Dialog Code
『演じ、整え、踏み込む──思考と態度の設計図』近江克仁 # Dialog Code
2026/01/21

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。自分自身と向き合い、考え、気づくこと——それが次のステージへ進む鍵になる。『Dialog Code』—— アスリートたちの言葉から、その可能性を探るシリーズ。
今回登場するのは、近江克仁(アメリカンフットボール選手・IBM BIG BLUE所属)。
さあ、彼の思考を紐解いていこう。

1. 一挙手一投足──チームを動かした態度と、海外で崩れた正しさ
中山:
アメリカンフットボールを始められたきっかけから教えてください。
近江:
はじめのきっかけは父親がアメフトをやっていたのでその影響です。小さい頃に初めて触った球が楕円球だったくらいアメフトに溢れてたという感じです。そして小学校5年生から始めたんですけど、それ以前もフラッグフットボールっていう競技を両親について行って、一緒にやっていました。そこから始まって中高大とずっとアメフトですね。
中山:
アメフトにのめり込んでいかれた背景についても伺いたいのですが、どのあたりに楽しさを感じていたのでしょうか?
近江:
サッカーとか水泳とかもやってたんですけど、競技人口が多いし、上手い人はその当時から山ほどいたんですよね。でもアメフトに関しては、僕が始めたときは楕円球なんて知らない人が大半だったんで、めっちゃ上手い立場から始まったんですよ。
中山:
なるほど。
近江:
自分が上手いという立場で「自分が教えないと」みたいなところから入っていったので、自分自身も成長したと思いますし、トップ選手っていう位置を維持し続けられたのかなと思いますね。
中山:
つまり、環境の中でご自身の強みを発揮できるという、ある種の優位性のようなものも当時から感じていたのでしょうか?
近江:
それは間違いなく感じてますね。野球とかサッカーって競技人口が多いし、やってもトップになれる確立は高くないじゃないですか。マイナースポーツでトップになったところでって思われるかもしれないですけど、今でもその優位性みたいなものは感じています。例えば日本代表のキャプテンをやってたら、話しかけやすいというか。いろんな人にとって、そういう特性みたいなものもあるかなと思います。
中山:
なるほど。中学・高校の頃から、「トップでいたい」「自分が抜けていたい」といった感覚は、近江さんの中にあったのでしょうか?
近江:
一番最初は自分が上手いという状態が続いていて、何よりもやってる期間が長かったんですよ。アメフトのボールをずっと触ってたんで、本当に飛び抜けて上手くて。あと、チームスポーツなんでまわりを上手くさせないと強くならないんですよ。いろいろ教えたりしてたら、そういう行為がキャプテンにふさわしい行為になったのかなと思います。自然と中心になってやっていた感じでしたね。

中山:
なるほど。教えるという要素がありましたが、中学・高校・大学、そして社会人でもキャプテンを経験された中で、学生時代の近江さんへ影響を与えた言葉があるとしたら、どのような言葉が思い浮かびますか?
近江:
難しい質問ですね。学生時代、特に印象に残っているのは「一挙手一投足」という言葉ですね。大学時代の監督が大変な読書家で、練習後に様々な本から得た良い言葉をよく話してくれていました。その中の一つが「一挙手一投足」です。監督は、「自分の行動のすべてが、相手に影響を与える。特にキャプテンであれば、チームメイトへの影響はなおさら大きい。だからこそ、そのアティチュード、つまり態度をしっかりと示さなければならない」という思いで、この言葉を教えてくれて、この言葉は今でも思い浮かびますね。
中山:
大学時代にその言葉を受け取って、強く記憶に残っているのですね。その「一挙手一投足」という言葉を受けて、当時キャプテンとして過ごす中で、意識が変わったことや行動が変わったことは何ですか?
近江:
大学時代は、「勝つために」とがむしゃらに取り組んでいました。手本となるキャプテンの先輩、具体的には1つ上や2つ上のキャプテンたちが、本当にがむしゃらに頑張っている姿を見て、「自分もやらなければ」という思いで取り組んでいたんです。例えば、遅刻してきた部員に「お前、なに遅刻してんねん」と怒鳴ったりすることも当時はありました。
中山:
当時は、「キャプテンとして正しくあらねばならない」とか、「引っ張らなければならない」という意識も、かなり強かったのでしょうか?
