Dialog Code
『楽しむために、今日をやりきる──自然体でサッカーと生きる競技人生』 #神谷優太 Dialog Code
2026/6/10

「対話が変われば、スポーツはもっと変わるのか?」
『Dialog Code』
強くなるために必要なのは、トレーニングや技術だけではない。アスリートが自分自身と向き合い、考え、気づくことで、次のステージへ進む鍵を探る対話記録。
今回登場するのは、
神谷優太(サッカー選手・ファジアーノ岡山所属)
【Before Dialog】
神谷優太のプレーには、遊び心がある。相手の意表を突くパス、突然振り抜くミドルシュート、狭い局面で見せるひらめき。その一つひとつには、サッカーを好きであり続けてきた選手ならではの自由さが表れている。ただ、その「楽しさ」は、単なる感覚や勢いだけで生まれているものではない。思い描いたことを自然にプレーへ反映させるためには、日々の練習でチャレンジし続けてきた自負がある。そして、うまくいかない時には自分のプレーだけに閉じこもらず、チームのために走り、戦うことで、もう一度自分をピッチへ戻していく。若い頃は、自分が上へ行くことを強く求めていたが、プロの世界で思い通りにいかない時間を過ごし、怪我や移籍を経験し、家族を持ち、多くの人の言葉に触れる中で、彼の視点は少しずつ変化していった。楽しむこと、勝負すること、誰かのために走ること。それらは別々のものではなく、今の彼のプレーを支える一つの土台になっている。サッカーを楽しむとは、どういうことなのか。緊張や不安を抱えながら、なぜ自然体でピッチに立てるのか。そして、キャリアの終わりに「やりきった」と思える状態は、どのように作られていくのか。さあ、彼の思考を紐解いていこう。
【Code.1 - STATE】楽しさの実践知───自然体のひらめきをプレーに還元する
中山:
試合中、判断がうまくいっている時のご自身の状態を、一言、もしくは短い文章で表すとしたら、どのような言葉になりますか?
神谷:
「楽しめている時」です。
中山:
「楽しめている時」とは、具体的にどのような感覚なのですか?
神谷:
試合中に自分が思っていることや考えていることが、そのままプレーに反映されて上手くいった時に、自然と笑顔が出ます。そうやって自然に笑えている時が、一番ゾーンに入っているというか、良い状態なのかなと思っています。
中山:
思っていることや考えていることが、そのまま自然にプレーに反映される感覚なのですね。
神谷:
そうですね。以前、妻に「笑っている試合が多い時って、調子いいよね」 と言われたことがあるんです。笑おうと意識してやっているわけではないのですが、きつい時や上手くいかない時はどうしても苦しい顔ばかりになってしまいます。逆に、上手くいっている時や調子がいい日は、楽しんでいる雰囲気が自然と出ているのかなと思います。
中山:
奥様からの客観的な見え方は、非常に面白いですね。
神谷:
あまりそういう指摘はされたことがなかったので。意図的に狙って意識しているわけではないのですが、自然と出た笑顔が、良い状態のサインなんだなというのは試合中にも思ったりします。
中山:
では、「楽しめている時」は判断やプレーの選択に何か変化はありますか?
神谷:
特に大きな変化は感じないのですが、最初のワンプレーで良いプレーができると、その後もずっと調子がいいことが多いです。その時はやっぱり、サッカーを楽しめているなと感じます。もちろん、試合で一生懸命やるというのは当たり前のことなのですが、その中でも色々な状況を楽しめているのかなと思います。
中山:
試合前に、意図的に楽しもうと意識付けをするのでしょうか? それとも、結果的に楽しくなるものなのでしょうか?
