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Dialog Code

『数値化時代に、アートで食らわせる──Tenjuの矜持』 # Dialog Code

2025/02/04

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」

『Dialog Code』

強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。

今回登場するのは、
Tenju(ダンサー・radio beacon / List::X所属)

【Before Dialog】
ジャズダンスという「型」の美学から、ヒップホップという「自由」の文化へ。Tenjuの歩みは、一見すると対極にある二つの世界の境界線を溶かしていくプロセスそのものだった。 「体のラインを綺麗に見せるのが正解」という教育を受けて育った少年が、ダボダボの服とスニーカーを身に纏い、あえて「崩すこと」の美しさに目覚めたとき、彼の中に独自の探求心が芽生えた。なぜこのステップはこの名前なのか、なぜこの服を着るのか。彼は単に踊るだけでなく、その背景にある歴史やカルチャーを遡り、擬似体験をすることで、ダンスを自らの「ライフスタイル」へと昇華させていった。現在の彼は、D.LEAGUEのList::Xという組織において、個々の色を尊重しながらも一つの作品を編み上げる「共通認識」の構築に心血を注いでいる。自らの身体を実験台に、解剖学的なアプローチからトレーニングを設計するアスリートの顔を持ちながら、その根底にあるのは「今、この瞬間を誰よりも楽しむ」という純粋なアーティストの業だ。

数字で測られるスポーツ化の波の中に身を置きながら、言葉にできない「ダンスのかっこよさ」という原点を叫び続ける理由。未来の息子へ、そして次世代の子どもたちへ、彼が残そうとしているのは「完成された答え」ではない。時代と対話し、進化し続ける背中そのものだ。感覚と論理、伝統と革新の狭間で踊り続けるTenjuの、深く、しなやかな哲学がある。さあ、彼の思考を紐解いていこう。



1.  型を崩すために、型を知る──ヒップホップマインドの継承と変化

中山:
ダンスを始めたきっかけは何ですか?

Tenju:
母親がジャズダンスをしていて、ダンススタジオを運営していたんです。最初は習い事として教わっていて、それが始まりでした。そこからダンスは「やらなきゃいけないもの」だと思うようになって、物心ついたときには当たり前の存在でした。写真を見ると多分3歳くらいからやっていて、特別なものというより、生活の一部として成長してきた感覚ですね。

中山:
なるほど。今はヒップホップダンスをやられていますが、ジャズからヒップホップに変わったのはいつ頃なのでしょうか?

Tenju:
小学4年生くらいです。母親が「ヒップホップダンスが流行ってるらしい」という情報を持ってきて、自分のスタジオにも入れたいと思ったみたいで。ただ当時は、ジャズとヒップホップは完全に分かれていて、知り合いもいなかった。父親がSNSのようなコミュニティ媒体に登録して情報を集めて、人と人がつながって、ようやくヒップホップの先生を呼べるようになった。それがヒップホップに触れた最初ですね。

中山:
まさに全然違うジャンルが入ってきたと思うのですが、最初はどう感じたのでしょうか?

Tenju:
これが面白いんですけど、当時やっていたジャズは「モダンジャズ」で、バレエから派生したヨーロッパ的な要素が強いものでした。つま先まで意識して、体のラインを綺麗に見せることが大事で、練習着も体のラインが出るピチピチの服、靴もジャズシューズで。当時の僕はお腹も出ていましたしとにかくその服装が嫌で、「これだけは嫌だ」とずっと言っていたのを覚えています(笑)

中山:
格好が嫌だった、というのはリアルですね(笑)

Tenju:
そうなんです。女の子と踊るのが嫌だったのもあるかもしれないですが、とにかく「この格好が嫌だ」という感覚が強かった。それを見て、母親が「男の子ができるダンス」を探してくれたんだと思います。そこからヒップホップダンスに入ったら、真逆で、ブカブカの服にスニーカー。「うわ、かっこいい。これでいい」と思いました。本当にしょうもないきっかけですけど、そこからヒップホップに入っていきました。

中山:
ジャズとヒップホップ、両方を経験してきた中で、今のTenjuさんのスタイルに一番影響を与えたものは何だと思いますか?

Tenju:
完全にジャズダンスですね。ジャンルとしては、ヒップホップとは全くもって真逆なんです。ジャズは体のラインを綺麗に見せる、つま先まで意識する、ルールや型が明確にある。一方でヒップホップは、遊びから生まれた文化で、揃っていなくていいし、そこに個人のオリジナリティが入る。ブカブカの服にも理由があって、お金がなくて長く着るためだったり、高価なネックレスを「持っていること」を示す意味があったり、そういう背景がある。ヒップホップはまだ新しいカルチャーだから、そういう文脈が見えやすい部分もあるんです。

中山:
背景ごと、踊っている感覚なのでしょうか?

Tenju:
そうですね。ただ、僕らは当時を生きていないから、どれが100%正解かは分からない。だからこそ、先人たちが作ってきたものを大事にしなきゃいけない文化だと僕は思っています。先人をリスペクトした上で崩して、新しいものを作る。それがヒップホップの意義だと、強く思っています。

中山:
その対極にあるものが混ざって、今のTenjuさんのスタイルがあるんですね。その対極のものを浸透、融合していくのは難しそうですがどのようなプロセスを辿っていったのでしょうか?

