Dialog Code
『論理的な野生──直感を生み出す緻密なロジックワーク』佐藤優奈 # Dialog Code
2026/04/01

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」
『Dialog Code』
強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。
今回登場するのは、
佐藤優奈(女子ラグビー選手・東京山九フェニックス所属)
【Before Dialog】
ピッチ上で誰よりも泥臭く、献身的に身体を貼り続ける佐藤優奈の姿に、観る者は「本能」や「野生味」といった印象を抱くことだろう。勝敗を分ける局面の只中で、ためらいなく闘うその姿は、たしかに直感的で衝動的ですらある。しかし、その内実を探っていくと、感覚だけでは説明できない構造的な「設計思考」があった。その場の勢いや偶発性に依存しているのではない。相手の特徴を細かく捉える徹底した分析、自身の状態把握、練習段階での反復によって構築された基準。それらによって、「野生」を発動できる条件がつくられている。言い換えれば、彼女のプレーに見られる即時性は、無意識の産物というより、思考によって身体化された判断の結果である。感覚的に見えるプレーをなぜ高い再現性で発揮できるのか。ラグビーという複雑な多変数競技を「育成ゲーム」と定義するその真意とは。さあ、彼女の思考を紐解いていこう。
【Code.1 - STATE】成功がもたらす拡張プロセス──思考の余裕を生む「まず1個」
中山:
試合中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、もしくは短い文章で表すとしたら、どのような言葉になりますか?
佐藤:
ほんわり程度の緊張感の中で、一番いいプレーができた後ですね。
中山:
「ほんわり程度」とは、どのような感覚なのでしょうか?身体的な感覚なのか、それとも思考的な話なのか。
佐藤:
思考的に近いのかな。基本的にあまり緊張しないタイプなんです。緊張しすぎて、うまくいかなかった記憶はあまりなくて。というよりは、全然緊張できないまま試合に入って集中できなかったり、試合に出ているのに傍観者みたいな気持ちになってしまうと、そういう時は全然良いプレーはできないです。でも、ほんのちょっとドキドキするくらいの気持ちで、最初は意識的に「一回良いプレーをしよう」という気持ちでやるんですけど、そこで一回良いプレーができたら、勝手に体が乗って、また良いプレーができるなと思いました。
逆に、判断がうまくいかない時はどんな時かなと思って考えてみたら、大体自分の中で準備の段階で、試合の流れや入りが決まるなと思っていて。例えば、アップでうまくいかなかったり、時間が短くて試合の整列まで急いで並んだり、いつも通りの準備ができない時や、余裕を持って試合に入れなかった時に、バタバタしちゃって集中しきれないで試合に入ると、あまり良い判断はできないなと感じています。
中山:
なかなか緊張できないタイプと仰っていましたが、「ほんわり程度の緊張」は何から生まれるのでしょうか?何に対して緊張感を持てると、ちょうどいい状態になるのでしょうか?
佐藤:
「絶対に勝ちたい」とか、 より相手を意識した時に緊張感が生まれるなと思っています。試合に向けて「全然緊張していないわ」と思う時は、 試合の前日か当日の時間がある時にもう一回相手の試合映像を見て、 自分がその試合に出ている局面を想像すると、ちょっとドキドキしてくるので、そういう時間を作るようにしています。
中山:
リアリティを持たせることで想像して、「これから始まる」というスイッチを自分で入れているんですね。
佐藤:
はい。試合の前日が一番緊張しているかなという感じです。
中山:
「一つ良いプレーが出た後に、良い状態に入っていく」という表現がありましたが、この良いプレーができる前後で、情報の入り方や周りの見え方などに変化はありますか?
佐藤:
すごくクリアな状態というか、気持ち的にも「今日はいける」と思えたり、「次はこれをしたい」とか「次はこうしなきゃ」みたいなことがどんどん浮かんできて、自然と動く感じです。
中山:
逆に、良いプレーができる前はどのような状態なのでしょうか?