神谷:
試合のギリギリまでスイッチが入っているのかどうか、自分でも分からないような状態なんです。試合前に「緊張したらどうしよう」「ミスしたらどうしよう」と考えすぎてしまうと、余計に悪い方向に進んでいってしまうと思うので。
もちろん、相手チームの情報や戦術、自分がピッチ内でやらなければいけないことは頭に入れて試合前を過ごしますが、基本的にはリラックスして、自然な状態を作っていることの方が多いですね。
中山:
結果的に楽しんでいる状態がベストではありつつも、楽しむことに意図的に強い意識を向けているわけではないのですね。
神谷:
そうですね。そこまで意識はしていないです。ただ、試合で楽しむためには日頃の練習からしっかり取り組んで、プレーを上手くいかせるための準備が大事になってきます。そういう意味では、普段の練習から楽しんでやれているからこそ、それが試合でも自然に出ているのかなと思います。

中山:
逆に、「楽しめていない時」はどのような状態ですか?
神谷:
やっぱりプレーが上手くいかない時や、きつい時ですね。そういう時は、「より頭を動かしているな」と思います。楽しさというのは無理やり作り出すものではないと思うので、試合の90分間の中で、絶対に苦しい時間帯はあります。そういった時は「しっかりチーム全体で乗り切ろう」という方に頭を切り替えますが、個人としてのプレーだけで言えば、楽しむことはすごく意識しています。
中山:
神谷さんが「今日は楽しめていないな」と感じる状況から、少しでも試合に入り込むために意識していることは何ですか?
神谷:
無理やり楽しんでいる状態に戻そうとすると、余計にプレーがおかしくなってしまうと思います。そういう時こそ、「チームのために走ろう」「戦おう」という部分に意識を向けます。
中山:
そちらに意識を向けることで、どんな良い影響が生まれるのでしょうか?
神谷:
チームのために戦うと決めれば、より体を張れるようになります。そういったハードワークの部分を意識して走っていると、徐々に体が動くようになってくるんです。それが結果としてチームに良い影響を与えますし、最終的には自分自身のプレーにも良い影響として返ってくるので、そこは強く意識していますね。
中山:
自分個人から、チームの方へと視点をずらすのですね。
神谷:
もともとチームのためにという思いは持っている方なのですが、何をやっても上手くいかない日は、ひたすらに、がむしゃらにやるしかないと思っています。
中山:
神谷さんのプレーを見ていると、独特の「ひらめき」や「遊び心」を感じます。このプレースタイルは、サッカーを楽しむことと繋がっているのでしょうか?
神谷:
そうですね。小さい頃からサッカーが好きで仕方がなかったので、根底に「サッカーを楽しむ」という感覚がずっとあります。遊び心は、今でも忘れずにプレーしていますね。
中山:
神谷さんといえば、突然狙う強烈なミドルシュートや、意表を突くスルーパスのイメージがあります。こういったプレーは、「ここで狙おう」と頭で細かく考えているのですか? それとも、直感的に気づいたら体が動いている感覚ですか?
神谷:
「この状況なら、ここは一本シュートを打っておかないとな」というように、狙っている部分もあります。ただ、ちょっとした狭いスペースでの遊び心や、相手ディフェンダーとの駆け引きといった部分は、小さい頃からずっとやり続けてきたものが体に染みついて、癖として出ているのだと思います。そういった部分の遊び心は、常に忘れないようにしていますね。
中山:
プロとしてのキャリアを重ねていく中で、緊張感の漂う試合や重圧がかかる大一番を何度も経験されてきたと思います。覚悟が求められる試合でも、縮こまらずに「楽しむ」ためには、何が必要だと思いますか?
神谷:
楽しむために何かをしようと考えたことがないので、上手く言葉にできるか分からないのですが……。僕にとっての「楽しむ」というのは、ただワイワイとふざけて楽しむという意味ではないんです。一生懸命頑張ったその先にしか、本当に楽しむことはできないと思っています。
だからこそ、ここ最近の大事な試合では、チームのためというのはもちろんですが、家族など、自分の大切な人のために戦うということをすごく強く意識しています。この大一番で自分がもう一歩頑張れたら、家族を幸せにできると思えることが最近は大きなエネルギーになっていますね。
中山:
「最近は」という言葉がありましたが、プロ入り後と現在とでは、思考の変化があったのでしょうか?
