中山:
試合中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、もしくは短い文章で表すとしたら、どのような言葉になりますか?

内村:
「冷静」です。

中山:
具体的に、プレー中のどのような状態を指しているのでしょうか?

内村:
フットサルはコートが狭いので、ボールをもらったら常に相手がいたり、基本的に味方選手にもマークがついているので、その状態を落ち着いて見ることができる感じです。例えば、僕がボールを持っている時に味方が裏に抜けようとしていたり、それに対してディフェンスがリアクションをするなど、そこまで細かく見れている時が「冷静」かなと思いますね。

中山:
味方と相手の動きが、総じて見えている状態ということですね。

内村:
そうですね。

中山:
「冷静」になると、視覚的な見え方や時間の感じ方に変化はありますか?

内村:
試合によっては、点を取らなきゃいけなくて少し焦る時間帯があるんですけど、冷静な時は時間の流れがゆっくりに感じます。フットサルは、フェイクなどの一瞬一瞬の動きがあるんですけど、そのフェイクまでちゃんと見れてボールを出せるんです。逆に焦っている時は、味方がフェイクをしているのにも関わらず、裏に出してしまうという感じですかね。

中山:
一瞬の判断が求められるフットサルにおいて、その「冷静さ」が最も活きるのはどのような場面でしょうか?

内村:
例えば、味方から良いボールをもらってシュートを打てるタイミングの時に、最後まで相手を見てトラップ一つで外せたりすることですね。

中山:
最終的な判断を下す極限の瞬間でも、冷静であればさらなる「選択肢」を持つことができるのですね。

内村:
キャンセルが利くか利かないかは、かなり「冷静さ」の中に入っていますね。

中山:
冷静であればあるほど、直前でのキャンセルや変更が利くということですね。

内村:
そうですね。 今話してみても、 確かに(冷静な時は)キャンセルがめっちゃ利くなと思います。 

中山:
では逆に、ご自身で「冷静ではないな」と気づく瞬間はあるのでしょうか?

内村:
はい。味方のフェイクを見れていない時や、それこそ見えた情報だけで判断してしまった時が多いですね。

中山:
そのような状態に陥った際、再び冷静さを取り戻すために意識されていることはありますか?

内村:
今は冷静さのことを掘っているんですけど、 実際は熱くなって見えなくなることはあまりないタイプだと思っています。でもそういったこともある中で、フットサルはサッカーみたいに試合の全部の時間に出ているわけではありません。休む時間もあって、また(試合に)出る時間もあるというバスケみたいな感じなので、ベンチにいるときにしっかり自分を落ち着かせるという作業は自然としているかもしれないですね。これといって何かをしていることはなくて、 とにかく落ち着いて深呼吸をしています。

中山:
競技の構造上、一度ピッチを離れる時間があることを有効に活用されているのですね。

内村:
そうですね。ベンチで休む時に試合を全体で見れるので、プレーしているときとは違って、ゲームの流れを見て「ここはこうだな」「意外とプレスは来ていないな」ということを整理した上で、もう一回ゲームに臨むという感じですかね。

中山:
内面的な意識をコントロールするというよりは、一度物理的に外から俯瞰することで状況を整理し、自分をアジャストさせていくスタイルなのですね。

内村:
そういうタイプですね。

中山:
強制的に一回整理する時間が作れることは、フットサルやバスケならではの特徴かもしれません。

内村:
そうですね。「一番のベストは?」と聞かれたら、常に冷静に見れていて、最後までキャンセルが利く状態が理想なんだろうなと話していて思いました。

中山:
その「冷静さ」は、意識的に作り出すものですか?それとも自然とその状態に入るものなのでしょうか。

内村:
「冷静さ」の中で、自分の思い描いたプレーをできることが大事です。それをこなしていると、冷静さは失われないというか。僕の選手像として、「ミスが少ない選手」が良い選手だと思っているので、 そこを目指してずっとプレーをしています。奪った後もしっかりつないだり、簡単にクリアしないことを繰り返していると、冷静さは保たれてるかなという感じですね。

中山:
ご自身の役割を淡々と遂行することが、結果的に冷静な状態を形作っていくのですね。

内村:
それは自然なことでもあり、作っていることでもあり、どちらとも取れるかなという感じですかね。

中山:
「ミスをしない」という点は内村さんの大きな強みかと思いますが、スポーツにミスは付きものですよね。もしミスをして焦ってしまった場合、どのようにリカバリーされていますか?それとも、あまり気にせずにプレーをするのでしょうか。