近江:
そうですね。まさにその感覚だったと思います。キャプテンなんだから、厳しく言うのが当たり前だし、チームを締めるのも自分の役割だ、という意識が強かったです。
中山:
その姿勢でキャプテンを務める中で、周囲からの評価や手応えみたいなものは、当時はどう感じていましたか?
近江:
そうして活動する中で、大学時代にはキャプテンとして「お前がキャプテンで良かった」と言われることもありました。ただ、実際に僕が海外、ドイツに行ってプレーしていた時、価値観や人生観が大きく変わる瞬間があったんです。僕が所属していたドイツのチームは、ヨーロッパや他の国々、約10カ国から集まったメンバーで構成されていました。多様なバックグラウンドを持つディフェンスがいて、もちろん遅刻してくるメンバーもいる、といった状況でした。
中山:
多様な価値観や文化が入り混じった環境だったんですね。その中で、これまで当たり前だと思っていたキャプテン像やリーダーシップにどんな変化が起きたのでしょうか?
近江:
それまでは、遅刻してきた選手を頭ごなしに怒っていたんですけど「彼らはもしかしたら遅刻するのが当たり前の文化で育ってきて、遅刻を問題と思っていないのかもしれない」と考えるようになったんです。怒ったところで、次に遅刻しないとは限りませんし、改めて価値観の違いを痛感しました。だから、大学時代の自分は、視野が狭かったと今では思っています。

中山:
海外での経験を経て、価値観が一度揺さぶられ、視点が大きく広がった近江さんがいると思うのですが、今の近江さんの視点で、「一挙手一投足」という言葉を説明するとしたら、どのようなものでしょうか?
近江:
「態度」っていうのは、僕らのチームでは「ボディーランゲージ」という言葉を使ったりするんですけど、例えば、練習中しんどくなったら、絶対に手を腰に置くじゃないですか。手を腰に置いているってことは「しんどい」ってことで、僕らからしたら、そいつを狙う、みたいな感覚になるんですよね。でも、勢いのある態度を示せれば、それはプレーにも影響してくるし、チームを鼓舞することにもつながると思っています。そういう意味で、ボディーランゲージとか態度っていうところが、「一挙手一投足」と直接つながると思っています。
中山:
なるほど。
近江:
価値観は人それぞれ、十人十色だと思っています。日本人で髪や目の色が同じでも、育った環境は絶対に違いますし、物事の捉え方や考え方も異なります。そういった違いを受け入れて初めて、人の話をよく聞けるようになり、相手を否定しないといった、ポジティブなコミュニケーションができるようになったと感じています。
中山:
競技の文脈で言えば、「一挙手一投足」を捉えることで、ボディーランゲージから相手の隙を読み取ったり、狙い所を見つけたり、あるいはチームを鼓舞するための手がかりにもなる。一方で日常の文脈では、同じ行動であっても受け手の見方によって評価や受け取り方が変わる。だからこそ「意味がある」と同時に、「意味が揺れる」ものでもあるように感じました。
2. PAG──準備は設計し、緊張は受け入れる
中山:
日々の練習に入る前に、事前に意識して取り組まれていることは何かありますか?
近江:
自分で「PAG」って呼んでるんですけど、PreparationとAttitudeとGoal、この3つを絶対に練習前に書くようにしてます。
中山:
「PAG」ですか。それぞれ、どんな意味合いで整理しているのか、もう少し具体的に教えてもらってもいいでしょうか?
近江:
Preparationは、どんな準備をするか、ですね。例えば自分が股関節周りが硬いなら、絶対に股関節のウォームアップをしようとか。アメフトはプレーが何百プレーもあるので、それをしっかり覚えて、アサインメントブックを頭に入れてから練習に入ろう、みたいなのがPreparationです。
Attitudeは、自分はどういうAttitudeを示したいか、どういうボディーランゲージを出したいか、という部分を書きます。僕はアメフトのプロ選手ですけど、チーム内にはプロじゃない選手もいるので、そういう方々にとって「プロってこうだよね」「やっぱり一味違うね」と感じてもらえるように、態度で示さないといけないと思っていて、その意識づけとしてAttitudeを書いています。
最後がGoalで、この練習で自分がどういう結果を残したいか、というところですね。例えばグレーディングでどこを取るかとか。簡単に言えば、練習が終わった後に「今日はやりきった」と自分で思える状態をつくる、ということです。
中山:
その「PAG」は、練習前に実際にノートへ書くのでしょうか?それとも頭の中で整理する形に近いでしょうか?