神谷:
プロに入った20歳前後くらいの頃は、もうイケイケでしたね(笑)。とりあえず自分がやりたいプレーをやって、自分が上に行くことしか考えていませんでした。でも、プロの世界はそんなに甘くなくて、上手くいかない苦しい時間が長く続いたんです。
その時に色々と考えるようになって、人の話に耳を傾ける機会がすごく増えました。それはサッカー選手だけではなく、色々な職業の方たちと付き合いをさせてもらう中で、たくさんの大切な価値観を聞くことができたからです。
中山:
様々な分野の方々との出会いから意識が変化し、それがピッチ上での新しいパワーに変わっていったのですね。
神谷:
そうですね。スポーツ以外の視点に触れて、「会社経営ではこういうことが大事なんだ」「サッカーに繋がるか分からないけれど、この考え方は面白いな」と思うことがたくさんありました。自分の中に色々な思考を持つことは、すごく良いことだなと感じています。
中山:
個人として調子が良くない時には「チームのために走る」、緊張感が高まった試合では「家族やファンを喜ばせたい」と思えるなど、神谷さんの中で困難を乗り越えるための引き出しが段々と増えている印象を受けます。
神谷:
若い時は「自分が良ければそれでいい」と思っていた部分もありましたし、それでもパワーがあって良いのかもしれません。ただ、サッカーはチームスポーツなので、今は周囲との繋がりをすごく大切に考えるようになりました。
【Code.2 - EMOTION】邪魔で、必要な感情───緊張と不安を抱えながら、自然体を取り戻す
中山:
試合前や試合中に生じる「緊張」や「不安」という感情は、神谷さんにとってどのような存在ですか?
神谷:
邪魔な存在である一方、なくてはならないものでもあるので、「うまく付き合っていく存在」です。
中山:
「邪魔な存在」という表現が印象的ですが、具体的にどのように邪魔をしてくるのですか?
神谷:
僕、すごく緊張しがちなんですよ。それこそ試合前とかは不安も大きくなります。人間って、嫌なことや「ミスしたらどうしよう」ということを考え出すと、それが頭の中で最優先に出てきちゃうじゃないですか。なので、感情としては「本当にいらないな」と思うんです。
ただ、逆に緊張感や不安がなさすぎると、地に足がついていない感覚になってしまうので、そのバランスが難しいなと思いますね。ただ、やっぱり僕としては「いらないな」と思います。
中山:
神谷さんの場合は、試合前にどのようなことから緊張や不安が発生しますか?
神谷:
「ミスをしたらどうしよう」「こうなったら嫌だな」という想像からですね。だからこそ、そうならないように日頃の練習でトライして、ミスして、またトライすることを繰り返しています。よくトライ&エラーと言いますが、それを繰り返して不安を消していくことが大事だと思っています。
ただ、過去に自分がやってしまったミスで、直接失点に繋がってしまったことによる不安は消そうと思っても消せるものではありません。だからこそ、ひたすら練習することが大事かなと思っています。
中山:
緊張や不安のピークは、どのような瞬間にきますか?
神谷:
緊張や不安を大きくしないために、普段から「自然体でいること」を意識しています。早い段階からスイッチを入れすぎてしまうと、緊張や不安を感じる時間が長く続いてしまいます。でも、逆に試合の直前すぎると今度は集中しきれない自分がいるので、入場口に並んでいる時くらいから徐々にスイッチを入れ始めます。
ただ、ここ最近は緊張や不安を感じることがあまりないんですよね。子どもが生まれてからは「この子のために頑張ろう」という思いが強く、ひたすら没頭できているからです。
あとは昔、自分がすごく緊張しがちだった頃に、誰に言われたかは忘れてしまったのですが、「ミスしても死にはしないから」と言われたことがあって。それを聞いた時に確かにそうだなと思い、それ以来ミスを恐れなくなったなと感じています。
中山:
緊張するタイプという自認があるのは意外でした。
神谷:
昔は本当に、めちゃくちゃ緊張しがちでしたね。

中山:
学生時代やプロ成り立ての頃は、どのような緊張や不安を抱えていましたか?