Tenju:
当時、ヒップホップダンスが好きになってレッスンに通うようになってから、いろんな先生に言われたのが、「ジャズ出身だけあって体が綺麗すぎる」ってことでした。ボディラインが綺麗とか、ターンが綺麗とか。でもそれは「ヒップホップじゃない」って言われる。僕からしたら、まだ知識がなかったので「何がヒップホップなんだ?」っていう状態で。もっと汚くていいとか、もっと崩していいって言われるんだけど、今まで「綺麗にするのが正解」っていう世界で生きてきたから、真逆すぎて全然分からなかったんです。

中山:
これまでの正解が、急に全部ひっくり返る感覚ですよね。

Tenju:
本当にそうでした。ただ、ヒップホップダンスのカルチャーを勉強していく中で段々と分かってきたんです。ヒップホップダンスは、もともと遊びから生まれたもので、パーティー文化がある。だから「こうしないとヒップホップじゃない」という決まりは、本来はないんですよね。先人たちが遊びでやってきたことを、後の世代が見て、「これがかっこいい」「これがヒップホップなんだ」と教材のように捉えるようになっただけなんです。

中山:
最初からヒップホップとは?を象徴する“型”があったわけではないと。

Tenju:
そうです。その先人たちの動きに近づこうとした結果、カルチャーとして形作られていった。後からステップに名前が付いたり、バリエーションが整理されたりしましたが、最初から教材があったわけじゃない。ダンス人口が増えて、教える必要が出てきたから生まれた型だと思っています。

中山:
「教えるために整理された」という視点は、すごく分かりやすいですね。

Tenju:
これはあくまで僕個人の解釈ですが、もし「ヒップホップは綺麗なものだ」と定義されていたら、今のヒップホップダンサーは「綺麗が一番」になっていたはずです。でも当時は、その裏を突いていた。ブラックミュージックやブラックカルチャーという言葉は簡単には使えませんが、僕らはリスペクトを込めて好きですし、尊敬しています。その人達がもがいてやってきたことに憧れて、今があるというのも事実です。

中山:
だからこそ、“汚さ”や“崩し”にも惹かれていったんですね。

Tenju:
そうですね。レッスン的には汚いかもしれないし、正解じゃないかもしれない。でも先人たちが「かっこいい」と思ったから、それが繋がって今がある。そのカルチャーがちゃんと存在していることに、僕は惹かれました。だからこそ「汚くいこう」「軸をなくそう」「綺麗にやらなくていい」と思って、まずカルチャーを学ぼうとしました。

中山:
なるほど。そもそもの歴史やカルチャーに視点を当てて学ぼうとしていたところにTenjuさんらしさがあるようにも聞こえました。そこからどう身につけていったのでしょうか?

Tenju:
90年代に東京で活動していたMO’PARADISEという大御所チームがあって、今そこにSTEZOさんという方がいてその方からヒップホップを教わりました。踊りだけでなく、当時のカルチャーも教えてもらった。でも時代が進むにつれて、その人たち自身のダンスも変わっていくんですよね。その変化を学ぶ中で、「結局、汚いのがいいんじゃなかったっけ」「このステップがヒップホップじゃなかったっけ」と悩みました。若いダンサーは多分、みんな通る道だと思います。ルールがないはずのところに、自分でルールを作ってしまった感覚でした。

中山:
遊びから生まれたはずのものが、いつの間にか縛りになってしまうのですね。

Tenju:
そうなんです。僕自身も一度そのギャップに落ちました。でもそこで、入り込まないと分からない、「一旦自分も、時代の流れに飲まれてみよう」と思ったんです。すると、、先人たちも流れをリスペクトをした上で、ブラッシュアップして、新しいダンスを表現しているだけなんだと気づきました。新しく見えても、生まれた時のカルチャーはちゃんと大事にしていたんです。

中山:
そこでようやく、「Tenju」という個人に戻ってくると。

Tenju:
そうなんです。「ヒップホップダンスって何ですか?」と聞かれたら、先人が作ってきたカルチャーを大事にすること、これは今でも変わりません。でもそれだけだと、一人のアーティストとしての自分は成立しない部分がある。そんな時、大先輩のダンサーから「Tenjuって、こういうダンスをするよね」と言われました。その第三者の言葉がなければ、自分では絶対に気づけなかったと思います。

中山:
外から見た姿が、自分を定義してくれたのですね。

Tenju:
そうですね。ヒップホップは自由なイメージがありますが、実際に入るとルールもある。そのルールを守らなきゃと思っていました。でも第三者から見た僕の踊りは、違って見えていた。「ルール通りやっているつもりなのに、そう見えていない」と気づいた時、もしかしたらそれこそがヒップホップマインドなんじゃないかと思ったんです。ヒップホップという言葉自体が、変化し続けて生きているものなんだなと。

中山:
だからこそ、ジャズから始めたことであっても強みになっていくんですね。

Tenju:
そう思います。表と裏くらい真逆のジャンルですが、ジャズを経験しているから、今ヒップホップをやっている自分がいる。柔軟性や軸、アイソレーションといった部分を自分の強みとして掲げ始めたのが、7〜8年前くらいです。そこからブレなくなりました。最近は「しなやかだけど強い」「感情が伝わる」と言ってもらえることが増えました。ヒップホップの感情もあれば、ジャズ的な悲しさや別の表情も出せる。その二面性を自分で解釈して表現できている。そこが強みであり、オリジナリティであって、一人のダンサーとしてやっと成立したんだと思っています。

中山:
ここまでお話を聞いていると、先人たちもやられてきたように、歴史やカルチャーを踏まえながらブラッシュアップしていく過程自体は長く深いものだったんだなと感じます。

