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Dialog Code

『炎上と解雇の先で、芝から砂へ──W杯優勝と島への恩返しを描く』上里琢文 # Dialog Code

2026/01/28

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。自分自身と向き合い、考え、気づくこと——それが次のステージへ進む鍵になる。『Dialog Code』—— アスリートたちの言葉から、その可能性を探るシリーズ。

今回登場するのは、上里琢文(ビーチサッカー選手・東京ヴェルディBS所属)。
さあ、彼の思考を紐解いていこう。


1. 否定の中で──「ここしかない」と信じたプロへの道

中山(Dialog Partner):
最初にボールを蹴ったときの景色として、今でも印象に残っている場面や記憶は何ですか?

上里:
サッカーに初めて触れたのは幼稚園のときで、園にサッカー教室みたいなのが来たのがきっかけですね。そこで初めてサッカーボールを蹴って、完全にハマりました。

中山:
その頃は、ほかに何か習い事はされていたのでしょうか?

上里:
親父がバスケの先生みたいなことをしていたので小さい頃からずっとバスケをしていました。サッカーとバスケ両方やっていて、それが小5ぐらいまで続いてましたね。

中山:
両方されていた中で、サッカーの方に本格的に気持ちが傾いていったのは、どんなタイミングだったのでしょうか?

上里:
きっかけは小6になった時でした。両親から「もう一つにした方がいいんじゃないか」みたいな話が出て。僕も小学生で何も考えてなかったんで、とりあえず「プロスポーツ選手になりたい」みたいな夢を掲げてたんですけど、当時バスケってプロがなかったんですよ。それだったらサッカー選手になるって言って、サッカーを選びました。

中山:
なるほど。当時はプロという道があるかどうかが、大きな判断材料になったんですね。

上里:
そうですね。バスケがプロだったら、もしかしたらバスケを選んでたかもしれないです。それくらいバスケも好きでしたし、バスケの方が自信はあったんで。

中山:
バスケの方が自信がある中で、あえてサッカーを選んだ。当時の感覚で構わないのですが、子どもながらに「プロになりたい」と思ったのは、どんな理由が大きかったのでしょうか?

上里:
ただただ、かっこよく感じてたんだと思います。スポーツ選手がかっこいいっていう、それだけだったと思います。あと、それ以外に僕にできることがなかったんで。

中山:
なるほど。「ここだったら自分は勝負できるかもしれない」という感覚ですか?

上里:
もう、ここしかないと思ってました。勉強ができるわけでもないですし、他に興味があったわけでもなかったんで。

中山:
ちなみに先ほど「サッカーよりバスケの方が得意だった」とおっしゃっていましたが、具体的にはどんな場面でそう感じていたのでしょうか?

上里:
小学3年生とかでも小6の試合に出ていましたし、中心選手としてやらせてもらってたので、なんとなく変な自信だけはありましたね。

中山:
一方で、サッカーは小6の時点だとどんな立ち位置だったのでしょうか?

上里:
ナショナルトレセンまでいきました。

中山:
なるほど。バスケの方が自信があると言いながら、サッカーでも小6でナショトレまで行っているというのが、すごく面白いですね。もしバスケに行っていたら、どんな選手になっていたんですかね(笑)

上里:
そうなんですよね。変なやつなんですけど、すごい位置にいたかもしれないですよね(笑)

中山:
そこから高卒でプロに行って、ヨーロッパにも行って、アジアにも渡って。キャリアとしてもかなり特殊だと思うのですが、今の上里さんに影響を与えた言葉は何ですか?

上里:
その方の名前は忘れてしまっているのですが、日本中を回ってる人がたまたま沖縄に来たんです。その講演会に、中学生くらいだった僕は無理やり連れて行かれたんです。誰かが僕のことを紹介してくれて、「頑張れよ」って色紙にサインしてもらった時に、「大丈夫、全てはうまくいってるから」みたいな言葉をもらったんですよ。それが僕の中では、未だに結構残ってる言葉かもしれないですね。

中山:
その言葉が、ずっと心の中に残り続けているんですね。

上里:
もちろんいろいろ失敗はしてきているんですけど、それも踏まえて、なんか乗り越えられてるのかなっていう、前向きな言葉だなって自分の中では思ってます。

中山:
当時、中学生ながらにその言葉を受け取ったときは、どう捉えていたのでしょうか?