佐藤:
そういう(良い)状況を作りたいのもあるから、その一発目のプレーとかを集中して決めたいという気持ちでやっていますし、うまくいかない時は、「まず一個だけ良いプレーをしたらあとは大丈夫」と思いながらやっています。
中山:
いかに一回良いプレーを出すかというのは、その日のパフォーマンスにかなり影響するんですね。
佐藤:
はい。基本的に波がない方ではあるんですけど、より集中できた時は、一個何か決まった後とかはすごく流れに乗れるかなと思います。
中山:
小さい成功という事実が、佐藤さんに影響しているように思えました。その「成功した」という事実が、その後の判断にどのような余白を生むのでしょうか?
佐藤:
やっぱり心に余裕ができるというか。「これを決めたい」と思って失敗した時に、「そんなはずじゃなかった」とか「やばい」みたいな感情に若干なってしまうんですけど、良いプレーができると、「あ、大丈夫だ」という気持ちになれて、心にも思考的な余裕ができるのかなと思います。
中山:
感覚的な余裕が発生することで、それが実際に思考にも波及して、「今日はいける」と思えたり、「これがしたい」というプレーのイメージが自然に出てくる。いわゆる「乗ってくる」みたいな感覚なのでしょうか?
佐藤:
そうですね。やっぱり上手くいかないと手詰まりみたいな感覚になるんですけど、うまくいくと「これもできるかも」となって、よりチャレンジングな選択ができるようになる。その成功率も上がるようなイメージです。

中山:
では、ミスをすると先細っていく感覚があって、うまくいくと先が広がっていく、拡張していく感じなんですね。先ほど、準備を余裕を持ってできないとあまり良くない、ミスをすると「こんなはずじゃなかった」と感じる話がありました。自分の想定から外れた時に、難しい局面に陥るのかなと今のお話を聞いて思ったのですが、想定外なことが起きた時はどう取り戻そうとしているのでしょうか?
佐藤:
うーん…結構それが自分の中では難しいポイントかなと思っていて。試合で大きい怪我をした時とか、本当にうまくいかないと思った試合を振り返った時って、準備の部分でどこかおかしい部分が多いんです。そういうところで、「良い試合に持っていくためには、どうしたら良かったんだろう」とよく考えることがあります。でもやっぱり、自分のいいところに立ち返るのは、一個安定したプレーを出すことなので、「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせながら、集中して一個良いプレーをしようという気持ちでやっています。
中山:
良いプレーを作れれば、そこから思考が拡張しますからね。先ほど、良いプレーがひとつ出た後は、「今日はこれがいける」とか「ああいうプレーがしたい」という感覚が自然と出てくると仰っていたと思うのですが、判断がうまくいってる時は、頭で選んでいる感覚か、体が勝手に行き先を知ってる感覚のどちらでしょうか?
佐藤:
あまり考えてないような気がします。多分、体が勝手に動くような感覚です。
中山:
ラグビーは複雑な戦術が多いと思いますが、個人で出すべきことと、戦術にのっとることの思考と感覚のバランスの理想はありますか?
佐藤:
スクラム、ラインアウトのように、一度プレーが止まってから再開するセットピースという局面では、すごく頭をフル回転させて、「今から何をしよう」と考えながらやっています。ですが、例えばジャッカルやタックルのような個人のプレーのところは、ほとんど考えずに、「あ、 いける」とか「今だ」みたいな感覚でやることが多いです。
中山:
試合中は戦略的に考えないといけない時と、ある種の野生的な感覚の両輪が必要なんですね。もし、佐藤さんが思考力か野生力、どちらが強い方がラグビーに向いていますかと聞かれたらいかがでしょうか?
佐藤:
難しいですね…(笑)でも、思考力なのかなと思います。私は結構野生タイプというか、あまり考えずにやってしまうプレイヤーなんです。だから、逆に何手先までも考えてできる人、例えばスタンドオフとかハーフの選手を見ていると、それはすごく大事なことですし、単純に羨ましいというか。自分にはできないことだから、そういう選手がいてくれることで、野生な人たちも活きているのかなと思います。
中山:
ご自身は野生タイプだと思いつつも、そういう観点で思考力の方が必要なんじゃないかと思うのですね。
佐藤:
はい。考えてプレーしてる人の方が、意図的なプレーができているような気がします。
中山:
自分のタイプを肯定するわけではなく、冷静に考えたら「こっちなのかな?」と思うということは、果たして佐藤さんは野生タイプなのか?と僕は疑問に思いました(笑)もしかしたら思考タイプだった可能性もあるかなと。
【Code.2 - EMOTION】不安を準備で塗り潰す──野生を駆動させる緻密な論理
中山:
試合前や試合中に生じる「緊張」や「不安」という感情は、佐藤さんにとってどのような存在ですか?