Tenju:
そうですね。今はさらにSNSやYouTubeもあって、僕らが子どもの頃よりも、莫大な情報が簡単に手に入る時代になっています。僕らでさえ「情報が多すぎるな」と感じて、どうやって昔を辿ればいいんだろうと模索していたのに、今の若い子たちはもっと大変だと思います。みんな「ヒップホップ」という言葉は知っているけれど、「誰の言っていることが本当なのか分からない」という空間にいる。いや、それはそうだよなって思います。僕らでさえ悩んだのに、今はもっと大変ですよね。

中山:
情報が増えたことで、逆に「何を信じればいいか」が見えづらくなっているのかもしれませんね。

Tenju:
そうだと思います。だからこそ、何をするにしても、例えばダンスじゃなくて、ソムリエになりたいとか、パン職人になりたいとかでもいいんですが、何かを始めるきっかけは、まず目の前にあるものを好きになるところから始まると思うんです。今売られているパンが好きとか、今販売されているコーヒー豆が好きでコーヒーにハマったとか。でも、そこから突き詰めたいとか、自分を出したいというアーティスト目線で言えば、その好きになったもののカルチャーを遡って勉強した方がいいと思いますね。

中山:
「今」だけを見るのではなく、「遡ることで、今の見え方すら変わる」ということですね。

Tenju:
まさにそうです。僕も野球をやっていたので分かるんですが、今の技術や道具の方が絶対に良いし、今のものを使った方がいいに決まっています。ルールも変わってきていますし、ファンビジネスの文脈でやり方も進化しているので、全体としては良い方向に進んでいるのは事実だと思います。ただ、物事を「好きになり、追求する」という点においては、遡った知識や技術があると、今の技術の見え方が変わるし、より没頭しやすくなる、というのは僕自身の経験として感じています。

中山:
原点に立ち返る、とも言えると思ったのですが、Tenjuさんの場合はその「原点」に、どのように近づいていったのでしょうか?

Tenju:
原点を遡って知り、経験することですね。実際に当時を生きることはできないですが、イメージでもいいから擬似体験してみる。ダンスで言えば「遊んでみる」ということです。真面目にやらない、ということも含めて。ダンスレッスンは、先生の動きを真面目に鏡で見てやるものだと思っていました。でもヒップホップダンスを作った人たちは、そもそもレッスンを受けていないし、鏡もなかった。じゃあ自分も鏡を使わずに練習してみようとか、スタジオを使わずにやってみようとか、そういうことを試しました。お金もかからないし、すごく簡単なことですが、そうやって原点に帰ろうとしました。

中山:
環境ごと、当時に寄せていかれたのですね。面白いです。

Tenju:
そうです。そうすると、言葉にはできないですが、「ああ、言わんとしていたのはこういうことなんだな」というのが自分の感覚で少し分かってきました。擬似体験できている人はやっぱり強いなと思いますし、それは誰でもできることですよね。妄想でもいいし、携帯で確認しないとか、振りを作らないとか、そういう制限を自分に課してやってみる。そうやってヒップホップとは何かを理解していって、そこに自分の強みとしてジャズダンスを入れて、今のスタイルがやっとできた、という感じですね。

2. 測れない価値──アートとスポーツのあいだで

中山:
Tenjuさんの話を聞いていると、「そもそもなぜ?」と問いを立てるタイプだと感じますし、鏡なしでやってみたりいろんなパターンを試すとか、自分自身を研究材料にする好奇心が強いと感じます。その探求心は、どこからきていると思いますか?

Tenju:
自分の人生も、自分で変えられるとは思っているんですけど、それすらも神様が決めているんじゃないかな、と思うようにしていて。努力したり好奇心を持ったり、頑張ったりして何かのきっかけを掴んで賞を取ったりすることもありますが、そういったきっかけ自体も神様がタイミング良くくれているんじゃないかなと思っています。物事には意味があると考えて、ネガティブにならないのもあるのかな。あとは、そもそも性格的に行き当たりばったりも好きですし、時間が空いたら散歩してみようとか、いい店に出会えるかもしれないと思ったり。服を買う時も、値段を見ずに「これだ」と思ったら買ってしまう。多分これは、出会うべくして出会っているんだろうな、という感覚を持っています。

中山:
好奇心が強いという側面もあると思いますが、どこかで「道は決まっている」と腹を括れている感じもします。どう転んでも、良いことも悪いことも含めて「そういう流れだった」と思えたら、起きたことを全部を楽しんだ者勝ち、みたいな。そんな風にも聞こえます。

Tenju:
もちろん人間なので、ネガティブなことがあったら落ち込むこともあります。でもその時に「ネガティブだったからポジティブになろう」とするのは、正直かなり難しいし、時間もかかる。だから、無理にポジティブになれない自分も認めています。ネガティブなことが起きたという事実をちゃんと受け止めて、「これはこういうレールを踏まなきゃいけなかったんだろうな」と思える自分がいる、という感覚ですね。

中山:
受け止めた上で、どう次に進むかを決めていくのですね。

Tenju:
そうですね。だからこそ次に頑張れる起点にもなりますし、「一旦ここは落ち着こう」とか、「何もしないこともいいかもしれない」と思う時もあります。「サボる」という言葉で括ると違うかもしれないですが、サボりも悪くない判断の可能性があるし、何もしない、何もないところから生まれる発想も、やっぱりあると思っています。

中山:
それでも、気づいたら前に進んでいると。

Tenju:
はい。Tenjuという人間の性質として、何かに集中すると、どっぷり入り込んでしまうタイプなんです。だから勝手に前に向こうとして、空回りする時もあれば、ちょっと成功する時もあって、その全部を含めて人生を楽しんでいる感じですね。

中山:
正直、取材という前提を抜きにしても、ここまでの話を聞くだけで「ダンサー」のイメージがかなり変わると思います。体を使った表現をしている人、という認識だけで見ている人もいると思うので。

Tenju:
確かに、全然変わりそうですよね。

中山:
その上で聞いてみたいのですが、ダンサーという存在は今どういう場所に立っていると思いますか?