神谷:
プロになったばかりの時は、本当に右も左も分からなかったので、すべてのことに緊張していました。「ボールを持ったらどうしよう」と、頭の中で余計なことを考えていました。
でも、だんだんと試合を重ねて経験を積んでいくうちに、そういう余計な思考は少しずつ少なくなっていきました。最近は、緊張や不安がゼロではないにしろ、昔ほど感じることはなくなりましたね。
中山:
これまでは、緊張や不安とはどのように向き合ってきたのでしょうか?
神谷:
正直に言うと、強がっていました。メディアに出る時とかも、「いや、全然緊張してないですよ」というように、余裕のある雰囲気を出していましたが、内心は緊張していました。緊張している姿を見せると、表情にも弱さが出そうだったので強がっていた自分がいます。
中山:
あえて虚勢を張ることで、プロとしての戦闘モードに引き上げていたのですね。
神谷:
そうですね。あとは強い気持ち自分がやってやるんだという思いだけで、なんとかやっていましたね。
中山:
もし、緊張して不安を持っている若い頃の自分に対してアドバイスを送るとしたら、どんな声をかけますか?
神谷:
「そのままでいいんじゃない?」と言いますね。その緊張や不安ありきで、「自分」だと思うので。あまりそこに抗おうとせず、探り探りでいいんじゃないかなと思います。
中山:
自然体を大切にされている、神谷さんらしい回答ですね。
神谷:
あの時の苦悩がなければ、今の自分もいないと思うのでそう答えますね。
中山:
一方で、緊張に対して「なくてはならないものでもある」ともおっしゃっていました。神谷さんにとって、「良い緊張」とはどのようなことを指すのでしょうか?
神谷:
状態が良い時は、緊張しているのかどうかすら分からなくなるんです。それこそ、「楽しんでいる状態」に入り込めているので、意識すらしていないと思います。その時は、緊張という感情と上手く付き合えているのかなと感じます。
中山:
お話を伺っていると、今の神谷さんは緊張という感情に対して過剰に囚われていない印象を受けます。
神谷:
そうですね。ただ、その緊張が強く出すぎるとやっぱりいらないなと思ったりはしますね。
中山:
周囲からは、緊張や不安とは無縁だと思われていそうですね。
神谷:
すごく思われますね。ここ最近はそこまで大きな緊張はないので、周りからそう見えるのも分かるのですが、若い時はとにかく見せないようにしていました。
中山:
アスリートの多くも葛藤を抱えていて「それをどう受け流すか、どう活かすか」というプロセスと向き合うことがありますよね。こういうリアルな内面が、もっと世の中に発信できるといいなとも感じました。
神谷:
今でこそこういう取材で素直に話せますが、昔の若い自分だったら「緊張なんて全くないですよ」と言っていたかもしれないです。なので、こうして話せるようになったということは、経験を積んできたからなのかなと思います。
【Code.3 - COGNITION】経験値で回すルーレット───努力とトライ&エラーで、人生を前へ進める
中山:
神谷さんにとって、サッカーという競技はどのような「ゲーム」だと捉えていますか?
神谷:
「人生ゲーム」です。
中山:
「人生ゲーム」だと表現された理由を教えてください。
神谷:
僕は3歳くらいからサッカーを始めて、今まで本当にサッカーしかやってこなかったので、自分にとってサッカーは人生そのものです。その中で嬉しいこともたくさんありましたけど、同じくらい辛いことも多かったです。人生ゲームのマス目で言うと、「何歩進んだら苦しいことがある」というようなイベントが本当にたくさんありました。なので、自分のこれまでの歩みをそのまま反映できる「人生ゲーム」だと思いました。
中山:
これまでキャリアの中で、環境を変える決断を幾度も経験されていると思うのですが、そうした選択はゲームの感覚に近い部分もあるのでしょうか?
