Dialog Code
『自然体で変わり続ける成長哲学』犬飼智也 # Dialog Code
2025/08/20

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。自分自身と向き合い、考え、気づくこと——それが次のステージへ進む鍵になる。『Dialog Code』—— アスリートたちの言葉から、その可能性を探るシリーズ。
今回登場するのは、犬飼智也(プロサッカー選手・柏レイソル所属)。
さあ、彼の思考を紐解いていこう。

1. 数で見える“成長”と言葉で知る“未熟さ”
中山(Dialog Partner):
犬飼さんのルーツ的なところから聞いていきたいのですが、サッカーを始めた時の最初の記憶は何ですか?
犬飼:
小学校2年生の時に富山から静岡に転校したんですけど、静岡はサッカーが盛んで、休み時間に友達がみんなサッカーをやってたんです。それで自然と「サッカーやりたい」と言ったところから始まりました。
中山:
他に習い事や興味があったことはありましたか?
犬飼:
それこそ転校する前は年長からずっと柔道をやってましたね。静岡に引っ越してからも柔道をやろうとしてたんですけど、近くに柔道できるところがなくて。それで柔道は諦めたというか。
中山:
柔道を始めたきっかけは何だったんですか?
犬飼:
たしか、近所のお兄ちゃん的な人が柔道をやっていて家族とも仲が良くて。最初はついていったか何かで始めたんじゃないかなと思います。
中山:
なるほど。その後、サッカーにのめり込んだのは、どんなところに面白さを感じたんでしょうか?
犬飼:
いや、もう、何がっていうよりとにかく楽しくて。とりあえず友達とボールを蹴れることが楽しかったし、僕の家が小学校の目の前だったので学校の壁に向かってボールを蹴りに行ったり。とにかく楽しかったんですよね。
中山:
柔道のことは忘れて、すぐサッカーに夢中になったんですね。
犬飼:
そうですね。完全にサッカーだけになりました。

中山:
サッカーにおいて、一番若い時の嬉しかった体験を教えてください。
犬飼:
なんだろう…一番覚えてるのは、リフティングですね。最初は全然できなかったけど、練習すればどんどん上手くなって。リフティングって、一番わかりやすく自分の上達が見えるんですよ。今思えば、リフティングができるようになっていく過程がめちゃくちゃ嬉しかった記憶がありますね。できない日が続いて、でもある日できるようになる。それが嬉しかった。「練習すればうまくなるんだ」ってわかったんですよ。
中山:
小さい成功体験が積み上がっていった感じですかね。
犬飼:
そうですね。なので今子供にサッカーを教える時とか、サッカー教室のお願いとかがあって話す機会があるときはリフティングをおすすめするかもしれないです。
中山:
技術という観点もありますが、それよりも成長実感が持ちやすいというところなんですね。
犬飼:
そうですね。数字で出るし、やれば回数は増えていく。努力すれば積み上げられることがわかるのがリフティングなんじゃないかと思います。サッカーって自分が上手くなったかどうかがわかりづらいんですけど、リフティングは数字で出るんで、それがよかったんじゃないかなと思います。
中山:
幼少期にそれを聞きたかったです(笑)僕はリフティングの練習の意味がわからず、なんでやらないといけないんだろうって思ってたんですよね。
犬飼:
僕は小野伸二さんが好きでよく映像を見てて、それでリフティングをしてた記憶がありますね。
中山:
若い頃の体験で、一番悔しくて記憶に残っている出来事は何ですか?
犬飼:
小4の時に、市の選抜に入って、トレセンみたいなのに行ったんですけど、もう周りが上手すぎてそっちの練習に行くのが本当に嫌だった記憶があります。普通に仮病とか使って、「今日ちょっとお腹痛いから行けない」とか言った記憶もあります。
中山:
へぇー、仮病を使うほど嫌だったんですね。
犬飼:
はい、もう本当に嫌で。
中山:
周りが上手いことの何が嫌でしたか? どんな感情だったのでしょうか?