上里:
その時は、なんか変な感じでしたね。素直に受け入れられるわけでもなくて。でも、なんか入ってきてる感じはしたんですよ。どっちかと言えば、自分では「大丈夫」とか、「本当に俺プロになるから」ぐらいの雰囲気ではいたんですけど、周りは否定する人が増えてきてて。中学生になると、やっぱり現実的な話もされるじゃないですか。僕は宮古島っていう小さい島だったんで、「こんなところからプロなんてなれるわけないよ」とか、「今の俺じゃそんなことしてたら無理だよ」みたいなことを言われることが多くなってきたんです。その中でもらった言葉だったので、自分を信じるきっかけにはなったかもしれないですね。あの言葉に当時何かが引っかかって、今でも残っているので。

中山:
なるほど。周りの声が現実的になっていく中で、逆に自分を信じる方に踏みとどまるきっかけになった言葉だったんですね。では今の上里さんが改めて「大丈夫、全てはうまくいってるから」という言葉を解釈すると、どんな意味として捉えていますか?

上里:
何が起きても、漠然と信じることですかね。僕は京都サンガからFC琉球に行って、そこでSNSで監督批判をして炎上してクビになったんですよ。クビになって、そこから日本でプレーするチームを探しても全くなかったんですよね。そこから腐っていったんですけど、でもやっぱりサッカーしたいってなって。サッカーができない状況になった時に、「もうどこでもいいから俺はもう一回サッカーしたい」って思って、辿り着いたのがヨーロッパでした。

中山:
いちばん苦しい局面でも「それでもサッカーがしたい」と思えたこと自体が、その言葉の力でもあったんですね。

2. 腐った経験の先で──「いい選手」という基準が生まれた

中山:
先ほど中学生の頃に少し荒れていた時期があったことや、監督批判をきっかけに腐ってしまった時期があった、というお話もありましたよね。当時のご自身に、今の上里さんから一言だけ声をかけられるとしたら、どんな言葉を伝えますか?

上里:
「大丈夫だから」って伝えたいですね。でも戻りたいなって思うんですよ。僕が腐った理由は、当時J1からJFLに行ったんですけど、JFLに行った時点で僕の中では「もうJリーグに戻ることないのか」って思っていたんです。もう終わったんだっていう感じで、腐ってしまったんですよね。

中山:
当時の上里さんにとっては、「ここから先が見えない」という感覚が強くて、諦めかけてしまう気持ちも、確かにあったということですよね。

上里:
ありましたね。最初は21歳くらいでレンタル移籍をしたんです。ちょうど関西の試合があって、当時のGMも「試合見に行くから頑張れよ」って言ってくれてたんですけど、直前までスタメンで出ていたのに外されたんですよね。

中山:
期待されていると思っていた分、なおさら気持ちが持っていかれそうです。

上里:
その後に監督に「お前にはJリーグに戻ってほしいけど、正直このチームからいなくなるのも困る」みたいなことを言われたんです。その言葉で僕は完全に腐りましたね。当時のGMから電話もかかってきて「そんなチームで出れないのか」みたいなことも言われて。なんか「大人って汚ねえな」って思いながら、腐っていきました。

中山:
なるほど。いわゆる社会の仕組みや大人の都合みたいなものに触れてしまって、気持ちが折れていく感覚があったんですね。

上里:
そうなんです。そこで完全に失せてしまいましたね。

中山:
もしその時、今の上里さんがすぐ横にいて、「大丈夫だよ。ここからまだ戻れる」って声をかけていたとしたら、当時の自分はどう変わったと思いますか?

上里:
ちゃんと頑張ることができたなら、戻れた自信はあります。

中山:
なるほど。そこからもう一度上に行けたという感覚がある。

上里:
はい。クビになってプレーできなくなってからの自分を見てると、戻れたなって思います。そこでちゃんと気づいて、ちゃんとそこに向かってやれるようになった。今と同じことができてれば、多分戻れたなと思います。

中山:
なるほど。これは上里さんだけに限らないと思うのですが、若くして才能があったり、選ばれたりしたからこそ、早い段階で一度くじかれる経験をする選手って多いと思います。いま、もがいている選手や、腐りそうになっている選手が目の前にいたら、上里さんはどんな声をかけたいですか?