佐藤:
「緊張はある程度必要で、不安はなければないほど良いもの」です。
中山:
緊張は不安から発生することも多いと思うのですが、「不安はなければないほど良い」ということは、裏を返せば不安があるという見方もできるのかなと思いました。競技前に不安になる時は、どのようなことが頭に浮かびますか?
佐藤:
例えば、準備してきたサインやその対策みたいなものが、「本当にこれが通用するのかな」とか、「うまくいくのかな」「どうやったら勝てるんだろう」「本当にこの人たちに勝てるのかな」みたいに思うところから、不安が生まれるのかなという感じです。
中山:
結果的なところに不安が起きやすいのですね。
佐藤:
だと思います。多分。
中山:
一方で、選手によっては、自分が良いプレーができるか、つまり自分の評価に関して不安を持つ方もいらっしゃいますが、佐藤さんはいかがでしょうか?
佐藤:
確かに、「良いプレーができるかな?」と思うときもなくはないです。というよりも、「しないと」という気持ちの方が大きいです。
中山:
なるほど。「できなかったら」という不安よりも、「しないと」「やらないと」という思考の方が大きいんですね。だからこそ、そこに関して不安になる感覚は少ないのですね。
佐藤:
そうですね。「不安はなければないほど良い」と思ったのも、不安ってそれこそ準備不足から来ることなのかなと思っていて。例えば、「勝てるかな?」とか「これ通用するのかな」と思うのも、「これじゃ足りないかも」と思っている部分があるから不安になると思っています。「これだけやったから大丈夫」「これをやればいける」みたいな自信につながる準備やそのモノがあれば、不安にはならないのかなと思っていて。なので、「(不安は)なければないほど良い」のかなと思います。
中山:
「不安=準備不足」から生まれるものなので、「=準備不足はなければないほどいい」ということですね。
佐藤:
逆に緊張はネガティブなところだけから来るものじゃなくて、例えばワクワクや「勝ちたい」という闘志、メラメラや楽しみから来ると思うので、そういう感情はある程度入っていた方が試合は良くなるので、程よく必要だと思います。

中山:
確かにここまでの話を聞いていると、佐藤さんの中では不安というのはどちらかというと、マイナスをプラスマイナスゼロに戻していく作業なんですね。一方で、緊張はエキサイティングというか、興奮とかワクワクに近いものであって、もともとのべースが高くないからこそ試合が始まる時には、いかに火種を作って、自分を燃やせるかみたいなところが、パフォーマンスに影響するのですね。
とはいえ、「緊張できないタイプ」だと自分で気がつくのも、結構難しい気がします。周りがすごく緊張していたり、興奮していたりするのを、客観的に見ている自分に気づいたり、一定の経験や期間を経たからこそ、分かることでもあると思います。いつ頃から「緊張できないタイプだな」と思うようになったのでしょうか?