犬飼:
何だったんだろう…負けず嫌いだったのかもしれないですけど、自分のレベルの低さを痛感したというか、それが嫌だったんだと思います。あと、単純にコーチが怖かったですね。
中山:
なるほど。意外とそういうシンプルな理由もありますよね。
犬飼:
そうですね。なので出来事というより、仮病を使ってまで行きたくなかったということが今でも記憶に残ってます。
中山:
犬飼さんは、いつ頃からプロを意識されましたか?
犬飼:
家の近くにエスパルスがあって、小学生の頃にチケットをもらってスタジアムに試合を観に行ったんです。その時にプロになりたいなってなんとなく思うようになりました。明確にプロを目指そうと思ったのは、中学に入ってエスパルスのジュニアユースに入ってからですね。もちろん、周りのみんなもプロを目指してそこに来ていましたし、ユースの選手がトップ昇格していくのを目の前で見ていたので、「本気で目指そう」と思ったのを覚えています。あとは、ボールボーイをやったときに、すぐそばでプロの選手たちを見て「うわ、かっけえ!」って思ったのも大きかったかもしれません。
中山:
確かにボールボーイは選手を間近で見られて、そういう気持ちも生まれますよね。犬飼さんはそのままユースに上がってトップ昇格もされたと思いますが、学生時代の指導者の言葉で今でも覚えているものは何ですか?
犬飼:
小学校5年生くらいの時に市の選抜に入って調子に乗ってたんですよね。その時期に少年団のコーチから「勘違いすんなよ」って、めちゃくちゃ厳しく言われたのをよく覚えてます。
中山:
その言葉を言われて、当時はどう感じていましたか?
犬飼:
めっちゃ悔しかったですね。その時は「なんで俺だけ?」って思ってました。そのコーチの息子が同じチームだったので、普段はすごく仲良くて、家族ぐるみでご飯にも行ったりしてましたし、普段は優しい人だったんですよ。でも、その分ギャップもあって、すごく厳しかったですね(笑)
中山:
それが今でも記憶に残っているのは、どうしてだと思いますか?
犬飼:
その後も話す機会があって、いつだったか「当時のお前にはそれが必要だったんだよ」って言われたことがあったんです。それを聞いた時に、すごくすんなりと納得できたんですよね。あの時の厳しさにはちゃんと意味があったんだなって。
中山:
なるほど。後になって「必要だった」と感じられたのは貴重な経験ですね。
2. 「試して、捨てて、残す」──変化を選び、継続で磨く

中山:
プロに入ってからの話も伺いたいのですが、日々の練習で意識して取り組んでいることや、事前に準備していることは何かありますか?
犬飼:
今は特別なことはしていないんですけど、自分で別の場所でトレーニングをしたりしていて、その内容を練習前に取り入れています。
中山:
ちなみに、どういうトレーニングをやっていますか?
犬飼:
自分の身体に対する新しいアプローチを取り入れ始めていて。僕、いろんなことにめちゃくちゃ手を出すタイプなんですよね。やってみたいと思ったらまずやってみる。楽しそうとか、面白そうとか、自分によさそうだなって感じたら一度は試してみるんです。
中山:
それはどういう内容ですか?
犬飼:
今トライしているのは、重心を少し高くして楽に動けるようにするという考え方のトレーニングですね。週1回程度通いながら、練習前に送ってもらった内容を取り入れたりしています。
中山:
言える範囲でいいのですが、その他にこれまでどんなトレーニングを取り入れてきましたか?
犬飼:
初動負荷トレーニングとか、目や脳のトレーニング、ガッツリ筋トレ系もありますし、逆に何もしないっていうのも試したことあります。あとは食事系ですね。血液を採って、自分に合う食材だけを摂る方法とか、朝食を抜くとか、グルテンフリーとか。本当にいろいろ試してきましたね。
中山:
新しいことに対して「やる・やらない」の判断基準はどう決めているのですか?