Tenju:
これは一つ伝えたいと思っているんですが、ダンスは他の競技やスポーツと比べると歴史がものすごく浅いものなんです。人口が一気に増えて、テレビにも取り上げられて、一般の方が見る機会も増えてきた。これ自体は本当に素晴らしいことだと思っています。一方で、ダンサーという人物像も、いろんなパッケージが生まれてきました。僕みたいに直感的な発想で成立するタイプもいれば、超技巧派で狙って打っていく人もいる。SNSをうまく使って、頭を使って売っていくアーティストもいる。これは、どのスポーツやカルチャーでも、人口が増えて媒体が増えれば、自然に起こることだと思っています。

中山:
拡大や成熟に向かう過程での、自然現象なのかもしれませんね。

Tenju:
そうですね。そしてスポーツが盛り上がると、必ずルールや数字が必要になってくる。それがスポーツなので。そして今、ダンスもまさにそこに差し掛かっていると思います。僕が参加しているD.LEAGUEも、ダンスというアートをある種のスポーツ化にして、ファンに楽しんでもらい、点数として視覚化して人口を増やしていく取り組みです。これ自体はすごくポジティブなことだと思っています。

中山:
その一方で、アートをスポーツ化していくことへの懸念もあるのでしょうか?

Tenju:
はい。ダンスはまだ人口が少ないからこそ、僕らみたいなアーティスト寄りの人間が、今の時代の中で声を上げ続けなきゃいけないと思っています。スポーツになっていく流れは理解しているし、否定もしない。でも、だからこそその現場に参加した上で、ダンスの核心や原点を発信し続けたい。これは意地でもです。勝敗をつけることに文句は言わない。ただ、ダンスの本質は、音と体の身体表現で人の心を動かすこと。面白い、かっこいい、美しい、可愛い、理由は何でもいい。五感を通して人を楽しませる。それがダンサーであり、アーティストだと思っています。

中山:
数字や結果だけでは測れない価値を、どう守り続けるかということなのでしょうか?

Tenju:
まさにそこですね。ダンスの核心や原点を切らしてはいけないと思っているタイプなので、ずっとそこは叫び続けると思います。こういう人間が減ると、ダンスは次第に「スポーツです」と言われるものになってしまう。だからこそ、時代が浅い今の段階で、原点が好きな人間が表舞台に立ち、発信し続けることが必要だと思っています。僕らが訴えていること自体は、昔から何も変わっていない。それが事実ですね。

中山:
その思考の背景や意図は、是非D.LEAGUEを応援している人にも、ダンスを知らない人にも、触れてほしいなと感じます。

Tenju:
例えばよく一般視聴のコメントで、「ダンスはすごいけど分からない」という声を見ます。知識がないから、すごいとは思うけど、何がすごいか分からない。でも、ダンスって本来エンターテイメントで、人の心を楽しませるものなので、「なんでか分からないけどすごかった」でいいと思うんです。それを楽しめた時点で正解だと思っています。

中山:
言葉にしない方がいい領域も、確かにありますよね。僕は今シーズンほとんどのRoundを現地観戦していますが、すごいとしか言えないすごさで、まさに心を動かされている1人です。

Tenju:
そうですよ。だからこそ点数をつけるのは難しい。今のダンスは、当事者にとっても、見る側にとっても、すごく境目に立っていると思います。

中山:
聞けば聞くほど、腑に落ちます。

Tenju:
スポーツ化する部分もあれば、芸術として残る部分もある。でも、数字で勝ち負けがつくものと、数字がなくてもお金を払いたくなるものが共存しているのが、ダンスの面白さだと思っています。

中山:
個人的な話で恐縮ですが、私も今List::Xを応援していて、素人なのに「ダンスかっこいい」「やってみたい」「次のRoundが楽しみ、それまで頑張ろう」と思わされています。その時点で、ものすごく価値をもらっていると思っています。でも結果が数字で出た瞬間に、「そういうことじゃない」と思う気持ち悪さも残る。その感覚が、すごく言語化された気がします。

Tenju:
少し話は逸れるかもしれませんが、、ギャランティーの話もこれに近いのかなと。相場という言葉がありますが、それは平均値でしかない。アート側からすれば、相場感で金額を提示されると、「”この人”として呼ばれていないな」と感じて、断ることもあります。プライドと言われるかもしれないけど、プライドがなければアーティストは続けられない。価値に結果や数字をつけることの難しさですよね。

3. 在り方を、表現に──ライフスタイルとしてのパフォーマンス

中山:
ここからは、具体的な普段の練習やパフォーマンスについてのところを伺わせてください。TenjuさんはD.LEAGUEのList::Xで練習に入る前に、どんな準備をしたり、どんなことを考えていますか?普段のソロのパフォーマンスや大会だと、もっと自由度が高いと思うので今日は「チーム練習前」に絞って聞かせてください。