内村:
そうですね、ミスは絶対に誰だってするじゃないですか。フットサルは40分間の時間があるので、その一試合を通してミスをしない選手はなかなかいないと思います。僕もミスが少ない選手を掲げていてもやっぱりミスはしますが、「ミスが重なること」はしないです。例えばパスをつないで、一回パスミスをするとします。そういう時に、「絶対に次はつなごう」と思って、ミスを何回も重ねないことですね。ミスをすることは仕方がないので、ミスをしたからといって気にすることはないです。「次は絶対につなごう」と、自分の中でポジティブに変換するというか。でも、一本のパスミスで「何やってるんだよ」と自分にムカつくこともありますけどね。

中山:
感情が動くのは自然なこととして受け入れつつ、とにかく「連鎖させない」ことに集中しているのですね。

内村:
はい。そこは繰り返しずっとやってきているので、自然なことというか。もちろんムカついたりする感情もありますけど、そう思うのも自然かなという感じですね。

中山:
これはプレースタイルにも関わってくるのかなと思いましたが、 「ミスをしないこと」が内村さんにとって良い選手だと定義した時に、「ミスをしないこと」と「トライすること」の線引きはどう判断されているのでしょうか?

内村:
チャレンジして起こるミスと、相手が格上でその圧力にビビってするミスは、全然違うと思っています。チャレンジして起こるミスに対しては、めちゃくちゃいいと思うんです。僕は割と守備的な選手で、サッカーでいうセンターバックのように後ろの選手なので「とにかくミスは少なくしよう」と思っています。でも逆に、攻撃的な選手は自分の持ち味を出すために、目の前の選手を抜いてシュートすることもあるじゃないですか。でもそれはミスだと思わない。めちゃくちゃいいチャレンジだと思うんですよ。それを相手が上手い選手だからという理由で、1対1を仕掛けられるのに、逃げてミスをするようなプレーは、僕はちょっと「え?」って思いますね。チャレンジして起こるミスは、意図が伝われば全然いいと思います。むしろそれをやらなきゃ成長しないと思うので。

中山:
意図のある挑戦は、そもそも「ミス」ではなく「チャレンジ」になっているんですね。

内村:
若い選手とかもそうですけど、ミスしたら怒られるから消極的なパスをして、それもミスして相手に取られるくらいなら、仕掛けて自分の持ち足を出して取られる方が「ナイスでしょ」と思います。

中山:
内村さんは「ミスが少ない選手」を目指しているというよりは、不要なミスを排除しつつ、やるべき挑戦はしっかり肯定するという、非常に前向きな思考があるのだと理解できました。

内村:
そうですね。

中山:
ポジション柄、プレー特性柄、堅実な選手と思われがちな部分もあると思うので、伺えて面白かったです。 


【Code.2 - EMOTION】主体性を駆動させる「スイッチ」──能動的闘争心へと変える論理

中山:
試合前や試合中に生じる「緊張」や「不安」という感情は、内村さんにとってどのような存在ですか?

内村:
「大事な存在」です。

中山:
そう思えるようになった背景には、どのような経験があるのでしょうか?

内村:
今年で35歳になるんですけど、緊張や不安は昔と違って今はなくて。それは、やっぱり十何年もやってきた経験や自信があるからです。ないと言ったらないんですけど、昔に比べたらないんですよ。でも若い時は、とにかく緊張していたなというのがあって。でも今のない状態でも思うんですけど、ちょっとの緊張や不安があった方が、それが逆に良いパフォーマンスにつながることもあると思っているので、「大事な存在」かなと思いますね。

中山:
昔は結構緊張していたんですね。

内村:
毎試合していましたね。

中山:
その緊張には、何か具体的な要因があったのでしょうか?例えば「自分のプレーができるか」という不安なのか、あるいは「周囲の期待に応えたい」というプレッシャーなのか。

内村:
僕はどちらかというと、自分のパフォーマンスに対する緊張や不安がありました。試合前に、「どうしよう」みたいに思うことは結構ありましたね。

中山:
当時は、その感情とどのように向き合っていたのでしょうか?