犬飼:
判断基準とは少し違いますが、基本的には誰かがやっているのを見て気になることをやってる選手がいたら「それ何?」って聞いてみて、やってみようかなみたいなノリで始めることが多いです。とにかくやってみようっていうスタンスで、その感覚が良ければ続ける。合わなければやめればいいという感じです。
中山:
なるほど。普段から他の選手がやっていることにもアンテナを張ってるんですね。
犬飼:
そうですね。僕、多趣味なんですけど、それもとりあえずやってみようから始まってるんです。合わなければやめればいいだけなんで。その辺の決断力はあるのかもしれないですね。あと、飽き性でもあると思います(笑)
中山:
面白いですね。いろいろ試されてきた中で、仮にひとつ「これ面白かったよ」と言えるものがあるとしたら、それは何ですか?

犬飼:
これが一番っていうのは正直ないんですけど、「いろんなものを試してみる」ことはすごくおすすめです。「絶対これがいい」と言われるトレーニングでも、合う人と合わない人がいますし、食事もそう。大事なのは、自分に合うものを見つけて、それを吸収して継続できるかどうかだと思ってます。なので「これをやった方がいい」というよりは、「いろんなことを自分で試して、吸収すること」と「合わなかったらちゃんと捨てること」が一番大事だと思ってます。
中山:
なるほど。調子がいいときに新しいことを取り入れるのは勇気がいることでもありますよね。
犬飼:
そうなんですよ。でも僕は、そういうときでもトライする派でした。何かを変えるって、誰でもできることだと思うんです。調子が悪い時に継続することも大事だし、調子がいい時にさらに何かを試せるか。やってみて違ったら、またやめればいいだけなんで。そういうスタンスは、自分の中にずっとありますね。
中山:
調子がいい時はむしろ変化を避けたくなる人もいると思いますが、そこで試すことを選択するのが犬飼さんらしさだなと感じました。
犬飼:
そう思いますね。調子がいい時って、何をやってもうまくいきやすいと思うんですよ。だから、何かを始めるタイミングとしては、意外と「調子がいい時」が最適なんじゃないかと僕は思ってます。
中山:
なるほど。その視点は面白いですね。今、サッカー面で改善したいことや課題と感じていることが見つかった時は、どのように取り組んでいますか?
犬飼:
それはもう、そのことを考えてやり続けるしかないですね。キャリアも長くなってきて、チームの中でも上から3番目くらいの立場になっているんですが、うまくいかないことは今でもたくさんあります。試合に出られない時期ももちろんありますけど、それでも「やり続けるしかない」と思っています。日々の練習と準備をブレずにやっていけば、きっと大丈夫だと信じてやってます。
中山:
つまり「これはやるべきことだ」と自分の中で決めたものをどれだけ継続できるかが大事だという感覚ですか?
犬飼:
そうですね。今はキャプテンも任されていますし、立場としても若い頃とは違うというのは自覚しています。同い年や年上の選手もいますが、そういう選手たちが日々の練習からどれだけやっているかで、チームの力は大きく変わると思うんです。僕自身、若い頃に上の選手たちを見てそう思っていたので。もちろん今も自分のためにやっていますけど、結果的にそれがチームにも自分にも返ってくると思って取り組んでいます。
3. 手放すことで見えてきた、力を抜く美学
中山:
試合前や前日はどのように過ごしていますか?
犬飼:
特別なことはしてないです。寝る時間も食事も、基本はいつも通りです。ホームのときはチームで一緒に食事をとりますし、アウェイでも同じように食べられる環境があるので。どちらかというと、いつもと同じように、なるべく自然体で過ごしたいタイプです。わざわざ集中したり、緊張するようなことはギリギリまでしたくないので、あえて「何もしない」を選ぶようにしています。
中山:
なるほど。これまで色々と取捨選択されてきた犬飼さんですが、試合前夜の過ごし方は若手の頃から今のスタイルでしたか?