Tenju:
まず知ってもらいたいのは、ダンサーという職業は一人でもできて、数人でもできる仕事でもあるということです。一人でやるなら、自分の中のルーティンがあったり、挑戦するのもいいし、逆に何も決めなくても「これぐらいがちょうどいい」と思って挑むのもいいと思っています。ヒップホップというカルチャー自体が遊びから生まれているので、ラフな感じが合うというのもありますよね。

中山:
なるほど。まず「個」のダンサーであれば、ルーティンも自由度も広いんですね。

Tenju:
そうですね。ただ、今はList::Xという「組織」として活動していて、十何人という規模の中で動いています。そうなると、僕の中では「共通の認識」が何よりも大事なんじゃないかなと思っています。これは作品を作る上でもすごく大事です。

中山:
共通認識。

Tenju:
アーティストが十数名集まるので、スタイルや価値観は当然違います。スポーツみたいに「ゴールを決めればいい」「フォームを踏めばいい」という話ではないから、正解が十人十色なんです。でも組織として良い作品を作る、あるいはD.LEAGUEという舞台で勝利を掴む、という点では、「着眼点の共通認識」を広げていかなきゃいけないと僕は思っています。

中山:
「みんなの色は違っていい。でも、同じ方向を見るための“見方”は揃える」みたいな感じでしょうか?

Tenju:
まさにそうです。嫌かもしれないですけど、D.LEAGUEで勝つためには、共通認識が必要です。List::Xとしてどういうチームでありたいか、という共通認識も含めて、そこは揃えなきゃいけない。個人個人の色があっていいんです。でもその色を認めつつ、自分の色も出しつつ、他人の色も認めなきゃいけない。そうじゃないと共通認識は取れないと思うんです。

中山:
それは言うのは簡単でも、実際は難しいですよね。

Tenju:
難しいです。外部活動は各々でやってもらって、List::Xとしての活動では一瞬揃える、同じ目線を向く。そこは去年1年、いろんな失敗もして、小さな成功も見えた上で、今2シーズン目として挑んでいる状態ですね。

中山:
その「認識を揃える」ために、今Tenjuさんが担っている役割は何でしょうか?

Tenju:
今僕が任されているのはトレーニングです。僕の知識の部分をチームが信頼してくれているので、誰かの知識に一旦入る、誰かの世界に一旦入り込む、ということを今ちゃんとやってもらっています。

中山:
では、練習前の準備に話を戻すと、Tenjuさん自身は「今日はこれをやらなきゃ」という設計をしていかれるのでしょうか?

Tenju:
しますね。毎朝30分は僕のトレーニングメニューを組んでいます。毎日メニューを変えて部位を変えたり、本番前だからこれはやめておこうと時期を考えたり。例えば「ここが筋肉痛になると次のラウンドに影響が出る」なら、今回はジャンプ系はやめよう、みたいに考えます。

中山:
ウォーミングアップはどのようなことをするのでしょうか?

Tenju:
僕は「良かった時」を思い出して、良かった時の体づくりを残しておきたいんです。ルーティン自体は変わっていくんですけど、柔軟はもちろんします。ただ僕のルールとして「持続性」はやらないです。筋肉を勉強してきた人間として、断続的な運動法とストレッチを取り入れています。

中山:
持続的にやるというより、断続的に入れていくんですね。

Tenju:
そうです。関節の動きを良くする、モビリティを上げて大きくする。そのために、トレーニングというよりは「関節の運動を増やす」ようなメニューを入れて体を温めています。いろんな知識や技術をチョイスして、自分のダンスに必要な部分を取り入れたルーティンを作っています。それを今、List::Xにも提供している状態です。

中山:
「ダンスが上手くなるための準備」というより、「パフォーマンスできる体をつくる準備」なのでしょうか?

Tenju:
そうですね。僕は過去に陸上や水泳をやってましたし、趣味で野球が好きだったので、野球の人たちの取り入れ方も参考にしています。体を大きくするというより、イチロー選手や山本選手のような、しなやかに使うバネとか、そっちの方にダンスは近いと思ったんです。そういうトレーニング方法を聞いてみたり、初動負荷を体験してみたり。それを自分の中で取り入れて、「ダンサーに必要なのはこっちかな」と選んでやっています。

中山:
まさに「自分を実験台にしている」感じが強いですね。

Tenju:
そうですね。今の時代、ダンスも進化してきて「これがいいです」という話もあると思うんですけど、僕は自分を実験台にしています。何をして失敗したか、何をして良かったかを覚えておいて、それを組み立てて、今みんなに提供している、という状態です。

中山:
面白いですね。準備まで含めて、やっていることはかなりアスリートに近いです。

Tenju:
僕はそうかもしれないです。結構。

中山:
では、さらに本番に寄せて伺いたいです。本番前日の夜は、どんなことを考えて、どのように過ごしますか?

Tenju:
何かを意識的にするとか、体を意識するなどのマインド自体は、僕はそこまで強くないと思います。

中山:
「前日だから特別に何かをする」より、普段の延長としてということでしょうか?