内村:
「緊張するのも当たり前だ」と思って試合に臨んでいました。そう思うことで自分のワンプレー目がうまくいったり、先ほど言った「チャレンジ」ではないですけど、1対1を仕掛けてシュートまでいくんだと思った時に、緊張や不安がスッと抜けるというか。そういうきっかけは自分で作っていたのかなと思います。「これでもう今日はいけるんだ」みたいな。 

中山:
大前提として、「緊張や不安をすることは良くない」というマインドはなかったのですね。

内村:
なかったですね。 

中山:
緊張を否定せず、むしろ「いけるぞ」という確信を得るための、スイッチとなるプレーを自ら探しに行っていたのですね。

内村:
無理やり一本目のシュートを思いっきり打ちにいったり、例えばディフェンスの時に相手をとりあえず威嚇する意味も含めて思いっきり一発目で潰しに行くことで気持ちが切り替わるというか。「もう行くぞ」という感じがありましたね。

中山:
スイッチの入れ所のようなものを自分で作っていたんですね。

内村:
そうですね。

中山:
そこから様々な経験を積まれてきて、今では緊張が少なくなったとのことですが、それでも「緊張は大事だ」とおっしゃるのは、プレーにどのようなプラスの影響があるからでしょうか?

内村:
難しいですね…より研ぎ澄まされるんじゃないですかね。自分で緊張していることによって、一本のパスやトラップに対して、緊張してるからこその集中があるとは思います。

中山:
緊張が集中力を引き出すトリガーになっているということですね。一方で、経験を積んで余裕が出てくると、意図的に緊張感を作り出すのが難しくなる側面もあるかと思います。意識的に自分を追い込むような工夫はされていますか?

内村:
行動で何かを決めることはないです。自分の心次第、気持ち次第なところがあるので。明確に僕はディフェンスの選手なので、フットサルでいうと相手の「ピヴォ(攻撃の起点)」と呼ばれる選手を抑えることを任されています。そこにも集中していくので、そういった意味では緊張とはちょっと違うんですけど、そこにより強い気持ちを持って臨んでいますね。

中山:
役割への責任感が、緊張に近い高揚感を生んでいるのですね。そう聞くと、内村さんにとって緊張とは「乗り越えるべき敵」ではなく、常に「一緒に乗り越えるもの」のような感覚に近いのでしょうか?

内村:
そうですね。もちろん、今でも緊張することはあって日本代表で世界と戦う時や、この前もアジア選手権に行ってきたんですけど、あの時も多少なりともリーグ戦とは違う緊張感というものを最初に感じました。けれど、始まったらもう切り替わるというか、それも最初だけなので。笛が鳴ったら、自分のスイッチがあるので切り替えられる。言語化が難しいんですけど「常にあるもの」ではありますよね。

中山:
試合が始まった瞬間に解放されるわけですね。世の中には、始まってからも緊張を引きずってしまう選手もいますが、その違いはどこにあると思われますか?

内村:
何が違うんですかね。僕は本当にスイッチがあって。以前熱血系の指導者の方がいて、その人に言われたことが自分の中の心のターニングポイントとしてあるかもしれません。よく「死ぬ気でやれ」とか「死ぬ気で行け」みたいに、「死ぬ気で」という言葉が使われますよね。その人は「そのマインドがダメ。死ぬ気って、もう死ぬ前提じゃねえか。殺す気で行け、死にや死ねえ。それくらい相手を上回って行くんだよ」と言っていて、その言葉は当時の自分に刺さりましたね。

「死ぬ気」が「殺す気」に変わってから、自分の中でそのスイッチができたというか。試合が始まるまでは「今日は大丈夫かな」ってちょっとの緊張や不安があっても、それと同時に「やってやろう」というマインドになるというか。実はフィクソ(後ろのポジション)は、相手のピヴォと、ポジション取りも球際も激しく競うポジションなので、それが自分にマッチしてたと思います。「殺す気」というワードによって、自分はそこから「よっしゃあ、行ったろ」みたいなスイッチができてからは、それが緊張の取り方になったかなという感じですね。今話していてそう思いました。

中山:
「死ぬ気でやれ」という言葉は感覚的なイメージで、「負けてもいい」「死んでもいいから行こう」という受け身らしさが感じられますね。

内村:
差し違えるわけじゃないですけど、その考え方はもう受け身になってしまうので。

中山:
逆に、「殺す気で」という言葉は「勝つために」「食うために」という主体的な印象ですね。その言葉一つで、心のスイッチの入り方が変わったのですね。

内村:
はい、受け身なのか、自分から行くのか。それはちょっと違うと思っています。

中山:
負けてもいい前提で戦う勝負と、勝つ前提で戦う勝負は、初速の速さなども変わりそうです。

内村:
それこそ海外ではより一層そうで、そういうマインドの人が多い環境でも、「殺す気」というワードはだいぶスイッチになっています。言葉によるマインドはありますね。