神谷:
ゲーム感覚ではないのですが、人生ゲームはルーレットを回すじゃないですか。そこで出た目が自分の運命なのだとしたら、ちょうどその止まったマスに用意されていたイベントが、僕にとっては「移籍」だったという感覚に近いかもしれません。
移籍をする時は、もちろんすごく色々なことを考えるのですが、僕は最初にオファーをくれたチームに気持ちが持っていかれやすいタイプなんです。そういったところも含めて、「人生ゲーム」らしさがあるなと感じますね。
中山:
では、この「サッカーという名の人生ゲーム」を上手く攻略していくために、最も必要なものは何だと思いますか?
神谷:
人生ゲームと同じかどうか分からないですが、「経験値」だと思います。僕は小さい頃から、人一倍努力をしてきた自負があります。厳しいトレーニングや自主練を積み重ねないと、次に進めないと思っていたからです。ルーレットを勢いよく回すためには、経験値が必要だと思っています。

中山:
何かのスキルや要素というより、自己体験による経験値の積み重ねが必要だと考えるのですね。では、競技特性の観点で言うと、神谷さんにとってサッカーはどんなゲームですか?
神谷:
「頭脳ゲーム」ですね。僕はデュエルなどが得意なタイプではないのでそう思います。人によっては戦うゲームと言うかもしれませんが、僕は頭を使った者勝ちだと思っています。戦術の部分もそうですし、相手選手との1対1の駆け引きも、すべて頭を使わなければいけない。より頭を動かした方が、勝つことができるゲームだと思っています。
中山:
その「頭脳」を鍛えるためには、何が必要なのでしょうか?
神谷:
もちろん、色々なサッカーの試合を見ることも、ピッチで実際に経験することもそうですが、練習中にどれだけトライ&エラーを起こせるかがすごく大事だと思います。
中山:
一般的に、不安や緊張を抱えやすいとミスを恐れてトライができないという葛藤に陥る側面もあると思います。神谷さんは、そこでの葛藤はありましたか?
神谷:
特に大きな葛藤はなかったですね。ただ、実は若い頃に大きな怪我をしたことがあって、「将来は指導者をやりたいな」と思い始めるようになったんです。実際に、知人がやっている中学校のクラブチームや小学生のスクールにたまに教えに行く機会があるのですが、そこで見ていると「ミスを恐れて何もしなくなっちゃう子」が結構いるんですよ。
昔の時代だったら、ミスをしたら指導者にものすごく怒られたり、時には殴られたりするような環境もあったと思います。それで子どもが萎縮してしまって「できない、やらない」となる気持ちも分かります。でも今の時代、当然パワハラなんてあってはならないですし、何より「いかにトライさせるか」が一番大事だなと気づいたんです。ミスをしたことに対してただ怒るのではなく、「なんで今の選択をしたの?」と理由を聞いてあげる。聞き方一つで、子どもたちの意識は変わると思うんです。さらに、トライしていいんだよということを教えながら、同時に自分もピッチでこうしなきゃいけないなと、自分自身が教えられるような感覚がありました。
だからこそ、ミスに対して何か言われるのを気にするのではなく、練習の中でもどんどん新しいことにトライしていくことを意識しています。
中山:
不安に思う繊細な自分もいるからこそ、日々の練習でどれだけトライを積み重ねられるかが重要なのですね。
神谷:
だからこそ、練習は大事だなと思います。
【Code.4 - VISION】一日を積むサッカー人生───やり切った先で、家族に「お疲れ様」と言われるために
中山:
この競技を続けていった先に、どのような状態や景色に辿り着いていたいと考えていますか?