犬飼:
いや、全然違いますね。昔はルーティンを作っていた時期もありましたし、絶対これを食べるみたいなものもありました。でも今はそういうものは一切なくて、とにかく「どれだけ自然体でいられるか」というのを重視しています。食事も、自分が欲しいと思ったものを欲しい分だけ摂るというやり方に落ち着いていますね。なるべくストレスをかけないことが大事だなと感じています。
中山:
今は自然にいい状態が保てている感じですね。

犬飼:
そうですね。例えばラーメンとかも絶対NGだとは思っていないんです。オフシーズンとか長めの休みに入った時に「ラーメン食べたいな」と自然に思うことはあって、そういう時に気持ちよく食べればいいと思ってます。「これはダメ」と決めつけるのではなく、必要なタイミングで無理なく取り入れる、という感覚ですね。
中山:
ストレスをかけないという設計は、かなり意識されているんですね。
犬飼:
そうですね。禁酒していた時期もあったんですけど、最近はオフ前とかに、仲間と美味しいご飯を食べながらワインを1〜2杯飲んだりする時もあります。今は「好きなように、ストレスなくいる」という方向でやっています。もちろん、また変わる可能性はありますけどね(笑)
中山:
いろんなことを試してきたからこそ、今は「ストレスをかけずに自然体でいる」というスタイルに落ち着いたと思うのですが、それはどうしてだと思いますか?
犬飼:
一番大きかったのは、ストレスを強く感じた経験があったことですね。血液を採って、自分に合う食材だけを食べるという食事法を1年半くらいやっていたんですが、それが本当にストレスで。パフォーマンスが良くなるわけでもなく、かといって悪くなるわけでもなく。「このストレスを抱えて、これだけ?」って思ってしまって。
中山:
なるほど、割に合わなかったわけですね。
犬飼:
はい。しかも、それをやめるときもすごく迷いました。小麦もNGだったし、白米だけにしたり、卵や牛肉も避けていて。でも、思い切ってやめて、練習や試合に出てみても、何も変わらなかったんですよ。やめる途中もストレスでしたし、「これ食べて大丈夫かな」とか考えて。でも、今はもう完全に吹っ切れました。
中山:
話を聞いていると、犬飼さんは“感覚”を大切にしている印象を受けました。だからこそ、型にはまったルーティンなどはストレスになっていたのかなと。
犬飼:
まさにそうですね。若い時はガチガチにルーティンを組んでましたけど、全然合わなかったですからね。「これ合ってないな」と思った瞬間にスパッとやめました。
中山:
なるほど。選手の中には、「決まったことをやる」ことに安心感を覚える選手もいますが、犬飼さんはそれとは真逆だなというのがよくわかりました。
犬飼:
そうですね。でも、それも全然わかります。ルーティンが合う人もいっぱいいると思うし、僕は「自分に合うこと」が何よりも大事だと思ってます。
中山:
実体験からわかってくることが、リアルで面白いです。試合前夜はなるべくストレスをかけずに自然体でいるという流れでいうと、翌日の試合のこともあまり考えすぎないようにしていますか?
犬飼:
はい。僕は考えすぎちゃうタイプなので、なるべく考えないようにしています。アウェイの時なんかは時間があるのでつい映像を見ちゃったりするんですけど、あんまり見すぎると気持ちが昂って眠れなくなったりするんですよね。だから、相手の映像とか戦術的な準備は当日の午前中に見るようにしています。それ以外は、コーヒーが好きなのでカフェに行ったりして普通に過ごしてます。試合前日はとにかく“考えすぎない”を意識しています。
中山:
なるほど、試合当日に向けて準備していくイメージなんですね。
犬飼:
そうですね。相手チームのプレースタイルや個人の映像はチームから送られてくるので、見たほうがいいものはしっかり見ます。でもそれ以外は、なるべく考えすぎず、いつも通りの生活を心がけています。
中山:
試合中や重要な局面では、どういう思考や感情が出てきますか?
犬飼:
昔ほどではないですが、緊張は今でも全然しますね。ただ、まったく緊張できない時もあって、それはあまり良くないと感じるんです。僕は少し緊張しているくらいがちょうどいいタイプなんです。緊張というより「集中」に近い感覚かもしれませんが、緊張していないときは逆に不安になります。
中山:
そういう時は、どう対応していますか?
犬飼:
「緊張できてないな」と思ったことが不安になって、そこからちょっと緊張してくるみたいな(笑)緊張していないこと自体がきっかけになって、結果的に集中できるという感じです。
中山:
なるほど。それが材料になって、自然と緊張度が引き上がるんですね。一方で、緊張しすぎることを抑えるためにやってみたことは何かありますか?