佐藤:
うーん…いつからだろう。代表活動するようになってから、そういうのは意識しているかなという感じです。でも今振り返ってみたら、緊張しすぎる時もあったんですよね。いつからしなくなったのかは分からないんですけど、緊張しすぎていた頃はチームの先輩に「優奈は練習試合が一番パフォーマンスいいよね」と言われて。程よく緊張していても楽しめるみたいな。
でもその頃はチームに入団して間もなくて、公式戦になると会場の雰囲気だけでもドキドキしていました。7人制だったので、より個のプレーがチームの結果に影響するのもあって、すごく緊張しすぎて良いプレーができなかった経験もありました。でも、15人制になってからは、ひとりのプレーの影響ももちろん影響は大きいんですけど、よりチームでやることが多いから、安心感っていうのかな。ちょっと分からないです。
中山:
過去には緊張しすぎた例もあったのですね。
佐藤:
今振り返ったらありました。15人制はほとんどないんですけど、7人制は緊張していたなと。
中山:
自分への負荷や責任の量のようなものが、緊張を生み出すときがあるのですね。
佐藤:
はい。一番良くない意味で緊張できなかった試合が、2022年のワールドカップ前のニュージーランドとのテストマッチです。95-12で大敗した試合で、「ニュージーランドとやったら絶対に緊張する」と逆にすごく身構えていたのか、相手の雰囲気に圧倒されていたのか、自分でも分からないんですけど。
試合前に相手がハカをしてくれた時も全然気持ちが入らなくて、「あ、なんかハカしてるな」みたいな感じで。試合に入っても自分がプレーしているのに、試合をしている気持ちになれないというか。多分本当に力の差がありすぎたというのもあると思うんですけど、試合のグラウンドに立っているのに、半分傍観者みたいな気持ちでプレーしていたことがありました。その時は、「やばい、全然集中も緊張もできてないわ」と思った記憶があります。
中山:
先ほども、「傍観者」というワードが出てきましたけど、一歩引いて見ている時があるのですね。
佐藤:
そうですね。のめり込めてないというか、地に足がついていないというか。ふわふわしている感覚があるとダメだなとよく思います。
中山:
どちらかというと野生タイプだと考えた時に、野生タイプが傍観者なら確かに弱そうですよね(笑)。
佐藤:
メラメラ度が足りてないというか(笑)
中山:
メラメラした感覚を自然に作るために、事前に動画を見たり、自分が試合をしている場面を想像しているんですね。それ以外に、先ほど「不安=準備不足」というお話がありましたけど、試合当日までに不安をできるだけゼロに近づけるために、例えばどんな準備をされていますか?ルーティンや思考の整理の仕方があれば聞きたいです。
佐藤:
ルーティン…何だろう。でもその相手の分析をしたり、プレー面以外のところでも細かく見て対策して、グラウンド外でもしっかり準備するようにしています。例えば、フィジカルのトレーニングでギリギリまで追い込んで、「これだけやったから大丈夫」と思えるぐらいまでやります。ラグビーの面でも分析した上で、「この相手に勝つためにはこれが必要だ」と考えながら練習するようにしています。練習でめちゃくちゃ考えてやっていると、試合になった時に勝手に体が動ける状態になっているんです。そうなるためにも、練習の時はいっぱい考えて、数をこなしてやるようにしていると思います。
中山:
プレー映像を見て対策するという話がありましたが、ラグビーはセットプレーがかなり戦術的だと思います。何かメモを取ったりすることはあるのでしょうか?
佐藤:
そうですね。ノートには結構びっしり書いています。分析は自分でもチームとしてもやっていて、専門分野ごとに選手がやってくれて、それをみんなでまとめたりもしています。自分の専門分野もあって、特にラインアウトを含めたセットピースの部分にはすごく重きを置いてやっているので、そういうところは本当に何回も見返します。相手が絶対こういうオプションでやってくるとか、それに対してこのサインが使えそうだとか、そういうことをコーチともかなり話し合いながら考えてやっています。

中山:
先ほど「思考力か野生力か」と聞いた時には、ご自身のことを野生タイプだと仰っていましたよね。ただ、練習では「何が必要か」をかなり考えて、そこを徹底的に詰めてトレーニングしている。そうやって準備しているからこそ、試合で似たようなシチュエーションになった時に、勝手に体が動く状態を作れているのだなと感じました。