中山:
僕も仕事柄、プレッシャーとの向き合い方について相談を受けることが多いのですが、多くの人は不安そのものを力技で抑え込もうとしてしまいがちです。しかし、不安は自然な生存本能ですから、それを「思わないようにする」のは不可能です。大切なのは、不安に目を向けるのではなく、他に「考えるべきこと」へ視点を強制的に移すこと。そうすることで、気づけば不安を感じている時間が減少したりします。内村さんが無意識に実践されているのは、まさにそれに近いものだと感じました。

内村:
はい、まさにそうですね。


【Code.3 - COGNITION】視野外からの思考ハック──相手の得意を餌にする心理的優位

中山:
内村さんにとって、フットサルという競技はどのような「ゲーム」だと捉えていますか?

内村:
「駆け引きの勝負」です。

中山:
どのような瞬間に感じるのでしょうか?

内村:
すべてですね。ボールを受ける前に、よりフリーでボールを持てるようにマークを外したり、あえて動かないでボールが動いている間に自分で寄ってスペースを作るのかとか。ボールがない時もある時も常に駆け引きしかないので、フットサルは狭いからこそ1センチ、2センチ、3センチのずれでパスコースができます。あえてパスコースを作っておいて、相手の股を狙ったパスなど、本当にすべてですね。

僕はディフェンスなので、相手が自分の前にいる状態であえてボールがないときに前にポジションを取っておいて、裏のパスに反応するとか。でも、それって相手もそうじゃないですか。俺の後ろにいて、引いてスペースを作ってボールをもらったり。これも「駆け引き」で面白いです。

だから僕は、あえて前で受けるのは分かっていて「騙されるフリ」をして、もう一回インターセプトをするとか。本当に駆け引きの「後出しじゃんけん」なのか「先出しじゃんけん」なのか、全部が全部それにつながると思っています。

中山:
お互いが裏の裏を読み合う、駆け引きをしているのですね。

内村:
本当にそうですね。逆に駆け引きの下手な選手は対応しやすいし、駆け引きが上手い選手だと、駆け引きの試合になるというか、駆け引きの力で上回れるかどうかという感じですね。

中山:
仮にフットサルにおいて、最も重要な能力を「駆け引き力」と定義した場合、それを磨くために必要な要素とは何だと思いますか?

内村:
とにかく「相手を欺くこと」ですね。「騙す」「欺く」。それは目線もそうですし、体の向きですかね。

中山:
そのスキルは、どのようにして身につけるものなのでしょうか?

内村:
うーん…いたずらですかね?(笑)

中山:
日頃の生活からということですか?(笑)

内村:
大人になっていたずらをするのは僕は人としてどうかなと思うんですけど(笑)。騙すのが好きだというわけじゃないんですけど、いたずらは小さい頃からめちゃめちゃしていた子でした。でもそれがフットサルで生きてるなと思うことはあるんですよ。

中山:
競技との相性は良かったのかもしれませんね。

内村:
それこそ「見て学ぶ」じゃないですけど、上手い選手を見て得ることも一つですし、そういうのをもともと持っている人って絶対にいますからね。そこはやっぱり「見て学ぶこと」も一つだと思うんですけど、どう身につけるかと聞かれると難しいですね。

「いたずら」という言葉は内村さんの本質を突いている気がします。プレー中は具体的にはどこを観察して、何を考えているのでしょうか?

内村:
まずは相手の思考を読もうとします。結局は何を考えているかは分からないですけど、相手の思考を読みながら、相手が狙っていることをあえてやらせたり、やらせなかったり。何を考えているのか、逆に相手はこうしたいんだろうなということを、ポジションや引き足を見ながら読み取ります。

僕はよくやるんですけど、ターンが好きな選手には逆にターンをさせるボールの取り方をして、ターンさせた瞬間にそこで取るとか。かと思いきや、今度はターンさせないようにディフェンスしながら、逆に行った時に仕留めたり、いろんなパターンがありますよね。例えば、ボールをもらうために背負った状態でパスが来た時に、思いっきりぶつかってバランスを崩させるのか。「うわ、こいつめっちゃ球際くるじゃん」みたいな。それでボールが来て踏ん張ってる時に、あえて行かないでトラップした瞬間にガーンって当たるとか。そういうのを織り混ぜながら嫌なことをして、「いかに裏を取るか」ということは常に考えてやっています。