Tenju:
そうです。僕の場合はいろんな経験や知識を得た上でルーティンは作っていますが、だからといって「前日に何かをしよう」という行動にはならなくて、それがライフスタイルになっているだけです。なので「本番前にどうするか」というより、「いつでも踊れなきゃダンサーじゃないよね」というマインドがあります。いつものライフスタイルのままが出るのが、僕らダンサーというアーティストなんです。真面目な人は真面目なダンスをするし、ふざけた人はふざけたダンスをする。逆に普段真面目だから踊りの時にバカになれるとか、普段真面目だからグッとしたダンスをしたいとか、そういうパターンもあります。そのライフスタイルを楽しんでいるからこそ、ある意味バカ真面目にやらない、というのはダンサーの強いところかもしれないです。

中山:
究極、この場で「今踊って」と言われるのと、「明日ラウンドで踊って」と言われるのは、同じなんですね。

Tenju:
全く同義ですね。もちろん身につける洋服や靴は変わるので、その時に身につけたものでダンスが変わるのは当たり前で、それ自体も僕らは楽しんでいます。だから、いつでもどこでも踊れるし、いつでもどこでもやれるという感覚です。

中山:
なるほど。D.LEAGUEで言えば、2週間に1回新曲で新しい振り付けを覚える。見る側としては「準備してきたことを出している」と思っていましたが、その前提が違うようにも聞こえました。スポーツは、準備してきたものが出せた時に結果につながりやすい。でもダンスは、その日の服装も空気感も気分も違う。その「違うこと」自体が楽しい。変化して、多少違うアウトプットが出ること自体に意味がある。そういうことなのでしょうか?

Tenju:
そうだと思います。スポーツは目に見えた結果で評価されるし、そこに基づいた技術やテクノロジーが発達している。やった分だけプラスが出るし、サボった分だけマイナスも出る。でも僕らアーティスト側は、人それぞれが何をやったかで、どんな色が出るかが変わってくる。そこが面白いですよね。

中山:
ダンスがスポーツ化していく流れとも繋がってきますよね。

Tenju:
はい。ブレイクダンスもオリンピック競技になりつつあって、カルチャーがスポーツ化してきている。スポーツは努力して結果が出ないとプロになれない、レールが敷かれた競争に近いと思うんです。でもダンサーは、年齢も性別も身長も体格も人種も関係なく、各々が表現した「楽しい」が評価される部分がある。結果ではなく、いつまでも続けられて、人生を楽しんでいる。勝ち負けがないから、楽しみ方がいっぱいある。だからライフスタイルなんです。もしスポーツで挫折して迷う人がいれば、ダンサーのような発想を持っていたら、スポーツもエンタメとして見続けられるし、次に何をするかとなった時に、スポーツを通じた一人の人間として新しい人生を歩める、と思えるかもしれないです。

中山:
本来、スポーツの語源も「遊び」や「気晴らし」だと言いますよね。

Tenju:
そうですよね。

中山:
Tenjuさんが50歳になった時に踊るダンスは、きっと今とは違う色気や渋みがあるんだろうなと思いました。それに、スポーツもプレーをすること自体は何歳になってもできる。アスリートが「アーティスト思考」を少し取り入れると、緊張やプレッシャーに対する捉え方も変わる気がしました。

Tenju:
確かに。プレーすること、ダンスをすること、パフォーマンスをすること自体が「ライフスタイル」だと捉えると、緊張やプレッシャーへの考え方が変わるかもしれませんよね。アーティストならではの視点なのかもと思いました。

中山:
「こうしなきゃ」を手放し、プレッシャーを手放す。準備が大事なのも分かる。でも実際、準備していた以上のものが出てしまった体験も、アスリートなら多分みんなあると思います。1つの引き出しとして、アーティスト思考は面白いなと思いました。

4. 上手さを超えて、残る──記憶に食らわせる表

中山:
ところでTenjuさんは、ダンスをする時は緊張するのでしょうか?

Tenju:
する時は緊張しますね。

中山:
何に対する緊張なのでしょうか?

Tenju:
結局、緊張って不安から生まれると思ってて。僕の場合、緊張するときは準備したものに対して不安を持っているときなんですよね。例えばD.LEAGUEだと、作品を数名で作って、8人で出る競技なので、「間違えちゃいけない」みたいな、分かりやすい不安要素がある。だから緊張が生まれます。

中山:
なるほど。緊張は「状況」より先に、「不安」が作るんですね。

Tenju:
そうですね。そこからの解釈は2つあって、1つは、そこまでやり切れる練習をすることです。いつでもどこでもできるパフォーマンスができるぐらい、自信を持てている状態にしておく。それが緊張しないための秘訣。もう1つは、どんな環境でも、どんな境遇でも、楽しめると緊張が消えます。結局楽しんだ方が緊張が消える。例えば僕らは音楽がないと生まれないので、めちゃくちゃ音楽に入り込むとか、とにかく「今やっているパフォーマンスを、自分が一番楽しんでいる状態」を作ると、緊張しなくなります。

中山:
「不安のゾーン」から、「楽しむゾーン」に自分を連れていく感じでしょうか?

Tenju:
まさにそうです。あと、野球の大谷翔平選手の発言がすごく好きで。メディアってMVPの話とか、どんどん結果を求めてマイクを渡すじゃないですか。たしかワールドシリーズ前だったと思うんですけど、「結果なんて引退してから見ます」みたいなことを言っていて。スポーツって絶対に結果が出るし、結果を見て判断しますよね。でもトップレベルまで行くと、「全部終わってから見る」っていう感覚がある。だからスポーツという波がある中でもマインドを保てて、活躍できるんだろうなって思いました。

中山:
結果に飲み込まれずに、目の前の時間に集中したり、楽しむこと。

Tenju:
そうですね。楽しんでいるか、はやっぱり重要ですよね。

中山:
その根っこには、「好き」があるのしょうね。

Tenju:
そう思いますし、その楽しんでいる様子が見ている人にも感じさせるエンタメ性が必要だなと思います。

中山:
評価は、パフォーマンスをする限り必ずついて回りますよね。他人の評価だけでなく、自分の中で「納得できた」みたいな瞬間はありますか?