そう考えると、練習や準備の段階ではかなり思考力タイプというか、実はすごく考えている人なんだろうなと思いました。それがあるが故に、試合においては野生力が発揮されているという順番な気がしたので、この使い分けは面白いなと思いました。
佐藤:
言われてみたら確かにそうですね。
中山:
だからこそ、先ほど「思考力が重要だ」とおっしゃっていたんだなと思いました。つまり、そこを考えずに練習をただ言われた通りに、感覚的にやっているだけだと、試合では良いプレーはできないということですよね。
佐藤:
はい。その精度でできないというか、求めている精度ではできないと思います。例えば低さとか、そういうのを練習からないがしろというか、適当にやっていたりしたら、試合でやりたいと思った時にそれができないと思うんです。だからこそ、練習でも試合で出したいスタンダードというか、そのレベルでやり続けることが大事かなと思ってやっています。
中山:
なるほど。例えば、小学生の女の子が佐藤さんを見て、「私も佐藤さんみたいな野性味あふれるプレーがしたい」と思ったとしたら、少しだけ見え方がずれているのかもしれないですね。確かに表に出ているのはそういうプレーだけど、本当はその裏でかなり考えているんだぞ、ということがこの記事でちゃんと伝わったらすごくいいなと思いました。
その選手がどう見られているかとか、どんなタイプだと思われているかは、表に出るグラウンド上の姿で決まりやすいですよね。でも深掘っていけば、「この選手も、これだけ考えているんだな」とか、「こんなことを頭の中で整理しているんだな」とか、すごくいい意味でギャップがあるので、これらを外に発信できるとすごく価値があるなと感じました。
佐藤:
確かにそうですね、正しく伝わると嬉しいです。
【Code.3 - COGNITION】「育成ゲーム」の攻略法──生き残るためのメタ認知
中山:
佐藤さんにとって、ラグビーという競技はどのような「ゲーム」だと捉えていますか?
佐藤:
「育成ゲーム」だと思っています。
中山:
なるほど。その意図を教えてください。
佐藤:
自分でも「ゲームって何だろう?」って思いながら、ゲームで考えたら「育成」かなと。競技というよりも「自分」を捉えた時に、ラグビーをしているのも成長し続けたいし、まだ成長できる部分があるから楽しいし、「もっとやりたい」と思えるからなのかなと思いました。
あと、他のスポーツのことはあまり詳しくないんですけど、 ラグビーはスポーツの中でも要素が多いスポーツかなと思っています。例えば、ウェイトトレーニングも全身やらなきゃいけないし、ラン、アジリティ、ジャンプ、パス、キック、コンタクトみたいな感じで、すごくいろんな要素が含まれていて、その中で相手に勝つために、強い選手になるためには全部100%でできたらベストですけど、人によってはそうじゃないと思います。自分にとっていろんな要素がある中で何を一番大事にして、何を伸ばして、どういう苦手な部分を克服していくのかを考えながら、そのバランスを自分で決めて、自分の武器を見つける競技だと思っているので。そういう意味では、個々の「育成ゲーム」かなと思って回答しました。
中山:
「自分を成長し続けたい」「まだ成長できる」と思っている観点、要素として育成すべき項目が多いという観点、その中で何を伸ばして何を改善し、そのバランスを保つのかという少し戦略的な観点。それらを踏まえたときに、「育成ゲーム」というワードが一番しっくりきたのですね。先ほども「傍観者」という言葉が話に出てきましたけど、自分自身をある種「育成対象のキャラクター」のように俯瞰して見ているような感覚があるのではないかと思ったのですが、どう感じますか?
佐藤:
俯瞰して見れていないことの方が多かったんですけど、ここ数年はやっぱり客観的に見ることが大事だなと思うようになりました。それこそ若い時は、本当に何も考えずにただやる、全部全力で頑張るような感じでした。でも、その中でも上で残っていくためには自分の揺るがない武器が必要だし、考えてやっていかなきゃいけないなと思って、客観的に捉えられるようになりたいと思っています。まだまだできてはいないと思いますが、意識するようにはなってきています。
中山:
何も考えずに100%全力でやることは、いわゆるアスリート的なマインドやスタンスも含めて、それが「できる人」と「できない人」に分かれると思うんですよね。当然、残っていく選手というのは、没頭できたり、100%やり続けられることができると思います。さらに、その中で生き残るには「これだけじゃ足りない」というような気づきが現れた印象があったのですが、「生き残るには」ということを考え出したのには何かきっかけがあったのでしょうか?