犬飼:
ん〜、試合が始まってしまえば、もうプレーするしかないと思っていて、自然と集中できるんですよね。だから特別なことをすることはあまりないです。耳をマッサージするとかは思い出した時にやることもありますけど、基本的には試合が始まってしまえば集中できる、という感覚です。
中山:
始まってしまえば集中できる、というのがベースにあるわけですね。
犬飼:
そうですね。僕はバスでスタジアムに向かう途中からだんだんスイッチが入っていくタイプで、その時に聞く音楽も特に決めてなくて、どちらかというとラジオを聴いてリラックスしてる感じです。スタジアムに着いて、お客さんを見たりすると、自然とスイッチが入ってくる感覚ですね。
中山:
試合が終わった後の振り返りは、どうされていますか?
犬飼:
うちのチームでは、ディフェンス担当のコーチが映像を送ってくれるのでそれを後日見ています。基本的には、試合は1試合通して毎回見ますね。当日か、次の日くらいに。
中山:
どこに注目して映像を見ているのですか?
犬飼:
全体的に見ます。「この時もっとこうできたな」とか「この立ち位置はこうだったな」とか。自分がピッチの中で感じていたことと、映像で見える現実とのズレを確認するようにしています。チームの戦術や相手の出方への対応も見ますけど、どちらかというと自分個人にフォーカスして見ていることの方が多いですね。

4. カフェ事業で活きた、競技を越えたスキル
中山:
競技以外の時間ではサッカーのことをどのくらい考えていますか?先ほども「自分は考えすぎちゃう」という話もありましたが、なるべく考えないようにしているのか、それともずっと意識はある感じですか?
犬飼:
ベースには試合やトレーニングでいいパフォーマンスをすることが常にあります。もう当たり前になっている感覚ですが、「考えてないようで考えてる」「考えてるようで考えてない」みたいな。常にどこかで意識はしていると思います。
中山:
なるほど。常に意識は頭のどこかにはあるんですね。先ほど「自然体」というキーワードもありましたが、そのバランスはどのように取っていますか?

犬飼:
ここ数年でちょうどいいバランスが取れてきた感じがあります。それこそ、家族との時間がサッカーと同じくらい、もしかしたらそれ以上に大事だと感じていて。だから今は、「サッカー選手としての生活」と「家族といい時間を過ごすこと」の2軸で動いています。
中山:
ご家族やお子さんの存在は、そのバランスをとるうえで大きな要素なんですね。
犬飼:
めちゃくちゃ大きいですね。僕はオフのときはサッカーから離れたいタイプで、昔は友達と遊ぶことでリフレッシュしてたんですけど、今は自然と毎日息子と遊ぶことでサッカーのことを忘れられるんですよね。そこでリフレッシュできているのかなって。でも逆に、家族とサッカーだけじゃ物足りないなって思うこともあるので、そういう時は「ちょっと釣り行ってくるわ」って(笑)何ヶ月かに1回は、完全に何からも離れる時間を取ったりしています。
中山:
それが先程も出てきた「ストレスをかけない設計」にもつながっているんですね。
犬飼:
そうですね。今はそこがすごく大事だと感じています。
中山:
自己理解が高いからこそ、自分がどんな時にストレスがかかるのか、どうすれば整うのかがわかってるんですね。

中山:
犬飼さんだからこそ聞いてみたいのですが、TONÉS COFFEE ROASTERSをオープンしてから、選手としての自分に何か変化があるとしたら、それはどんなことだと思いますか?
犬飼:
そうですね。さっきの話とも通ずるんですが、そっちのことを考えているときはサッカーから離れられるし、違う世界が見えるんですよね。サッカー選手ってサッカーしかしていないから、社会に出ることってあまりないじゃないですか。だから、現役中にやって良かったなって思います。
中山:
具体的には、どういう点でやってよかったと思いますか?