上里:
なんですかね。その時期って、やっぱり人からの意見を受け入れられないと思うんですよ。

中山:
受け取れる状態じゃない、ということですね。

上里:
「何を言うか」よりも「誰が言うか」だと思うんです。難しいですね、なんて声をかけますかね。でも、気持ちは分かるんですよ。僕も若い時はただ尖ってただけだったので。やっぱり一緒に手を取ってやってくれる人の方が、その時期はついていくかもしれないですね。何か言われるよりも、「言うからには一緒にやってくれる人」の方が、説得力がある気がするんですよ。

中山:
なるほど。言葉よりも、一緒にやるという姿勢が、届きやすい時期があるということですね。

上里:
今の僕だったら例えば「こうした方がいいよ」って練習の話があったとしても、「俺もまだ上を目指すから、一緒にやろうよ」って言って、手を取るかもしれないです。

中山:
意見を受け入れづらい状態だからこそ、まずは一緒にやってくれる人を見つける、あるいはそういう人に頼ってみる、というのは一つの方法かもしれないですね。

上里:
そうですね。若手の頃、練習後すぐにあがっていたら、監督から自主練をしてくれってお願いされた時期があったんですよ。「お前を使いたいけど、みんなに示しがつかないから、10分でもいいから自主練してくれ」って。それでも全くやる気がなかったんで、10分だけジョギングして、「自主練しました」みたいなこと言ってたんです。ちゃんと自分の課題とか、取り組むことをやっていれば、全然変わっただろうなって。監督も人なんで、やっぱ頑張ってる選手を使いたいっていうのは、今になってやっと分かります。

中山:
なるほど。当時は「これでいいだろう」と思っていたことが、今振り返ると全然違って見える。

上里:
あの時は「上手ければいいっしょ」ぐらいの感覚だったんで。難しいですけど、その時は本当に頑張れなかったですね。

中山:
今の言葉は、すごく大事な気づきだと思います。先ほどの「言うからには一緒にやってくれる人」という話ともつながりますが、実際に迷った時に、誰にどう頼ればいいのか分からないという選手は、今も本当に多いと感じます。

上里:
そうですね。

中山:
もし当たり前のように、伴走してくれる対話のパートナーがいる環境が整っていたら、選手としての選択や立ち直り方も、また違った可能性があるのかもしれない、と客観的に感じました。

上里:
そう思いますね。あと、僕が伝えたいのは、「プロは上手いだけじゃダメだよ」っていうのを伝えたいです。「いい選手」と「上手い選手」は違うし、プロは上手い選手より、いい選手の方が評価されますよね。

中山:
その違いは、上里さんの感覚ではどんなところに表れるものなのでしょうか?

上里:
プロは年間通して、本当に浮き沈みがなくて安定している。いい時も悪い時も、アベレージがずっと高くて、責任感あるプレーができる選手が「いい選手」だと思っています。小手先だけのプレイヤーは、プロになっていない人でもいっぱいますよね。

中山:
なるほど。上手いだけではなくて、シーズンを通して、責任を持ってパフォーマンスを出し続けられるかどうか、ということですね。

上里:
特に若い選手にはいっぱいいると思うんです。「なんで俺の方が上手いのに出れないんだよ」って。でも、そうじゃないんだよってところは大事だと思います。

3. 派手さよりスコップ──"準備でつくる“いつもの自分

中山:
ここからは最近の取り組みについても伺わせてください。上里さんが練習に入る前に、必ず準備していることや、練習前に意識していることはありますか?

上里:
35歳になって、やっぱり体の疲労度の抜け方とか全然違うと感じてきたので、まずは自分の中で必要な柔軟を必ずして、あとは基礎練を練習が始まる前には絶対しています。

中山:
その「基礎練」というのは、具体的にはどんな内容なのでしょうか?