近江:
ノートに書きます。作戦が多いので、毎回の練習前にミーティングがあり、新しいプレーも出てくるんです。そういうのを細かくノートに取るんですが、そのノートに(振り返りの内容を)一緒に書く感じですね。次の日の練習前にもまたミーティングがあるので、そこで昨日できたか、できていなかったかを振り返る、という流れです。
中山:
日々の中で、ノートを活用して言葉にしながら整理していくことは、近江さんの中ではかなり重要度が高い感覚でしょうか?
近江:
高いですね。もちろん、たまにできないこともありますが、それでも、少しやる気がなかったり、「今日しんどいな」という時でも、書くことで「自分はこうあるべきだ」「こうありたい」と思い出せるので、やるようにしています。

中山:
なるほど。試合前夜はどのように過ごすことが多いですか?
近江:
海外でやってた経験もあるので、日本の試合に関しては特別なことは何も思わなくて、練習と同じように過ごして、そのまま試合に臨んでますね。
中山:
試合前だからといって、特別に何か準備したり、気持ちを整えたりといったことはあまりされないのでしょうか?
近江:
普段からミーティングが多いですし、相手のスカウティングをしたり、自分のプレーをレビューしたり、プレーブックを覚えたりっていうのは常にやっているので、その延長線上で、試合前に特別なことはないですね。
中山:
なるほど。むしろ意識としては、リラックスして普段通りに過ごす、という感覚に近いのでしょうか?
近江:
本当に意識していることが一個もなくて、いつも通りにやってます。
中山:
特別なことを足すというより、いつもの練習に向かう流れの延長で試合に入っていく、というイメージなんですね。
近江:
そうですね。試合当日はあまりウォームアップの時点でテンションを上げすぎないように意識はしてますね。
中山:
なるほど。自然と上がってしまうこともあると思うのですが、ウォームアップの段階でテンションを上げすぎないようにするのは、どのようにコントロールされているのでしょうか?
近江:
気合を入れすぎないというくらいです。入れすぎちゃうとそれだけで疲れるんで。スタジアムとか、東京ドームとかでやらせていただくこともあって、そこでテンションが上がって、みんな盛り上がっちゃったりするんですよ。
中山:
では、緊張やプレッシャーについても伺いたいのですが、近江さんご自身は、どれくらい緊張を感じるタイプだと思いますか?
近江:
緊張は全然しますね。
中山:
その緊張を「うまく扱いたい」と思った時に、例えば緊張が強すぎて落ち着かせたい場面もあれば、逆に緊張感を少し高めたい場面もあると思います。近江さんの場合、それぞれの状況で意識されていることは何でしょうか?
近江:
「自然に受け入れる」ということです。緊張は自分でコントロールできないものだと思っていて、する時はするし、しない時はしない。緊張した時に、「また緊張してしまった」と自分を責めると、さらに緊張したり、ミスしたりしてしまうので、緊張している自分をちゃんと受け入れることが大切だと思っています。
中山:
なるほど。緊張そのものをどうにかしようとするよりも、「緊張している自分との向き合い方」を大事にしている、という感覚に近いのでしょうか?