佐藤:
やっぱり代表に選ばれるようになってから、より考えるようになりました。あとは、2023年頃に前十字靭帯の怪我をして、「代表に戻りたい」と思った時に、「どうやったらこの怪我の状態から代表に戻って復帰できるか」と結構考えてやっていたかなと思います。
中山:
代表がきっかけになったのと、前十字という壁が出てそこから戻るってなった時に必要だという認識になったんですね。「育成」というキーワードが出てきましたが、育成ゲームという観点で今の自分を見たときに、今はどの項目を一番重点的に上げているフェーズなのでしょうか?
佐藤:
それこそ「鍛える」とか「やり込む」みたいなことは、日頃から結構頑張ってきた部分だと思うんですけど、体の使い方や柔軟性とかの繊細な部分は気を遣わずにやってきたタイプでしたここ数年は、15人制のシーズンが終わったら、代表活動や海外に行って、「次はあの試合、この試合」みたいな感じで時間がなかったんですけど、今は15人制に向けて準備する時間があるので、体の使い方とか目を向けてこなかった部分に焦点を当てて頑張っているところです。
中山:
そこが上がると、プレーにどう影響すると考えていますか?
佐藤:
なんていうんだろう。私は「パワー!」みたいな感じでプレーするタイプなので、「出し続けること」だけが選択肢でした。でも体の使い方が上手くなると、その力を抜く瞬間や力の出し入れがよりスムーズになったり、より体がしなやかになることでパフォーマンスの幅も広がるのかなと思って今チャレンジしています。
中山:
幅を広げるために、操作性のところを上げようとされているのですね。
佐藤:
そうですね。力の強弱をコントロールをせずにプレーしてしまっているので、そういう部分が向上すると、もっといい選手になれるのかなと思っています。

中山:
佐藤さんは代表に選ばれたことがきっかけで、「生き残るには」「自分の武器をどうするか」など、思考力の重要性や客観性を身に付けられたと思います。
そして、戦略的に自分というキャラクターで、どうポジションを取っていくか、どうやって売り出していくかというような、ビジネス的な思考や客観性はすごく重要だと思います。でもこれは、プロになってから初めて知ることでもあると思うんですね。そのプロセスを経験した佐藤さんだからこそ、プロを目指している中高生がいた時に、思考力や客観性の重要性はどう伝えますか?
佐藤:
難しいですね。思考力のところは、私が中学生、高校生の時に同じことを言われて今くらい考えられるかと聞かれたら、その時はその時で一生懸命考えていても考えきれない部分があったと思います。個人的には若いうちは自分の制限をかけないで、いろんなことにチャレンジするのが一番大事なのかなと思います。
私は結構不器用なので、自分のできることだけに集中してやってきたんですけど、この世代でレベルが高い人は、いろんなポジションを経験してきたり、いろんな人に教えてもらったことがある人なのかなと思います。なので、吸収できることは全部吸収した上で、必要になったタイミングで「自分はその中で何を選ぶか」と考えた方が可能性は広がると思います。ある意味、「考えすぎること」は必要じゃない時期かなとも思います。
中山:
どちらかといえば、考えるよりもまず制限をかけないでいろんなことにチャレンジすること。自分でそれを吸収していきながら、ある時は捨ててみたり、取り入れてみることが大事だと考えているのですね。
佐藤:
この年になって新しいことをやりたいと思っても、それを習得するのにすごく時間がかかってしまいますし、習得しきれないことが出てくると思います。でも、若いとそういうのもまだやりようがあるのかなと。例えばステップやキックとか、絶対に今の私にはできないことですけど、もし若い頃にチャレンジしていたら今は違ったのかなと思ったりもすることもあるので、いろんなことをやってほしいなと思います。
中山:
ゆくゆくは考えて自分に引き出しを作って出し入れするために、まずはたくさん引き出しに入れてみようということですね。
佐藤:
それが一番いいと思います。やっぱり捨てることは簡単だけど、入れることはなかなか難しいと思うので。
中山:
今のは深いですね。特に「入れる」ことは、歳を重ねるごとに難しくなっていきますよね。
【Code.4 - VISION】未完の60%──ノルマ設定と分析が導く、後悔なきエンディング
中山:
この競技を続けていった先に、どのような状態や景色に辿り着いていたいと考えていますか?