上里:
ビーチサッカーって砂の上なのでゴロパスがなかなか正確にできないんです。なので浮かすんですけど、浮かすときに「ちょん」ってつま先で浮かす技があって、それを「スコップ」って言うんです。そのスコップの練習を、僕は練習前にひたすら100回くらいやってます。

中山:
砂の上でプレーするビーチサッカーならではの基本動作なんですね。

上里:
サッカーで言ったら、トラップとパスぐらいの、大事だと思っているんですけど、そこに目を向けている人がいなくて。やっぱりオーバーヘッドの練習をする人の方が圧倒的に多いと思うんですよ。

中山:
なるほど。華のある技に意識が向きやすい一面もあるのでしょうか。

上里:
それもあると思います。僕は浮き球を足の裏で止めて、そこからそれをスムーズに上げることが試合中に一番使うので、僕はそれを一番大切にしています。僕は本当にそれだけで生きているぐらいの感覚です。ビーチサッカーはキーパーも点を取るくらい、いろんな人が点を取るんですけど、僕は全然点も取らないしオーバーヘッドもしない。本当に基礎だけで。でもなんかずっと代表にいるので、「なんでこいついるんだ」って思ってる人もいると思います(笑)

中山:
逆に上里さんは、なぜこの「スコップ」に着眼点を持ったのでしょうか?

上里:
やっぱりトラップとパスが正確にできなかったら、何もできないですよね。結局みんな、プレッシャーがない状態では止めれて、ゆっくり上げろってやったら正確に上げれるんですけど、プレッシャーかかってると、このスコップがめっちゃ乱れるんですよ。

中山:
なるほど。

上里:
プレッシャーかかったら、スコップが前に来すぎて、ボール蹴れないとか。基礎って、ベースが上がれば上がるほどプレーの幅が広がると思いますし、見えるのも全然変わってくるじゃないですか。

中山:
実際、練習前にそれをやってから入るのと、やらずに入るのとでは、違いはあるのでしょうか?

上里:
ありますね。何センチずれるとか、高さが変わるとか。僕の中では全然違います。

中山:
なるほど。わずかなズレでも、上里さんの中では別物として感じられるんですね。その日のコンディションによっても微調整が必要になりそうですね。

上里:
本当に変わるんですよね。最初に上げた時に、「あ、今日ちょっと上がり悪いな」とか感じるので。それを練習が始まってから感じるのと、練習前で感じるのとでは、取り組み方が変わってくると思っています。

中山:
なるほど。練習前の段階で、自分の状態を把握しておくことで、練習への入り方そのものが変わるということですね。スコップの反復が、いわばコンディションチェックにもなっている。

上里:
そうですね。若い頃には全然なかった意識が、今めちゃくちゃあります。

中山:
さっきまでのお話と比べると、同じ人物とは思えないくらいの変化ですね。

上里:
本当にそうなんですよ。

中山:
ビーチサッカーをやっていて課題が出た時に、「ここを改善したい」「ここをもっと伸ばしたい」と思った場合、上里さんは普段どのように取り組んでいるのでしょうか?

上里:
自主練で、体で覚えようとします。まずやってみて、どこがうまくいってないのかっていうのを感じたいタイプです。

中山:
一人で黙々とやるのでしょうか?

上里:
最初は一人でやります。ブラジル人とか、やっぱすごいんですけど、ブラジル人の感覚を聞くと、余計わからなくなったりするんですよ。「何か盗めるところないかな」って思って見て、自分で動かしてみるって感じです。

中山:
なるほど。そもそも前提の感覚が違いすぎて、言語で聞くと逆に迷子になる、みたいなことが起きるんですね。試合前夜はどう過ごしているのでしょうか?

上里:
試合前は自分の直近の試合を見ますね。相手の映像も見ますけど、自分の直近の試合を見て、そこにイメージを近づける感じで、それが僕にとってはいい準備なんですよ。結局、どの相手でも、自分がいいパフォーマンスができれば、どの相手にも普通にプレーできるっていう感覚があって。

中山:
相手の情報に引っ張られるよりも、まずは自分の状態を整えて、自分のパフォーマンスに集中することが、上里さんの安定につながっているんですね。

上里:
相手がどうこうよりも、自分がいい状態の時って、どの相手にも自分のパフォーマンス出せるんで。そのためにも、直近の自分の試合を見て、自分のプレーのイメージを上げていきますね。

中山:
映像で見た感覚を、実際の身体感覚や動きのイメージに結びつけていくような感じなのでしょうか?