神谷:
後悔なく、キャリアを終えたときに「良かった」と思えることです。そして、家族に「お疲れ様」と言ってもらえるような状態です。
中山:
キャリアを終えた時に「良かった」と思える状態というのは、具体的にどんな状態をイメージされていますか?
神谷:
引退する時は、絶対に悔いは残ると思うんですよ。それでも、やりきった感覚があるかどうかだと思います。僕は妻と結婚するのも早かったので、長く一緒にサッカー選手としての人生を歩んできて、彼女には自分が苦しい姿を一番たくさん見せてきたと思うんです。だからこそ、いざ妻に現役を辞めると伝えた時に「本当に後悔はない?」と心配される聞き方ではなく、「あなたがそう決めたなら、本当にお疲れ様」と笑顔で言ってもらえたら、それが自分にとって一番いい状態であり、良かったと思える瞬間なのかなと思っています。
中山:
神谷さんにとっての「成功」の定義とは、どのようなものでしょうか?
神谷:
何をもって成功と言うのか分からないですよね。例えば、メッシ選手が成功者かと言われたら、メッシ選手自身が成功だと思っているかどうか分からないじゃないですか。なので、僕なんかが出した結果で「成功」と言うには全然ほど遠いと思います。
ただ、今の自分が思うのは、「ちゃんとやりきること」こそが、現時点での成功なのかなと。でも、本当に答えがないものだとも思います。
中山:
「このサッカー人生に挑戦して良かったな」と思える基準はどこにあるのでしょうか?
神谷:
僕はサッカー選手になりたくてなったので、「挑戦」と言っていいのか分からないのですが、おそらくこの先もサッカー界から完全に離れることはなさそうなので、自分が死ぬ時に「良かったな」と思えることだと思います。
中山:
人生ゲームとして死ぬまでサッカーに関わり続ける神谷さんにとっては通過点に過ぎず、本当の意味での終わりは「亡くなられる瞬間」なのかもしれませんね。
神谷:
確かにそういう考え方をしたことがなかったので、いざ質問された時にパッと引退後の言葉が出てこない自分に対して「どうなんだろう?」という気持ちもありました。でも、きっと引退して他の全く違う仕事をしろと言われても僕は違うなと思います。だからこそ、本当にサッカーから離れる時に「やってよかったな」と思えるのがしっくりきますね。
中山:
明確な目標を特に持っていなくても世界トップレベルに行っているアスリートもいれば、神谷さんのようにJリーグの第一線で活躍されている選手もたくさんいます。神谷さんはこれまで、目標設定についてどう考えてこられましたか?
神谷:
一番の目標は岡山がものすごく大きなクラブになっ て、Jのトップで戦うっていうところが目標だと思いますが、それらは毎日の練習を頑張っていたら自然とついてくるものだと思っています。なので、目の前の一日を大事にすることが目標です。
20歳前後くらいの若い頃は、海外移籍がしたい思いがあったので、ものすごくそこを意識していました。タイミングが合わずに行けなかったりもしたので、自分の大きな分岐点はやはり怪我の時期でした。本当に苦しい時間を過ごして、そこから韓国への移籍を経てファジアーノ岡山に来て、苦難を経験したからこそ「本当に一日一日が大事だな」と思うようになったんです。それ以来、先の目標というのは作っていません。
中山:
明確な目標に執着するよりも、目の前の一日の積み重ねの先に、自分が望む未来が自然と待っている。「神のみぞ知る」というスタンスでしょうか?
神谷:
そうですね。「サッカーの神様」は見てくれていると思っています。

中山:
いつかスパイクを脱ぎ、プロ選手としての形を終えるその瞬間に、神谷さんはどんな言葉を残してピッチを去りたいですか?