近江:
そうですね。例えば、初めて試合に出る時や決勝戦に行く時は「緊張しないはず」と期待しているからこそ、いざ緊張が出た時に焦りが出てしまうんだと思っていて、マインドセットとして、「自分は緊張する生き物だ」「緊張して当然」ということを理解しておけば、実際に緊張が襲ってきた時でも、ある程度リラックスできるのではと思っています。
中山:
なるほど。緊張は自然に起こるものだからこそ、無理に抑え込もうとするのではなく、「自分は緊張して当然だ」という前提で構えておく。そうすることで、緊張が出てきたとしても「そうだよね」と受け止められて、結果的に落ち着いて対応しやすくなる、ということなんですね。
近江:
もう今年で30歳になるので、その辺りはかなり俯瞰して見られるようになったかもしれないですね。例えば、半年に1回くらいゴルフに行くんですけど、自分が120を叩いてイライラする人っているじゃないですか。でも、それって当たり前ですよね、練習やってないんですから。そういうフラストレーションが溜まる時も、「やってないんだから当たり前でしょ」というように俯瞰することで、自分のフラストレーションをコントロールできるんだな、と感じています。
中山:
今のお話も含めて、「まあそうだよね」と受け止められるのは、ご自身を俯瞰して捉えるメタ認知が効いているからこそ生まれる発想のようにも感じました。
近江:
逆に、緊張する時って、皆さんどうするんですか?
中山:
人によってやり方は千差万別ですね。その上で一つの方法として、近江さんがお話しくださったように「緊張を自然に受け入れる」というアプローチがあります。緊張に蓋をしようとして「緊張しないようにしよう」と無理に抑え込んだり、無理やりポジティブな言葉をかけて上書きしようとしたりすると、かえって空回りしてしまうケースはありますよね。

3. 頭は静かに、態度は激しく──“演じる”ことで流れをつくる
中山:
試合の場面についても伺いたいのですが、プレー中に「今日は少し良くないな」とか「調子が上がらないな」と感じた時、近江さんご自身は、どのように立て直したり、リセットしたりされるのでしょうか?
近江:
アメフトは特殊で、プレーごとに必ず止まります。オフェンスの時はディフェンスが休憩し、ディフェンスの時はオフェンスが休憩するんです。そのため、対面でコミュニケーションを取れる機会が多いんです。自分がミスをした時、もちろん焦る気持ちもあります。そういう時は空回りしていることが多いので、「何としても取り返さないと」と強く思ってしまうんですけど、僕はその時は周りを頼りにします。普段から、仲間が声をかけやすい雰囲気を作ることを意識しているんです。チーム内に仲間を増やしている、というイメージですね。
中山:
なるほど。個人で何とか立て直そうとするというよりも、あらかじめ「周りに頼れる状態」をチームの中につくっておくのですね。
近江:
チームから「お前ミスすんなよ」というネガティブな声かけは一切排除しています。ミスをしてはいけないと一番分かっているのは、他でもない自分自身なので、そういう相手に「ミスすんなよ」と言っても、何の価値も生まれないと思っています。僕からは常に「切り替えて次行こうぜ」といったポジティブな言葉を発信することでポジティブなチーム作りを意識していて、自分がミスをした時にも、前向きな言葉で励まされるような環境を意識的に作り出しているんです。
中山:
なるほど。先ほどのお話にもありましたが、アメフトはルールやパターン、作戦など、かなり多くの情報を頭に入れてプレーする競技ですよね。端的に言えば「情報のスポーツ」だと感じたのですが、その中で“直感”のようなものは、どのように扱われているのでしょうか?
近江:
面白い質問ですね。例えば相手ディフェンスと1対1になったシチュエーションで自分がボールを持ってて、という時は直感で動くしかないですね。常に意思疎通が大事なので、それ以外の、「これ思いついたから、これやってみたらいいんじゃないか」みたいなのは、アメフトのオフェンスでは通用しないです。もちろん例外はあるかもしれないですけど。

中山:
なるほど。攻撃で言うと、シンプルに相手と1対1で向き合う局面や、突破が求められる局面では、“直感”が重要になる。一方で、それ以外の局面では、作戦や意思疎通の正確さが前提になってくる、ということなんですね。
近江:
そうですね。ボールを持って相手と1対1で対峙した時は、直感が多分大事になると思います。それ以外は、もう従うのみですね。ルールに従って、プレーに従って突き抜けることが大事です。
中山:
先ほど「ウォーミングアップで上げすぎると疲れてしまう」といったお話もありましたよね。アメフトは、狂気性や熱量、いわゆる“パッション”が重要な競技でもあると感じました。一方でアスリートは、身体を整える、マインドを整える、といった側面もあると思います。近江さんの感覚として、「整っている自分」と「ある種、狂っている自分」があるとしたら、どちらの状態でフィールドに立つ方が、より力を発揮できる感覚がありますか?