上里:
例えばビーチサッカーって大会が続くと、連日試合が行われるので、いいプレーはもう染み付いてきてるんですけど、ミスした部分とかは、同じことを繰り返さないようにと意識しています。映像で見ておくと同じような場面がきた時に、シンプルにプレーしたりできるんです。相手がどうこうよりも、「なぜミスしたのか」を整理できる感じです。

中山:
なるほど。振り返ることで、ミスを感情ではなく判断として整理して、次に繋げていける。

上里:
自分の試合を見ていると、味方の動きもある程度見えてくるので、困った時の対処法で、「見えなくても、この選手いるな」とか、そういうのを植え付けてる感じです。逃げ道も作ってるというか。

中山:
なるほど。事前に困った時の逃げ道を作っておくことで、迷った時の判断が早くなり、プレーがブレにくくなる。いいプレーをイメージしておくこと自体が、判断のスピードを上げる準備になっているんですね。

上里:
そうですね。本当にそんな感じです。

4. 緊張・準備・ゾーン──いい状態はつくり出せる

中山:
プレッシャーや緊張、不安のようなものについても伺いたいのですが、上里さんはもともとそういった感情を感じやすいタイプですか?

上里:
もともと全く感じなかったですね。今でもあまり感じないタイプではあるんですけど、でも最近は多少、感じるというか感じさせてるかもしれないです。

中山:
なるほど。「感じさせている」という表現が印象的ですね。

上里:
めっちゃ緊張するわけじゃないですけど、多少緊張感が出てきたのは感じます。笛が鳴って試合が始まったら、全くないですけどね。

中山:
その緊張感はいい意味で出ている感覚でしょうか?ご自身で「感じさせている」とおっしゃったのは、意図的に作っている部分もあるのかなと思いました。

上里:
いい意味ですね。マイナスな感じは全くなくて。緊張感がない時はダラーっと部屋で過ごして眠くなったら寝ようくらいだったんですけど、ビーチサッカーはアマチュアスポーツとは言え、国を背負ってやっているので、そのプレッシャーを自分でかけているんです。日本を代表してるというのと、応援してくれてる人がいて自分がここまで来れたというのを、前日に振り返るんですよ。

中山:
前日の段階で、あえて一度立ち止まって、「自分は何を背負っているのか」「誰のためにここにいるのか」を確認し直すような時間をつくっているんですね。

上里:
そうすると自然と、ちょっと緊張感が出てくるというか、「下手なことできねえな」「勝って喜ばせたいな」とか、いろんな感情が出てきて。そこから「じゃあ試合までどうしよう」と考えて、何時に寝るとか、どのタイミングでご飯を食ベて筋肉をほぐすのかというのを考えるようになったんです。

中山:
なるほど。緊張感が生まれることで、逆に準備の解像度が次第に上がっていき、試合に向けた行動が具体的になっていく感覚なんですね。

上里:
そうですね。最近は意図的に緊張させるようにしてます。

中山:
あえて自分の中に戦うスイッチを入れるために、緊張感を作っているんですね。

上里:
準備でほぼ決まると思ってるので。

中山:
面白いですね。もともとほとんど緊張しなかった上里さんが、今は「感じさせるようにしている」「いい緊張を作っている」と言えるようになっているのは、すごく興味深い変化だなと思いました。

上里:
若い頃からできてたらもっと変わったなと思いますけどね。

中山:
なるほど。ただ、今こうして言語化できること自体が、上里さんがここまでの経験を通して変化してきた証でもあると思いました。過去の話でも「戻れたかもしれない」という言葉がありましたけど、それを“悔い”で終わらせず、今の準備や姿勢に変えているところが、すごく上里さんらしいなと感じました。

上里:
ありがとうございます。

中山:
では、プレー中の話も伺わせてください。ビーチサッカーは、ひらめきや即興性が求められる競技に見えるのですが、試合の中で「今日はちょっと調子が悪いな」と感じたり、「自分のペースを取り戻したい」と思った時、上里さんはどう考えて、どうアプローチしていますか?

上里:
僕は浮き球がベースなので、調子が悪いなって時ほど、ダイレクトでプレーします。キーパーとのやりとりが多いのですが、調子が悪い時って、ゲームを作るとなるとトラップミスしたり、パスがずれたり、やろうとしすぎて空回りすることが多いんです。「今日ちょっと調子悪いかも」と感じたら、とにかくシンプルにプレーします。

中山:
なるほど。あえてプレーを削ぎ落として、シンプルにする。そうすると、上里さんの中では何が起きるのでしょうか?