Tenju:
あります。まさにこの間のRound2がそうでした。あの作品は僕らが本当はやりたかった内容だったんです。ただ、D.LEAGUEという舞台では評価されないだろうな、という懸念もずっとありました。でもルールも変わったし、1年いろんなことをやって結果も出たから、「ここで僕らはやっぱり出していこう」となって、チーム全体として納得して、それを作品にしました。

中山:
評価されない怖さもありつつ、「それでも出す」を選んだんですね。

Tenju:
そうですね。そして結果としては負けました。でも何より嬉しかったのは、他のダンサーの方々がめちゃくちゃ褒めてくれたことです。「気持ちよかった」と言ってくれて、楽しんでくれた。それはダンスのジャンルが違う人たちも含めてです。僕らが悩み続けていた「本当はこれがしたい」というパフォーマンスに共感してくれた。それが一番嬉しかったし、そこに満足を覚えた、というのはあります。

中山:
なるほど。先ほどTenjuさんが「叫び続けなきゃいけない」と言っていたものが、作品として出せて、届いてほしい人に届いた感覚があったんですね。

Tenju:
そうですね。まず身近な人に届けば、そこからどんどん広がると思っています。結果、お客さんの声もすごかったですし、「これは一つ、いい武器を手に入れたな」と思いました。

中山:
アーティストであるTenjuさんに聞きたいのですが、スポーツでは「上手い選手」と「良い選手」は違う、といった表現があります。ダンスでいう「上手いダンス」と「良いダンス」って、どう違うと思いますか?

Tenju:
あ〜ありますね。僕らはフリースタイルをやる人間で、即興で踊る側です。一方で、コレオグラフと言って、振りを作って表現するダンサーもたくさんいます。どちらも心が踊るのは確かなんですけど、感情ってその瞬間で変わるじゃないですか。現場の空気や音楽、照明、大勢に見られることでも変わる。その「瞬間」が人を変えてくるんです。僕らフリースタイル側は、その瞬間を、自分が一番楽しんで、そのまま表現します。だから同じ現場にいる人たちがキャッチしやすい。だから「グッとくる」し、それは良いダンスと言えそうです。

中山:
その場の空気ごと、届く感じなんですね。

Tenju:
そうですね。一方で、上手いんだけど、事前に用意して「これは素晴らしいものです」と見せる表現をするダンサーは、評価をもらいやすいと思います。基準値が取りやすいからです。でも「(作品が)ずっと頭に残るか?」と言われたら、残っていないこともありますよね。僕らはインパクトを残したい。何をやったかは覚えていなくても、「さっきのあの人、すごいなんか……」ってうっすら記憶になるとか、名前だけでも覚えちゃった、みたいな。それが、即興する側から見た「良いダンサー」だと思います。逆に、事前に準備して評価を取りにいくのが「上手いダンサー」かな、という感じですかね。

中山:
「良いダンサー」は食らうからこそ残る、なんですね。

Tenju:
本当にそうですね。もちろん上手いダンサーの方が評価しやすいし、結果も取りやすい。でも「良いダンサー」っていう意味では、やっぱり結果よりも記憶に残ると思います。

5. 未来を決めず、姿を残す──進化し続けるという選択

中山:
最後に、未来の話を伺って締めたいです。まず、今はList::Xというチームにも所属されていますが、List::Xを通じて「こんなことを表現したい」「こんなことを社会に示せたらいいな」という想いがあるとしたら、どんなことでしょうか?

Tenju:
List::Xとしては、チームのモットーとして「子どもたちに新しいアートライフを」というところを掲げています。将来の子どもたちに、もしくはエンタメを好きでいてくれる人たちに、唯一僕らができるのは、ダンスでそれを伝えることだと思っています。そういう意味で、ダンサーという新しい形、働き方を提示していきたい。ダンサーという職業でも人生を豊かにして食ベていける、生活ができる、という新しい見せ方を僕らがしていきたいね、というのは今のモットーの中にあります。未来像も、やっぱり「子どもたちに新しいアートライフを見せ続ける」というのが、僕らの想いです。

中山:
チーム発足初期の頃から関わらせてもらってきましたが、改めて作品を通して昨シーズンも今シーズンもその想いを体現しているなと感じます。見ていて楽しそうで、良い意味で自由すぎるスタイルです。毎回、僕のようなど素人が「次も見たい」と思わせられるのって、あまりないと思うんですよね。

Tenju:
確かに、本当そうですよね。

中山:
毎回「次はどんな絵を描いてくれるんだろう」っていう思考になりますし、。実際、Round1と2でも全然違う作品でしたよね。

Tenju:
そうですね、うちはもう全然違います。毎回困るんですよね(笑)誰かを連れて行くときに「次も見に来てくれると思うけど、こんな感じじゃないんだよ」って説明することが多くて。「今回こんな感じなんだ」「前回こうじゃないんだよ」って、毎回言ってます。でもそこでみんなテンションが上がるというか、「面白いチームだね」ってなってくれるんですよね。

中山:
最後に、今までも色々なものを紡いで、今のTenjuさんがあると思いますし、ここから5年10年と紡いでいく中で表現もきっと変わっていくと思います。1人の表現者としてのTenjuさんは、これからどんな進化をしていきたいですか?