近江:
「狂っている自分」を演じるのが一番いいかなと僕は思います。やっぱり覇気を出すとか、それこそチームへの態度とまでは言いませんけど、自分たちより完全に強い相手のチームとの対戦はみんな緊張しているんです。そういう時に自分が狂うとか、やたら声を出すとか、そういうところを意識していますね。でも、そう聞かれて考えてみると、整ってプレーしているイメージは、確かにあんまりないですね。
中山:
なるほど。お話を伺っていると、理解や判断の部分は頭が整っていて落ち着いている一方で、外側の見せ方、態度の部分では、意図的に“演じる”要素を入れることが、近江さんにとっては最適というようにも聞こえました。
近江:
そうですね。僕はそうだと思います。
中山:
とても興味深いですね。
近江:
プレーに関しては落ち着きとか、あんまりいらないスポーツなのかなと思っているので、落ち着いてクールにヒュッてかわすみたいなイメージがあんまなくて。もちろん、脱力して横の動きでいくのがいいという時もあるんですが、それよりは相手と当たって2ヤードでも前に倒れるとか。相手をかわすより、ぶつかり合って、かわしたらタッチダウンでスコアできるんですけど、それよりも相手と重く当たって相手をぶっ倒した方が、チームのモメンタムとかモチベーションがグッと上がってくるんです。
中山:
なるほど。面白いですね。アメフトにはチームとしての戦い方やルールがあり、「それに従う」という前提が強い競技だと思う一方で、今のお話を伺うと、正確に遂行することと、状況の中で意味づけしながら選択することの間に、少し“間”もあるように感じました。そこで伺いたいのですが、攻撃においては、プレーをより「自動化」して遂行できる状態の方が強いのか、それとも、意識を保った上で取り組む方が強いのか。近江さんはどのように考えますか?
近江:
自動化した方が、コーチ陣からしても作戦は組みやすいと思います。求められているのは、例えば11対11の場合、11人全員に対して「どうプレーするか」というアサインメント(役割)が割り振られています。その中で、例えば4人対4人でボールを取ったら、ある程度プレーの選択肢が出てくるという感覚です。ただ、このうちの一人が本来ブロックすべき2人をそのままブロックせず突き抜けてしまった場合は相手にフリーの選手が一人生まれます。そのフリーの選手が、ボールを持っている選手を守りに来る、というパターンになってしまうので、アサインメントプレーを確実に遂行しつつ、どのプレーで相手を倒して突き抜けた時に、確実にそのプレーがスコアにつながるかということが重要になるんです。突出したプレーヤーが多ければ多いほど、強いと言えますが。
中山:
つまり、ルールやアサインメントの遂行は大前提として徹底しつつ、その上で「どこで突き抜けるか」「どこで一気にスコアへつなげるか」という判断や突破が求められるのですね。今のお話を踏まえてアメフトを観ると、見え方が大きく変わりそうですね。
4. 対話は前提──チームと世界をつなぐインフラ

中山:
お話を伺っていると、近江さんご自身に「対話力」のようなものを感じますし、アメフトという競技そのものにも対話が大きな価値が存在しているように思いました。近江さんにとっての対話の価値とは何でしょうか?