上里:
感覚が戻ってきます。結局、ダイレクトでプレーできるのが一番早いし、一番効果的ではあるんですけど。僕は点取るタイプじゃないので、「誰かが点を取ってくれるだろう」って思って、シンプルにプレーしてます。

中山:
なるほど。自分が無理に何かを起こしに行くのではなく、チームの流れを整える側に回る、という選択なんですね。

上里:
そうです。ずっと黒子っぽいプレーをしてるんですけど、より存在感を消すというか。

中山:
面白いですね。では逆に、調子がすごく良い日、いわゆるゾーンに入っている感覚の時はどうでしょうか?

上里:
僕はシュートをあんまり打たないんですけど、良い感覚の日は点が取れたりしますし、ドリブルでも全く取られる気がしない。普段シンプルにプレーしてる分、「こいつ、簡単だな、マークつけるな」みたいな感覚に相手はなると思うんですけど、その裏を取ったりします。

中山:
なるほど。普段のシンプルさがあるからこそ、そのギャップで相手の予測を外せるんですね。ゾーンに入っている時は、どんな状態なのでしょうか?

上里:
なんですかね。スローに見えるというか。相手と味方の状態、あとはボールが大きく見えるとか。でも、僕は準備の質でそうなってると思ってます。

中山:
なるほど。つまり、フロー状態やゾーンは、偶然入るというよりも準備の質の積み重ねの先に入る状態なんですね。

5. 芝から砂へ──W杯の先に描く、島への恩返し

中山:
サッカーとビーチサッカー、この二つの競技について伺いたいのですが、本質的な共通点と、決定的な違いはどこにあると思いますか?まず共通点から、「ここは同じだな」と感じる部分を教えてください。

上里:
状況判断は、サッカーもビーチサッカーも一緒だと思います。上手い下手はありますけど、結局それを感じさせないというか、ごまかせるというか。プロでサッカーをしてた人がビーチサッカーにくるともちろん砂の上で走れないし、スコップもできない。でも状況判断は使えるんですよ。その辺の判断のスピードの質は共通だと思います。

中山:
なるほど。たしかに技術そのものの差というより、状況の見え方や選び方という「判断の質」が勝負になる部分は共通していそうです。

上里:
はい、そうですね。レベルが上がるにつれて、そこのスピードが違ってくるっていうのは、どっちも一緒かなと思います。

中山:
では一方で、ここは決定的に違うと感じるところはどこでしょうか?

上里:
色々ありますけど、砂を走るか、芝を走るか。あとはシュート数。コートが小さい分、1試合で40〜60本ぐらいシュートを打ちます。なので見てるのはめちゃくちゃ楽しいと思います。僕も最初に試合を見た時、めっちゃ面白いなって思いました。

中山:
共通点もあれば決定的な違いもある中で、上里さんはサッカーからビーチサッカーへ、芝から砂へ、11人制から5人制へと、環境が大きく変わったと思います。その中で「変えなかった軸」のようなものがもしあるとしたら、何だと思いますか?

上里:
変えなかったものはないかもしれないですね。

中山:
なるほど。ということは、上里さんの感覚としては「全部変えた」に近いのでしょうか?

上里:
どちらかと言えば、全部変えたに近いです。もともとサッカーではFWで、使われる側というよりはボールが入れば自由にプレーしてたんです。もともとゲームを作るのが好きだったこともあって、ビーチサッカーではプレースタイルもだいぶ変わりましたね。

中山:
ポジションの役割というよりも、「自分がチームの中でどんな価値を出すか」という前提から組み替えたような感覚なんですね。

上里:
でもビーチサッカーを始めた当初は本当に面白くなかったです。サッカーでは普通にドリブルできて、パスできていたのが、砂に来た瞬間、ドリブルできないしパスが砂に埋まって蹴れない、軸足を取られてシュートが打てない、みたいなのがあって。「面白くないからやめよう」って思いました。

中山:
できていたはずのことが、急にできなくなる感覚は相当ストレスがあると思います。

上里:
でも、その辺の覚悟も変わっていたかもしれないですね。日の丸を目指すというか、応援してくれた人たちのために、恩返ししようとそれだけで切り替えていたんで。俺が「面白くないから」とか言ってられないと思って踏ん張りました。