犬飼:
例えばアルバイトとかで時給を見ると、「稼ぐって大変だな」って思うんですよ。後はサッカーの世界ってチームで動いているけど、結局は個人で、周りも意識の高い人たちの集まり。でも社会は必ずしもそうじゃなくて、いろんな人がいる。そういう現実を知れたのは、すごく良かったですね。いつか引退する自分にとって、「サッカーだけしていなくてよかったな」と思える日が来そうです。引退後の不安が少し軽くなった気がします。
中山:
なるほど。社会から見た時のサッカー界の特殊さを知ることができて、次のキャリアに対する不安が少し薄れたというのもあるんですね。
犬飼:
漠然としてるので、不安は全然ありますけどね(笑)でも僕はどちらかというと、引退後の人生もすごく楽しみにしてるタイプなんです。やりたいこともたくさんあるし。ただ、「もし明日サッカー辞めたら、何するんだろう?」っていう不安ももちろんある。でも、楽しいことをやってる自分の姿が想像できるから、不安と楽しみの両方がありますね。
中山:
ここまでお話しを聞いていると、犬飼さんは楽しいことをどんどんやっていくんだろうなと想像できます。今、カフェ事業を通じて地域との接点も生まれていると思いますが、現役選手として地域と関係を持つ意味は何だと思いますか?
犬飼:
やっぱり顔を出すことで、すごくいろんな方に声をかけてもらえるんですよね。スタジアムや練習場でも声はかけてもらえますが、日常の中で「頑張ってください」と言ってもらえる機会があると、本当に多くの人に応援してもらってるんだなと実感できます。さらに「この間のお店どうでしたか?」みたいに、もう一段階深い会話が生まれることもある。そういう接点がある場所を自分で持てるのは、すごくありがたいことだと思っています。
中山:
たしかに、もう一言二言交わせるのは違いそうですね。
犬飼:
そうなんですよね。会話があるって嬉しいことですし「今日はお休みなんですか?」って聞かれて「練習してきました」っていうやり取りだけでも、すごく温かい気持ちになりますね。
中山:
その場所があることで、犬飼さん自身も頑張ろうって思えて、来てくれた人たちも応援したくなる。お互いにとってプラスな場所なんだなと感じました。
犬飼:
そう思います。応援してるチームの選手が、自分が行ったお店にいたら普通に考えてめっちゃ嬉しいじゃないですか。
中山:
特にカフェの場合、お客さんにとっては身近な場所でもありますよね。CBというポジションだと、チームを俯瞰して見たり空気を察したりと周りを見ることが多いと思いますが、そういったサッカーで培った感覚がカフェの空間づくりに繋がることがあるとしたら何だと思いますか?
犬飼:
なんですかね(笑)空間づくりって、好みやコストの現実もあるんですけど、やっぱり「人とのコミュニケーション」はすごく大事にしてます。今は僕がオーナーで、店長やアルバイトの子が何人かいて。チームづくりという意味では、サッカーで得た経験がすごく活きていると思います。
中山:
例えば、どういった部分ですか?
犬飼:
僕は「みんなを引っ張っていく」というより、ちょっとした変化や空気感に気づくのが得意なんですよ。キャプテンに選ばれた理由も、自分ではそういう“気づける力”なんじゃないかと思っていて。それはサッカーで培ったものだし、今もスタッフとの関係づくりに活きてる気がします。
中山:
犬飼さんのポータブルスキルですね。業界が変わっても活かせる力。選手がよく言う「(選手は)スキルがない」というのは、三角形の一番上にある“テクニカルスキル”のことを指すんですよね。それよりも多くを占めるのは、その土台にあるポータブルスキルやスタンスなんですよね。たとえば数字への向き合い方、他人との関わり方、生き方、姿勢…そういう部分なんですよね。
犬飼:
ああ、それはめっちゃわかります。僕も雇うなら、理想を言うと元サッカー選手とか、スポーツを長くやってた人ってすごく信頼できるなって思うんですよね。技術がなくても対応力があるというか。
中山:
まさにそうなんです。犬飼さんもご自身で事業を始めたからこそ、その「ポータブルスキル」に気づけたと思いますが、知識として知らないだけで「なんのスキルもない」ってなりがちだと思っています。でも僕たちがアスリートの力を信じていて、いくらでもやっていけると思っている理由の1つはここにあります。
犬飼:
うんうん。ほんとそうですよね。
中山:
別の角度でお聞きしたいのですが、犬飼さんには「サッカー選手」と「カフェオーナー」という2つの顔がありますよね。それぞれに共通する、ご自身の“哲学”や“姿勢”があるとしたら、それは何ですか?