Tenju:
僕が好きになったカルチャーにも先人がいて、今、実際に僕がその未来にいるわけですけど、たぶん先人の人たちって、こういう時代を想定してやっていたわけじゃないと思うんですよね。自分たちが本当に好きなことをやっていたら、結果としてこういう時代になった。

ということは、僕もこの時代に生まれた人間として、やらなきゃいけないことって、原点をリスペクトしつつ、今の時代に柔軟に対応していくことが何より大事で、それが未来に残せる一つのメモリーだと思っています。

それを強く思ったきっかけが、自分に息子ができたことなんです。今の自分を見せてあげたいけど、まだ幼くて見せられないし、見ても分からない。でも、僕の姿はYouTubeなどの媒体に残っていくじゃないですか。なので、どんな進化をしたいかと言うより、どんどん進化し続けている背中を残し続けたい、と思います。

もしかしたら20歳になった息子が、20年後に見たときに、今の僕がやっていることがダサいかもしれないし、時代に合わないかもしれない。だけど原点を見つけてくれたときに、「俺がイケてるんだ」とか、「こういうのもあるんだ」と思ってくれたら、それは一つの正解だし、そこからまた新しいものが生まれてくると思うんですよね。

だから僕が今精一杯できることは、将来を見据えて「これをやる」って決めることよりも、原点をリスペクトしつつ、今の時代に合わせて、今の時代の流れに沿いながらも、僕らが100%できるエンタメ、アーティストとしてのエンタメを常に披露し続けることだと思っています。その姿を見せ続けることが、この先の未来に絶対につながるんだろうなと思っています。

中山:
描いた未来ではなく、未来を描き続ける姿を残し続けていく。

Tenju:
だから大きな目標とか、「これをしたい」というのは、今は考えないようにしています。なるようになる、というのも、実は合っているのかもしれないし。結局、今できるパフォーマンスを100%で常に披露し続ける、というのが、僕の将来のため、未来のための仕事かなと思っています。

中山:
確かに。アーティスト思考でいくと、ゴールを決めすぎると固まっていく感覚もあるけど、Tenjuさんの話は「流れの中で作られていく」感じがありますよね。原点をリスペクトしつつ、現代を柔軟に生きる。それがTenjuさんらしさであり、それをダンスで表現している。この考え方は、、現代に必要なことのようにも聞こえました。時代の変化が早いからこそ、「歴史的に何が起きたのか」「人類はどう選択してきたのか」というところを知りつつ、時代の波に合わせて変化しながら未来を作っていく。Tenjuさんの原点や哲学が聞けて、とても面白かったです。本日はありがとうございました!

Tenju:
ありがとうございました!


【After Dialog】
「正解をなぞる」ことから脱却し、カルチャーの深淵を覗き込むことで手にした、唯一無二のオリジナリティ。Tenjuとの対話を通じて浮かび上がったのは、ジャズダンスで培った「軸」という強固な土台の上に、ヒップホップの「遊び」を積み重ねてきた、重層的な表現者の姿だった。

彼にとって、鏡を使わない練習や当時の環境を再現する試みは、単なるスキルの習得ではない。それは先人たちが感じたであろう高揚感や葛藤を肌で感じるための、泥臭くも愛おしい「原点回帰」の儀式だ。論理的に身体を分析し、トレーニングを組み上げる冷徹な知性と、本番の瞬間にすべてを投げ打って音楽に没入する情熱。その矛盾する二面性こそが、彼のダンスに「しなやかで強い」という独自の質感を与えている。

「ダンスはスポーツか、アートか」という問いに対し、彼はその両方のグラウンドに立ちながら、あえて「記憶に残る=良いダンサー」であることを追求する。勝利という数字の先に、誰かの心を震わせるエンターテインメントの本質を見据えているからだ。

描いた未来に自分を当てはめるのではなく、今の全力を積み重ねた結果として未来が作られていく。その「なるようになる」という境地は、徹底的に遡り、考え抜いた者だけが到達できる、文化への深い信頼の証でもある。進化し続けることをやめない彼の背中は、ダンスという枠を超えて、変化の激しい時代を生きる私たちに「自らのルーツを愛し、今を遊び尽くす」ことの尊さを教えてくれる。

『Dialog Code』

答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
Tenju(テンジュ) 
1994年7月1日生まれ、千葉県出身。 
ダンサー。D.LEAGUEチーム「List::X(リストエックス)」所属。ダンススタジオを運営する母の影響で、3歳からジャズダンスを始める。小学4年生でヒップホップに出会い、その文化的な奥深さに傾倒。ジャズで培った正確なボディコントロールと、ヒップホップ特有の自由な表現を融合させた唯一無二のスタイルを確立した。
2023年、D.LEAGUE 23-24 SEASONより「List::X」のメンバーとして参戦。チーム内ではトレーニングメニューの設計も担当し、解剖学や他競技の知見を取り入れた独自のメソッドでチームの身体能力向上を支えている。「良いダンサーは記録より記憶に残る」という信念のもと、数字による評価を超えた表現の核心を追求。一児の父としての顔も持ち、次世代の子どもたちに「新しいアートライフ」を提示し続けるべく、進化を続けている。
【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。
JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。

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