神谷:
ありきたりかもしれないですが、やはりこれまで関わってくださった皆さんに、感謝の気持ちを伝えたいというのが一番ですね。怪我をした頃は、「自分は早く引退するんだろうな」なんて頭をよぎったこともありました。でも、今ではプロのサッカー選手として生きられていて、子どもが生まれてからは「もっと長く現役を続けたいな」という気持ちもより強くなっています。
ここまで来られたのは、本当にたくさんの人が自分を助けてくれたからです。だからこそ最後は、そういう人たちに感謝を伝えることが一番の理想です。
中山:
その感謝を伝えている神谷さんの姿は、すごく鮮明に想像がつきますね。
神谷:
いざその時になったら、また全然違う感情が湧いてくるのかもしれませんが、今はそれしかありません。
中山:
この取材を通して、神谷さんの飾らない自然体な姿勢や、今の状況を素直にそのまま受け止める柔軟さ、そして何よりシンプルでありながら力強い哲学を垣間見ることができました。神谷さんのプレースタイルにあるあの美しい遊び心は、このブレない心の余白から生まれているのだと感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました!
【After Dialog】
神谷優太の言う「楽しめている時」は、単に気持ちが乗っている状態ではなかった。思考したことがそのままプレーに表れ、自然と笑顔が出る。そこには、小さい頃から染みついた遊び心があり、日々の練習で積み重ねてきた準備があり、苦しい時間帯にチームのために走る献身がある。緊張や不安についても、彼はそれを完全に消そうとはしていない。若い頃は強がって隠していた感情も、経験を重ねた今では、自分の一部として受け止められるようになっている。ミスを恐れながらも、練習の中でトライ&エラーを繰り返す。そうして少しずつ、自然体でピッチに立つための感覚を身につけてきた。そして最後に見えてきたのは、派手な成功ではなく、納得して終えるためのキャリア観だった。遠い未来を決めすぎるのではなく、目の前の1日を大事にする。サッカーの神様は見てくれていると信じながら、今日をやりきる。その積み重ねの先で、家族に「お疲れ様」と言ってもらい、支えてくれた人たちへ感謝を伝えられること。神谷にとっての競技人生は、そこへ向かう日々なのだろう。不安も、献身も、積み重ねも含めて、彼のプレーは形づくられている。『Dialog Code』
答えは、すぐには見つからないかもしれない。それでも自分と向き合い、考え続けることが、次の一歩をつくる。思考を解き明かす対話は続く。次は、誰の思考に触れようか。

【Athlete Profile】
神谷 優太(かみや・ゆうた)
1997年4月24日生まれ、山形県出身。
サッカー選手。ファジアーノ岡山所属。
OSAフォルトナ山形、SFCジェラーレを経て、東京ヴェルディのジュニア、ジュニアユース、ユースで育ち、高校2年の夏に青森山田高校へ編入。3年時の全国高校サッカー選手権では優秀選手に選出された。世代別代表にも選ばれ、U-16、U-19、U-20、U-21、U-22日本代表を経験した。プロキャリアは湘南ベルマーレでスタートし、愛媛FC、柏レイソル、清水エスパルスなど複数クラブを経て、2024年には韓国の江原FCでプレー。同年7月に現所属のファジアーノ岡山へ加入した。遊び心と創造性を持つ攻撃的MFとして、攻守ともに岡山を支えている。【Dialog Partner】
中山 知之(なかやま・ともゆき)
1995年1月26日生まれ、愛知県出身。
株式会社Athdemy 取締役CCO。
JFAアカデミー福島や世代別日本代表、海外リーグでのプレーといったアスリートとしての原体験を起点に、人間の「状態」と「パフォーマンス」の関係性を探求し続ける。異文化圏での教育コンサルタントや、国内大手不動産テック企業でのセールス/マネジメント経験など、多様な環境の中で「変化が生まれる構造」に向き合ってきた。現在はAthdemyにて、トップアスリートとの対話(Dialog)を通じて思考や感情に伴走。一貫して問い続けているのは、「人はどのような状態で本来の力を発揮するのか」。競技とビジネス、国内と海外といった境界を横断しながら、個人の内面にある思考や感情を言語化し、新たな気づきを共に生み出している。