佐藤:
4つあります。「これが本当の自分の限界なんだ、やり尽くしたと思える状態」、「たくさんの人が応援してくれる、ラグビーを通して誰かの心を動かせるようになっている状態」、「言語化できるほど、自分のスタイルを確立して自分にしかできない、教えられないものを何かしら持っている状態」、「世界でベスト8以上になり、世界レベルでも絶対的な強みを持っている状態」です。
中山:
「やり尽くした状態」が一番最初に出てきたところは、すごく佐藤さんらしいなと思いました。その「やり尽くした」と思えるために、自分に課している最低限のノルマは何でしょうか?
佐藤:
日々のことでいうと、毎回、前回の自分を超えられるようにやってますね。例えば数値的な部分でいうと、ウェイトの重さでも何キロでもいいから、前回持った重さよりもちょっとでも重いものを持ってやるとか。走りのタイムでいうと、1秒でもいいから前回より良いタイムを出すとか。プレーは数値で測るのは難しいんですけど、「今日はこれがやりたい」と決めたことを絶対に達成すると決めてやっています。
やらなければいけないことでいうと、世界で勝つために、試合前は相手の分析などをするんですけど、常日頃から「世界を意識してるか」と聞かれたら、まだ足りない部分があると思います。なので、自分が勝ちたいとか戦いたい相手を知ることを、もっと頑張りたいと思っています。そのために、試合を見る回数をもっと増やしたり、選手の情報を仕入れたりすることを頑張りたいです。
中山:
なるほど。まさにこれをやっていかないと最後やめるときに、「やり切った」「やり尽くした」と言えなさそうですね。
佐藤:
そうですね。

中山:
「自分にしかできないプレー」という表現もありましたが、その片鱗は今すでに見えていますか? もしくは、まだ足りない、まだ作っていかなきゃいけないフェーズですか?
佐藤:
「作っていかなきゃ」という感じです。まだ考え中ですがど、ポジション的にセットピースの局面で大事な選手になるので、そのラインアートの部分で、もっとラグビーIQを上げられるようになりたいです。プレーのところでも、ポジション的に自分は身長もそこまで高くなく、日本でももっと大きい人がいる中で、何だったら絶対的に勝てるかを今考えながらやってるところです。
中山:
佐藤さんほどのご実績があったとしても、いい意味で「まだ全然感」があるなと感じるのですが、この姿が見つかった状態を100%だとしたら今は何%ですか?
佐藤:
60%ですかね。
中山:
育成ゲームとしては、最高の位置にいますね。
佐藤:
そうですね。残りの競技人生を考えたら、ちょうどいいかもしれないです。
中山:
残りの40%を、加速度を上げて埋めていきたいですよね。そのために今の自分が一番必要なことはなんだと思いますか?
佐藤:
難しいですね。やっぱり、客観的に自分を見て分析することですかね。結構相手の分析とかはしてきていますけど、実際自分がどうなのか、もっと客観的に見て相手と比べて、「これなら勝てる」というものを見つけていきたいです。ここまでひたすら突っ走ってきて、その局面で「相手に勝ちたい」「絶対負けたくない」みたいな気持ちでやってきた部分があったので、それを今度はもっとロジカルに考えて、客観的に見れたらもう一個上にいけるかなと思っています。
中山:
「相手を知る」「世界を知る」「試合を見る」という話がありましたけど、自分という話に立ち返って、60% から100%に近づけるために一番やるべきことは、自分の研究や分析のところになるのですね。ちなみに、この40%を埋めるスピードを今よりも2倍、3倍速くするために、必要な協力者は誰だと思いますか?
佐藤:
やっぱり自分が知らないことや、持っていない技術を持っている人に教わりたいなと思います。あとは国内レベルだったら、「絶対に自分が一番になりたい」「一番でありたい」と思ってやっているので、自分よりも強い選手ですね。
中山:
「ラグビーを通して誰かの心を動かせるようになっている状態」という回答もありましたが、佐藤さんのどんな姿を見せることが、誰かの心を動かすことに繋がると思いますか?