犬飼:
やっぱり「ワクワクすること」とか「楽しそうなこと」に取り組むってことじゃないですかね。変化を恐れずに、面白そうなことにチャレンジする。それを大事にしているし、それが自分の強みかなって思ってます。
中山:
犬飼さんの“生き方”そのもの、でしょうか。
犬飼:
そうですね。「楽しむ」ということは、すごく大事にしています。
5. サッカーキャリアで、どうしても手に入れたい景色

中山:
犬飼さんの「サッカー選手としての未来」、つまりキャリアの終わりにどんな景色を見ていたいですか?
犬飼:
やっぱり、リーグタイトルは獲りたいです。逃したくないって、めちゃくちゃ強く思ってます。試合に出られない時もありますけど、それでも「自分が必要な時に必ずやってやる」っていう気持ちはあります。まだまだ成長したいし、もっと上手くなりたいと思ってます。今30歳ですけど「まだできる」と思ってますし、25歳の時も同じことを思ってました。逆に「もういいかな」と思ったときが、引退するタイミングなんじゃないかと。だから、成長はずっと意識していたいです。
中山:
いいですね。サッカーで、まだ得たいものがたくさんあるんですね。
犬飼:
あります。僕、清水のアカデミーで育ったので、また清水でプレーしたいっていう気持ちも、ぼんやりですがあります。今はレイソルでどれだけできるかを大事にしてるけど、清水でプレーしてアカデミーに何か還元できたらいいなって。レイソルってアカデミー出身の選手がすごく活躍してるんですよ。メンバーの半分くらいがアカデミー出身で。そういうのを見てると、自分もそういう存在になれたらって、より強く思うようになりました。
中山:
なるほど。それは犬飼さん自身の原体験にもつながっていますね。
犬飼:
そうですね。あと、海外にも興味があります。オーストラリアとかニュージーランドとか、最近は行く選手も多いですよね。僕にとっては、人生として海外を経験すること自体が大きなことだと思っていて。家族を含めて、そのチャレンジもしてみたいなって。今は「タイトルを獲る」「清水でやってみたい」「海外でやってみたい」というざっくりした目標があって、そこには「成長したい」という軸があります。
中山:
いろいろ試してきて、「飽き性」と自分で言っていた犬飼さんが、いまだにサッカーを続けている理由がわかった気がします。
犬飼:
はい。いろいろ試してきたけど、サッカーだけは飽きなかったんですよ。今でもサッカーは楽しいです。
中山:
素敵ですね。
犬飼:
本当に、好きなことでお金を稼げるって、めちゃくちゃ幸せなことですよね。
中山:
最後にひとつだけ。コーヒーに関してお聞きしたいのですが、TONÉSのお店を見たときに、豆や味にもこだわりを感じる一方で、犬飼さんがやっているからこそ、「空気」もすごく大切にしてるんだろうなと感じたんですよね。10年後に残るのは、「味」と「空気」のどちらだと思いますか?
犬飼:
面白いですね。空気の方が残ると思います。味は流行りや気候で変化しますけど、空気って残ると思うんです。僕がレイソルを離れたとしても、レイソルの選手やサポーターが集まれる場所になっていたら嬉しいですね。10年後もそんな空気の場所があったら最高だなって思います。
中山:
おー、面白い考え方ですね。勝手ながら味なのかな?と思っていましたが、納得の回答です。
犬飼:
1店舗だけで終わろうとも思ってないんですよ。何店舗かやれるんじゃないかなって思ってます。
中山:
ぜひやってほしいですね。今日お話を伺って、サッカーもカフェも、ご自身の“好き”や“気づき”を軸にしながら、周りと関係性を築いていく犬飼さんの姿勢がとても印象的でした。現役としての時間も、次のキャリアも、“自分らしく、楽しむ”という生き方を体現していて、本当に素敵だなと思います。本日はありがとうございました!

答えは、すぐには見つからないかもしれない。
それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。
思考を解き明かす対話は続く。
『Dialog Code』——次は、誰の思考に触れようか。
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