近江:
そうですね。そもそもアメフトは人数が多いんです。学生だと150人くらい、社会人でも65人に加えてマネージャーやスタッフがいて、ほとんどの人が試合に出ます。そうなると、練習もAチーム・Bチームに分かれているわけではなく、全員が同じ時間にフィールドに出て、同じ練習を一斉に行います。その際、意思疎通ができていないと、練習中も本当にグダグダになってしまってうまくいきません。自分たちが練習したいこともできなくなるので、それに対してミーティングを非常に多く行い、チームビルディングに力を入れています。
中山:
なるほど。人数が多い競技だからこそ、少しのズレが全体に大きく影響してしまうんですね。
近江:
学生時代も、シーズンが終わってから次のシーズンが始まるまでの3ヶ月間、週に4回、1日8時間くらい、50人でミーティングをしたりしていました。今の社会人のチームにおいても、可能な限りの時間を使ってチームビルディングにフォーカスを置いています。自分は一選手ですが、その選手たちをどうまとめるか、組織の監督やジェネラルマネージャーの人たちとどうコミュニケーションを取り、彼らが目指す姿、なりたい姿をどう下に浸透させるか、あるいは下側が思っていることをどう上に伝えるか、といったことにすごく時間を費やしています。時間をかけないとチームがうまく回らないですし、加えて、僕自身がそういったチーム作りみたいなところがすごく好きなんで、力を入れているという感じです。
中山:
伺っていると、「対話の価値は何ですか」と問いかける以前に、そもそも対話が“前提”として存在していて、それがなければチームが機能しないという感覚に近いですね。
近江:
そうですね。
中山:
スマホにアプリが入っていないと何もできないというくらい当たり前のインフラとして「対話」があるように聞こえました。その上で、先ほどのドイツでの経験のお話が印象的だったのですが、あの経験の中で、壊された価値観もあればご自身で壊していった部分もあったと思います。そこであえて伺いたいのですが、近江さんの中で「まだ壊しきれていない自分」があるとしたら、それはどのような部分でしょうか?
近江:
まだ壊せていない自分…。ドイツでの経験を振り返ると、コミュニケーション能力そのものというよりも、英語を使う場面で、無意識に一歩引いてしまう瞬間があったなと思います。例えば、「海外でナンパしろ」と言われた時に、多分まだできないんですよね。度胸や肝の部分に関しては、日本人の中ではある方だと思っているんですけど、向こうの人たちのノリの良さや、物怖じしない姿勢、あの肝の据わり方みたいなものは、正直すごいなと感じました。一方で、よく見ていると、彼らも決して常に自信満々なわけではなくて、意外と繊細な部分もある。そう考えると、結局ああいう振る舞いって、生まれ持ったものというよりも、「慣れ」なんじゃないかな、とも思うようになりましたね。1つ言うのであれば、その度胸や肝の部分ですかね。

中山:
なるほど。本当は踏み込みたい気持ちはある一方で、何かを気にしたり、躊躇が働いたりして一歩引いてしまう自分が残っているということですね。では逆に、その「一歩引いてしまう」部分が、もし引かなくなったとしたら、どのような変化が起きると思いますか?
近江:
なんだろう...もし自分が一歩引かずに、相手に対してちゃんと自分を出して、コミュニケーションを取りにいけるようになったら、人生における偶然のつながりが生まれる確率は確実に上がると思います。ビジネスにつながるかもしれないし、自分の幸福や人生そのものにつながるかもしれない。だから、「一歩引かない」というのは、結果をコントロールすることじゃなくて、可能性に触れる回数を増やすことなんだと思っています。
それと関連して、僕がすごく好きな考え方があって。アメリカの人たちって、初めて会った人や、すれ違う人にも自然に声をかけるじゃないですか。笑顔で「Hi」とか、「How's it going?」みたいな、正直中身のない会話なんですけど、そこから何かが生まれることがある。以前、「なんでそこまでコミュニケーションを取るんですか?」って聞いたことがあるんですけど、アメリカのビジネスはコネクションで成り立っている部分が大きいから、目の前の相手が、将来どんな人につながるか分からない、0%とは言い切れない、という考え方なんですよね。
中山:
なるほど。自分の意思や感情、考えを引かずにきちんと出していくこと、そして同時に相手のことも受け取りにいくことができると、コネクションが広がり、不確実性はあったとしても、自分の未来につながる可能性は確かに少しずつ上がっていく、ということですよね。
近江:
そうですね。そういう意味で何かしら次につながればと思いながら行動してるのかなと思います。
中山:
なるほど。私自身も初対面でも割とすぐ会話を始めたり、例えばお店の店員さんともすぐに打ち解けるタイプではあるのですが、今のように「その背景にある考え」を聞くと、腑に落ちましたし学びになるお話だと感じました。
近江:
面白い考え方ですよね。
中山:
近江さんだからこそ伺いたいと思ったのですが、アスリートとしても人としても、価値観や考え方、プレースタイルを含めて「自分を壊していく勇気」が必要な場面がある一方で、スポーツの限られた局面では「自分を信じ抜く強さ」も求められると思います。近江さんの価値観として、もし「自分を壊す勇気」と「自分を信じる強さ」のどちらがよりアスリートに必要か、と問われたらどのように捉えますか?