中山:
正解がない中で、相手は何を考えているかを徹底的に掘り下げているのですね。

内村:
そうですね。「これがしたいんだろうな」とか、騙されたフリして「それに乗るわ」みたいなこととかをやっていると思います。

中山:
得意をやらせないことは基本ですが、あえて「得意な形」に持ち込ませてそこで奪い取るというのは非常に興味深いです。

内村:
得意で取られた時の方が相手の気持ちもさらに落ちますし、「これ効かないか」みたいなことを考えさせられますよね。

中山:
この「駆け引き」を競技の最重要事項としたとき、駆け引きが上手い選手とそうでない選手の違いはどこにあるのでしょうか?

内村:
1つは同一視するために、ボールと相手選手が同時に見えるように後ろに立つかどうかだと思います。でも上手い選手は視野外を取りつつ、同一視させない動きをしてマークを探した瞬間に出てきたりします。視野外に常にいる、近くにいるかのような。駆け引きがうまくない選手は基本的に見えるところにいます。

中山:
確かに、相手の死角にいたら何を考えているか読みようがないですね。

内村:
情報を得るために、体の向きを変えた瞬間に逆を取ったり前に来るとか。今度は前に来てこっちも取ろうとしたら、後ろを狙っているとか。なのでそれこそ、駆け引きの試合です。上手い選手は、視野外に常にいるイメージはありますね。

中山:
今の言語化はすごく面白いです。


【Code.4 - VISION】環境と継承の構築──世界レベルを突破する次世代への継承

中山:
この競技を続けていった先に、どのような状態や景色に辿り着いていたいと考えていますか?

内村:
日本が掲げている「ワールドカップ優勝」です。そして、「子どもが憧れる場所」にしたいです。

中山:
まず、ワールドカップ優勝というのは、今の内村さんにとってどれくらいリアルな目標なのでしょうか?

内村:
夢物語ではないですが、実際は日本もアジアでは強豪と言われています。ワールドカップは1回しか出ていないんですけど、スペイン代表やブラジル代表とも試合をして着々とステップは上がっていると思います。目標は、見えていなくはないですけど、近くもないなとちょっと思っています。それこそ、去年ブラジルと国内で親善試合をしたんですね。僕らも本当にブラジルに勝つ気で臨んだんですけど、2戦やって3点差以上つけられて負けてしまいました。その時に改めて「まだ世界は広いな」と感じましたね。

それまではちゃんとステップを踏んできて、「ここでブラジルか」と思って臨んだんですけど、見事に跳ね返されたというか、ちょっとまだ遠いなという感じでした。昔、僕が22歳の時に当時の代表はアジア優勝を経験してるんですね。それから10年でアジアのレベルも全然違ってきて、それまでは日本とイランの2強に、タイやウズベキスタンという構図だったのが、インドネシアや他の国が上がってきて予選が楽に勝てなくなったんです。これは日本のレベルが下がったのか、周りが上がったのか、それとも全体が上がったのか、 微妙なところですけど。でも、僕らも下がっているつもりは全くないので、そういうことを含めたら、ワールドカップ優勝は見えなくはないですけど、近くもないなと思います。

中山:
仮に富士山の頂上を優勝とするなら、今は何合目あたりにいるイメージですか?

内村:
難しいですね…5合目ですかね。

中山:
残り半分、その差を埋めるために今一番必要だと感じていることは何ですか?

内村:
今の時点で必要だと思っていることの1つは環境です。

中山:
なぜ、環境が大事だと思っているのでしょうか?

内村:
日本のFリーグは、まだ完全にプロのチームが3チームしかないんですよ。もちろん、他のチームにもプロ選手はいるんですけど、多くの選手が仕事と併用して、セミプロみたいな形でやっています。世界に行けば行くほど、フットサルにいかに打ち込めるかということが、Fリーグの結果にも目に見えて出ていて、世界との差を埋めるにはそういう環境面も必要かなと思います。

例えば、フランスやドイツはサッカーがずっと強いじゃないですか。でも、フットサルは聞いたことないですよね。僕らもそうだったんですけど、ここ数年で協会が力を入れると言ってからの伸び方がすごいんですよ。もともとフランス人やドイツ人は身体も大きくて、その気になれば上手い選手なんていっぱいいる。