中山:
なるほど。「日の丸を背負って恩返しする」という目的が先に立ったからこそ、面白い・面白くないを超えて、必要な変化を全部引き受けられたということなんですね。

上里:
そうですね。サッカーは自分が楽しいと思うプレーをして、海外にも行って好きなようにやってきましたけど、30歳が近づいて引退が見えてきた時に、「俺、ここで頑張ってても、応援してくれてる人たちに、頑張ってる姿を届けられてないな」って引っかかってきたんですよ。それで一回日本に戻って、Jリーグにトライしたんですけど、SNSの問題をいくつかのチームから言われて、やっぱり取れないねとなって。それでやめようと思ったタイミングで、ビーチサッカーの話が来たんです。

中山:
なるほど。

上里:
子供の頃、日本代表になりたかったので、どうせやるなら日の丸を背負えるところにかけようと思ってビーチサッカーに転向しました。だから覚悟は決まってたかもしれないですね。

中山:
覚悟が決まっているからこそ、面白くない状態からでも踏みとどまれたんですね。「一からやり直す」って、言葉で言うほど簡単じゃないと思いました。

上里:
種類が違いますからね。浮き球を扱って、軸足が不安定な競技。最初は本当に意味が分からなかったです。フリーキック蹴ろうとして踏み込んだら、15センチぐらい足が沈んで、ボールがずれるんですよ(笑)

中山:
その感覚の中から、代表に入るところまで持っていったというのが、すごく上里さんらしいというか、強さを感じます。ここから先の話も伺わせてください。これから「上里さんらしいビーチサッカー」を、どう進化させていきたいと思っていますか?プレイヤーとしてでも、プレイヤー以外の形でも構いません。

上里:
プレイヤーとしては、正直あんまりイメージが湧かないです。ずっと同じプレースタイルで来てて、キレが落ちてきてるのも自覚してるんで。だから僕は、それ以外で言えばビーチサッカーに触れる子を増やしたいなって思ってます。宮古島で、恩返しとしてやりたいのと、サッカー選手になりたい子に対しても、「ビーチのトレーニングはプラスになるよ」って伝えていきたい。

中山:
なるほど。ご自身のキャリアの延長として、次は「環境をつくる側」に回っていきたい、という感覚なんですね。

上里:
裸足でボール触るって、ブラジルの原点みたいな感覚もありますし、ボディバランスもボールタッチも絶対良くなる。子供のうちからやった方がいいと思うし、サッカー選手を目指すなら、なおさらプラスだと思ってます。だから、スクールみたいな形で環境を作りたいなって思ってます。

中山:
たしかに、フットサル・サッカー・ビーチって、それぞれ特性が違う分、組み合わせることで強くなる部分がありそうですよね。互いに補完し合うというか。

上里:
本当にそう思います。フットサルをやってる子は足元の選択肢も増えるし、そこにビーチの要素が加わって、浮き球も扱えるようになったら、めちゃくちゃ強いと思います。

中山:
南米の選手を見ていると、ペナルティエリア付近の崩し方がある種ビーチサッカーみたいだったりしますよね。浮き球を使って、狭い局面をほどいていくような。

上里:
そうなんですよ。サッカーだけやってたら、あの発想はなかなか出ないと思います。

中山:
では最後に、上里さんが次に見たい景色は、どんな景色でしょうか?

上里:
選手としては一個しかなくて、ワールドカップ優勝です。僕たちは一度2位にはなったんですけど、優勝という景色を見たい。次は2027年なのでそこまで自分ができるか分からないですけど、そこにかけたいですね。あと個人的には、ワールドカップでゴールを取りたい。まだ取ってないんで。

中山:
ワールドカップ優勝、そしてご自身のゴール。どちらも熱いですね。

上里:
3大会出て無得点って、多分僕ぐらいしかいないんですよ(笑)1点でもいいんで絶対に取りたいと思っています。それができたら、島のためにも動きたいですし、勇気を与えられたらいいなって思ってます。

中山:
結果としてのゴールや優勝だけじゃなくて、その先に「宮古島のために動く」「誰かに勇気を渡す」という景色がつながっている。上里さんのこれまでの選択とも一本線でつながっている気がしますし、その景色が見れる日を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

上里:
ありがとうございました。


答えは、すぐには見つからないかもしれない。
それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。
思考を解き明かす対話は続く。
『Dialog Code』——次は、誰の思考に触れようか。


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