近江:
めっちゃ難しいですね(笑)両方必要だとすごく感じます。人とのコミュニケーションにおいては、自分を壊す力、つまり相手を受け入れる力、一方向的な考え方の人たちを受け入れる力がすごく大事だと思っています。一方で、自分を信じ抜く力も必要ですよね。結局、一番上達しない人というのは、今の子供たちでSNSをよく見ている子などに多いのですが、例えばサッカーの技術でも、良いものも悪いものも存在する中で、全部をやろうとすると一番成長しないと思っています。仕事やビジネスでも同じで、自分の信じた何か手法をやり続けることで、その反省点などが見えてくると思っていて、それが成功する時もあれば失敗する時もあるけど、「信じ抜いてやり続けた」「俺はこの手法でいくんだ」と信じ抜いた時に得られるものの方が大きいと思います。なのでやっぱり両方大事だと思いますね。
中山:
確かに、コミュニケーションが極めて重要なアメフトという競技だからこそ、相手を受け入れるために「壊す」力が必要になる場面が多い。一方で、アスリートとして技術や方法を積み上げていく局面では、「信じ抜く」力が成長を支える。今のお話を伺って、その両輪の重要性がとてもよく伝わってきました。
5. 仮説を生きる──自分を使った検証の途中
中山:
最後に、今後の展望についてお伺いしたいと思います。近江さんは選手として活動されながらも、会社員としてもご活躍されていますよね。もし、村上隆さんが設立されたカイカイキキに、近江さんのような異色の人材が加わるとしたら、どのような仮説を立証したいとお考えですか?ご自身が関わることで、どのような成果を目指したいですか?
近江:
自分がもともとカイカイキキに入社した理由は2つあります。一つは、エンターテイメント界でも非常に面白い存在である村上隆さんに対して、少しでもアプローチしたいという思いがあったからです。日本のエンターテイメントはオーラに偏りがちですが、これをどうにかスポーツなどの別のジャンルに活かせないかと考えています。

中山:
なるほど。
近江:
もう一つは、今こうしてお話ししている内容も、思いつきや記憶を辿って話すことが多いのですが、自分の核となる、いわば「聖書」のようなものが作れたら面白いと思っているからです。そういう意味で、将来、人にコーチングや指導をする立場になった際に、その「聖書」を一緒に作っていくためのプロジェクトだと感じて入社しました。そこでチームワークを学んできた自分が、それを言語化し、会社に貢献できることがあるのではないかと思っています。
中山:
なるほど、そういう関わり方なのですね。では最後に、選手としての未来についても伺わせてください。これから先、近江さんご自身がまだ見たい景色、得たいもの、到達したい場所はありますか?
近江:
海外挑戦はもう考えていません。アメフト選手としてトップに立ち続けられるかということ、そしてその影響力を生かして、次の世代や他のスポーツ、他競技の現役選手や引退した選手をつなげる役割を果たしたいと考えています。また、自分が培ってきた知識は日本の中でもトップクラスだと自負していて、今後はそれをしっかりと発信していく必要があると思っています。それが、所属しているカイカイキキでの仕事とは別に、自分のビジネスとも結びつけばと考えています。
中山:
なるほど。アメフトでトップを目指し続けながら、その影響が他領域にも波及して、相乗効果で価値が高まっていく。そういった構造を描かれているのですね。
近江:
そうですね。今、ビジネスサイドにすごく興味があるんですが、30歳のアスリートとしていられる期間は限られています。その中で、自分の人体実験として、体を鍛えながらどう成長できるのか、メンタルやマインドセットの部分も、ある程度なんとなく分かってきた気がするんです。それに正直さを掛け合わせた時、自分は一体どうなっていくんだろうという点に興味があります。
中山:
なるほど。そこはまだ未知であり、追いかけ続けるものでもあるんですね。近江さんの未来にどのような景色が広がっているのか楽しみですね。本日はありがとうございました。
近江:
ありがとうございました。

答えは、すぐには見つからないかもしれない。
それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。
思考を解き明かす対話は続く。
『Dialog Code』——次は、誰の思考に触れようか。