今までサッカーだけだったのが、フットサルも力を入れるとなってからドイツもフランスもメキメキと力をつけてきました。もちろん生まれ持った能力もあると思いますけど、競技にいかに打ち込めるか、その環境の在り方が重要だと思っています。

中山:
逆の見方をすれば、日本が今の環境でアジアトップクラスを維持していること自体がすごいことかもしれませんね。

内村:
そうですね。インドネシアやイランも、みんなプロです。Fリーグが開幕して十何年経っていますけど、やっぱりそこは1つの課題なんじゃないかなと思います。

中山:
一方で、「子どもが憧れる場所にしたい」という回答もありましたが、そう思ったきっかけはあるのでしょうか?

内村:
やっぱりその環境面につながります。若い有望な選手が出てきても、今は途中で辞めてしまう子が多いです。もちろん「スポーツ選手っていいな」と思う子どももいるとは思いますが、実際その世界に入っても、午前は練習して午後は仕事をしないといけないこともある。選手が高いレベルで競技に向き合い続けられる環境が結果にもつながると思いますし、選手として多くの人に愛されることが、子どもたちや観客数の増加にもつながっていくのではないかと思います。

今僕たちがワールドカップに出て良い成績を残したら、スポンサーがついてくれたり、それによって環境も変わって、すごく良い流れができると思うんですよね。それを次に残していくことが今の僕らの役割だと思っているので、より良い選手になれるように頑張りたいです。

中山:
その目標に対して、内村さん自身はどのような役割を担いたいですか?

内村:
僕はわかりやすくディフェンスを評価されて今呼んでいただいているので 、世界の強いピヴォたちを抑えるところで力になりたいです。ワールドカップが2年後にあって、今年35歳になるので、年齢的なところでメンバーに入れるかはわからないですが、とにかく生き残るために練習や試合から気を張っていきたいです。

中山:
2年後のワールドカップで、内村さんが世界を相手に「いたずら心」を持って世界のピヴォたちを抑えている姿を楽しみにしています。

内村:
相手をイライラさせて(笑)。

中山:
最高の知略戦ですね。今日は貴重なお話をありがとうございました!

内村:
ありがとうございました!


【After Dialog】
ミスが少ない鉄壁の盾であること以上に、ピッチという盤面を欺瞞によって支配する高度なメタ能力。内村俊太の語る「冷静さ」とは、単なる感情の抑制ではなく、直前での判断修正(キャンセル)を可能にするための「情報の解像度」そのものだ。相手の得意をあえて誘発し、その瞬間に仕留める知略は、徹底した客観視と、相手の心理を読み解く「いたずら心」が結晶化した生存戦略に他ならない。現在、世界との距離を「5合目」と冷徹に分析する彼の視線は、自身のパフォーマンスを超え、日本フットサル界が抱える「環境」の構造的欠陥へと向けられている。若き才能が摩耗し、去っていく現状を、自らの勝利というレバーで書き換えようとするその姿は、次世代への「憧れ」を一生の職業として成立させるための、文字通りの防波堤だ。「死ぬ気」を捨て、「殺す気」で挑む極限の勝負。そのスイッチが入り、世界を「イライラさせる」ほどの圧倒的な知略が結実したとき、日本フットサルは未踏の頂へと足を踏み入れることになるだろう。相手を欺き、盤面を書き換え、理想の景色へ。内村俊太の「悪戯」は世界を欺くほどの精度を誇り、観客さえもその甘美な罠に酔いしれる。

『Dialog Code』

答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
内村 俊太(うちむら・しゅんた)
1991年8月1日生まれ、岩手県出身。
フットサル選手。湘南ベルマーレフットサルクラブ所属。
小学3年生からサッカーを始め、中学時代は地元・盛岡市の見前フットボールクラブでプレー。江南義塾盛岡高校ではサッカー部に所属し、卒業後はフットサルへ転向した。Fリーグ・ステラミーゴいわて花巻の下部組織stellAmigo/AMVに入団すると、その後U-24フットサル日本代表候補に選出される。そこでの実績が評価され、シーズン途中にトップチーム昇格を果たした。2012年には、湘南ベルマーレへ移籍し、現在も中心選手として活躍している。2011年、2013年にはフットサル日本代表に選ばれ、アジア制覇にも2度貢献した。豊富な経験に裏打ちされた安定感に加え、局面を読む力と判断力でゲームを動かすのが持ち味。
【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。
JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。

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