佐藤:
私はあまり派手なプレーができるタイプじゃないので、 泥臭さや献身的なプレーで心を動かせたらいいなと思います。きついことや嫌なことをずっとやり続けられるプレイヤーでいたいです。
「どこにでもいるじゃん」みたいに思われる選手になれたらいいなと。どこの局面にも関わっていて、「こっちにもいたのに、あっちのプレーにもいるじゃん」と思われるくらい動き回って、一つひとつのプレーを印象付けられる選手になれたら最高だなと思います。

中山:
最終的に、世界レベルでの絶対的な強みを確立した佐藤さんがいるとしたら、その時に目に映る景色は、今とどう違っているのでしょうか?
佐藤:
今はやってみてうまくいくこともありますけど、やっぱりうまくいくことの方が少なくて、「あの瞬間が楽しかった」みたいに感じることはあります。世界レベルになると悔しいことの方が多いんですけど、多分そのレベルまでいけたら、試合が終わった後も「あ、良い試合だった」「楽しい」とか、プラスの感情がもっと多くなるのかなと思います。
やっぱり大きい試合だと「あの時もっとこうすれば良かったな」と思って、勝っても反省することが多いんですけど、もっと自分のやりたいプレーの再現性が上がったら、反省よりも「次はもっとああしたい」というポジティブな感情の方が多くなると思うので、そうなりたいです。
中山:
そうなると、ストイックな努力の先で、誰よりも純粋にラグビーを遊び尽くしている佐藤さんの姿が目に浮かびますね。残りの40%を埋めていくそのプロセス自体が、最高にエキサイティングな挑戦になりそうです。100%の佐藤さんが世界を驚かせる瞬間を、今から楽しみにしています。今日は貴重なお話をありがとうございました!
佐藤:
ありがとうございました!
【After Dialog】
佐藤優奈というプレイヤーの本質は、ピッチ上で爆発する野生そのものではなく、その野生を発動させるための「思考力」と「客観力」にある。彼女の鋭い嗅覚は、一朝一夕で生まれた産物ではない。相手の徹底した分析、数値化されたフィジカルの更新、そして自己の多角的な客観視。そうした論理が集積して初めて、思考は身体へと溶け込む。そこで解放される純粋な「野生」こそが、ハイパフォーマンスの極地へと導くピースとなっているのだ。今現在の自身の完成度を「60%」だとストイックに分析する彼女の視線は、すでに残りの40%を埋めるための具体的なパラメータへと向けられている。ロジックによって限界を突破し、再現性の高い直感を磨き上げた先に待つ、「誰かの心を動かせる」という境地。その進化の加速度がさらに上がったとき、世界は真の「論理的な野生」を目撃することになるだろう。彼女が「やり尽くした」と確信してエンディングを迎えるその日まで、この「育成ゲーム」は終わらない。『Dialog Code』
答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
佐藤 優奈(さとう・ゆな)
1998年9月11日生まれ、宮城県出身。
女子ラグビー選手。東京山九フェニックス所属。
小学5年時から地元の古川ラグビースクールで競技を始める。中学時代は陸上競技で県大会優勝を果たすなど高い身体能力を示し、セブンズのアカデミーへの選出を機に本格的にラグビーの道へ。島根の強豪・石見智翠館高校へ進学後は、BK(バックス)からFW(フォワード)へ転向。3年時にはゲームキャプテンとして、全国高校選抜で4連覇に貢献した。慶應義塾大学進学と同時に東京山九フェニックスに加入し、2019年に15人制日本代表(サクラフィフティーン)で初キャップを獲得。2022年のラグビーワールドカップでは全3試合に先発出場し、2023年にはオーストラリアの「スーパーW」ウェスタン・フォースでもプレーし、海外での経験を積んだ。昨年は東京山九フェニックスの主将として、全国女子ラグビーフットボール選手権大会3連覇を成し遂げた。同年開催されたワールドカップイングランド大会でも主力として活躍を見せた。激しいコンタクトと突破力を武器とするプレースタイルから、愛称は「ダイナソー」。【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。
JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。






